≪友愛≫と、コインランドリー/カンバセ―ション

 

今井義行

 

 

これは、2014年 わたしが急速に 健康を 損ねていった
時期に 詩友・辻和人さんが 代々木上原の「鎌倉パスタ」
で 瞬く間に 箇条書きにして 渡してくれた メモです

重い鬱と連続飲酒に陥っていたわたしは働くことができず

家賃の3万円安い江戸川区・平井へと転居した直後でした
その物件を探しに 奔走してくれたのも 辻和人さんでした

 
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【CHECKLIST】

□ 就労支援事業についてのシステムを勉強する
□ 障害者の保障についてネットや本で勉強する
□ 地域担当の保健所の保健師と話す機会をもつ
□ 朝型の生活をこころがける
□ 栄養バランスのとれた食事をこころがける
□ 低賃金でも軽作業のアルバイトを探してみる
□ 相談できそうな人を増やす努力をする
□ お向かいのおばあさんと茶呑み友だちになる

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2016年 春
改めて見直してみて この【CHECKLIST】には 概ね レ点が 付いています

底へ底へ墜ちて 2度の入退院後も 希望はある、と今では甦りがきました
辻さんが「一生、今井さんを見放さない 罪を犯した訳ではないのだから」
そして、「人生の目的は何ですか? 詩を 書くことではないですか?」と
平井のちいさなアパートの6畳間── 家具類で実質3畳の生活空間に座り
わたしに真正面から向かい合い 確かめさせてくれたことが 想いだされる

辻さんは「今井さんの詩をまた読みたい」と言ってくれた 嬉しかったなあ
けれど、PCに触れることさえ辛く わたしは すぐには 詩を書けなかった
「みんな、喜ぶよ」 やがて詩作を再開したとき そこには 《友愛》という
物の存在── 静謐に波紋を描く存在が訪れると はっきり感じとりました
≪友愛≫という抽象的な概念が 具体的に 腑に落ちた 体験だったのです

この2月 平井と 亀戸の間 平井3丁目の旧中川河川敷の 河津桜並木まで
七分咲きになった光景を見に行けた 嘗て末梢神経が壊れて杖をついてさえ
つまずき ころんで 大きな 骨折をしたわたしには 眩しい出来事でした
「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」
あの 【CHECKLIST】には 概ね レ点が 付いていますが、

レ点が 付いたなかで いまなお 難しいのは お向かいの おばあさんと
「茶呑み友だちになる」という項目です
ご近所付き合いって 移ろいやすい 生ものですから──・・・・・
ということで、ここまでが 長い ≪Introduction≫ の 終わりであります

さてさて、はてさて、詩作から、詩人に就いて。

日本で一番詩集が売れている詩人は、谷川俊太郎ではないんですよお。
だれでしょう──・・・・・?
それは、池田大作です
創価学会名誉会長です
この人は 世界で秀でた詩人・桂冠詩人の称号を 授与されており
小説、随筆のほか 詩集も数多く出しています
その池田大作氏の詩集、ゴーストライター疑惑があろうと
国内公称・400万人の会員がこぞって購入、プレゼントもするのですから
まさに ベストセラー詩人でしょう

わたしの まわりには 学会員が多く 勧誘も説教もしません
親切ですよ 一緒に食事をして 四方山話をしたりね
詩人もいるけど 池田大作詩集を贈られ 拒否したりしません
その詩人の書く詩も 学会の教義を含むものが 多いですけど
日本人の中で 学会員の割合は高く
その意味で 日本で最も成功した ≪新興宗教≫だと言えます
わたしは 組織体と個人崇拝が きらいなので 入会しません
どのような ご利益が あってもね

池田大作の詩集には、「善いこと」が 書かれていると思う
≪いつも笑顔でいれば  輝かしい勝利が開ける≫みたいな
確かに「善いこと」なのだけど 誰にでも書けそうでもある

週刊文春あたりが 醜聞として、たとえば
学会に入っている芸能人を 悪行の如くリストアップしているが
浮き草稼業の人たちが 人気の持続を願って 何が悪い

≪広告搭≫って、エッフェル塔みたいで パリジャン

或る朝 お向かいの おばあさんが わたしの部屋のドアをノックして
「いらっしゃいますかあ !!」と 何度も呼んだ
70歳台半ばほどの独り身の方だが
平均寿命の伸びた時代 「おばあさん」扱いするのは気が引けるので
≪ヒグチさん≫ として 登場してもらいます

≪ヒグチさん≫・・・・・・・・

つつぬけの ばばあのくしゃみ 爆竹か?

なんて 思わないようにしていますから ご安心を。
「はーい、いま 開けます」
いそいで ドアを 開けてみると ≪ヒグチさん≫が
深々と頭をさげて 立っていたのです
「どうされたんですか」
「あの・・・・・ どの知り合いに言っても断られて最終手段に出ました
わたしが 購読料を払うので 3カ月間だけ
≪聖教新聞≫を 読んではもらえないでしょうか」
「う、・・・・・ ええ、いいですよ。 ≪ヒグチさん≫は
わたしが 3カ月入院していた時 溜まった郵便物を 丁寧に
保管してくださいましたからね」
「え、・・・・・ いいんですか !! ああ、これでほっとしたわっ」
「ノルマがあるんでしょう 購読者を増やすと
ひとつステージ=次元が 上がるんでしょう?」
「うん」と・・・・・ ≪ヒグチさん≫はうなずいて 部屋に戻り
3カ月分の 購読料 6,000円を 茶封筒に入れて 持ってきた
「お向かい同士、仲良くしましょうね
わたし このアパートの住人の誰とも付き合いないの 上の階の人が
窓から 塵取りで集めたごみを 捨てるものだから
昼間でもね 窓のシャッター下ろしてるの」

「ただでさえ 陽当たりの悪いアパートなのに たいへん」

そこまではよかったが 脅迫観念症に苛まれている わたしは
出かけるとき 鍵をかけても 戸締り確認を 10回はやります
それで 部屋の奥から ≪ヒグチさん≫が 「うるせえよ」と
大きな声で言っているのを 何度も 聞いたことがあるのです
また 近頃 写真を撮る楽しみを覚えたわたしは アパートの
門までの小径に敷かれた 雨に濡れた石を接写していたところ
たまたま≪ヒグチさん≫が 出てきて 「なに、やってんの?」
と訝しげに 尋ねたりもしました 確かに不審者ぽいものねえ

「雨の日には いろんな石が 綺麗なもの ですから」

そうかと思えば また別の朝に ≪ヒグチさん≫がやってきて
「マイナンバーの通知書の 不在配達票が入ってたんだけれど
うちの電話 *とか#がついてないから 連絡ができないの」
それで わたしが代わりに連絡をした 持ちつ持たれつ、かね

そうして 3月に入っていきました──・・・・・
わたしは、日々 とても追い込まれていました 何に? 溜まった洗濯物に。
アパートは 洗濯機が置けない造りなので
下着や靴下など薄物は お風呂に入ったとき 洗っていますが
厚手のシャツ、ズボン、ジャージ等は 部屋の隅に置いてある
コインランドリー行きの洗濯物袋に 放り込んでいきます
わたしは 食器洗いや 掃除などは あまり苦にならないけど
洗濯 それだけは・・・・・ 勘弁してくれ、だ

歩いて2分だけれど コインランドリーに行くのは億劫だ やだやだ !!
隣りの街まで 行くみたいで やだやだ !!
でも、実家の母から 電話がかかってきて
「洗濯物 溜めてないでしょうね!?」
「う、うん」
「いやあねえ、コインランドリーが近いんだからさっさと行きなさい」
なんて せっつかれて 或る晴れた日の午後イチに
膨らみきった洗濯物袋を抱えて わたしは行ったよ コインランドリーに。

コインランドリーには 洗濯機が5台あり、乾燥機が2台あり、
始めてしまえば 待ってればいいのだが それが 億劫億劫億劫億劫億劫だ
洗濯工程から乾燥工程まで 所要時間は大体1時間くらいでも
椅子にすわって ぼんやりしていると 飽きてきてしまう・・・・
ひまつぶしにしようとその日の≪聖教新聞≫を持っていったよ
その時 乾燥機から洗濯物を引っ張り出して パンンパンって
はたきながら 振り向いたのが半纏姿の ≪ヒグチさん≫だった
「あらー、ここで会うの、初めてね
≪ちょいと、あんた !!≫ その手に持っているのは──・・・・」
「はい、≪聖教新聞≫ですよ」
「あらまあ、こんなところまで
≪ちょいと、あんた !!≫ 善い事書いてあるでしょ──・・・・」
「はあ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ほんとは たまに 健康情報を 稀に切り抜いたりするだけで
普段は 大好きなフランスパンを カットして トーストして
カロリー60%カットのマーガリンを塗りたくって食べるのが好きで
ぽろぽろ パン屑が散らばるので 使い捨ての マットにしてるんだ
そんなこと 馬鹿正直に 言えないよなあ

「分ってるのよ 働くことのできない 身体なんでしょ?
≪ちょいと、あんた !!≫ 福祉のちからを借りなさい」
「福祉って 生活保護のことですか──・・・・ 江戸川区役所の保護課に
電話してみたことあるんですけど
貯蓄が10万円を切らないと 保護の対象にはならないそうです」
「分ってるわよ でも 働けない身体なんだから!
≪ちょいと、あんた !!≫ 即刻タンス貯金をしなさい」
「保護課のひとの話では 東日本大震災の影響で 受給者が急増したのと
不正受給者が後を絶たないので 支給額は減額されていくらしいです」
「生活保護を受けながら パチンコに明け暮れてる 知り合いなんて
たくさんいるんだから
≪ちょいと、あんた !!≫ お人よしも いいとこ
学会に相談して すぐに 何とかしてあげようか
東日本大震災の影響ったって ここは東京 福島じゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あと1年半くらいは なんとかなりますよ」
(学会に組み込まれるのは やだやだ !!)
(政教分離って どうなったのさ──・・・・)
(確かに東京・平井は 福島でないけどさ)

≪ヒグチさん≫は わたしの前に立ちはだかり
「もたもたしてちゃ だめだめだめだめ
≪ちょいと、あんた !!≫ お人よしも いい加減にしな
ケースワーカーが抜き打ち調査にきたってしらばっくれろ
自分の暮らしは 奴らの 暮らしじゃない」
そうして 乾いた衣類を椅子のうえで畳みはじめたが
ご婦人の衣類なので じろじろと 見ないようにした

わたしは 生活保護法とともに 詩を書く者として「詩人保護法」について
考えを めぐらせていた

≪「詩人保護法」についての考察≫ 今井義行の脳内施策
※Facebook上での詩人・鈴木志郎康さんとのやりとりを基盤として

国や自治体が詩人を保護する法律を制定すべきというのは極論かもしれません。
その保護というのは、「詩」の社会的意義について、国や自治体が理解を示し、
詩人の生活の支援に繋がる 何らかの方策を考えても良いのではないかという
ことになります。

わたし個人を例としますと健康上の理由では「うつ病」が治らないということ
で、会社解雇となりました。その後完治することはなく、アルバイトも続きま
せんでした。そしてメンタルクリニックの支援で「精神障害者手帳」の取得と
「精神障害者年金」月に約65,000円支給が得られ、それがわたしの所得
のほぼ全てです。しかしその支給は来年6月で打ち切られる見通しです。何故
ならば、わたしは「うつ病」に「アルコール依存症」が加わっているというの
が現在の姿で「うつ病」も 「アルコール依存症」も 厚生労働省により「保護
される疾患」とされているのですが、実態は「アルコール依存症」は自業自得
の病として、世間的にだけでなく 行政からも 侮蔑の対象となっており、医師
の診断書に 「アルコール関係の記述」が加わると 保護の対象からはまず外さ
れるのです。また 医療機関のミーティングでは「精神病院に 入院していた」
という履歴は、世間体があるからカミングアウトできないという人も多いです。

世の中には、健常者と同様に 働ける人とそうでない人がいる。しかし思うよう
に労働に従事できなくても、生き甲斐としてのみでなく 大げさに言えばですが、
天職として捉え、「やりたいことがある」 そんな志を持っている人たちは多く
いるのではないでしょうか。

≪わたしは、詩を 書いています。詩作は、自分が楽しいだけではなく、他者の
こころを震わせることもある、という意味で 「社会参加」と 捉えています。
わたしには 詩作が社会行為、すなわち「詩生活が軸」なのです≫

わたしの見通しとしては、来年に打ち切られる 可能性大の、月に換算して 約
65,000円支給を 埋め合わせるために、障害者枠で、 或いは 在宅勤務で
行える軽労働をしてみようと 考えていますが、毎月 確実に 赤字が発生して
「生活保護」の申請に 進んでいくでしょう。わたしは、そのような 生活の中
で、詩を書き続けようと 思っています。「生活保護」を受ける。 国民の権利
ではありますが、この時点で 国の保護を受けるということになります。

行政側は、不正受給防止なども 含めて、担当ケースワーカーが 抜き打ち訪問
して、「働ける状態にあるか、どうか」 チェックを 行います。その時、部屋
で 詩を書いていたとして 「これが、わたしにとって仕事なんです」と、どう
伝えたら良いのか。

「わたしは、詩で社会参加をしている」と 思っている。 小説家のように「家」
の付かない人は、職業として 認められませんが、望みもしない 文章を書いて、
「文筆家」などと 名乗りたくありません。制作費用のかかる、従来の 詩集の
出版は 特別 望んでいません。むしろ、詩の効能に 詩人側から関与して、そこ
から安価で良いので、収入を得るシステムは  行政側で検討されても良い、と
思います。個人の 生きる喜びとともに、国民の「生き甲斐」に 関わることに、
価値を 見出して 頂いて。「生活保護」の中で、現在 使っているパソコンが壊
れた場合、新規購入は 難しいので、周辺機器も含め 低額レンタルが あっても
いいのではないでしょうか。

先日、辻和人さんと 「詩人保護法」について 話し合う機会がありました。彼
は 「保護法」には反対で、それが施行されたなら 保護される対象は 「詩を書
いている人たち全員になってしまうから」と いうことでした。

辻和人さんは 以前わたしの母と 電話で議論する機会がありました。わたしの
母は、わたしが 詩作に熱心なことに、嫌悪感=馬鹿息子 と 思っていたようで、
苦労して大学まで 卒業させたので、企業で 定年まで 堅実に働き、家庭生活を
営むことなどを 以て、「自立」と 考えてきたようです。それは、概ねの 親が
願っていることなのかもしれませんが、そこからは 逸れて、健康を 害し、お
かねにならないことに 熱心なまま、というのには 「話にならん」ということ
だったのですね。わたしは、会社員時代、毎月 母に 仕送りしていて、それが
母の暮らしを ある程度 支えてきた面があったので、そういう不満も 持ったの
でしょう。

その母が、詩を 書きはじめました。わたしが 「詩は楽しい」「志郎康さんの
代々木上原のお宅での 詩の読み合いを満喫した」と 繰り返し言うので、歩行
困難で、部屋に独りで 1日過ごすこともある 母は、ためしに 「詩を書いてみ
よう」と思い立ち、実践したら 昂揚感が湧いてきた、と言います。通っている
デイサービスに それを 持って行ったら、所長さんが 朗読してくれて、壁に
貼ってくれて、「コピーが欲しい」という 参加者が 何人もいたのだそうです。
脳を活性化させるという だけでなく、生き甲斐ができたのですね。

そういうことがあるなら、「今井さんが お母さんに 詩についてアドバイスす
るだけでなく、そのような 施設に行って、詩を書く楽しみを 話して、実作し
てもらって それぞれの生き方を 褒めたらどうか。それが、詩人の 社会参加の
1つのモデルケースで、「友愛」の考えに 結びつくのではないか ───」と
は、辻和人さんの意見。

志郎康さんは、制作された 個人映画が 以前、或る機関に 買い上げられたとき
「嬉しい」と コメントされていたように 記憶していますが、詩について「国
の保護を受けるなんざ、まっぴら」という考えと どう 関わっているでしょう
か。わたしは、志郎康さんの作品を見出した、 ≪表現を解る≫人が いた、と
いうことに 感銘を受けるのですが。国や地方自治体の 文化行政 例えば文化課
や生き甲斐課や生涯学習課に そういう人材を きちんと配置することが 大切だ
と感じています。

しかし、そうなると「では、どこからどこまでが詩人なの」という 問題が出て
きます。実際、これは 判定不可能でしょう。東京都庁のHPで文化政策を見て
みますと、例えば ギャラリーの設立など、表現をしている人たちの利用できる
スペースの提供などに、予算を 使っているようでした。これは、わかりやすい
支援の仕方ですね。詩人の社会参加について、わたしは 「1篇の詩が、読者の
気持ちを良い方へ揺り動かすことがある」のだから それは ブラック企業は別
として、例えば会社という組織、そこに属する社員が 品質の良いものを探求し
て、暮らしやすい社会を築くことに寄与し、そこで 発生した利潤が、個人を生
活させるということと、ある程度同列に考えて「社会参加ではないか」と 書き
ました。

「詩作」は、生業にならないので、つまり 詩人は小説家など「家」の付くもの
と違って、例えば確定申告では、職業として 認知されません。たまに詩の原稿
料が発生するにしても、それは「雑所得」という、本来の収入とは 別の物とし
て区別されます。医者が講演会を頼まれて、講演料が 発生したとします。この
場合、医者の所得は 医療行為から発生する物を指し、講演料は「雑所得」とし
て扱われます。最近は、生業の他に「雑所得」を得ることに 熱心な人たちが急
増しているそうです。

詩では食べていけないから、結局、生活を安定させる 基盤として、大学で文学
を学んだ人たちが 文学部の大学教師となり、そこで詩を書いて、文化人として
「先生」と呼ばれて、本人も その気に なってしまう。結果 教養主義的な詩が、
世の中にはびこり、詩は、一般人には届かない。

わたしが言った「詩人保護法」とは、健康上の理由などで、最低限の 生活を営
むのに手いっぱい、一般労働というかたちで 社会参加が出来ない人に、提供さ
れるべきものと思います。ゆとり持つ人は、自分の生活力で 詩に関われば良い
と思います。ちなみに、先日 確定申告をしました。昨年、1度だけ在宅バイト
をしたのです。わたしの 年収は、12,800円。それでも 申告しておくと、
自動的に 住民税非課税となり、国民年金納入全額免除となります。しかし、社
会は 甘くありません。国民年金納入全額免除期間は、追納しない限り、老後に
支給される年金は 一般の方々の半分になるようです。

「あらあら あららら
≪ちょいと、あんた !!≫  洗濯機、とっくに 止まってるわよ」と
≪ヒグチさん≫が わたしに 言いました
「あれれれ ちょっと 考えごとを してました」
「≪聖教新聞≫ 善いこと 書いてある ものねえ
感極まっちゃった、のかな──・・・・?
≪ちょいと、あんたっ !!≫
今度、うちに お茶でも 呑みに いらっしゃいよ」

「はい──・・・・ ≪ヒグチさん≫ ありがとうございます」
近いうちに 懸案の 【CHECKLIST】に レ点が 付きそうです

 

 

 

かりそめ

 

佐々木 眞

 
 

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道路の真ん中を、かりそめの車が走ってきた。
車の格好をしたはりぼての車が、
風に揺られてぶるぶる震えながら走っている。

道路のはじっこには、かりそめの人が歩いていた。
外側には肉がついて、人間の姿形をしているのだが
その中には、なにも入っていない。

道端には、造花のようなかりそめの花々が咲き乱れ、
ウスバシロチョウに似たかりそめの蝶が、
そこらを、うろうろ飛んでいる。

不動産屋の店先では、
両足を縛られた風船パンダが、
冷たい春風に吹かれて、ぷるぷる震えている。

よく見ると左右の道路は、かりそめの人々でいっぱいだ。
「やあ、こんにちは、ご機嫌よろしゅう」
「嘘じゃあないよ、ほんとだよ」などと言い交わしている。

そして、彼らのあとからふらふら歩いている私も、
極楽トンボの、かりそめの人だった。
どうしようもない、かりそめの人だった。

 

 

 

そんな長い剣をどこに、のろけ話でごめんなさい。

 

鈴木志郎康

 

 

ブオーッ、
ブオーッ、
ブオーッ。
まっ、麻理、
そんな長い剣をどこに、
隠してたの。
それで、
わたしを刺し殺すの、
わたしは麻理に刺し殺されるの、
悔しいけど、嬉しいような。
これがわたしの愛なんだ、
これがわたしの愛なんだ。
麻理は、
わたしを刺し殺して、
猫のママニを抱いて、
黒い馬に乗って行ってしまったっす。
ブオーッ、
ブオーッ。

ロマンチックざんす。
いいざんす。
志郎康さんが、
眠り際に見た深あーい、
思いざんすね。
でもね、
麻理さんは、
剣で刺し殺すなんて
いやーねえって言ってるざんす。
のろけ話でごめんなさい。
ブオーッ、
ブオーッ、
ウッフー。

 

 

 

家は遠い

 

長尾高弘

 
 

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腰のあたりがブルブル震えているので、
ああ、電話がかかってきたんだなと思い、
スマホを取り出してみると、案の定盛大に
ジャンガラジャンガラ鳴っており、
出てみると奥さんで、どうしたのと言うから、
ああ、日吉で地下鉄に乗ったんだけど、
間違えて日吉本町で下りちゃったから、
また乗りなおして、えーと、今センター南に着いた、
と答えると、
あ、そ、先に寝てるからねと言うから
はい、わかったと答えて電話を切り、電車から下りた。
あれ、なんでふたつも乗り過ごしてんだろう、って
そりゃ酔っ払ってるからだし、
なんで日吉本町で下りちゃったかっていうと、
それも酔っ払っているからだけど、
さらに言えばそこから歩いて帰ろうとでも思ったような気がする。
最近無駄にあちこち歩いて、
日吉くらい軽く歩いて行けるという変な自信がついちゃって、
考えなくてもいいことを考えたのだろう。
でも、どうせ歩くなら地下鉄の改札なんか通らずに日吉から歩きゃいい話だ。
酔っ払っていてもそこのところはすぐに気付いたらしくて
改札の外に出ちゃったりしなかったようなんだけど、
下りは当分来ないような表示が出ていて、
ちょうどやってきた上りが日吉で折り返して、
掲示板に書かれている時間に下りとしてやってくるようだなと思い、
それなら立って待つより電車に乗ればいいじゃんと思って、
上りに乗ったような気がする。
でも、そういう場合、そんなことをすると、
つい無駄に寝ちゃって乗り過ごすってことに気付かなきゃいけなかったんだよな。
だいたい、日吉で奥さんにLINEでどの電車に乗るとか言ってるから
電話がかかってきちゃったんだよ。
でも、電話がかかってこなかったらそのまま中山まで行っちゃって、
ひょっとすると戻ってくる電車がなくなっちゃってて、
帰ってこれなかったかもしれないよな。
いや、中山まで歩いて行ったことは何度もあるけどさ。
でも、そう考えると、日吉でLINEしといてよかったのかもね。
そのうちに、さっきの電車を下りてから八分たって、
日吉行きの電車がやってきて、
今度こそ寝ないようにしなくちゃと思って目を開けていたら
北山田に着いたのでそこで下りた。
歩きだったらセンター南から六千歩くらいで、
一時間ぐらいかかっても不思議じゃないのに、
電車って速いよなあ。
でも、奥さんや息子ならどんなに遅くなっても俺が車で迎えにいってやるけど、
俺の場合は俺がここにいるから誰も迎えにきてくれないんだな。
一瞬寂しいような気になったけど、
北山田から歩いて歩数計の数字を増やしたいと言っているのは
自分だったってことを思い出した。
喉が渇いたので家に帰る前に駅前の仕事場に寄った。
水道の栓をひねる前に持っていたかばんを開けるとバナナが出てきた。
そういえば、カズタミさんにもらったんだよなあ、これ。
何でバナナだったんだっけ、と思ったけど、
もらったときもよくわからなかったのを思い出したので、
それ以上考えるのをやめた。
そもそも今日は渡辺洋さんが亡くなってからもう一年もたったので、
お墓参りに行かせてくださいって奥様に頼んで行ったんだったよ。
お墓参りさせていただいて、
だるまって居酒屋までは奥様もいっしょにちょっとお酒を飲んで、
さらに去年の告別式で出棺を見送ってから入った蕎麦屋でちょっとお酒を飲んで、
蕎麦屋のお客さんがいなくなっちゃったから慌てて出てきて、
清澄白河から電車に乗って、
ミチオさんとは神保町で別れて、
カズタミさんとはいっしょに永田町で下りて、
でも次の電車は違うからそこでバイバイして、
よく永田町で間違えずに南北線に乗ったものだな。
幸いに南北線は終点で下りればよかったので、
乗り過ごさずに済んだわけだ。
そこまで思い出したところでバナナのことも思い出したので、
こいつは食べちゃおうと思って、
水を飲んでからバナナを食べて、
バナナを食べてからまた水を飲んだ。
で、そこから千五百歩くらい歩いて家に帰った。
途中で日付をまたいだから、
歩数計は百三十歩とかいう数字になっていた。
グリーンラインは片道二十一分で終点まで行けてしまう短い線だ。
ひょっとして一往復してから二度目の下りでセンター南まで行っちゃったかと思ったけど、
LINEや電話の記録から時刻表を見て調べてみるとそういうわけでもなかった。
なあんだ、オチがなくてつまらん。

 

 

 

光の疵 誕生

 

芦田みゆき

 
 

記憶しているのは
白くおおきな部屋
光は青白く
まっすぐに
ゆるやかに
あたしを刺す

赤ん坊のあたしは
両手両足をばたつかせ
懸命にことばを発するが
誰かがひゅうひゅうと吸い上げ
あとかたもなく
消えてなくなってしまった

 

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あえてそれを言う

 

長尾高弘

 
 

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二、三日前かなあ、
中学校の裏の桜並木で写真を撮ろうと思って行ったら、
終業式のあととかだったのかな、
昼前だってのに中学生が校門からぞろぞろ出てくるのよ。
参ったなあ、やりにくいなあと思ったんだけど、
木の下で花を見上げて写真を撮り始めたわけ。
そしたらさ、
「ハゲ」って単語がやけにはっきり耳に飛び込んできたもんで、
いやあ、びっくりしちゃったよ。
こっちはさ、
彼らが生まれるずーっと前から禿げてるわけ。
結構若いうちに減ってきて、
結婚だって禿げてからしているわけよ。
だから今さら禿げを気にしたりしないんだけどさ、
とても気にする人だっているんだからさ、
まだ禿げてないけどちょっと毛が細いからとかでさ、
誰か友だちのことをからかってやろうって思ってもさ、
本当に禿げてる人がいるところで大声で「ハゲ」
なんて言わないものだよって教えてやろうかな、
などとちらっと思ったけど、
そんなお節介な親父になるのもいやだったから、
聞こえないふりをしていたわけ。
そうしたらさ、
その一団がいなくなったあとで、
また、耳に飛び込んできたのよ、
「ハゲ」って単語が。
それも何度も言ってるんだよね。
「ハゲハゲハゲハゲ」って。
さすがにさ、
あれ、ひょっとしてオレのこと言ってんの?
って思ったよ。
思っただけで終わりだけどさ。
で、今日のことなんだけど、
ちょっと離れた別の場所でやっぱり桜が咲いててさ、
上を向いて写真を撮っていたらさ、
自転車から下りた状態でしゃべっている小学生がふたりいたのは目に入ってたんだけど、
そのうちの片方が大きな声で発したわけよ。
例の「ハゲ」って単語をさ。
写真を撮り終わって視線を下げたらさ、
子どもとばっちり目が合っちゃったわけ。
口をニヤニヤ笑いの形にしてさっと自転車に乗ると、
ふたりともあっという間に消えちまった。
今度はさすがに確信したよ。
本当にびっくりしたなあ。
禿げてから三十年くらい生きてきてさ、
こんなにハゲハゲ言われたのは初めてだったからね。
自分がそう言われたってことよりもさ、
こいつらこうやってヘイトスピーチを言うようになっていくのかな、
なんて思ったら、
暗澹たる気持ちになっちまったよ。
何しろ、ヘイトスピーチと言論の自由の区別がつかない政権になって
マスコミがそういうことをろくに批判しなくなって
もう三年もたってるからね。
でもやっぱり自分がそう言われたことが気になっちゃったのかなあ。
気にしたりしたくないんだけど。
で、今ちょっと思ったんだけど、
上を見上げていたから、
いつになく禿げ頭が目立ったのかもしれないね。
出かけるときは帽子を被るようにしよっと。
そういう問題じゃないけど。

 

 

 

四月の歌

 

佐々木 眞

 

 

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さよなら三角 またきて四角
さよなら三月 またきて四月

さよなら三角 またきて四角
資格はテレビ テレビは電波
電波は消えた 消すのは女

女は塗り壁 塗り壁白い
白いはウサギ ウサギは跳ねる
跳ねるは阿呆蚤 ノミクソ死んだ

「死ね死ね死ね」と言われたので、とうとう死んだ日本だった
死んだニッポン チャッチャッチャ
CHA-CHA-CHAなら 明美ちゃん

石井明美はB型だ B型人間恋多し
恋多き人北川景子 景子はDAIGOの嫁になる
DAIGOの祖父は竹下登 竹下登は元総理

元の総理は山本権兵衛 権兵衛といえばお百姓
百姓が種播きゃ 鴉がほじくる
三度に一度は 追わずばなるまい

追われて逃げるは高倉健 健さん待ってて頂戴な
健さんの最愛の妻は江利チエミ
江利チエミは「三人娘」 三人娘は「ジャンケン娘」

ジャンケンポンはグーチョキパー グーチョキパーでなにつくろ?
ドラえもんとアンパンマン 二人揃って人気者
もっと人気のトリンプさん トリンプさんは大統領!?

大統領は権力者 権力者はでぶでぶだあ
でぶでぶ百貫でぶ 電車に轢かれてペッチャンコ
ペチャンコなのは あの子のオッパイ

オッパイからはおいしいミルク ミルクを出すのは牧場の雌牛
牧場の雌牛はなんて鳴く 寂しい時はモウと鳴く
モウと鳴いたら一匹で モウモウモウで三匹だ

三匹なのは「三匹の侍」 監督したのは五社英雄
五社英雄なら鬼龍院花子 「おんどらナメたらいかんぜよ!」
なめてもいいのは親父の頭 ぴかぴか光る禿げ頭

ぴかぴか光るはトンボの目玉 蛇の目は夜も光ってる
おっかないのはニシキヘビ ニシキヘビは無闇に長い
無闇に長いは森泉嬢の両の脚 森と泉に憩いたい

さよなら三角、またきて四角
さよなら三月、またきて四月

 

 

 

どんだけ魚さばいたかっていう遊女だし

 

爽生ハム

 

 

背中のペットボトルに水が溜まる。左右にスイングして肩甲骨に人ごみ、いれこむ。
大富豪の傘に入りたい
公園にいないだろ。あのね、ここ公園じゃないし。
安全に公園使いたいよね、目的を持って開かれた時とかに。

待ち合わせは公園で
ストローで水飲んでるのが、私だからよろしく。
横浜のイルミネーションの都合で、陰毛が湿りつつある。

お気に入りの首から顔にかけてとかは、海岸線を車で走った時の助手席にいたとしたら、ほんと美しいし、神だし。
それを理科っぽいチューブでちゅるちゅる吸いこめば、私、その頃も今も変わらず神だし。
私、生きてるし。楽しんでるし。
好かれてるし。仲良さげだわ。
海と生首と
車と

写真におさめてほしい。
ガードレールはきっと、
綺麗な白線だろうね。

休日前の記憶って
記憶として拉致られてるよね。
実家から近いバイト先の賃金は安くて、毎日クッキーとかで外では過ごす、クッキーほうり投げて金持ちの頭の上でパパんって叩くのだ、掌。ぱさらぱさら粉末が卒業おめでとうシーズンにぴったりの、私達は新入社員ですシーズンにぴったりの、新婚にライスシャワーかける業者みたいに、無理して食が細い昼食を放りなげる。
鳩さん、食え食え。

鳩っていうと公園だよね。
折れ曲がる前屈により、たたんだ布団になる私の昼休憩。
おへそと陰毛の間に挟むものは、年月だといい、人ごみで隠すように持つ眠い球体のような、年月。みんな目を奪われるかな。

 

 

 

志郎康さん、よくおならするねえ。

 

鈴木志郎康

 

 

プーッ、
プーツ、
ブリッ。
志郎康さん、
よくおならするねえ。
連れ合いの
麻理さんが、
プーッはいいいけど、
ブリッは嫌って言ってるよ。
プーッは、
自然だからいいの。
でも、
ブリッは、
一瞬止めるでしょう。
その次はわざとって感じちゃう。
それが嫌なの。
志郎康さん、
おなら意識とおなら無意識、
そこでけじめをつけなくっちゃ。
そんなこと言われても、
困っちゃうねえ。
どうやって、
プーッで止めるのよ。
お腹が活発でいいじゃん。
でもね、
わたしの前ではやめてね、
夫婦の中にも礼儀あり、
でしょう。
プーッ、
プーツ、
ブリッ。
あら、
また。

我がおなら、
青春の日々の、
春の日が差す
部屋の中にまで、
届け。
何ちゃってね。