michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

時効のお話

 

辻 和人

 
 

時効、時効
物事には時効ってものがある
山林に死体遺棄の極悪人だって
ン十年たてば
罪が消えるわけじゃないけど放免だ
これからするお話は
2015年春
他人のお家のかなりかなーりプライベートなこと
だけどもういいよね
ぼくのケータイに今でも登録が生きてる
今井登志子さん
「この電話番号は現在では使われておりません」
時効、時効

ぼくの長年の友人、詩人の今井義行さんがですね
鬱病をきっかけにアルコール依存症になっちゃったんですよ
専門の病院に入院して一旦は良くなったんだけど鬱が再発
衝動的に大量飲酒
ピーポーピーポー運ばれちゃって
あ、第一発見者ぼくなんですけど、それ置いといて
運び込まれた救急外来、精神疾患には対応できなくてさ
元の病院に再入院
ところが今井さん、そこでの扱いが気に入らず
着の身着のまま脱走!
病院に戻るように何度も説得したんだけど
イヤ、ヤダ、ダメ
さて、今井さんには80過ぎになるお母様がいらっしゃいまして
今井登志子さん
亡くなってしまいましたが当時藤沢に住んでおられました
足腰が不自由、東京に出て来られない
息子何とかして、と会社帰りのぼくにSOS

話長くなりそうなので御茶の水で降りて
ケータイ耳に当てながら神田明神の周りをグルグル
「……すごくいい子だったのに。
しっかり会社に勤めて貯金もして
時々お金も送ってくれたのにねえ。
盆と正月はいつも帰ってきてくれておいしいもの一緒に食べてねえ。
それがあんなになっちゃって。
病院に戻るよう説得しようとしたら突き飛ばされちゃってねえ。
腰を強く打って痛くて痛くて
あんな乱暴なことする子じゃなかったんですよ。
ホント馬鹿息子ですよ。
馬鹿息子。
情けないねえ。
難しい詩なんか書いてねえ。
あんなの誰にもわかりゃしないですよ。
誰にも読めやしないですよ。
詩人気取りの馬鹿息子。
わたしゃ生きているのがイヤになってきましたよ」

ムッカムッカムッカ
言わせておけばいい気になりやがって
ぼくの大事な詩人の友だちを馬鹿息子扱いしやがって
隨神門の前にしゃきっと立つ
右は豊磐間戸神(とよいまわどしん)、左は櫛磐間戸神(くしいわまどしん)
弓背負い刀差した御姿から吹いてくる御風
ふぅーっと深く吸い込んで
はぁーっと大きく吐き出して
「馬鹿息子、馬鹿息子って
お母さん、あのね
義行さん、馬鹿じゃないですよ。
詩人気取りじゃなくて詩人ですよ。
詩を書くってそれはそれは大変なんですよ。
命賭けて書くんですよ。
体張って書くんですよ。
お母さん
萩原朔太郎って詩人知ってますか?
 青空のもとに竹が生え、
 竹、竹、竹が生え。」
「へ?、すいません、読んだことありません」
「うー、じゃあ、宮沢賢治はご存じですよね?
 けふのうちに
 とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ
 みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ
 (あめゆじゅ とてちて けんじゃ)」
 「『永訣の朝』でしょ、知ってます。
 悲しいけど凛として良い詩ですよね。
 方言のところが特に印象に残ります」
 「そうでしょう、そうでしょう。
 亡くなる妹さんへの想いが溢れた絶唱です。
高村光太郎の『智恵子抄』はどうですか?
 智恵子は東京に空が無いといふ、
 ほんとの空が見たいといふ。
 私は驚いて空を見る。
 桜若葉の間に在るのは、
 切つても切れない
 むかしなじみのきれいな空だ。」
「ああ、好きですよ。
 阿多多羅山の空、さぞかし青くてきれいだったんだろうと思いました」
「そうでしょう、そうでしょう。
故郷を離れた奥さんの気持ちを思いやる姿が感動的です。
ところで、義行さんはですね。
こういった詩に勝るとも劣らないような詩をいっぱい書いているんですよ」
「ひっ、あの子がですか? そんなわけないでしょう」
「そんなわけあるんですよ。
いいですか、義行さんは毎日詩を書いているんですよ。
ベッドでうんうん唸ってても書いているんですよ。
お風呂にかれこれ3週間入ってなくても書いてるんですよ。
ヒゲボーボーで目ショボショボでも書いてるんですよ。
すごい作品ばかりですよ。
いつか教科書に載りますよ。
大学入試にも出題されるかもしれません。
『この時の作者の気持を答えよ』みたいな設問がされて
模範解答に対して義行さん自身が『それ違うよ』なんて言ったりして。
ともかくともかく
義行さんは朔太郎にも賢治にも光太郎にも負けないすごい詩人なんですよ。
いずれ世間で、義行、だけで通じるかもしれないんですよ。
朔太郎、賢治、光太郎、義行、ですよ。
そんな人を息子に持って誇りに思って欲しいんですよ。
馬鹿息子なんてとんでもないですよ」

一気にまくし立ててスッキリ
背後では
右の豊磐間戸神様も左の櫛磐間戸神様も「よしよし、よく言った」
ぶんぶん、頷いてる頷いてる

お母様目をシロクロ
「あれまあ、そういうもんなんですかねえ。
私にはさっぱりわからないんですけどねえ。
あの子なりに頑張ってたんですかねえ。
もっと褒めてやらなきゃいけなかったんですかねえ。
とにかくツジさん、義行をお願いします。
病院に戻るよう説得して下さいな」

2時間ぶっ通し
後でお母様は電話代の請求書を見てまた目をシロクロさせたとか

今井さんは別の専門病院に行くことになり
そこですばらしい先生と出会い
まあまあの状態を維持するに至っています
薬の副作用でヨッタヨッタ歩きになっちゃったけど
福祉作業所に通って
詩も書いてます
キワドイ表現もあるけど言葉に力があります
朔太郎、賢治、光太郎
そして義行ここにあり
そうそう
こないだ「ステーキの志摩」で一緒に食事しました
今井さんが住んでる平井にある評判のステーキ屋さんです
ぼくはビッグサイズ150g、今井さんはジャンボサイズ250g
ぺろっと完食
おいしかったー
ノンアルビールも飲んで
「うん、こりゃ詩になるかな?」「詩になるよ」
アルコール飲めないからノンアルでガンガンいこう、なんて詩
朔太郎も賢治も光太郎も書いてません
新作が楽しみです

その後今井さんちにあがらせてもらったら
机に「今井登志子さん、お誕生日おめでとうございます」の色紙が!
デイサービスの方が作って下さったんだそうです
メガネかけた優しそうな強そうな笑顔
あ、この人と2時間もお話したんだ
電話代使わせてしまってすみません
お母さん
義行さん、元気にしてますよ
詩も書き続けていますよ
ケータイの登録、消そうと思ってたけどやっぱこのままにしとこう
「この電話番号は現在では使われておりません」
時効、時効
以上、他人のお家のかなりかなーりプライベートな
時効のお話でした

 

 

 

現れについて 06

 

狩野雅之

 
 


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Description

 
そこには無い。雪の下にあるのかも知れないが定かではない。彼らは消えてしまった。脳裏にそれとは異なったなにものかが現れる。ただ見つめている。氷点下14℃。風はまだ冷たい。

FUJIFILM X-T2, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

Masayuki Kano

 

 

 

DOGbowl EAT DOGbowl

 

工藤冬里

 
 

north脳にno snow
neige neigeと一人相撲
シベリア鉄道?jamaisここはサイゼリヤ
使い途ない傘はどうする
蛇の目で義太夫amplifier

north脳にno snow
neige neigeと一人相撲
歓喜団に当たらぬ予報
換気しなけりゃ出来ない予防
一人で山に向かってヤッホー

重信りょう花のワンオペは無理ありそうで痛いな

ダーツ、プール、コロナ

私はこうしてハクセキレイが走っているのを見かけるたびにある種の苛立ちを覚える。特にこうした大気汚染の酷い日には。
「こう」に込められた作者の気持ちを述べよ

小学生は「学校では教えてくれない」シリーズと「サバイバル」シリーズが好き。大人が自分達を殺そうとしていることに薄々気が付いているから。

平行宇宙は過去にしか当てはまらず、未来に関しては選択できないことを選択する自由しかない。

No vayan más allá de las cosas que están escritas

テートのサメから季節(とき:と読ませるこの場合)は流れて、印象派好きの日本人向けの、花見に託(かこつけ)たsecularなネタで勝負をかけるダミアンハースト
を嫉む人々

何にでも大文字のAがあると思ったら大間違いだ
母親の愛情(オキシトシン)はあってもよその猫への拒絶反応は制御できない猫もいる
正しくて弱い、間違っていて優しい、複雑な人格について、
役作りをする役者が相談する大他者がいない
自分に似た移民はいない
差別しようのない他者がいない
ひたすらに声色と声量がある
小津の墓から洋酒の小瓶を盗んだことがある
自分を殴って死のうとしている男を見殺しにしたこともある
それでも役をもらっていない
自分に合う、自分のような予言者はいない
ウクライナは零下11℃、陽が差して、服を着ていれば暖かい
突然服を剥ぎ取られる兵隊、トイレ清掃するモールの、地下で繋がる断食のキューピーの
助詞を失くした連結
方法除雪
雪に手を振るだけでも良く、呑まれて呑んで、肩を痛めている
個人の平等より部族の平等の方が個人にとって象徴的であり、
外国人にも平等に土地が与えられた

ルーマニアで接種者に対する差別が起こったのは不在の大他者(AI)の平等ですか
或いは素材なしで〈成立〉させようとする系(芸術などの)のほころびですか
過ぎ去る〈以前のもの〉とは未満(恋人未満とかの)の消去ですか

氷の上で何やってんですか?
股引穿いたナポレオンの軍隊ですか
股旅物なら樺太にもあります
マタタビなら白猪に
希望という名のあなたをたずねて寒い夜更けにまた汽車に乗る

〽︎26℃の太陽みたいに身体を冷やす恋をして眩暈がしそうなホローアースの果実は今でもネットに咲いている
https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201809_post_18193/

頭蓋のくらやみ 手に 寒燈をぶらさげて
https://twitter.com/tomizawakakio_b/status/1494416394347511810?s=20&t=hoF7rUZ1NVmM4O3VGxzM6Q

これは二次的だ。発見じゃない。シュールなんてのはなあ赤黄男、麻疹みてえなもんだ。
https://twitter.com/tomizawakakio_b/status/1494355999427547143?s=20&t=hoF7rUZ1NVmM4O3VGxzM6Q

こうしている間にも轆轤したまま養生してなかったやつらが零下の明け方に凍ってしまう
そいつらはビービービービビビビッビー  ビビビビビビビビビビビビー と言って凍っていく
寒冷地に窯場が少ないのはそのためである

羽根は肩が凝るんだった

こりゃサイフォンコーヒーのカウンター越しのママさんに言う台詞ですな
https://twitter.com/katouikuya_bot/status/1494458043722993667?s=20&t=hoF7rUZ1NVmM4O3VGxzM6Q

終わりを跨いで残す物が現れ始めて
音や建築がこんなものかと削がれていく

dogbowls

夜が明けたら
https://youtu.be/hehWmivkQpM

Eso jamás te va a pasar a ti
mshb news

プーチンは顎にかぎを引っ掛けられた
万国旗はスカーレットに染められ、フロアのワインと血は区別がつかなくなるだろう
健康は、衰える一方である
ウヨウヨ湧くからネトウヨ
象牙色は一瞬でトラウマのように消去され目を閉じて浮かぶどんな色もスカーレット
では、お湯の上を歩けるか
あるいはスープカレーの上
魚は下から噛み付く
道とは特定の転がし様式の表現であり自発的隷従論の要となる、力道山怒りましたのイメージである

 

 

 

#poetry #rock musician

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第96回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2021年長月・神無月・霜月・蝶人酔生夢死幾百夜

 

状況は瞬時に変化してしまうので、わたしらはいつでもいい意味でのダブルスタンダードを心がけていなければ、世の中から取り残されてしまう、と力説したのだが、タナカ氏はついに首を縦に振ろうとはしなかった。9/1

ぼくはひさしぶりにアマカワくんにあって、そのやさしさにかんどうしたんだが、「ぼく、あしたきみに、なにかかみさまのことばをいわなければならないんだ」というと、アマカワくんは「ああそうなの、まあよろしくね」というたのよ。9/2

銀座の旧電通ビルの試写室でルックのテレビCMを見ていたら、普段は温和なヨシムラ氏が突如血相を変えて立ちあがって、「このCMに、なんで盲人が出て来るんだ。障害者を冒涜うるな!」と叫んで、そのカットをカットさせたので、おらっち「こいつは偉い奴だ!」と、秘かに舌を巻いた。9/3

更地というより、荒地になってしまった会社の跡地を、元写真たちが、なにか思い出の品でも落ちていないかと、目を凝らしながら探している。9/4

「現代音楽のレコードは、一回こなごなに割ってから、アロンアルファでくっつけて聴くと、とても味わい深いんだ」と、大学時代の友人が教えてくれたのだが、なかなか実行できないでいる。9/5

出しものによって大好評の月もあれば、その反対に大不評の月もあり、それがみな売り上げに直結するので、映画館主のおらっちは。、大好きな「ローマの休日」だけを上映することにした。9/6

この史上未曽有の大飢饉時代を、我らヒニタタ一族は、身をひとつに寄せ合うようにして、爪を噛み噛み、たった一人の餓死者を出すこともなく、なんとか乗り切った。9/7

新型コロナを巡る世界的なパンデミックは、いっこうに収まらず、ますます熾烈を極めていたので、超強力な最新型ワクチンを搭載している我われの戦車は、敵軍の熾烈な集中砲火に晒されていた。9/8

政府主催の壮行会では、最初にビールなしのおつまみ、最後にスイトンしか出なかったので、頭に来た若い兵士たちは、次々に退場してタリバンの宴会場に向かった。9/9

東京の超僻地に引っ越した我ら夫婦は、近隣の住民のライフスタイルに違和感を覚えながら、自分たちの暮らしを細々と続けていたのよ。9/10

この国では、権力者にはむかった者たちは、金魚鉢を象った巨大な水槽に投げ込まれるので、泳げないものは、すぐに死んでしまうし、泳ぎの達者なものが、いくらあがいても、絶対に外には出られないのだ。9/11

コロナ最終戦争の段階で、ある希少ワクチンを接種した人だけが生き残れる、ことが分かったので、血を血で洗う物凄い争奪戦が起こっているようだが、おらっちのような下層階級には、てんで関係のない噺だ。9/11

その国際映画祭にはじめて出席した大富豪は、最新の映画が見放題なのに感激して、1億円を寄付したことで、その名を知られている。9/12

「この会社は腐ってるわ」と彼女がいうので、「その会社にいるボクもかな?」と訊ねたら、「さあそれは分からないわ」と答えたまま、彼女は地下鉄丸の内線の新宿駅の改札口から永遠に姿を消した。9/13

もうそろそろ、ここらへんで手を打たないとヤバイ、と思いながら、おらっっちは、何もせず、何も出来ないままで、いたずらに月日が流れていった。9/14

3時29分に玄関のチャイムがひとつ鳴ったので、おそるおそる階段を下りてドアを開けてみたが、誰もいなかった。9/15

ようやっとクリスチャン・バッハが到着したので、いよいよこれからリヒター選手が演奏を開始するのか、と固唾をのんで見守っていたが、コンサートは、なかなか始まらなかった。9/16

朝から晩まで敵将と激闘を続けた挙句、ついに最大の強敵を仕留めたのだが、おらっちには、何の勝利の喜びも湧き起こってはこなかった。9/17

芸術のための美的生活を目指して、楽しい共同生活を営んでいた私たちに対して、家主が強制退去を命じたが、おらっちを含めておよそ30名ほどが居残って、しぶとく美的生活を続けているのだった。9/18

全国マージャン大会が開催された。東京駅のホームに着くと、いきなりプラットホームのコンクリートが扇のように開かれて、その下には、何百台ものジャン卓が現れた。9/19

ふぁちょん大博士の下で、3年間修業を積んだおらっちは、朝寝して宵寝するまで昼寝して、時々起きて居眠りをしている大博士の代わりに、いま流行のエチカ調ルックスを製作したら大好評でした。9/20

その中国人女性のふぁっちょんトークでは、自分が得意とするラインは押さえて、あえて不要不急の不得手なラインを大きく打ち出すと、そのブランドの付加価値が増加するというたので、思い切ってやってみることにしたのよ。9/21

だいぶ前に急死した副社長の専用車に乗って、高速経由で彼の自宅に到着すると、美人の奥さんと女中らしき人がお辞儀をして、「おかえりなさいませ」という。副社長が運転手に「このまま彼の自宅まで届けてくれ」と命じたので、余は再び車上の人となった。9/22

その武将は、みずからも飢餓状態に陥りながら、小野城の包囲を解こうとはしなかった。9/23

私は最近大量生産されるようになったロボットについて研究している者だが、どんなロボットの表情も、また心の中にも、憂鬱と不幸が忍び込んでおり、譬え未来からやって来た猫型ロボットのドラどらえもんが、にっこり笑ったとしても、そこには決して消せない悲しみが漂っていることを見抜いたのであった。9/24

妻の実家で開催されている次男の個展を巡って、妻と息子の考え方が微妙に異なるので、はてさてどうしたもんじゃろう、と心穏やかならざる私。9/25

彼女は1億円の宝籤に当選したが、そのお金は生徒から集めた給食費の一部だったので、彼女は懲戒免職になり、1億円は学校がぶんどった。9/26

米国に遠征試合にやって来た我われは、毎朝食卓に並べられる宝石系のパンやコスモス系のパンを貪り喰うては、試合に臨んだ。9/27

ミクシィの少数の友人たちが書いた日記のありかを尋ねているのだが、杳として知れなかった。9/28

250人くらい入る大教室で、スタイリストを目指す若い女生徒に向かって、おらっちは1時間半にわたって谷崎の「陰翳礼讃」を論じたが、誰も聞いていない。と思いきや、講義が終わった時、一人だけ「とても面白かった」というて呉れたので、とても嬉しかった。9/29

リーマンを卒業して、フリーになってからのおらっちは、雑誌の取材記事から広告制作、専門学校、大学の非常勤講師等々、頼まれればなんでも引き受け、不眠不休で働き続けたので、自分のことを「抜き身の剣」と思うようになったのよ。9/30

海中なのに、巨大な水中ブルトーザーが、タラバガニのような大きな両腕で、海水を胸に抱え込んでは、次々に陸上に抛り投げていた。10/1

戸塚駅で横須賀線に乗り換えたら、ヴィクター宣伝部のトマツ氏が疲れた顔をして、うす汚れたガラス窓から外を眺めていたので、きっと重電部に異動できなかったに違いないと思ったずら。10/2

うちらあ野球の審判員なんやけど、2塁塁審で毎日60万円貰って、そのチームに有利な判定をしていた上司が、こないだ、とうとう首になってしまいました。10/3

Aという写真家が、商業写真を撮った後の現場を、Bという写真家が撮ると、芸術的写真に変わってしまうのだが、そのAとBを観察しているCは、写真家でも芸術家でもない。10/4

声は鋭い槍になって身を刺し、その身がどうなろうと、強烈な毒素を、全身に垂れ流すのだった。ひとたび身に受けた声は、体の中に沁み込んで、どうしても取り除くことは出来ない。10/5

モザールのト短調交響曲を聴きながら、おらっちはフルヴェンの悲しみが爆走していくのを見守っていた。10/6

「あんたの服には、権力への噛みつき跡が、ありありと残っているから、あれを着る人は、なかなかいないんじゃない」と、アンジェラが言うた。10/7

太平洋上空から見下ろすと、赤と青の2台の水中潜行艇に乗った2人が、楽しそうに海中ブランコしている姿が見えた。10/8

おらっちが校長を務めている小学校に、今年もベルリン・フィルの連中がやって来てミニ・コンサートを開いてくれるのだが、生憎改築中なので、校舎のあちこちを移動しながらの演奏になるので、ちと気の毒だ。10/9

夜、寝ているのに、起きているのに、寝ているようだ。10/10

いつもバスで会社へ行こうとしたら、道路の真ん中に大きな樹が倒れていて進まないので、仕方なくバスに戻ると、隣の黒人の大男が居眠りしながらもたれかかるので、身を躱していると、ソマリアのどすこいオバサンが乗り込んできて、余にウインクするのだが、もしかして、同級生のマリちゃんではなかろうか?10/11

南新宿の南の地下壕には、秘密の地下鉄が走っていて、オームとホームの血を血で洗う地上の武闘から逃れた民草たちが、犇き合っているのだが、おらっちはその群衆の中に、奥村晃作さんが、掃き溜の老鶴のように佇んでいる姿を見つけた。10/12

ピエール・カルダンは、さる伯爵夫人のために、毎年デザインと機能性に配慮した特製の水着を進呈していたそうだが、この話は、おらっちしか知らないと思うずら。10/13

大阪支店の連中と昼飯を食おうと歩いていたら、仲間の一人が黒鬼野郎にとっつかまってレスリングを挑まれ、さんざんやっつけられているので、誰か助っ人しないのか、とお互いに顔を見やるのだが、誰も助けないので、またさんざんにやっつけられて、素っ裸にされている。10/14

イソミ整形外科のイソミ先生に、そのことをどのように伝えるのかを、何度も何度も練習するのだが、そのたびに別の話をしてしまうので、焦りまくっているおらっち。10/15

わいらあ義経なんやけど、さる無名子が、公文書におらっちの名を書きしるしてくれたことだけを今生の名残として、いずこへともなく落ちのびていったのよ。単身で。10/16

せめて独裁的な為政者に蟷螂の斧を打ちおろさんと、余は身にワルサー一挺を携えて、王宮に忍び込んだのであったあ。10/17

偉大なるノーベル賞作家が、20年ぶりに発表した最新作は、たったの1行だけの世界最短小説で、しかもその1行の2/3が伏字になっていて、「その伏字が何であるかを当てた人には1億円を進呈する!」というスポンサーまで現れたので、超話題になっている。10/18

近所のおばさんから、「駅まで行くなら、ちょっと乗っていきなよ」と誘われたので、軽い気持ちで乗っていたら、そのおばさんが、俄かに、俄かめくらになったので、激しく動揺している私。10/19

ナカノ君が、「通産がオーバーランドの交通点」というたので、「キンサ、キレイな海の泡」と答えたら、また「光が輝き、土が唄ってる」というたのであるが、何も答えず黙っていた。10/20

ネモ艦長になった私は、ノーチラス号のスロットルを全開して、この世の悪人どもに体当たりさせ、次から次に海底の藻屑と化していった。10/21

私は星の王子様にテッパン協奏曲を聞かせたら、ことのほか喜んで、「もっと! もっと
!」とリクエストするのだった。10/22

「ここでリハビリを始めてから、まだ半年も経っていないんですよ!」と、おらっちは痛い右腕をブンブン振り回しながら、イソミ院長に激しく抗議したのよ。10/23

人世に消耗した時には、ベートーヴェンの交響曲第4番の出だしを聞くと、パンパンパンビノパンビタンを飲んだくらいには元気になるのだが、近頃は、さっぱり効かなくなってしまって哀しいずら。10/24

ともすれば分裂、崩壊してしまいそうになる「私」を掻き集め、また掻き集めしているうちに、いつのまにか「私」は「私たち」になっていった。10/25

おらっちの小学の同期の秀才は、村の一等地に巨大な銀行をおっ立て、「見てろ、いまに日銀に追いつき、追いこすんだから!」と、豪語するのだった。10/26

その村人たちは、風味絶佳、天下無敵と称されるサルマ茸を、おらっちにどっさり喰わせてくれたのだが、それほど美味くもなく、喰えば喰うほどマズくなるので、近寄って来た豚に呉れてやった。10/27

ゼンダ城の虜なおらっちは、鉄火面で全身を覆われてしまったので、飯を喰うたり、ウンチをしたりするのに、えらく往生したことであった。10/28

「この商売の鉄則は、本物のストラディバリウスのヴァイオリンを、ショオウィンドォに掲げることさ」と、その楽器商は語った。10/29

ボクはそろそろ身を固めようと思って、彼女と付き合い始めたのだが、彼女ときたら「海よ山よ町よ」と、あちこちふらふら遊び回るだけで、ボクと一緒にいる時間なんて、まるでありゃしないのよ。10/30

わいらあ潜水艦の乗組員は、夜狭いベッドに横たわって、「おらっちは今深い深い海の底の底で寝っているんだ」と思う時にしか、楽しみはないずら。10/31

中国大陸にほど近いその小島には、仮想敵国からの情報を細大漏らさず収集するための、大中小無数のアンテナが、蟻の這い出る隙間もなく立ち並んでいた。11/1

佐々木かをりが親戚ではなかったと知ったおらっちは、少なからずショックを受けたが、「そうか、京都生まれの彼女が、横浜生まれのはずがないもんな」と、胸を撫で下ろしたのだった。11/2

連隊長から「敵の捕虜を14・23に全員ここに整列させろ」と急に命じられたので、捕虜を捜したが、どこにもいないので、わいらあいうにいわれん苦労をしたのよ。11/3

おらっちの会社での仕事は広告宣伝なのに、もう秋が終わって冬に入ろうとしているのに、年初から何の仕事もしていないことに気がついて、慌てて営業部長のところへ行ったら、「今年は宣伝費はゼロなのよ」というたので、腰が抜けたずら。11/4

明日は総攻撃というその夜、わいらあ「みんな家族でいるところをスケッチしてやろうか?」と訊ねると、我も我もと集まって来たので、次々に描いてやったら、みな泣いて喜んでいた。11/5

コロナ禍が一段落したので、マンモス学会へ行ったのだが、「マンモスの本質は、その骨なのか、その内臓なのか、それともその魂なのか?」について、相も変わらず果てしなき議論が繰り広げられていたので、怱々に退席した。11/6

キヨカワ医院の女院長が、土曜日の内科を担当しているそうなので、いちど健康診断を受けてみようかな、と思うのだが、その動機がやや不純ではないかと、朝までもんもんとしているずら。11/7

新社長が同じ場所で毎回作っては壊し、壊してはまた作る展示会の設営費がまったくの無駄遣いだ、と怒り狂っているようだが、これが必要経費であることを、誰も説明しようとはしない。11/8

せっかく頻尿緩和剤を飲みだしたのに、なんでまた1時間おきに小便に行かなきゃならんのだ、それに寝返り打つたびに右腕の筋肉が痛むし、ダメトラは虚人なんかに負けるし、ああ早く寝なきゃ。11/9

私ら2人は、あんまり近くにいたために、かえって、お互いに深く愛しあっていることが、ずいぶん長い間、分からなかった。11/10

三代将軍実朝の私は、毎日歌を詠みながら、あの悪辣陰険な北条時頼が、私の首を取りに来る日を、今か今かと待っているしかなかった。11/11

おらっちは見た。かの公爵夫人が、あのコモド大トカゲとがっぷり四つに組んでから、明後日の方角へ、いとも軽々と投げ飛ばすのを!11/12

司令官から直接頼まれたので、仕方なく面倒を見ているのだが、その頑なに沈黙を続けている男は、ひょっとすると敵の密偵かも知れないので、おらっちは気を抜く暇は、てんでなかったのよ。11/13

イマイさんの小説講座を学んだ人たちから、数多くの芥川賞や直木賞作家が誕生しているが、イマイさん自身は、まだ候補にのぼったことすらないのは、何故だろう?11/14

車のトランクを開けたら、中は水がいっぱいで、金魚とメダカが泳いでいて、水底に2つの弁当箱があった。11/15

高橋アキさんが、ピアノで現代音楽を演奏していることは分かるのだが、それが誰のなんという曲なのかはてんで分からないうちに、演奏が終わってしまい、瞬く間に、聴衆も消えてしまったので、拍手することも出来なかった。11/16

おらっちは、オン・デマンド・サービスで頼んだ、コカコーラと三ツ矢サイダーとカルピスを飲みながら、懐かしの小学校唱歌を歌いまくったのよ。11/17

千客万来の展覧会にスタッフ一同大童だったが、ふと考えてみると、今回は入場料金をとっていないから、全部持ち出しになる訳なのであった。11/18

千客万来の展覧会の最終日の終了時間間際に滑り込んだ客が、いくら「もう終わりですよ」というても、粘りに粘って帰ろうとしないので、みな閉口して、客を残して引き揚げた。11/19

族長は、これから夜襲をかけるテントの中で幸せそうな顔をして眠っている女子供たちのことを思ったが、いそいで頭を振って、その残像を消し潰した。11/20

息子ときたら、五味家の広間に若者たちを集めて、なにやら大演説をしているので、恥ずかしくて仕方がない。いつのまにああいう偉もんハンに成り上がったのか。11/21

スクリーンに映し出された、青春まっさかりのアラン・ドロンを見つめながら、後期高齢者の女性たちが、ねっとりとした妖しい視線を投げかけるので、とうとう銀幕が燃えはじめたようだ。11/22

もうコロナにすっかり飽きた政権が、急に思いついたように18歳以上の国民にクラシックの定番CDを無償提供することになって、まずワルターのモザールの40番&41番が送られてきた。11/23

おらっちは、南アやアメリカ南部で人種差別バスに乗ったことがあるが、それはそれはお話にならないくらい酷いものだった。11/24

おらっちは、ある野党の領袖選挙に立候補したのだが、対立候補のレベルがあまりにも低すぎるので、討論会は欠席して、コブナ釣りに勤しんでいた。11/25

ノジマ電機でエアコンを買おうと思って、販売員と電卓を押しくら饅頭していたら、余の右手の人差指が電卓を突き抜けて、販売員の掌も突き通してしまったので、驚いたなあ。11/26

「シビラっちゅう服のコンセプト、コア・ターゲットのプロフィールは、いったいなんなんねん!」と社長が叫ぶと、その場にいた全員が、なぜかおらっちを見たので、「そんなこと知らすか、なんでおらっちが答えんといかんのかいな」というて、退席したのよ。11/27

いつも細かい所で失敗している大将だったが、最後のコンサートでは、一音符も間違わずに軽妙なフルートの節を奏でた。11/28

バーンスタインな私は、その日のコンサートで、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の棒は振ったが、ニールセンの交響曲は謹んで辞退し、家に帰ったずら。11/29

もう今では無くなってしまった会社のこと、もう今では泉下の人となってしまった先輩や後輩の人々のことについて四方山話をしたのだが、その御当人は、おらっちのことを全然それと認知していなかったと別の人から聞いたので、やっぱりそうだったのか、でもよくある話よと軽く受け止めているおらっち。11/30

 

 

 

光の果実

 

原田淳子

 
 

 

きみが知らない
きみを葬ったそのときのことを

雪で埋もれたきみの墓のまわりを
一羽の尾長が
真っ黒な尾を振りながら舞い降りた

手向けられた花は凍っていた

尾長の彼はわたしのそばから離れず
歩きながら剽軽に尾を振った
わたしは笑って
尾とともに頷き首を振った
それが大地を刻むリズムであることを
生きてる彼は彼の体積で示した
彼のやり方で

それが鈴懸の木の実を揺らす歌であったこと

それが愛おしい歌と似ていたこと

終わりに吹く風は
始まりの歌であったことを
きみの土に口づけで伝えよう

まいにち、砂を噛む思いだと、
いつかきみは囚われた家の窓から呟いた

毒を培養する壁を
わたしはなぜ焼かなかったのだろう

送受信が緻密に発達したこの家を
わたしはなぜ壊せなかったのだろう

毒を薬に換える手立てを
まだわたしは探している

きみに似て非なる近しい者たちが
鈴懸の実を揺らす
ここそこに

これが時間なんだね

水と
歌が流れる
誰もが光の子どもだったことの標に

貝は傷ついて真珠を生むのですって

その光の粒は
埋もれても
汚れることはないでしょう

ゆきたいのは 春のむこう
触れても壊れることのない あたたかさ