エゴンに従う

 

爽生ハム

 

 

よじれた煉瓦を数え
水辺を越える/豊かなよごれ
向こう岸は今だ笑え
ふと眠って/目が開く
これから有れ/悔いのつなぎめ
うなぎを掴むように/煉瓦を積んだ
今朝/救われたモノです
臙脂色のよじれと眠っている
肘を鋭角に保ち/時間をかけ
両腕がダレるまで
牛豚鶏が出荷される
喋りすぎた舌/喉につめる
動物類は昔と変わらず
よごれてきた/特色のある牢屋
駆け込んだ寺のようなよじれ
渋谷新宿池袋と北上して
公衆は/母方の故郷を
いつも思っていた/寺で遊んだ
いつものように酔えない
何ヶ月ですか?/不安街に妊娠
鳴り響く/証言したまま
立場/行き先を伝えた
つもりでした/ねたみ
世界中の/かの事実は
女の咳払いと/男の含み笑いとで
戦地を決めていた
何か一つ深海に詩を贈ろう
巧妙な/よごれが
沈む/覗いた
眼鏡も海の深さを知っている
ここにきて未だ何も喋っていない
余白は秘境/はたからみれば
よごれ/相討ち
引き揚げられる君の手/暖かい
君の手/冷たい
さようなら
見逃した体験に肩を並べてる
君は楽しそう/犯してるみたい
夜這いでよじれを/回転する
君の体なぞるようだ/回転
蜂のよう/これはどこかで
すれ違った事がある

 

 

 

金木犀の香り

 

みわ はるか

 
 

その香りが金木犀だと知ったのは随分あとのことだ。

向かいのお姉さんの家の庭は常にきちんと剪定されていて、いい香りがするその植物はその庭の端にちょこんと植えられていた。
隅のほうにあったけれど存在感は抜群だった。
そんな香りのベールにつつまれてお姉さんは毎日決まった時間に大きな玄関から出勤していた。
黒く長い髪をひとつに束ね、赤い小さめの鞄を肩からさげていた。
洋服は職場で決められているのだろう。
白いブラウスの上にチェックのチョッキのようなものを着ていた。
紺色のスカートはひざ下まであり、それにあわせて黒いヒールを履いていた。
当時部活の練習で日に焼けた肌をしていた中学生のわたしにとって、憧れの存在でとてつもなくまぶしくうつった。
いつかわたしもあんなふうに颯爽と歩くオフィスレディにでもなるのかなと勝手に夢をふくらませていた。
こんなわたしにもニコニコした笑顔をむけ挨拶をしてくれた。
お姉さんに会うときはなぜか少しどきどきして恥ずかしかった。
特別親しく遊んでもらった記憶はないけれど、長女のわたしにとっては本当の姉ができたようで嬉しかった。

そんなお姉さんもいつもいつも明るかったわけではなかった。
少し伏し目がちで大きなため息をついて家から出てくることもあった。
きっと人に言えない辛いことや苦しいことがあったのだろう。
そんな日が続くとものすごく心配になったけれど、またあの笑顔ですれちがえたときは心底ほっとしした。
やっぱりお姉さんの笑っている時の姿が一番好きだった。

それから月日は流れた。
お姉さんはその家から居なくなった。
遠いところにお嫁にいってしまったらしい。
遠いところってどこだろう~、元気にやっているのだろうか~。
想像することしかわたしにはできなかった。
そして、少しずつお姉さんのことを忘れていった。

わたしも大事な高校受験や大学受験を経験し、少しずつ大人の階段をのぼっていた。
前はお肉を好んで食べていたけれど、今は有機野菜や消化にいい食べ物に興味をもつようになった。
夏は紫外線なんか気にせずさんさんとふりそそぐ太陽の下部活のテニスに精をだしていたけれど、今はいかにしみやしわを防ぐ化粧品を見つけられるか
に時間を使うようになった。
キャラクターがプリントされているTシャツよりも、少し品がある無地の洋服を好んで着るようになった。
お菓子はあまり食べなくなった。
マンガや恋愛もののドラマよりニュースを見るようになった。
多少のことではわたわたと怖がることがなくなった。
遠足の前日のようにうきうきやわくわくすることが減った。
いつもいつも明るい明日が来るわけではないということを悟った。
時間的制約がある限り限界というものがあることを知った。
色んなことが自分の知らないうちに確実に変わっていった。
私は少し大人になれたのだろうか。

お姉さんをまた見るようになったのはそんなふうにわたしが大人に近付いているときだった。
金木犀の香りに包まれてあの玄関から出入りする姿があった。
一人ではなかった。
お姉さんの腕で大事そうに抱かれた小さな小さな赤ちゃんも一緒だった。
白いふわふわの生地で包まれたその子は天使のような微笑みをお姉さんにむけていた。
それを見ているお姉さんの顔はそれ以上の笑顔だった。
守るべき存在ができたお姉さんは前よりもたくましく見えた。
日が陰ったころ、ベビーカーにその子を乗せゆっくりとゆっくりと歩いていた。
聞き取ることはできなかったが何か優しく話しかけながら。
その時、一つ間違いなく言えるのは、その瞬間確かにお姉さんは幸せだった。
そしてきっと今も幸福な人生を送っているに違いない。
そうであってほしい。

わたしも転勤を機に地元を離れてしまったが、金木犀を見ると思いだす。
金木犀のお姉さんのことを。

 

 

 

here ここ

 

今朝
モコと海にいった

風が
吹いてた

霧につつまれて

霧のなか
モコと歩いた

西の山も霧の中だったのさ

いま
部屋にもどって

斉藤徹さんのコントラバスを
聴いている

モンゴルの
四季の草原の歌だ

風を抱いて

生きて
きた

ヒトたちもいる

 

 

 

@150610音の羽  詩の余白に 5 

 

萩原健次郎

 

 

 

水から生まれてきたのに、水の味をしらない。

青蛙として、わたくしは、わたくしの子も孫も、その顔は知らない。
知っているのは、わたくし、青蛙の眼前で、目を凝らしてわたくしの顔をまじまじと見ているあなただけだ。
わたくしの代、わたくしの世は、なんだか臭い。
蛾の食べすぎか。

何年、青蛙として生きてきたかって?
生まれたのは、数か月前だが、わたくしの前の前の、ずっと前までたどると、千年にも万年にもなる。
同じ顔してさ、同じ皮膚の色してさ、鬱々としているその表情も、へたな鳴き声も、代々いっしょなんだけどね。
ときどきね。音羽の支流の細い川に、青葉を浮かべて、それに乗るんだな。ゆらゆらしているうちに、酔ってきてね。ゆらゆら寝込んでしまって。波乗りというよりも船旅みたいなもの。

わたくしは、ゲロゲロとは鳴かない。そう聴こえるだろうけど。
わたくしは、あなたにも意味のわかる言葉で、語っているんだよ。
蛾の食べすぎで、咽喉の奥になんだか、粉のようなものがカラカラに乾いて詰まっていて、それが空気に混ざって、濁音になって口からこぼれているんだよ。

それで、さっきの話なんだけど、川を下る船旅をして、それからまたこの麓まで戻ってくるのかというと、わたくしにもさっぱりわからない。

あなたの夢に混濁している、青い蛙でさあ。わたくし。
だから、あなたは、今こうしてわたくしを見つめている。
混濁しているのは、景色だけではないよ。背景に、いつも音楽が流れているだろ。
ゲロゲロではなくて、もっと透明な薄情なやつ。

六月かあ。六月の悔恨かあ。
そろそろ、次の代に青を継がせないとなあ。

 

 

 

gesture 身振り

 

夕方
目覚めて

モコと散歩した

地上に
空は重なっていた

それから
眠った

夜中に
目覚めて

一日は遠い
むかしのことのようだ

今朝
モコと別れてきた

おしっこにいきたい時

モコはぐるぐると
はしりまわる

ひとりで戸を開けることもある

 

 

 

近辺未来に

 

爽生ハム

 

 

未来に、
手が届く前にビールに、
手がのびる
道すがら、
観察して後追いした女性の
裾が、一軒の酒場に消え、
がらがらと扉にはさまる
わざと、
白桃を1Rにつめていく
そりゃ、男性ではないかも、
しれないが
雨乞いする腰骨に、これから
メトロノームをのせる
これが猿
はやくしろ、変な意味じゃなく
女性を栄養として日暮れへと
報復で二回も愛情、さらって
がらがらと扉にはさまる
面倒な
間合、離される
意見のおもしろい猿が
拾いあげたのは、
メコン川に浮いた不達の手紙
本物なのか、
答案用紙のようだが、
異境のことはわからないから
曖昧の中で寝る

 

 

 

そのように 六月の歌

 

佐々木 眞

 

 

中国の愚公という九十歳にもなるよぼよぼの老人が
家の前にある大きな山を動かそうと、朝から晩までセッセと土を運んだ。
人々は嘲笑ったが、天帝は老人を見捨てなかった。
そのようになった。

弘法大師は「では私が井戸を掘って旱魃を救ってあげよう」と仰って
手にした錫杖をぐさりと地面に突き刺し、
グリグリと回転させてから、エイヤっと引き上げられた。
そのようになった。

カール・ドライヤーの『奇跡』を見よ!
ヨハネスが「インガ、生命に立ち戻りなさい」と命じると
彼女はゆっくりと目を開く。
そのようになった。

「これ、信徒の者よ、汝らの身近にいる無信仰者に戦いを挑みかけよ。彼らにおそろしく手ごわい相手だと思い知らせてやるがよい。アッラーは常に敬神の念敦き者とともにいますことを忘れるでないぞ」(『コーラン』井筒俊彦訳)
そのようになった。

「アーナンダよ、久しからずして修業完成者(ブッダ)は亡くなるであろう。これから三か月過ぎたのちに、修業完成者は亡くなるであろう。修業完成者が生きのびたいがために、この言葉を取り消す、というようなことは有り得ない」(『ブッダ最後の旅』中村元訳)
そのようになった。

幣原喜重郎(第44代内閣総理大臣)の亡霊が70年ぶりに現われ出て
“そうせい侯”(長州藩第13代藩主毛利敬親)の亡霊に額ずいて曰く
「あなたの地元の代官であり、私の後輩でもある悪賢い男が、せっかく私が提案した憲法第9条を無きものにしようとしています。至急御成敗を!」
そのようになった。

西暦2015年6月4日
慈しみ深き主なるエスは、
鎌倉十二所のバス停の隣の家の主人とツバメに
二階の軒下に巣をつくるように命じられた。
そのようになった。