分断の詩学

 

工藤冬里

 
 

病んでいるのでトイレに籠っていた
雨粒の付いた髪の毛が揺れる
一度切られた桐もまた伸びた
でも水をかけられているのはバオバブの木
二十年で言葉も変わってしまった
選挙当日
二十年で言葉も変わってしまった
世界は邪悪な者の配下にあるので
議会制民主主義など役に立たない
電子機器に気を散らされ
選挙当日
不法の者を未分化のままにして
選挙当日
分断の詩学
選挙当日
柔らげる努力はした
切断面は衝上断層を見るようで
選挙当日
差異ではなく切断面の看板を眺める
「衝上断層」
断層をとくと眺める
中生代が新生代を衝き上げている
まだ進化を信じているような人に何を言っても無駄だ
選挙当日
人の棲まない場所になる
選挙当日
助六型のトヨタシエンタの目が増えた令和
小スプーン一杯の表面のDNAで全ての思い出は生きているから
順ちゃんにはまた会えるよ
目は少し小さくなってるだろうけど
歌集 標野は作ってあげたかったな
つぎつぎに声がする
クリミナルのひとりだ
選挙当日
子どもは大人とは全く違う別の動物だ
美学にしたのには訳がある
近づく人を信頼できなくなるんだろ
選挙当日
「全部おまえのせいだ」
選挙当日
「これは二人だけの秘密だよ」
選挙当日
「きみの言うことなんかだれも信じてくれないよ」
選挙当日
「好きだったらこういうことをするんだ」
選挙当日
幸福の扉が閉じられたと思ってたら
別の扉が開く
桐のように
選挙当日
またボーダーを着てるのか
選挙当日
温められた菓子にはグッときたと思います
(What’s your business here, Elijah?)
ボーダーを着たパゾリーニ組の座員
選挙当日
創が深くなりづづけている

 

 

 

ミロより優しく、ゴッホより激しく、ピカソより純真

 

佐々木 眞

 
 

ミロより優しく、ゴッホより激しく、ピカソより純真
私は、そんな絵を描く人たちを知っています。

それは、ミロさんよりおつむが弱くて、ゴッホさんより気が弱くて、ピカソさんより間違いなく貧しい人たち。

そのほとんどが、家族や親切な人たちの助けなしでは生きていけないような、世間のひとさまと争うことさえできない弱い弱い人たち。

まあこういってはなんですが、落ちこぼれのような人たちなんですが、
それでも
ミロより優しく、ゴッホより激しく、ピカソより純真
そんな絵を描く人たちなんですね。

ミロより優しく、ゴッホより激しく、ピカソより純真
そんな絵。そして、そんな人たち。
ああ、私にもそんな詩が書けたらいいのになあ。

 
 

 

 

last song ending

 

原田淳子

 
 

 

雨粒に光
暗闇はまぶしいって、はじめて知った

光の速さで
願いごとをかけるまもなく
雨は流れ星になった

与えられた問いは単純で
扉は開いてるはずなのに
ふくざつに絡みあってしまった鳥籠のなかで
雲の影がかたちをかえた

望んだものは与えられた
願いを投げたところとは違う角度から

おまえは自分の掌しかみえてないね
おまえの背中をみてごらんとでもいうように

生は死にぶらさがり
死は生にさかあがり

生まれてはじめてのことばをおもいだしている

誕生は月食

願いは純化して
雨粒が鳥籠を砕く

暗闇がまぶしい

 

 

 

どんな声色も眉もフィットしない雨の日の *

 

雨だね

雨の日には
君は

雨を見ているのかい

黙って地面に落ちて消える
雨は

消える

できれば
その唇のアヒル

やめて
ほしい

雨だね
jolie hollandを聴いてる

“愛からほど遠く” *
“ほど遠く” *

君は歌ってる
君は笑ってる

同情 共感 連帯 愛情

それらから
離れて

君は笑ってる
君は笑ってる
君は笑ってる
君は笑ってる
君は笑ってる

地上には貨幣が渦巻いている

君は

それらから
離れて

“革命からほど遠く” *

歌ってる
天に落ちていく

 

*工藤冬里 詩「The abuser」から引用

 

 

 

The abuser

 

工藤冬里

 
 

ほど遠く
1968の歌謡曲を組み合わせる
cell様の中に黒點
投票日に児童虐待をおこなった
小石や根の多い部分に行き当たる指先が
絶望を攀じるようだ
腰にずきん
革命からほど遠く
法律はぼくらを護る
蛍光マーカーのどんな色もフィットしない雨の日の
どんな声色も眉もフィットしない雨の日の
grossがsinを形容する様
愛からほど遠く
ほど遠く

 

 

 

蛇道

 

道 ケージ

 
 

蛇の抜け殻のような道
その果てまで両側は
灰色の竹
竹並木というのか
こんな処があったとは

何やら苔のような
おびただしい
びらびらを
はためかせている

かなり急だから
もう登れそうにない
ウロコの跡は
あぁ、キャタピラの跡か

何やら息苦しい
肺か心臓がやられている
カジイかよ
坂に耐えられない

あぁ、オレは人殺しだったのだな
はなから許されてない
なら呼ぶなよ
この道行きが罰?

靴はもう泥だらけだ
土産の水羊羹はどうする
詫びじゃない
礼儀にすぎない

先輩が言ってたな
相撲辞めちまいな
川沿いの堤の道である
自転車が捨てられ
錆に雫

野望はどうする
張り手で殺した
茅の輪くぐっても
もう遅い

 

注「カジイ」は梶井基次郎のこと。

 

 

 

たった1日で、世界は変わる!?

 

佐々木 眞

 
 

よ、大統領!
や、大統領!
トランプはんとジョンウンはん
超多忙なお二人さん。

「やあキムはん、おらっち近所までやって来たのよ。5分でええから会いまへんか?」
「え、ほんまかいな、そうかいな、明日はぼくちゃん暇でんねん」
ツイ、ツイ、ツイッターで呼びかけて、
ふたりは翌日、板門店。

あれに見ゆるは境界線。
「キムはん、あの一線を越えまひょか?」
「そりゃあもお、そおして頂ければ超ウレピー」
やった、やった、トランプがやった。

ヒップ、ポップ、ジャンプ。
ヒップ、ポップ、ジャンプ。
2人並んで跳び越えた。
境界線を突破した。

世界のキャメラが見つめるなかで、
それから2人は、むにゃむにゃむにゃ。
ムンちゃんなんかも加わって、
3人揃って、むにゃむにゃむにゃ。

よ、大統領!
や、大統領!
トランプはんとジョンウンはん
ムンちゃんだって月下氷人よ。

やった、やった、世界を動かす大統領
ビッグなディールが、これから始まる。
うまくいくかは分からんけれど、
これで再選間違いなし。

やった、やった、トランプがやった。
ヒップだ、ポップだ、エレキバン。
ざまあみろ! 指先三寸で政治は変わる。
たった1日で、世界は変わる。

 

 

 

韻を踏むんだ、麦を踏まずに

 

佐々木 眞

 
 

高田の馬ん場は、アオとアカがヒヒンと嘶く、広大な麦畑だった。

革マルのフランケンシュタインのゲバルトに警戒しながら、半世紀振りで文学部のスロープを粛々とさかのぼり、おもむろに右手を眺めると、とっくに亡くなったはずのヒラオカ教授の英姿があった。

ところがヒラオカ教授ときたら、相も変わらず、
「こ、こ、ここはトキオではありましぇん。パ、パ、パリのソルボンヌざんす。ヌ、ヌ、ヌーボーロマンが、どうした、こうしたあ」
などと、都々逸を唸っているので、
「いったい何のための年金100年バリストだったのか!?」
と呆れ果てながら、余は「狭き門」の翻訳でつとに知られるシンジョウ教授の教室に入っていった。

すると満座の学友諸君の只中で、余はいきなり教授からジッドの日記の2019年6月21日の項の和訳を命じられたので、目を白黒させて脂汗を流していると、
「あれほど言うたのに、キミは予習をしてこなかったんだな。そおゆう不届きな者は、私の授業に出る資格はない。とっとと出てゆけ!」
と激怒せられた。

これはどじった、しくじった。有名教授の虎の尾を踏んじまったよお。

今日の教訓。詩も人世も、すべからく韻を踏むんだ、麦を踏まずに。

 

 

 

大好き

 

佐々木 眞

 
 

我が家の長男が、ときどき「お母さん大好き」という。
だいぶ容量が少ないけれど、稀に「お父さん、大好き」というてくれることもある。

私はこの世の中のありとあらゆる言葉の中で、
コウ君の、その「大好き」という言葉が、いちばん好きなのだ。

ところが最近テレビから、ガラガラ蛇のように数珠繋ぎになってしゃしゃり出てくるのは、「ハズキルーペ大好き!」というCM。
いかにもギャラの高そうな売れっ子タレントたちが、
どいつもこいつも年甲斐もなく「大好き!」を連発しているのを見ているうちに、
だんだん私の大好きな大好きに、けたくそ悪い手垢がついてくるような気がしてきた。

毒には毒を以て制すべし。

天の邪鬼の私は、試しにそっと呟いてみる。
「ミヤネ屋大好き!」「坂上忍大好き!」「中野信子大好き!」

「トランプさん大好き!」「安倍さん大好き!」「麻生さん大好き!」
ふむ。ちょっと吐き気がしてきた。

意を決して声を大にして叫んでみる。
「オリンピック大好き!」「自民党大好き!」「日本会議大好き!」
「ネトウヨ大好き!」「嫌中嫌韓大好き!」「ファシスト大好き!」

ふむ。やっぱり違うな。
つか、全然違うな。
言葉はおなじ「大好き」でも、やっぱりコウ君の「お母さん大好き!」には、てんで敵わないな。

 

 

 

流木のように近づいてきた ***

 

高速バスでは

Dylan を聴いてた
名古屋港を高架で渡る時

雲が
いた

佇ってた

白い

古代の
女のようだ

少女の俤がある

“And she aches just like a woman.” *
“But she breaks just like a little girl.” *

ダメになる
少女の

雲の

白い

大阪に着いて
新梅田食堂街平和楼でビールを飲んだ

天満宮では芋のロックを飲んだ

柔らかい関西がいた

大阪まで
工藤冬里を聴きにきた

“one too many mornings.” **
“one too many mornings.” **

工藤冬里は

私を捨てて
押し流す

“流木のように近づいてきた” ***
“流木のように近づいてきた” ***

ギターをつまみ
ピアノを

叩く

土砂の流出した後で

歌う

“流木のように” ***
“近づいてきた” ***

岬にひとり佇っていた

ひとり
いた

 
 

* BOB DYLAN「JUST LIKE A WOMAN」より引用
** “one too many mornings.”はBOB DYLAN作詩・作曲の歌
*** 工藤冬里 詩「最後なのにないがしろにしたこと」