広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
すぅーっふぅーっずこんっこん
透明プラスチック越し
頑張ってる音、聞こえそう
ちょっと低体重で生まれたコミヤミヤ
保育器のお世話になってる
口には管、胸にも手にも足にもセンサーが貼られて
横のモニターには刻々変化する数字が映し出されてる
「お父さん、娘さん順調ですよ。
ぐったりしてるみたいに見えますけど違うんです。
保育器の中でいろんなことを勉強してるんですよ。
呼吸の仕方とか
体温の調節の仕方とか
栄養の摂り方とか
一生懸命覚えてるんです。
すごく活動してるんですよ。
応援してあげて下さいね」
ぼくの横にそっと並んだ先生が言う
確かにコミヤミヤ、動いてる
今、それっ
口をちょぼっとさせた
手の先をぴくっとさせた
お腹をひゅういっとしならせた
緩慢に見えるけど
緩慢どころじゃない
呼吸も体温も栄養も
力いっぱい勉強して
その結果がモニターの数字を
刻々突き動かしている
すごいね、コミヤミヤ
すぅーっふぅーっずこんっこん
頑張ってる
頑張ってる音、聞こえそう
大きな喪失感に包まれている。
有限な人生の限界を真正面から突き付けられたような気がした。
3月下旬。
その日は休日出勤で14時頃に仕事が終わり、リュックを抱えながらおもむろに携帯を取り出した。
1件の、これまたメール嫌いな幼なじみからの連絡の様だった。
珍しいこともあるもんだなと疲れた頭で何だろうと考えていた。
階段をのろのろと降りながら中身をチェックする。
「はっ」と心の声が出ていたのかもしれない。
すれちがう人が怪訝な顔をわたしにむけていた。
わたしは、必要最低限書かれたその文面を何度も何度も繰り返し目で追った。
にわかには信じられないものであった。
「◯◯亡くなった。今日の未明。」
それ以下でもそれ以上でもなく、ただそれだけが書かれていた。
ただその文面がわたしに与える衝撃はどんな長文よりも大きいものだった。
守衛さんにいつもと変わらない笑顔をなんとか作り挨拶をし、駐車場まで歩く。
座席に座りゆっくりとメールの送信者に電話をかける。
コールの時間はものすごく長いように感じた。
彼も詳しいことは分からないようであったが、紛れもない事実であることは確かなようだった。
30代前半、働き盛り、奥さんもおり第2子妊娠中であった。
駐車場からしばらく動けなかった。
久しぶりの晴天で雲が流れるように漂っていた。
何十年かぶりの雪もやっと通り過ぎ、快適な気候がこれからやってくる。
街の人の気分も高揚し始めている。
いつもと変わらない日曜、になるはずだった。
わたしの心はぐちゃぐちゃと、せっかく積み上げたブロックが一気に崩れていくような気持ちになった。
彼も含めた幼なじみ3、4人でSNSでグループを作って、近況や集まって犬の散歩をしたりご飯を食べたりしていた。
お互いの結婚を祝ったり、同じ業界で働いていることもあり悩みを相談したりしていた。
住んでいる所はバラバラだったけれど、誰かの帰省に合わせてよく地元の焼肉屋さんに行った。
きれいとは言い難い所だったし、店員さんもさして愛想がいいわけでもないし、匂いや油はベトベトに服につくようなとこだけど、育った町のそこにある焼肉屋、小さいころから変わらず在り続けてくれるというだけで安全地帯だった。
わたしは知っている、遅れてきたメンバーのために、一度焼いて皿に移してあった肉をそっと網に戻して温めなおしていたことを。
急に写真を撮って、こういう何気ない瞬間を大事に保存していたことを。
みんながアルコールを飲みたいと言ったら、必ず運転手をかって出ていたことを。
うちの実家の犬を可愛がってくれたことを。
注文1年待ちの鉄のフライパンをこっそりと注文し、わたしの結婚に間に合わせようとしてくれていたことを。
みんなきっと知っている。
彼の家族は誰に対しても親切で、例外なく彼も親切であるということを。
わたしは今でも連絡できる他の幼なじみに事の顛末をゆっくりと、正確に電話で伝えた。
誰も知らずに過ぎていくのはあまりにも不憫だと思ったからだ。
みんな相当驚いていたし、中にはその日結婚式だった人もいた。
人生はむごい、そして神様は意地悪だと思った。
みんながまたそこから知りうる限りの人に連絡してくれたようだ。
最後のお別れに行ってくれた人もたくさんいたと人づてに聞いた。
わたしは、GWに伺う予定だ。
現実を突きつけられるのはかなり怖い。
しかし、行かねばと、残された人間はそれでも生きていかなければいけないのだと思っている。
11年前、事故で同級生を2人すでに亡くしている。
空を見ると3人の顔が思い浮かぶ時がある。
死後の世界が本当にあるのだとしたら、3人でもう何もストレスや苦労もなく穏やかに焼肉でもしてるのかな。
お酒も二日酔いを気にすることなくたらふく飲めるね。
いつかわたしもその日が来たら仲間にいれてよね。
グループメッセージの既読の数が1つ減った。
何日待っても既読にはならない。
アイコンの写真だけが笑っている。
人生は幻だ。
イザナミのおしっこから生まれた女神のミツハは
グレて 眉をそり 髪を染め
大麻、覚せい剤、何でもやり
次から次へと男と寝た
水のむらは治水のため 川をつくることを思いついた
人柱に素行の悪いミツハを立てる
ガムをくちゃくちゃやりながら ミツハは笑いながら埋まっていき
水の女神として祀られた
水を治める神 舟や子を水から守る神
稲作の村の灌漑用水を守る神
時代はうつり 橋がかかった
土手の工事で邪魔になり 社は下流にどかされた
産業、産業と 村はいい始め
田んぼはつぶれ 町工場がつぎつぎに建っていった
そばの荒れ地に大きな建材屋ができたころ
ミツハは社を離れ 人界におりた
おしっこから生まれ
人柱になり
工事の邪魔だとどかされた
失うものはなにもなかった
いつもとびきりの笑顔だった
ガムをくちゃくちゃ噛んでいた
私たちと交わり 冗談言って笑い
男たちとも平気で交わり
だからパンツなんてはいてなかった
誰よりも幸せそうな顔をして いつでも誰にでも 優しかった
踏んじゃってごめんねー!って言いながら
髪留めを拾って 届けてくれた
素行が悪いから
何でもミツハのせいになった
笑っていた
人間は
神でもないのに川をつくり 橋をつくり
工場をつくり
神もつくり
そして今度は大きなマンションを建てるという
地上げ屋が来た
札束をピラピラさせて 水のまちにやってきた
小さな工場や、家、アパート、柳の木
次々つぶれて その地盤沈下の更地の下に
ミツハがまた 人柱に立ったのだ
ミツハの上に 8階建のマンションが建った
毎年7月の例祭には
境内で式典があり 屋台が出る
パン、パンと 手を叩き
社殿に向かって礼をする
さんざん利用して 今はもうこの町の敵でしかなくなった川の水
その水の神はもうそこに とっくのとうにいないのに
空っぽの社殿の前で
拝む 祈る
そして屋台でかき氷を食べる
ボタボタ 色のついた水を垂らす
水波能売神 ミツハ 水の女
人間の欲望
(4月某日、奥戸7丁目水神社付近で)
参考:
「かつしかの文化財」79号、葛飾区文化財保護推進委員・葛飾区郷土と天文の博物館
『葛飾区神社調査報告』、東京都葛飾区教育委員会
『奥戸に生れ育って』、清水その
『図説 日本の古典1 古事記』、集英社
私が私にもなってはいけない理由
Cristo fue levantado de entre los muertos
複数形の死から受け身でよみがえらされる
やばいうやまう
対面通行事故お巡り
あやめ見に行く
影のクラウド
意欲と力の両方
桐
発車オーライ
パロールは服の縫い目
縫い目が無ければ脱ぎ捨て易い
縫い目のない服
縫い目の無い服を私は着たい
水のような化粧品
化粧品のような水
水のような酒
酒のような水
エレカシのサラサラは難しい曲だ
縫い目の無い下着のように彼は黙っていた
#poetry #rock musician
明日は 来るのか
今日は いなくなったか
昨日は まだいるか
記憶は はるか地中の彼方に
埋もれた
深く深く
どこまでもどこまでも遠く
記憶は私を未来へと
連れ去った
真っ白なキャンバスは
無限の色彩がうごめいている
何も覚えてはいない
すべて身体に刻まれている
その刻印は 明日に向かって
地平線を滑り出した
明日は 来たのか
昨日は 来るのか