michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

山崎方代に捧げる歌 01

 

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております

 

ゴンチチの
ロミオとジュリエットを聴く

今夜も
聴く

どうなんだろう

恋人のために毒をのめるのか
短剣をさせるのか

このまえ
熱海の断崖の病院から青い海をみた

平らだった
あどけない俤を抱いてた

 

 

 

家族の肖像~「親子の対話」その20

 

佐々木 眞

 
 

 

お父さん、山手線ぐるぐる回ってるね。
うん、回ってるよ。
内回り、外回りですお。
うん、そうだね。

お母さん、マンゾクってなあに?
良かったなあと思うことよ。
余はマンゾクじゃ。

お父さん、将棋は攻めるんでしょう?
なるほど、攻めるのかあ。

お母さん、さまようってなあに?
あっちへ行ったり、こっちへ行ったりすることよ。
さまよう、さまよう。

「アーメン」は、祈ることでしょう?
そうだね。

お父さん、勝浦旅行でお土産買ってきますよ。
そうですか。ありがとう。

「そんなもんうけとれねえ」、とシュウがいいました。
なにそれ?
「風のガーデン」だお。

お母さん、どうも、ってなに?
どうもありがとう、のことよ。
どうも、どうも。

お母さん、バージョンてなに?
いろんな版のことよ。

お父さん、おはよう!
おはよう、耕君。

お母さん、ご飯の支度をしてください。
ハイハイ。

ときめくって、なあに?
どきどきすることよ。

お母さん、今日キノコご飯にして。
わかりました。

あした図書館行って、ファミリーマート行きます。
わかったよ。

お父さん、虫歯の英語は?
ううううう

お父さん、高いは高橋の高?
そうだね。

ぼく、ウチワ好きですお。
そうなんだ。
ウチワ、暑い時あおぐものでしょ?
そうだよ。
ぼく、ウチワ好きですお。

お父さん、必死は?
一生懸命なことだよ

お父さん、ワサビは畑だよ。
そうだね、ワサビ畑でできるんだね。

お母さん、とおりゃんせって、通ってくださいのこと?
そうですよ、♪とうりゃんせ、とうりゃんせ、こーこはどこのほそみちじゃ。
とうりゃんせ、とうりゃんせ。

お母さん、スーパーヒーローってなに?
すごい中心人物のことよ。

ぼく、お母さんとお父さん、信じていますよ。絶対信じていますよ。
ほんと?
ケンも信じていますよ。

松島さん泣いていたよ。
うん、泣いてたよねえ。悲しかったんじゃない。

お父さん、落ち着くの英語は?
カームダウンかな。
落ち着く、落ち着く。

嫉妬はうらましがることでしょ?
うん、まあそうだね。

♪らららラララララ。森のくまさんだお。

いとしの耕君、いとしはどんな字?
愛だお。
あったりい!

お母さん、今後ってなに?
これからのことよ。

ぼく、国語大辞典好きですお。
そうなんだ。

お母さん、甲子園てなに?
野球場よ。
甲は申すにちょっと似てるよねえ。
そうねえ。
でもちょっと違うよねえ。
そうねえ。

無くなる電車、廃車でしょ?
うん、まあそうだね。

「家に鴨」でアヒルでしょ?
そうだね。

お父さん、回数券買った?
買ったよ。

連佛さん、録画した?
したよ。

ぼく、ハスとサトイモとクワイ好きですお。
お母さんもよ。耕君、おばあちゃんちのクワイ見ましたか?
ぼく、見たよ。

お母さん、やりたい放題ってなに?
好きなことばっかりやることよ。耕君やりたい放題なの?
違いますよお。

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 40

 

貨幣に外部はあるのか
自己利益に外部はあるか

ぐにゃぐにゃと揺れてた
白い液体を吐いた

世界は高速に回ってた

エバは林檎を齧り
柔らかい赤ちゃんを育てた

ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した

断崖の病院から青くひろがる海を見た
平らだった

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 39

 

ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した

脳は正常なのにエラーを起こすのだと医師はいった

ぐにゃぐにゃと揺れてた
白い液体を吐いた

世界は高速に回ってた
世界は

洗面所の
床に嘔吐した

断崖の病院から青くひろがる海を見た
平らだった

 

 

 

「言葉なき歌」の方へ

さとう三千魚著「浜辺にて」を読んで

 

佐々木 眞

 
 

 

2013年の10月にツイッターで「さとう三千魚」という人の詩を見つけた私は、とてもよいと思い、お願いしてfbの友達に加えてもらいました。

すると翌年の7月のある日、さとうさんから、「自分が主宰するweb詩誌「浜風文庫」になにか書いてみませんか?」というお誘いを頂き、うれしくてうれしくて、得たりやおうとばかりに「夢日記」を連載させてもらったのが、そもそものはじまりでした。

佐藤ではなく「さとう」とひらいた名前と、そのアイコンの優しく柔らかなイメージから、なんとなく少女のようなイメージを懐いていたのですが、それは私の勝手な思い違いで、実際にお目にかかった「さとう三千魚」選手は、スーツをきちんと着こなした立派な社会人であり、隆とした男性詩人でありました。

そのとき、さとうさんは、「毎日毎日大工がかんなくずを削るように毎日毎日詩を書いていきたい」とおっしゃたので、「それは凄い。それってまるで詩の修行僧ではないか!」と思ったのですが、この直観は当たらずとも遠からずだったといえましょう。

さて、肝心の詩集の話です。

作者の前の詩集「はなとゆめ」(無明舎出版刊)は、どちらかといえば薄い本でしたが、今度の詩集はものすごく部厚かったので、とても驚いた。
部厚いけれども、非常に軽い。そして使われている紙が、昔懐かしい藁半紙のような柔らかい紙だったので、またまた驚いた。

私はイギリスのペンギン・ブックスから出ている<THE PENGUIN Guide to Compact Discs>というクラシック音楽CD批評の部厚いカタログが大好きで、毎年丸善か紀伊國屋で購入して、夏の昼寝の枕に使っていたのですが、まさかそんなスタイルの詩集が登場するとは夢にも思わなかったなあ。

桑原正彦画伯による、邯鄲の夢のようにほのかなタッチの表紙の絵も、今回の「浜辺にて」という表題にぴったりです。

この本を開くやいなや、たちまち作者が愛してやまない故郷の海の光景が広がってくる。
青空を飛ぶ雲、寄せては返す波の音……
白い渦が泡立つ浜辺からは、磯ヒヨドリやカモメたちの鳴き声が聞こえてきます。

愛犬モコと一緒にそれらに見入り、大いなるものと一体になっている作者は、もしかするとこの世の人ではないかもしれぬ。
自然と永遠に溶け込んでいる存在、実在と非在を行き来する夢幻のような存在、作者の言葉を借りれば、「この世の果てを生きるしかない」存在かもしれません。

ふだん一個の生活者として暮らしている私たちは、言葉を持たない。
持たないけれど、四六時ちゅう、「ない」言葉を発している。
人間界も自然界も、全世界が「ない言葉」で満ち満ちている。
その「ないはずの言葉」にじっと耳を傾け、観取し、共感し、随伴する言葉を発する人が、さとう三千魚という詩人なのでしょう。

中原中也には「言葉なき歌」という詩があり、メンデルスゾーンにも同名のピアノ作品がありますが、この詩集のいたるところから聞こえてくるのは、作者みずからが言う「コトバのないコトバ」、言葉以前の言葉、言葉の果ての言葉、なのです。

父母未生以前のなんじゃもんじゃ珍紛漢紛蒟蒻問答はさておき、今度の詩集には楽しい仕掛けと言葉遊びがちりばめられています。

それはまず、日付のある日録ドキュメンタリー風の展開です。
かんなくずを削るように、「日にひとつのコトバを語ろう」と作者は言う。

次に作者が採用したのは、なんとツイッターの「楽しい基礎英単語」から自由に引用されたさまざまな英単語を枕詞にして、そこからおのずと引き出される思い出や森羅万象への想念を、間髪を容れず即興的に書き綴るという大胆不敵なライヴポエム手法です。

たとえば、2013年10月29日の<fish 魚>という項目の詩は、こうです。

 

ひかりの中で揺らめいていた

明るい川底の
小石のうえの魚たちは揺らめいていた

コトバは
なかった

すべてだった
すべてだとおもった

水面に太陽が光っていた
水藻がゆらゆらと揺れていた

丸い眼をしていた
魚たちにコトバはなかった         (引用終わり)

 

ここには、一匹の魚になって魚たちと合体している少年がいる。
そうしてこの世で生きることの意味、世界の、宇宙の摂理を一瞬で体得した一人の元少年がいる。

さらに私たちは、百科全書的な言葉遊びを超え、宇宙の本質をみつめ、事物を自分の目と言葉で再定義しようとする一人の哲学者の心意気をも感じ取ることができるのではないでしょうか。

最近作者が熱海駅で倒れたという突然の報は衝撃でしたが、前途有為な詩人の一日も早い回復と新たな飛翔を願ってやみません。

 

*「浜辺にて」(らんか社刊)
https://www.amazon.co.jp/%E6%B5%9C%E8%BE%BA%E3%81%AB%E3%81%A6-%E3%81%95%E3%81%A8%E3%81%86%E4%B8%89%E5%8D%83%E9%AD%9A/dp/4883305031/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1499088428&sr=1-1

*「はなとゆめ」(無明舎出版刊)
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%A8%E3%82%86%E3%82%81_%E8%A9%A9%E9%9B%86-%E3%81%95%E3%81%A8%E3%81%86%E4%B8%89%E5%8D%83%E9%AD%9A/dp/4895445887/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1499088428&sr=1-2

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 38

 

ゴンチチのロミオとジュリエットを聴いてた

ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した

朝になった

このまえ
新幹線の熱海駅で倒れた

病院に運ばれた
脳は正常なのにエラーを起こすのだと医師はいった

断崖の病院から青くひろがる海を見た
平らだった

 

 

 

空っ梅雨

 

正山千夏

 
 

たれこめた灰色の雲たち
薄日が肩をあたためて
そこになかった体温を思い出させる
気だるい歌にも飽きた
ただひきずるように重い足取りが
わざと遠回りして
陽の当たる電車に乗ったのだった

暑苦しく吹き出す緑たち
それでも束の間の地上滞空時間
今日は地下には潜りたくない
シートに腰掛けてスマートフォンと心中していく人びと
エスカレーターに乗って欲望と心中していく私
終点で降りると
今日は歌いたくない駅なのだった