消えていく
消えていくものの
そばで
きいていた
ざわめきの
なかからきこえてくるもの
ざわめきのなかに
あるもの
散乱するひかりのなかに
あるもの
今日
消えていくもの
今日 消えていくものたちの声をきいた
今日 消えていくものたちの声をきいた
消えていく
消えていくものの
そばで
きいていた
ざわめきの
なかからきこえてくるもの
ざわめきのなかに
あるもの
散乱するひかりのなかに
あるもの
今日
消えていくもの
今日 消えていくものたちの声をきいた
今日 消えていくものたちの声をきいた
ぼたるさんの
庭に芝桜が咲いていた
白い花がひとつ咲いていた
猫が
ひとり縁側にねむっていた
家の前には
川があり
川に沿って歩道があった
ぼたるさんのいない世界があった
奥さんが形見分けに
おちょこと徒歩新聞合本を渡してくれた
朝
蝉たちがないて
西の山が青緑にひかっていた
マリア・ユーディナのブラームスをきいた
マリア・ユーディナのブラームスの間奏曲(118-2)をきいた
それから
蝉たちがないて
西の山が青緑にひかっていた
世界はまだ終わっていなかった
モコが階段をのぼって起こしにきた
きみはウインナを炒めていた
窓からひかりが射していた
朝
ウインナを食べました
ブラームスの間奏曲をくり返しききました
蝉たちがないて
西の山が青緑にひかっていました
マリア・ユーディナの
平均律ピアノ曲集第1巻第22番を聴いて
朝となりました
わたしには
語るべきコトバがありません
語るべきコトバが
ひかりの後に
西の山が
薄い青空に青く浮かんでいます
小鳥たちが
鳴いています
虫たちが鳴いています
蝉も鳴きはじめました
マリア・ユーディナのピアノを聴いて朝となりました
マリア・ユーディナのピアノを聴いて朝となりました
語るべきコトバがありません
マリア・ユーディナは
ただひかりを受けているように聴こえます
ただひかりを受けているように聴こえます
語るべきコトバはありません
語るべきコトバは
土手を
朝の散歩のヒトたちが歩いています
たくさん歩いていきます
青空の下に
西の山が青緑に霞んでいます
きのうの夕方
モコと散歩したときにみた白い雲が忘れられません
二度とあの雲と会うことはないと思います
すこしピンク色に輝いていました
光っていました
このまえの夜に新丸子のスーパーで買い物をしていたとき
桑原くんから電話がありました
桑原くんはぼくの友人のひきこもりの画家です
桑原くんは
電話のむこうで語りました
ひかりなんだよね
むずかしいけどひかりなんだよ
桑原くんは電話のむこうで語りました
うまくいえませんがわたしもそれしかないと思いました
おもちゃではありません
おもちゃに見えるかもしれませんが
おもちゃではありません
蝉も
クロアゲハも
燕たちも
朝の散歩のヒトたちも
西の青緑に霞んだ山も
昨日の夕方の空の白い雲も
おもちゃではありません
おもちゃではありません
夏の
太陽の下に道があり
白い道が
あり
あるいていきました
山の斜面に
ヤマユリが咲いていました
ヤマユリは白く咲いていました
白い雲が
流れていくのを
見て
いました
ゆっくりと流れていくのを見て
いました
小さな子はわたし
小さな子はあなた
見ていました
燕たちが大きな曲線をひいて飛ぶのを
見ていました
魚たちが光の中で遊びながら泳ぐのを見ていました
オニヤンマがゆるゆると風の中を通り過ぎるのを見ていました
雲がゆっくりと流れておそろしく盛りあがるのを見ていました
見ていました
小さな子は見ていました
小さな子は世界の始まりを見ていました
小さな子は世界の終わりを見ていました
小さな子はわたし
小さな子はあなた
ゆっくりと流れていくのを見ていました
世界の始まりと終わりを見ていました
夕方
モコと散歩した
ツクツクボウシが鳴いていた
道端に白い百合のつぼみがとがって咲いていた
昨日は
ぼたるさんの庭をみた
夏の強い光のなかに
赤い薔薇と芝桜の白い花がひとつ咲いていた
飾るものはいらない
すでにあらわれていた
すでに
海辺の公園で
鳥の声をきいてモコとあるいた
潮騒がきこえていた
海はうねっていた
ソファーに横になり
窓からのひかりをみていた
モコはからだのうえにのりわたしに
キスした
小さな舌でわたしの唇をなめた
モコ
モコ
モコ
モコ
窓からひかりがさしていた
新丸子から
代々木上原でおりたのだそれから小田急線で新宿に出て
もう
ねむりたい
ねむってしまいたい
遠い
岸辺に流れ着いて
いた
小舟が
入り江の遠い岸辺にながれついて
たくさんの
人の声をきいた
たくさんの死者たちの声をきいた
でも
通り過ぎていった
通り過ぎていったんだ