こだまは
熱海を過ぎた
モーツァルトの
ピアノ・ソナタ へ長調 K.280を
聴いて
こだまに乗ってる
また
叙情かよ
そう荒井くんは言うだろう
四谷三栄町の
公園の
ベンチが好きだ
だれも
拒否しない
そんなベンチになりたいな
ことばも
こだまは
熱海を過ぎた
モーツァルトの
ピアノ・ソナタ へ長調 K.280を
聴いて
こだまに乗ってる
また
叙情かよ
そう荒井くんは言うだろう
四谷三栄町の
公園の
ベンチが好きだ
だれも
拒否しない
そんなベンチになりたいな
ことばも
どうかな
どうなんだろ
わからない
わからないな
この道がどこまでつづくのか
あの山が
どこまでひろがるか
わからない
母がいて
姉がいて
祠のまえで
ひざまずいていた
牡丹の紅い花が咲いていた
笑っていた
農場の農道の
奥に
祠はひらいていた
道端のドクダミにカメラを向けていたら、
反対側から声をかけられた。
《うわっ、怒られちゃうのかな。
勝手に撮らないでって》
でも、そういうことではなくて、
「珍しいの? 珍しいの?」
こっちもいい加減おじさんだけど、
こちらが子どもだったときに
すでにおばさんだったようなおばさんだ。
「ええ、八重のドクダミは珍しいですよね。
いつも探しているんですけど、
このあたりでは、ここでしか見ないんですよ」
「そうでしょう、珍しいのよ。
一本だけもらってきて植えたんだけどね、
なんだか増えちゃって。
でも珍しいから切らないでいるのよ」
「本当に珍しいですよね。
このあたりでもドクダミはいっぱい咲いてますけど、
一重のやつばっかりで、
八重はここでしか見ないんですよ」
「そうでしょう、珍しいのよ。
一本だけもらってきて植えたんだけどね、
なんだか増えちゃって。
でも珍しいから切らないでいるのよ」
同じことをきっかり二度ずつ言ったところで、
「どうもありがとうございました」
その場を離れた。
初めて会って、
ほかに話すことなんかないもんな。
《そうか、勝手に生えてきたわけじゃないんだ。
だからよそでは見つからないのかな?》
などと考えた。
おばさんも晩ごはんのときにきっとおじさんに言うだろう。
「あんたはいつもそんなもん刈っちまえって言ってるけど、
今日は珍しいですね、っつって、
写真まで撮ってった人がいるのよ」
来年も八重のドクダミを楽しめるはずだ。