ラ・ツーダ・デイズ

 

今井義行

 
 

「ラツーダ」というのは 新しい 向精神薬
それは キモチを引き上げてくれる クスリ
どのような出来事が起きても ハイになれる

これまでの 精神を安定させる
「パキシル」4錠に 上乗せされた クスリ

昨晩(ゆうべ) それを 飲んだのさ
就寝前に 2錠を──

正式名を「ラツーダ」と いうのだけれど
「なかぐろ」を 入れて
「ラ・ツーダ」と歌えば ハイになれます

両手が 痙攣して
喜びに 震えちゃう
「ラ・ツーダ」って 何だか
ラテン・ミュージックみたいな名前でしょ?

ホラッ トランペットが 興奮してます
ホラッ パーカッションが 興奮してます

ささやかな出来事しか起きていないのに
嬉しさに変わってしまう不思議なクスリ

わたしは 新しい向精神薬で いつまでも
嬉しすぎる ヒトに なって しまうのかなあ・・・

水曜日 西友で 1週間分の多くの食材を 買い求めた
もう 買いすぎちゃって 困っちゃったよ・・・

帰り道 わたしは1メーターだけ タクシーを利用した

決まって 水曜日に 利用するので
わたしは あるタクシー・ドライバーさんに ずいぶん
覚えられてしまって

「バスロータリーをUターンして
それから 真っ直ぐ進んで
郵便局のところにきたら左折・・・
・・・・・・・・・ええと
次の次の道を右折 それからまた右折・・・
でしたっけ?」

ドライバーさんが わりあい記憶してる それだけで 凄く凄く 嬉しいぞ

マスクを顔の半ばまで 覆ったところから
見える そのタクシー・ドライバーさんの目は
とても おおきく 見開かれているなあ・・・

ウレタンの 生地で 隠れているから
そういうところばかりに 視線が向かってしまう

なぜだか そういう事が わたしは とっても とっても 嬉しいぞ

就寝前に 服用する ラ・ツーダ 2錠
そんな日々を わたしは ラ・ツーダ・デイズと 呼んでいます

ラ・ツーダ・デイズでは
毎日 ものごとを 上向きに 感じては
毎日が 嬉しい 事ばかりに なるんだ

「ここで 良かったですよね?」 
タクシーが わたしの アパートに たどり着いた

わたしは 今日乗った タクシー・ドライバーさんの
喋りかけてくる 声のなかに
何処かしらの 方言が混じっている事に
気がついた ・・・熊本あたりか?

なぜだか そういう事が わたしは とっても とっても 嬉しいぞ

ある日 都営バスの 車内で ひとりだけで ニヤニヤ笑っている
高校生くらいの女の子を 見つけたんだ

そういう ヒトって いるでしょう?
そういう理由(わけ)が わかったよ

キミも イッチャッテ いるんでしょう?

わたしも 相手がいないのに ひとりで 笑ってしまうんだよ 嬉しくってねえ!

キミも ラ・ツーダ・デイズの
真っ只中に いるのでしょう きっと──

(キミ わたしの 仲間なんだろ)

「嬉しいかい?」と 語りかけてみなくても 
わたしと 女の子は それぞれに ニヤニヤニヤニヤ 笑いつづけているんだ

(キミも たどり着いちゃったね 楽園みたいな ところへ)

(地獄じゃないよ!! ここは 天国なんだよ!!)

それでも くるえないって いうのは 何だか つらいよね
そうして・・・・・・ わたし 勃起まで しちゃうんだよね!!

バイアグラ いらず!!!!

きっと 何にも 理由(わけ)も ないのに

ラ・ツーダ・デイズの 真っ只中に いて
笑いつづけている キミと わたし

ホラッ アコースティック・ギターが 興奮してます
ホラッ アップライト・ピアノが 興奮してます

ラ・ツーダ ラ・ツーダ ラ・ツーダ・デイズ!

ある日 部屋の なかに ひとりで いて
もう 秋なのに 冷房を最低温度にしてた
もう 秋なのに 肌寒い程の 季節なのに

(何やってんだ わたしは・・・)

なのに そういう事で わたしは とっても とっても 嬉しくなってしまうぞ
それが わたしの ラ・ツーダ・デイズ

ラ・ツーダ ラ・ツーダ ラ・ツーダ・デイズ!

「作業所」に出かける前 あんなに 不安の
かたまりに さいなまれて いたのに
いまは それが 待ち遠しくさえなってる 不思議だ・・・

嬉しい事なんて 何ひとつ 起きていないのに 

「最近 何だか あなた 変わったみたい」
作業所の 女性スタッフの 岩崎さんに
そう言われて なぜだか ゲラゲラ ゲラゲラ 笑いだしてしまった わたし

どうしてか そういう時が わたしは とっても とっても 嬉しいぞ

ラ・ツーダ ラ・ツーダ ラ・ツーダ・デイズ!

わたしは 以前の 向精神薬では
キモチが 安定していた だけだというのに
こうゆう 嬉しさって 何処から やってくるんだろう?

(一体 わたしの からだは 何から できて いるんだろう・・・?)
 それでも くるえないって いうのは 何だか つらいことだ・・・
(一体 わたしの こころは 何から できて いるんだろう・・・?)

なんちゃって ね!!!!

不思議だなあ いくら 考えても わからないぞ・・・!

作業所で 宅配釜めし「釜寅」の 割り箸と
しゃもじを セットしているとき
どうして こんなに 嬉しくなって きちゃうのかしら ね・・・
割り箸としゃもじの セット組みをしているだけなのに ね・・・

そうして わたしは ゲラゲラ ゲラゲラ 笑いだしてしまった
作業所のみんなも わたしを振り返って ゲラゲラ 笑いだした
ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ・・・・・・

ラ・ツーダ ラ・ツーダ ラ・ツーダ・デイズ!

知らない 誰かが それらを いじってくれるから? 知らない 誰かが
それらを いじってくれるから? わたしの 知らない 誰かさんが
釜めしの割り箸としゃもじの セットを 生真面目に いじってくれるから?

ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ・・・・・・
そういう事が わたしは 嬉しくって 嬉しくって たまらないぞ

ホラッ トランペットが 興奮してます
ホラッ パーカッションが 興奮してます

ラ・ツーダ ラ・ツーダ ラ・ツーダ・デイズ!

正式名の「ラツーダ」に
「なかぐろ」を 入れて
「ラ・ツーダ」と歌えば ハイになれます
ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ・・・・・・ってね

ああ・・・・・・・・・・・・・

ラツーダという 新しい向精神薬を 処方して くださった
わたしのセンセイ どうもありがとうございます!!

わたし 嬉しくって 嬉しくって 本当に たまんないです!!

ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ・・・・・・

わたし は いま この瞬間 も
嬉しくって 嬉しくって もう どうにも ならないんです
・・・・・・・・・!!

夜ごとの 就寝前の 2錠を── 3錠に増やしたら
もう トンデもない 事に なっちゃいます・・・・・・・・・!!!!

 

 

 

少年少女

 

佐々木 眞

 
 

昔むかしあるところに、少年と少女が住んでいました。
ふたりは近所に住んでいたので、地元の同じ小学校に入りました。

少年は幼稚園時代にあまりいいことがなかったので、「よーし、小学生になったらがんばるぞ!」と、ひそかに心に誓っていました。
少女はいつも引っ込み思案だったので、「小学生になったら、なんとかして、そんな自分を変えたいな」と、願っていました。
ふたりは、たまたま同じクラスに入り、たまたま、隣同士の席で並ぶことになりました。

少女は、隣の少年の顔をそっと見ました。
学校より野山が好きそうな、元気な少年でした。
そこで少女は、今まで生きてきた中で最大の勇気をふるって、おそるおそる少年に語りかけました。

「あのお、わたしとお友達になってくれますか?」
聞こえるか、聞こえないかの、小さな、小さな声でした。
すると少年は、声のする方をじっと見ました。
とても可愛らしい少女でした。
少年は、少女に向かって言いました。
「もうお友達になっているじゃない」

それを聞いた少女は、思わずうれしくなって、にっこり笑いました。
すると少年も、なんだかうれしくなって、にっこり笑いました。

それから、時はずんずん流れ、長い長い月日が経ちました。
ふたりは大人になり、別々の遠い、遠い町に住んで、別々の生活をしていました。
少年は絵描きさんになりましたが、まだ独身で、少女は早くに結婚して主婦となり、三人の子供のお母さんになっていました。

ある日大人になった.少年は、故郷の町の実家で小さな展覧会を開くことを思いつきました。
すると、その話をどこで聞きつけたのか、大人になった少女が展覧会にやって来て、ふたりはおよそ40年ぶりに再会したのでした。

少年の絵をぜんぶ見終ると、少女は少年のところへやって来て、
「あのね、私が小学一年生になって隣の席に座った時、きみになんて言ったか覚えてる?」と尋ねると、
少年は「アハハ、そんな昔のこと覚えてるはずがないじゃないか」と答えました。
じっさい何ひとつ覚えていなかったのです。
「そうだよね。あんなに遠い昔のことだものね」と答えた少女は、何か言いたそうでしたが、それ以上何も言わないで帰っていきました。

その日の午後、古い家の玄関先には、とても良い匂いのする金木犀の花が満開で、いつまでも少女の後ろ姿を見送っていました。

 

 

 

散乱していた

 

さとう三千魚

 
 

今朝
女と

墓参にいってきた

雨が降っていた
車でいった

白い花を
供えた

紫の煙があがった

女は傘をささなかった
小さな手を合わせてた

一昨日か
尾仲浩二さんの写真集「Have a Break」が届いた

そこに光はあった
わたしの

光だ

わたしの失った光だ
散乱していた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

NullPo那須与一

 

工藤冬里

 
 

月日
俺が北極星だった頃
弟は柄の先端だった
父さんは枡の先端で
母さんははりゅう座α・ツバーンだった
わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ

 
月日
教習所は事故への情景
SNSはドライブレコーダー
さて、ラップはフォーク野郎を救い、ポエトリーリーディングが映像を救い、本試験に向けた綜合的なセルフ・プロデュースが音楽を廃車にする
https://twitter.com/umezakiharuo/status/1447678178684592131?s=20

関係ないけど隣の空き家に樹木が茂り過ぎ猿が住み付いたのでたうたう松山市の職員が来て神戸の持ち主に連絡したら云々
https://twitter.com/katouikuya_bot/status/1447679815499194369?s=21

八幡浜も温州で儲けたのは昔の話だ
今は放って置かれた山が多い
ところで筋を剥いて食べる輩は病的で馬鹿だ
栄養は白い部分にあるのでR
https://twitter.com/tomizawakakio_b/status/1447758992323739655?s=20

https://torikudo.bandcamp.com/track/bheart-earth
https://fb.me/e/XIeHYHNx

スーパーが天井の高さで決まるように基準の高さは見えない門の高さに表わされる
低いから入れないのではなく高いから入れないのだ

地動説が謙遜さを身に着けるといった人格陶冶に役立ったことは一度もなく、天動説がその反省のために役立ったことも一度もない。
奥深いと思わせられている事柄を捨てて、どちらでもいいということを見極めることの方が今は大事なんだ
https://twitter.com/_YukioHakagawa/status/1447900676198055938?s=20

ゾフィーが死んでひと月、きっと色んな理由を考え出す頃だ

周期的に湧く階梯の進化論が謙遜を齎したことはなく、却って奴隷が馬に乗り主人が歩く事態を招いただけだった
梯子での上下移動は自分探しのOLのバリ旅行に似て、平行移動と何ら変わらない
その場所の等身大に居直ることがお勧めできないのと同じくらいにアナザー・プラネットにガールは居ない

 
月日
この冬は食べ物と燃料がなくなるがコロナ風邪は引かない、という予想は外れるだろう
南北王絡みでヒラリーが勝つという読みが外れてからは現実がアカデミー賞を取るようになってしまったからだ
事態を上からではなく下から見るやり方もあるんだよというような残党が箒で掃き出され私達は埃の一点となる
その埃の一点に差す光になれと土方巽なら指導するだろう

小室眞子どころじゃない
Dutch crown princess could marry woman and be queen – Rutte – BBC News
https://www.bbc.com/news/world-europe-58886581

水の循環に関してですが、雲がどうやってできるのかは本当にはまだよく分かっていないのだそうです

うちの父も四電からなんか賞貰ってたけど、ぼくなら断わるね
https://twitter.com/YONDEN_G/status/1436228514840154112?s=20

よあそび
https://youtu.be/y1gFNmUNvCI

 
月日
Vengan a mí

数字が組織的な構造のさまを示すために使われる場合、数字そのものはそれほどの意味を持たない。

ユーミンもユーミンのカバーする人もガの発音がきたなくて地球ごと叩き潰したくなる

 
月日
高速舞子高速Michael
留肴 檸檬鍋

 
月日
Sálganse de ella(彼女から出よ)は猿岩石とは関係ありません

無の上に浮かんでいるというのはそういうことでしょう
https://twitter.com/Nishida_Kitaro/status/1449099914126893060?s=20


https://twitter.com/FMN_S_F/status/1448810691884847131?s=20

ゴドー演るといいよ
https://twitter.com/shikazukinsan/status/1448651877730570240?s=20

舞子の帰りに行ってみたけどやってなかった

 
討伐の理由
いずれはっきりわかるでしょう
ただ重力はわかりません
複数のものに引っ張られながら刻々と変化する濃淡を持つ抵抗にくるまれ乍ら傾いて回転するものが
ことなる条件で回転するものの的に当てる弾道計算など
那須与一でも無理ではありませんか

あるところに
あるところがいた
あるところは
かわにせんたくに
いかなかった
いかなかった
いけなかった
センサーは
いないとおもった
いないとおもった
いないものとおもった
あるところは
いないものとおもわれた
きみをわすれない
とスピッツはスピッた
まがりくねっていた
まがりくねっていた
さいごにのこっていたあるところは
ないところとなったないところとなりそこねそうになりながら
あるところは
おじいさんになった
おじいさんになった
おじいさんになってしまった
なってしまったものはしかたがない
とおじいさんはおもった
おじいさんはうれしかった
うれしかった
ただへんかんがうまくいかず
かんじばかりが
なすのよいち
あてずっぽうの
じんせいにちゃくりくした
した
ふともじで
ちゃくりくした
そっとたちあがらなければ
そっとたちあがらなければ
とこずれとめまいが
とこずれのめまいがいんをふむ
いんをふむ
おじいさんのように
いんをふむ
はく
はくはくはく
はきながら
いんをふむ
おやじギャグともいう
いんをふむ
かたかなはゆるされている
きれいにそうじするべんきのように
ゆるされている
ゆるされていけ
おれのすべてのアルトコロよ
あれ
コンディショナーじゃんボディーウォッシュじゃなくて
ヌルヌルだヌルヌルだ
nulnulだ
ガッ

 

 

 

#poetry #rock musician

オリンピックの後で

 

さとう三千魚

 
 

工藤冬里さんの
“オリンピックの後で” *


終わった

ワンマンだったが
工藤さんは

参加者の声をミュートさせなかった

ツカサさんや
松村さんの

声や
ドラムや

久保田さんや
赤ちゃんの声が聴こえた

工藤さんは
“水平線を縦に並べて滝にしてみる”と歌っていた

そこにいた

わたしも
そこにいた

今朝
ゴミ出しにいった

モコはソファーで眠ってた
紫の朝顔の花が咲いていた

オリンピックの前も
オリンピックの後も

ひとびとは
そこにいた

わたしも
いた

そこは滝だろう
流れ落ちている

 
 

* 2021年10月10日に開催された工藤冬里のオンラインでのワンマン「オリンピックの後で」のこと。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

2021.10.10 program

 

工藤冬里

 
 

1. 虹を渡って

虹を渡って
内側に棘を探して
橋を探して
増水の
足が水に触れると
初めて遥か上流で止まった
遥か上流で
足を水に入れる勇気があるか
孤独な蜜蜂が貧弱なイネ科の花とは呼べない花の周りで仕事している
寒くはないが風を避けて体の横に流す
波風立てずに生きてきた
背骨の問題だ
成り行きに任せてはいけない
遠ざけないようにして
ひたすら触りたい海月
座り直して
風を避(よ)けて
zoomに映る私達
苦手な趣味に付き合って
歌を散文に
頭が男の女
ヨルダンの急流
今井の最期の楽譜群にover the rainbowの書きかけが歌詞付きでちらと見えてあ、と思った
今は虹を渡って裏側に行けるらしいから
あとgoodmanでは伊牟田のkazooで虹の鰹節というのをやっていたことがあって
虹は
上の水が減って下の水が凍ったのであれば
虹は
架け橋
渡れぬ川を渡る
渡った地点の30キロ上流に粘土質のテル・エ・ダーミエは在る
そこで青銅の鋳造が行われたのはそのためである
粘土

ヨルダンの上流と下流に人類は二分される

 

2. ソルフェージュ周波数

各周波数が赤ん坊にどのように影響を与えるかの実験
https://www.miki.co.jp/culture/bizdev/miki_music_lab/1343/

 

3.記憶に残るわんこ

https://torikudo.bandcamp.com/track/a-memorable-doggie

脳の中で記憶は垂直に沈んでいる
それを現在という
水の少ない球の中で
過去と呼ばれるものが現在と連結しているが
それは現在における過去なのであって
出来事と出来事の間の熱量の差に過ぎない
未来は出来事としての熱量が高い場合はこちらに流れてくる
それを希望と呼ぶ
未来を凝視しなければならない
ねえ、あん時二十歳だったのがもう四十歳だもんねえ
ずっと立ってるわんこがいたねえ
心は水だが脳は電気だ
出来事を繋ぐ橋で瀬戸内海を渡る
フェリーはとうに難波している

 

4.よあそび

手遅れ という舞踏公演が 深夜 蒲団の中で 行われた
東京からは来るな 東京からはコロナ
コーコーコドハコドナ
クークーク ククドゥヌ
k k k rh k rh noh

 

5.聴き漏らして命を落とす男

touch:waves (sascacci.com)

見ることのヘマ
聴くことのデマ
見て触って従うママ
よりもdeep listeningして思い描くシェーマ
ジャーゴンをTV言葉に翻案していくネカマ
ハラワタからつつく音声記号はサンマ
秋の刀だとか明石家さんまだとかを断ち切り
意味の腑を掴め
シニフィアン連鎖はオヤジギャグじゃないぜ
聴き漏らして命を落とす男にアクマ
詩の大使はマグマ
人を襲うクマ
煮炊きする土間
傷を増やして喧嘩独楽
郡上は春駒
音凪は天満
帯を直しながら階段上るチーママ
スマホ禁止の車
急に神聖なものにチェンジした奥の間
台湾の右に波照間
走航は
メラトニン不足の赦されぬまま

 

6.健気さがない場合
  zoomの背景設定は意味を成さない

https://torikudo.bandcamp.com/track/zoom

健気さがない場合
zoomの背景設定は意味を成さない
生まれる前からやっている
生まれる前からやっている動画にマージせよ
生まれる前からやってるバー
生まれる前から張ってるフロンティア
生まれる前から流れてる動画
健気なバー
健気なフロンティア
健気な動画

 

7. 猫が生きて死ぬくらいの期間

https://youtu.be/A0d979c-6Xo/

猫が生きて死ぬくらいの期間
執行猶予が続いた
いろんな永遠があった
ラカンは結局全部間違ってるんじゃないか
十分に猫だったし十分に似非エッセー人間だった
もう水分の注射も無理で看取ってやってくださいと言われた
一人で死ねる草叢があって幸せだ
帰ってこないので心の中で生き始めていた
心の中で生き始めるとまだ生きているものを殺すことになる
その短い期間が永遠のように感じられる
だから/それでも
瓢箪で人の命の大切さを教えられなければならなかった

 

8.迷い出た羊のバラード

ababbcbC
ababbcbC
ababbcbC
bcbC

解像度という飲み物
居酒屋のような明かり
垂れ下がる洗濯物
柿の実は太り
髪もくるり
やましさの故に
飲めないくすり
二つの夕方の間に

愛されてはぐれ者
雲塊に阻まれる祈り
彷徨うのは標野
以前の死者との隔たり
わたしを自分で屠り
食用のために
自分で調理
二つの夕方の間に

モオブからモノ
日本と同じみどり
納屋から斧
作業の滞り
思いは偏り
試練を蝶結びに
アクアパッツァにはアサリ
二つの夕方の間に

道は先細り
羊は南(エル・スール/ネゲブ)に
食べるなら微塵切り
二つの夕方の間に

 

9. オリンピック(いくたびも雪の深さを尋ねけり 子規)

走ることが競争ではなく走り「きる」ことだと知っていたら強迫神経症にならずに済んでいたでしょう
「美味しゅうございました」で通じるほどに膾炙しているのは是認を得ようとする欲望への本能的な疑義が立ち昇るからでしょう
狭い道を躓かないように犇めき合ってアニメのように走った
愛に裏道はなく抜け道に義はなかった
表参道にも竹下通りにも愛はなかった
蚊はいた
水平に張り出された「く」の字を地軸の傾きで受ける美しい肘タッチの練習動画
雇われたアイコンの素材の傾向を分析してみせた展示
美味しゅうございました
走り過ぎた子規は病床からいくたびもソーシャルディスタンス街宣の深さを尋ねた
雇われた者たちのアイコンはアニメの平たさとして広がり
肘タッチの太陽高度は深さとして林立した
いくたびも尋ねた雪の深さ 哉

 

10. 幻羊/浅い墓

三味線よる伴奏

楽しいことが待っとるけんね
何かあっただろうか
楽な方法を見出したということか
いずれにしても力はない
  スターウォーズまだかな
字がきたない
近道に慣れるまで数年かかった
言葉が死んでいる
舌の短さによって
風を押さえ込む
  バッタを治める
  アバドン・アポルオン
喜んで怖れる
靄がかかって
二人が一つのベッドにいて
一方は連れて行かれ
他方は捨てられる
幻の羊を
浅い墓に埋める
楽しいことが待っとるけんね
  あさいはか
  ないはか
  にうめられて
浅い儚い墓に埋められ
乞食は
分かっている
正義の妄想は
満たされる
骨粗相症のシャコは
鏡から離れて
自分を忘れる
都々逸衝動はまだある
〽︎友の鏡に自分を映す
根の塊ごと
土として掘り起こし
土として埋めた
拡げた坑に
根と埋葬する
最後の日々には
終わりが終わり
  くの字型した
死体が二つ
  しろがねの衾の岡辺
死ぬ人々がカフェにいる
唯一のメッセージはTVの宣言を信じるなということ
不意に驚く泥棒のように驚き
冴子のように冴えた状態を保つと
暗いオレンジに光が当たる
can’t afford
キリストから切り捨てる
〽︎掘ってやろうか浅い墓

 

11. 2020

水平線を縦に並べて
滝にしてみる
横たわるなら
地は滝だ
際限なく落ちてゆく
二人が寝るなら
際限なくずり落ちてゆく
草書が流れるように
ずり落ちてゆく
直角さえあれば
斜辺が崩れ落ちてもいい
その微分は捨象される
ずり落ちているだけだからだ
金だけではないとTVは啓蒙する
夫は塩を持ち帰る
ずっとそういう斜面が続いていたんだ
妄想が妄想のままに許され
坐っていられた斜面が

 

 

#poetry #rock musician

14歳になった、花へ

 

村岡由梨

 
 

 

14歳のお誕生日に、
おばあちゃんから贈られた
チャコールグレーのロングワンピースを着て、
ママがプレゼントした黒のブーツを履いて、
パパがプレゼントしたベージュのポシェットを首から下げて、
みんなでお祝いに外食したね。
ポシェットの中には、眠が一生懸命選んで買ってくれた
ピンク色のお財布が入っていた。
すごく大人びた姿だったけれど、履きなれないブーツのせいで、
靴擦れを起こして、帰り道は辛そうだったね。

その後、ママと夜の公園を散歩した。
昔あったジャングルジムも、鉄棒も無くなってしまった公園で、
「鬼ごっこしたいなあ」と呟く君。
君がズボンを真っ黒にして駆け回っていた頃とは
もう随分変わってしまった。
公園も、君のからだも。
私たちは、しばらく何も言わずに、夜の公園を歩いたね。

眠と君は姉妹で、
とても仲の良い姉妹で、
いつも子犬のようにじゃれあっているけれど、
一方が元気で、もう一方が元気じゃない時もある。
そんな時、パパやママの気持ちは、
元気じゃない方に傾いてしまう。
人間のからだや気持ちを平等に半分にするのは、すごく難しい。
右半身と左半身
上半身と下半身
前半分と後ろ半分
眠と君、両方に、平等に、
からだと気持ちを与えたいけど
そうはいかない、すごく難しい時があるんだ。
そのせいで、
「誰もわかってくれない」
君がそんなさみしい気持ちになって
落ち込んで、
ベッドで一人ぼっちで泣いている時もあるかもしれない。
ほんとうに、ごめんね。

時々、パパや眠や君が待つ家に帰ることが
不思議に思える時があるよ。
家に帰ってきても、
誰も「おかえり」と言ってくれない、
一日の労をねぎらってくれない、
世の中にはそんな孤独な人もたくさんいるというのに。

14年間、苦しくて辛い日がたくさんあったでしょう。
でも、君が生きて呼吸をしているだけで
ママは幸せです。

ありがとう。
面と向かって言うのは何だか恥ずかしいから、
「浜風文庫」の力を借りて、君に言葉を送ります。
本当は「君」なんて書くの、こそばゆい。

 

お誕生日おめでとう。
瑞々しく変貌を遂げていく君。

これからも、よろしくね。
14年経っても、何だかぎこちない母より。