michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Part 2

 

今井義行

 
 

Addiction (依存) Addiction (依存) Addiction (依存) Addiction (依存)

Addiction (依存) は、転移する病 *太字は作者による

酒からカカオへ 酒からバタアへ 酒から賭け事へ
酒から電子群へ 酒から愛慾癖へ 酒から全対象へ
その果てには、連続飲酒に みずから 帰還したり

*************************

わたしは、東京・浅草橋会場の AAに 参加した ことがあります

真夏の午後の 浅草橋・西口から 指定会場の カソリック教会
までには 幾つも幾つも立ち呑み屋があった

ブラックアウト(昏睡)してくださいと言わんばかりのひなびた
街の光景に コップ酒の匂いが 煩わしかった

昼に夜は海鮮居酒屋になる店で日本酒が合う
マグロ定食なんてものを頼んでしまった……

わたしはドアを開いて「初めてきました」と
浅草橋会場の人たちに告げた─── そして
さまざまな年齢層の アルコホーリクたちに振り返られた

AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも縛られていない。
また、どのような論争や運動にも参加せず、支持も反対もしない。
*引用 太字は作者による

と いうけれども…… また、

*誤解を受けやすいのは、AAの回復のプログラムに
スピリチュアルな力を受け入れるという概念があるからでしょう。
このスピリチェアルな力をAAでは「ハイヤー・パワー」と呼び、
日本語では「自分より偉大な力」と呼んでいます。
*引用 太字・下線は作者による

と いうけれども……、
それは、仏教国とは言い難い日本ではアタリマエの
捉えられ方で 教団と想われても 仕方ない気がする
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翻訳のされ方に安易なところがあったのではないか

浅草橋会場の その日の ミーティング・リーダーが
カソリック教会の 清潔で 簡素な 無料の 会議室で
10人ほどの 参加者たちに 向かって 語りはじめた
彼は40歳台後半位の 痩せて目のつりあがった男だ

「前任のリーダーから 司会進行を 引き継ぎました
“イズム”です 酒に関わりのある エピソードなら
どのようなことでも結構ですからお話しください
わたしは前任者のように皆さんを裁きはしません」
(いきなり、不在者裁判かい)

「シャローム。* よろしく お願いします、“イズム ”─── !!」(参加者)
「では、はじめて参加の “イマイ”さんから時計回りで」
*シャローム/ヘブライ語で「平和」

「わたしは 今井義行といいます 53歳です 本名で参加いたします
(ニックネームをつける必然性をわたしは別に感じはしなかった)
30歳台後半から連続飲酒 退院後アルコールデイケア通所中です」
・・・・・・・・以下、略。・・・・・・・・
「シャローム。はじめまして、“イマイ” !!」(参加者)

「わたしはナポレオン 32歳です 13歳の時に友だちの家で呑んだ
ナポレオンが旨かった!以来連続飲酒 覚醒剤で服役 妻子あり」
・・・・・・・・以下、略。・・・・・・・・

「シャローム。はじめまして、“ナポレオン” !!」(参加者)
ナポレオンもはじめての参加者だった 金髪に薄青のサングラスが光る

「では、つぎの方」(“イズム”)

「こんにちは、“枕草子です”」
「シャローム。こんにちは、“枕草子”!!」

“枕草子”は、30歳台半ば位の白髪混じりの女だった
「わたしは、酒量が最大だった時の話をいたします
アルコホーリクと診断される前までは500mlの缶ビールを
1日2本呑むのが日課になっていました
が、毎朝コンビニに買いに行くのがメンドーになりました
それで500mlの缶ビールを4ダース48本 箱買いしました
そして 届いた途端 激しい飲酒欲求に 見舞われまして
その日のうちに 48本 全部呑んでしまったのでした」
(う、上には上が あるものだ、なんて考えは自己正当化!?)

「では、つぎの方」(“イズム”)

「こんにちは、“チチチチボーン”です」
「シャローム。こんにちは、“チチチチボーン”!!」

“チチチチボーン”は、頭頂が 丸く禿げた初老の男だった

「おれぁ、下町の酒屋のせがれなもんだからさ
小学校1年のときから 親に隠れて ちびちび
1升瓶から いただきはじめてさぁ、
やめられなく なっちまって 高校生のころには
毎日部屋で 1升空けるようになってさ
最高2升呑んでたねぇ 失禁してズドンと倒れて
救急搬送されていくとき 無茶苦茶あばれながら
救急車の中が銭湯の湯船に想えて おれのほかに
5人の男がお湯に気持ち良さそうに浸かってたね
いまは断酒してるけど 連続飲酒歴60年であります」
(や、やまいの 武勇伝の お披露目かな……)

「シャローム !!」「シャローム !!」「シャローム !!」

「こんにちは、鳴門金時です」
「シャローム。こんにちは、“鳴門金時”!!」

“鳴門金時”は、杖を使っている よく長髪を掻き上げるだった

「わたしは、大学卒業後 大学院へ進み 研究者生活に
入りましたが 研室に日々こもって 神経を消耗する
ことを 繰り返していく内に ウィスキーのボトルを
手放せなくなり初めはグラスでロック1杯でしたが
やがてそれでは満たされず 直接 ジャックダニエル
をラッパ呑みするようになり 入院前には 1日2本
空けてました 結果、アルコホーリク特有の 大腿骨
骨頭壊死になりました ご覧の通り “ちんば”です
50に手が届く今になっても 結婚願望はありますね」

「シャローム !!」「シャローム !!」「シャローム !!」

……………………………………………………………

「こんにちは、“あまでうす”です」
「シャローム。こんにちは、“あまでうす”!!」」
「わたしは 酒とは 直接には 関係ありませんが
一発 《世界最短詩》なるものを かますずら」
「シャローム。 “あまでうす”!!」
「《世界最短詩ぃ》 いくずらー !!」

「シャローム。 “あまでうす”!!」

「むちゃくちゃでござりまするがな」*引用 太字は作者による

「シャローム !!」「シャローム !!」「シャローム !!」

(ば、ばくだんが 一発 落とされたっ !!)
(も、もしかしたら、この人は………
佐々木 眞さんという わたしの好きな詩人なのでは)

(御成敗に 鎌倉から 浅草橋へ 訪れたのでは)

“言いっ放し、聞きっ放し”人々同士の口論には 発展させない
それがAA(匿名のアルコール依存症者たち)ミーティングの前提

「シャローム !! シャローム !! って繰り返しているが そいつは
神様、神様って 繰り返しているのと 同じことずら─── !!」

「………………………………………………」

「ハンドブックに、・AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも
縛られていない。って書いてあるけど 何回読んでも けたくそわるいずら!!
それに 日本語では「自分より偉大な力」と呼んでいます。って書いてあるけど
それは、しょうもない日本語ずら!!
翻訳するなら「神」は「紙」と翻訳していただきたいずら!!
“霊性”に身をゆだねて、みずからを助ける、ということならば
わしらは“白紙”になることなんだから
わしらは“白紙”どうし、自由に発言していいはず、ずら!!
ちなみに わたしは、“阿倍蚤糞”に腹が立ってストレスの塊になったずら!!」

「シャローム。“あまでうす”!………………その発言は、

ミーティングルール違反ですよ……………………………
…………………………………………………………………
参加者が動揺してしまうので 退出をお願いいたします」

「命令されなくても 出ていくずら
《世界最短詩》アゲイン なむあみだぶつ!!

 

(続く)

 
 
 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Part 1

 

今井義行

 

 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Meeting Of The Soul
(たましい、し、あわせ)太字は作者による

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ)
(し、あわせ)

*************************

わたしは、東京・浅草橋会場のAA*に参加したことがある

AA(アルコホーリクス・アノニマス=1935年アメリカ設立
「匿名のアルコール依存症者たち」の略)

会場は カソリック教会の1室で義務のない献金で自立しているために
そのような会場が選ばれるのだろうな、と想った

真夏の午後の JR浅草橋・西口から 会場のカソリック教会
までには 幾つかの立ち呑み屋があった

スリップ(再飲酒)してくださいと言わんばかりのひなびた
街の光景に コップ酒の匂いが 滲みていた
わたしはドアを開き「はじめてきました」と
浅草橋会場の人たちに告げた ─── そして
さまざまな年齢層の アルコホーリクたちに振り返られた

[2つの発言を導入として]

「わたしは 今井義行といいます 53歳です 本名で参加いたします
(ニックネームをつける必然性をわたしは特に感じはしなかった)
連続飲酒30歳台後半から 退院後アルコールデイケア通所中です
本来家に1人で居ることが好きでやりたいこともあるのでそれが
断酒に結びつくと考えているのですが入院していた病院から患者
がどのように生活していくかの指針として同じ病気を持つ人たち
のミーティングへの参加を 強く勧められて 今回 まいりました」

「シャローム。* はじめまして、“イマイ” !!」(参加者)
*シャローム/ヘブライ語で「平和」

「わたしはナポレオン 32歳です 13歳の時に 友だちの家で呑んだ
ナポレオンが旨かった! 以来 連続飲酒 覚醒剤で服役あり 妻子
あり 家族には泥酔して部屋で壁をぶっ壊したり 暴言を吐いたり
して 迷惑を かけつづけてきました 反省はしています 妻子が
わたしを見捨てないでくれたことは ありがたいことと思います」

「シャローム。はじめまして、“ナポレオン” !!」(参加者)
ナポレオンも はじめて参加した人だった 金髪に薄青のサングラスが光る

*************************

[ミーティング中の想いを中間報告として]

いま、たましい、は、しあわせ かしら・・・・・・・・・・・・?
わたしは、断酒のための「自助グループ」にはもう参加しないな
なぜなら、のこりの人生の目的は 「断酒」ではなくて、
わたしという 命がたどる 軌道での 人々とのまれな
邂逅。「たましい、詩、 ──・・・・・詩、合わせ」であるからです

邂逅。って 同病者の 集いに宿るわけではないと想う
例えば わたしの誕生日1963年7月13日生まれの人が
集ってミーティングして 生まれるのは空気の共有位だ

空気の共有等では駄目なの ソウルが、欲しい の !

それは、わたしが 「詩」を 書いてきていること
それゆえの 自我でもある かも 知れないけれど

ソウル、って誰か それは お互いの在り方を詩から
全方位的に受け止め合える言葉の配置であるあなた

人間は 【言葉の配置】その連続組み換えで出来て
いる だからさっきのAさんといまのAさんは違う

「自助グループ」って 人に救ってもらうことでもないが
自分で自分を救うことでもないと想う 現代(いま)の医学では
不治の脳疾患とだけ 解っていて 誰にも助けられないから
「霊性」の手に誠実に身を 任せて 誰のせいでもないとして

“言いっ放し、聞きっ放し”人々同士の口論には発展させない

「呑みたい」「隠したい」「狂いたい」「死にたい」OKだ
「呑むなよ」「隠すなよ」「狂うなよ」「死ぬなよ」NOだ

≪引用始め≫ *太字は作者による
ミーティングハンドブックより

『神様、私たちにお与えください。
自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを、
変えられものは変えてゆく勇気を、そして、
二つのものを見分ける賢さを。』

[AA序文]

アルコホーリクス・アノニマスは、経験と力と希望を分かち合って
共通する問題を解決し、ほかの人たちもアルコホリズムから回復
するように手助けしたいという共同体である。
AAのメンバーになるために必要なことはただ一つ、
飲酒をやめたいという願いだけである。会費もないし、料金を払う必要もない。
私たちは自分たちの献金だけで自立している。
AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも縛られていない。
また、どのような論争や運動にも参加せず、支持も反対もしない。
・私たちの本来の目的は、飲まないで生きていくことであり、
ほかのアルコホーリクも飲まない生き方を達成するように手助けすることである。

AA・12のステップ

【ステップ1】
私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに
生きていけなくなっていたことを認めた
【ステップ2】
自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると
信じるようになった
【ステップ3】
私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した
神の配慮にゆだねる決心をした
【ステップ4】
恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行ない、
それを表に作った
【ステップ5】
神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、
自分の過ちの本質をありのままに認めた
【ステップ6】
こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう
準備がすべて整った
【ステップ7】
私たちの短所を取り除いて下さいと、謙虚に神に求めた
【ステップ8】
私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員進んで
埋め合わせをしようとする気持ちになった
【ステップ9】
その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、
その人たちに直接埋め合わせをした
【ステップ10】
自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた
【ステップ11】
祈りと黙想を通して、自分なりに理解した
神との意識的な触れ合いを深め、
神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた
【ステップ12】
これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、
このメッセージをアルコホーリクに伝え、
そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した

※誤解を受けやすいのは、AAの回復のプログラムに
スピリチュアルな力を受け入れるという概念があるからでしょう。
このスピリチェアルな力をAAでは「ハイヤー・パワー」と呼び、
日本語では「自分より偉大な力」と呼んでいます。
≪引用終り≫

輸入品としてのハンドブックは 翻訳されると【神】
という 言葉が多用されて 患者たちに 届けられる
そうなると ハンドブックは 【聖典】のようになる

酒を絶つ以前にこれら文言に戸惑う患者たちは多い
ハンドブック序文に「AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体
にも 縛られて いない。」と あるではないか、と

 

(続く)

 

笑う羊

 

長田典子

 
 

熱波のなかを
漂うように歩く

日付変更線を越えたのは
ずっと前のことなのに
うまく足を地面に着地できなくて
手も足のようにつかわなければと思いながら
森のように大きな公園につきあたる

高層ビルに囲まれた
四角いセントラルパーク
そこは むかし 羊のいた牧草地だったという
羊のかわりにヒトがたくさんいて
海辺でもないのに水着になって
芝生の上に寝転がり 肌を焼いていた
影のないヒトたち
わたしは過去から迷い込んだ
一匹の羊なのかもしれない

南中する太陽の下で
チキュウ、チキュウ、と
青いガイドブックを指さして
にやにやしながら囁きあうヒトがいた
知ってるんだ
チキュウ、ってニホン語
可笑しくなって 
バアハハハ!
笑ってしまった 羊のくせに
わたしはチキュウではありませんよ
しかもこれは20年も前に買ったのを再利用しています
ワタシハ羊ナノデス
牧草地をぴょーんぴょーん跳ねる
羊ナノデス

真夏の昼下がり
客の出払ったホテルの
宙空に吊り下げられた中庭に迷い込む
ぴょーんぴょーん
ぴょーんぴょーん
ビルの壁で囲まれた
ゼリー状の無重力地帯
気狂いじみた暑さが
身体に粘り付いてくる

きついカクテルをたてつづけに注文して
喉を潤す
羊のくせに
溺れる
ベッドみたいに大きなソファの上で
羊のくせに
羊だから
ガラス張りの天井は
床だったのかもしれず
いつのまにか
チキュウ、を 手放す
羊のくせに
ウールを脱ぎ捨て
水着になろう

わたしを助け出さないでください
わたしを連れ出さないでください

この街は
たくさんの時間が同時にあって
捲られる書物のペエジのよう
風が吹くたびに
閉じたり開いたりしている
だから

ぴょーんぴょーん
ぴょーんぴょーん

わたしはペエジを竪琴にして
漂っていたい

ぴょーんぴょーん
ぴょーんぴょーん

笑う羊として

だから

 

 

空白※この作品は「ひょうたん」45号に発表した「宙空にて」を再度大きく改稿した。
空白※チキュウ…『地球の歩き方』シリーズ(ダイヤモンド・ビッグ社刊)のこと

 

 

 

daily 毎日の

 

初盆に

新庄まで
新幹線で来て

奥羽線で湯沢まで帰ってきた

新庄から
湯沢に抜ける間の

景色が好きだ

みどりの稲穂のひろがる向こうに
里山がある

毎日
書こうとしている

詩の構造がここにある

うみそらくもそうもくとりわれ
その先にない母がいる

 

 

 

emotion 感情

 

愛ちゃんは
がんばった

愛ちゃんはがんばったが
接戦で

負けた

錦織はがんばった

接戦で
錦織は勝った

どちらも相手がいて
相手も

勝ったり
負けたりする

終わって
ふたり抱き合うが

どうなんだろう

愛してるわけではない
こころが震えてる

 

 

 

真夏の夜の夢

 

佐々木 眞

 
 

IMG_2179

 

ある日のこと、金に困って往生していたら学生時代の友人にぱったり出くわしたので、これ幸いと窮状を打ち明けたら「万事俺に任せろ」という。

友人はその場で茂原印刷の茂原社長に電話して、「いつものように、あれを印刷してやっとくれ」と頼んだ。

おいらが「あれって何だ?」と尋ねると、「ほら、これと同じ偽札だよ」と言って、本物そっくりの1万円札を見せた。

「2時間ほど経ったら、茂原印刷へ行ってみな。出来たての新品が100枚、首を揃えて待ってるぜ」というので、白山下まで行ってみると、果たしてその通りだった。

やった、やった、ヤシカがやった!

鬱から躁に舞いあがったおいらは、クラスのマドンナだったつうちゃんとまりちゃんを電話で呼び出し、久しぶりに酒池肉林の宴を開いたんだ。

そしてピン札で勘定して、ご祝儀に2人に10枚ずつプレゼントしてから、らりらりらあんと歌いながら帰宅したんだ。

ところが翌日のお昼ごろ、おいらは、突然土足で踏み込んできた刑事に叩き起こされた。

なんと、つうちゃんとまりちゃんが、今朝横浜銀行の窓口で、おいらの渡した万札を、別のお札に両替してくれと頼んだ、というのだ。

そこでおいらは、「だから良家の御嬢さんは嫌いだよ」とぼやいたが、後の祭りだった。

 

 

 

かげ

 

Hitoha Nao

 
 

image1-12

 

空白空0家並みはいっせいに
空白空0火を噴く

空白空0終日 天を焦がして
空白空0焼きつくす

空白空0帰りを待ちわびて 子どもらが
空白空0銀行の石段に
空白空0たどり着く

空白空0母は すでに
空白空0かげに すぎない

空白空0扉は 開かれなかった

空白空0子どもらのおにぎりのためのお金は
空白空0運ばれることは

空白空0なかった

 

髪のながい女がひとり
ドームのまえの道を

川沿いに歩いている

甲高い声で
空に向かって 歌を歌う

愛を 平和を

誰からともなく起こった笑いは
小学生の一団に 広がっていく

祭りのように

秋空の下 楽しげに
繰り広げられる 平和の学習

天井を抜けたドームの
あばらの向こう

青空が突き抜けていく

ドームからは
ひん曲がった鉄骨が 数本

ぶら下がってはいても

かつて 焼けただれて
人々が流れた 元安川が
濃い水をたたえ

女のかげを
映している

 
https://m.youtube.com/watch?v=BrC3C68eOhM

🌠ピアニストのYoriko Hattoriさんとのコラボです❣️
ベートーベンピアノソナタ第2楽章第22楽章

 
 
 

水のひまわり

 

萩原健次郎

 
 

民家の向日葵

 

水尾根、水脈が見える。この川の流域に広がる田畑に
流れている、ほんとうにひんやりとした水の流れや行
方を見つめてみる。叡山の、たくさんの行者である修
行僧が、あるときは、急登、急降の…………

…………
むらさきの さきの なすの
たねの わたされた 白紙の たたまれた ことばの

空0脈搏
静脈
空0脈管
山脈
空0命脈
乱脈

この民家の前を通るとき、なんだかそちら側に遙かが
見えるようで不思議だなあと思っていた。
季節ごとの小さな花が、絶妙なバランスで植え揃えて
あった。規則正しくではない。だからバランスと言っ
ても均整がとれているという意味ではない。

――わたしの住んでいる家の前の景色をこしらえまし
たという意味で、ある種の創意で、庭がしつらえられ
ていた。
夏になったから、目前にぱっと暴かれたかのように、
ひまわりが立っている。
そんな趣向を、その人は持ち合わせていなかった。

おばちゃん、死んだんやろか。
水の峰に、かすんだんかなあ。

そういうことをしらせにくるんだよ
空0
空0
打ち返してくる、静かなドラミング。

奥深いところでは、きんきんに凍えている。
地上に出て
きつい日差しに溶けて
なんだか、かすかな…………

ふるるるる、かちりん、しなに
しなに、しなん。ぴ、ぴ。ぴっぴん、

夏に、立っている。
黄色くなった人。

 

 

 

baby 赤ん坊

 

ハハと
チチと

赤ん坊と

愛はいた
411号室にいた

愛は休日に散歩した

愛は風が吹いた
愛は雨が降った

愛は青空に白い雲が浮かんだ

チチは電車に乗り働きにいった

赤ん坊はキャッキャ笑った
赤ん坊はキャッキャ笑った

赤ん坊は白い前歯が二本はえた