深夜に
ギーゼキングを聴いている
パルティータ 第2番 ハ短調
サラバンド
意図することをやめた声がある
なつかしい声がある
ははのははのははの声がある
意図ではない
意味ではない
遠いははたちのない声がある
柔らかい赤ん坊を産んだ
深夜に
ギーゼキングを聴いている
パルティータ 第2番 ハ短調
サラバンド
意図することをやめた声がある
なつかしい声がある
ははのははのははの声がある
意図ではない
意味ではない
遠いははたちのない声がある
柔らかい赤ん坊を産んだ
桑原が
絵はがきを描いて送ってくれた
絵にはしろい雲が描いてある
端っこに青空もある
空を電線が横切っている
電線をいれなくてもとは思わない
空の分断は必要だ
桑原正彦は孤絶した場所にたっている
かつて
桑原のみにくい女の絵を買ったことがある
今朝
水平に移動して朝焼けをみたのです
そのときコトバは無一物のわたしの栖だと思ったのです
ぼたるさんと
来栖さんと加藤さんが
笑ってこちらを見ていました
ラ・モンテ・ヤングの光の音を聴いたのです
眠っていました
眠りのちかくに栖はありました
中目黒の川沿いの
古本屋で写真集を買いました
ブレッソンでした
コルドバのおばさんの写真に惹かれたのです
ふくよかな手を胸に置いて
眩しそうにこちらをみていました
たくさんの
消え去るもの
二度と出逢わないものを
彼は相手としたのでしょう
水辺に佇つヒトがいた
日曜日の
夕方の空はうすい水色だった
灯りが
港にふたつあかく灯った
佇むヒトは水のおもてをみていた
うしろからみていて
そう思えた
いとしいヒトだった
いとしいヒトだった
水のおもてをみているんだと
思えた
今朝
電車のなかで
毛糸の帽子の女の子をみた
肌色のまるい帽子に
毛糸の細い毛がけばだっていた
光っていた
肌色のタンポポだった
それで
それだけで
しあわせだった
不思議を
きみはたくさんもっているね
たくさんの不思議をもっているね
増えてしまった
増えて
おなかが出てしまった
おじさんの体型になってしまった
増えるものは信用ならない
どこかで減ったものがあるはずだ
ぷきあぷきあ
ぷきあぷきあ
増えることばでなく
幻影のむこうにないことばがある
ないぷきあぷきあ
名前をあたえている
名前のないものに名前をあたえ
ユージさんはピアノを弾いている
名前のないものは他者を求めている
今朝
浜辺で波紋をみていた
波紋はひろがっていった
波紋はひろがっていった
いくつもいくつもひろがっていつた
甘ったるい詩を書いてんじゃないよ
深夜
荒井くんが電話でいった
荒井くんには甘かったのだろう
叙情に過ぎるということか
情が残っていたのか
自我の匂いが残っていたのか
今日
浜辺をつよい風がふいていた
荒れた波の下にテトラポットが青くみえた
そのヒトは
透明なすがたをしていた
そのヒトは
みるひとだった
そのヒトは語ろうとしなかった
ただ
みてしまったんだ
と思った
空襲のことも
死者のことも
みてしまったんだと思った
せかいは垂直にたっています
せかいは垂直にたっています