芦田みゆき
きみの夫は
だめだったのだ
そのまま押し上げられた高みには
きみの夫が単独でとどまることができるほどのデポジットがなかった
きみの夫は下層であった
死にたいなあ
どうしたら死にたいだろうか【文字起こしママ】
悪の中に階層をもとめ
しんみりと浸っているきみの夫は
太陽もアレゴリーにすぎなかったことを知り
桟敷の筵に坐る
活字になりたがる宮殿は
大気圏外から見える平屋で
門に錠前はない
浩宮はタメどころではなく年下で
立ち直るのは難しい
刷り間違えたラベルの
SP盤は回り
きみの夫は山を穿って住みたい
定期券の薄さで
巨大な壺が燃えている
酢watersでは
Aの台形の中を
字たちが這い登ってゆく
睫毛たちは縦横の線を作り出しながら屡叩かせる
きみの夫はもうすぐいなくなる
門の外から覗く参賀の
百合のラッパの技術が
捌く群青
暗い廊下を渡り
最初に露天にやって来たのは
ゲイのカップルだった
二番目に入って来たのは
三人の孫と祖父だった
暗いホテルの
しょうたいに応じる
時間給でしかない正体
暗い切り通しを超え
町に還れば
植えた植えないで
恥は巡り
ぎしぎしとした暗さの中で
酢watersは飲まれ
それでもあたふたしないきみの夫は
最初の合意に拠るねたみさえ理解する
死も墓も投げ込まれる池は何も出さない
粟色したjedismはとうに褪せ
きみの夫にはフォースがない
畳1畳分のスペースに長方形の机、座椅子を置いている。
机の上にはペン立て、時計、電子辞書、障子で円柱にかたどったスタンド電気。
これがいつものスタイルで、ここをわたしは密かに書斎と呼んでいる。
どうしてこんなにも狭いのかというと、部屋自体は8畳分くらいあるのだが他にも置くべきものがあるからだ。
本棚、ベッド、クローゼット、ファンヒーター、プリンター。
物を最小限にしか持ちたくない、シンプルな生活を理想としているけれど、これらは必需品である。
というわけで隅のたった1畳分のスペースがわたしの憩いの場なのである。
温かいお茶を急須から湯飲みに移し、最近寒くなってきたので赤い半纏を着込み座っている。
ふっと前を向けば白い壁と目が合う。
朝がものすごく弱いわたしは夜にこの机でパソコンを開く。
色んなことを考えながら文章を書いたり、公募で応募したエッセイ作品が落選したことを伝えるメールを受け取ったり、
ここ最近島に魅了されている(できるだけ人口が少ないとこ)島への旅行をもくろんだり、
好きな作家の新刊をチェックしたり、又吉のトークライブ行きたいなぁと考えたり、
老いていく両親が元気であることに感謝しつつ妹弟がきちんと自立したことに安堵している。
お茶が大好きなのだけれど貧血がひどいので緑茶は諦めてほうじ茶を選ぶようにしている。
有名な全国のお茶っ葉を時々友人にもらうのだけれどとても嬉しい。
物欲のない若者が最近は多いとニュースでやっていた。わたしも例外ではないなぁとふと思う。
それでも必要なものは事前に色々調べて購入するのだがそれが届いたときに満足いくものだとやっぱり嬉しい。
シンプルでミニマムな暮らしに憧れていてこれからもそうであるような気がする。
友人関係も狭く深くとなった。
それが居心地がよくてしっくりくるようになった。
情報格差がいまやほとんどなくなった。
どこにいてもあらゆる情報をネットや動画で得ることができる。
でもやっぱり羨ましいと思うのは文化や芸術の中心地はまだまだ都心でありそれに憧れて上京する若者はたくさんいる。
わたしは田舎が好きなので今の場所に満足しているけれど、たまに物足りなさを感じることがないわけではない。
隣の芝は青いなのかな。
年の暮れに色んな角度への思いを思いつくままに書いてしまった。
最近、「いつもエッセイ読んでるよ」と友人からメールをもらった。
こんな嬉しいことはないなとその文面を何度も何度も繰り返し読んだ。
彼女は絵がものすごく上手で今でも彼女からもらった秋の隠れた紅葉の絵を大事に持っている。
これからも好きなだけ書いてほしいなと思ってるよ。
新しい年を迎えました。
昨年は日記のようなエッセイのようなわたしの文章を読んでいただきありがとうございました。
また今年もどうぞよろしくお願いいたします。
隅田川を見ながらカップの白鹿を飲んでいた
食べ終わったサバ缶の空缶を袋にしまうと、植込みの縁に寝そべり、ウトウトする
目の前に古ぼけた屋形船が停まっていた
水上バスが高速で行き来するたび、ザブンザブンと高波が立ち、屋形船は大きく揺れる
それを見ていた
巨大なスーツケースを転がして、大勢の人がこの川べりの道を通り
前方にそびえるスカイツリーを指さして、写真を撮った
そのスカイツリーの背後に、圧倒的な空が広がる
それを見ていた
いつか足の立たない痩せた、死にかけた男が横にいて
私と一緒に川を見ていた
飲みかけのカップを渡すと一口飲み、顔を皺くちゃにして私に笑った
日が落ちると人の数がめっきり減った
屋形船が通りすぎる 赤々と灯がともり燃えているようだ
私たちの前に停まる船はまだそこにあり、今日の出番はないらしい
船が行ってしまうと星が見えた
凝り固まって横たわるものに時間は川のように柔らかにたおやかに流れ
明け方には冷たいむくろになっていたけれど
汚ない大きな荷物のような動かないそれが
かつて名を持って人間社会に生きたものであっては具合が悪く
私たちは触られることなくしばらくそこに在って、隅田川を眺めていた
美しい朝日がこの川を黄金色に染めあげた夜明けを
だから私は知っている
私たちだけが知っている
翌日この小さい船の提灯に明りがともり、寒風の中を元気に出帆していったのも、そこに実は橋下に住む黄な粉色の野良猫がこっそり乗り込んでいることも知っている
今も、隅田川を眺めている
この川が好きなのだ
(12月29日 駒形橋橋脚付近で)
空白から
はじめたのか
なぜ
空白から
はじめたのか
そこに波だつものがいたからか
そこに波だつうなばらの
女がいたからか
そうなのか
はじめたのか
同緯度同縮尺のつもりで *
旅に
でても
空白を連れていく
波だつもの
女
白馬
そこにわたしだけの白馬が裸足で佇ってる
女だ
白馬だ
白馬に囲まれる *
白馬に囲まれる *
白馬の汚れた長い髪を撫でる
白馬の汚れた長い髪を撫でる
うなばらの
汚れた長い髪の
女の
首の
白馬の
抱きしめている
うなばらに佇つ女の
白馬の
しろい首を抱いている
* 工藤冬里の詩「大阪で」からの引用