大風のあとに
姉の庭の桔梗の花の匂いを嗅いでいた
名前のない
名付けられない
ものは
焦点のあわない夢の場所にあった
桔梗の花を嗅いでいた
桔梗の花を嗅いでいた
大風のあとに
暗い階段をおりていった
階下の桔梗の青い花の匂いを嗅いでいた
大風のあとに
姉の庭の桔梗の花の匂いを嗅いでいた
名前のない
名付けられない
ものは
焦点のあわない夢の場所にあった
桔梗の花を嗅いでいた
桔梗の花を嗅いでいた
大風のあとに
暗い階段をおりていった
階下の桔梗の青い花の匂いを嗅いでいた
カタチ
質
典型とは
遠いところにそれはあるだろう
すべての者たちの
忘れられた夢のなかでみた夢のなかに
それはあるだろう
カタチ
質
典型から逃れるもの
名前のない
名付けられないもの
姉の庭の桔梗の花の匂いを嗅いでいた
匂いのない花を
ブラームスもいた
星々のした
粉砕されたものを継ぐ
粉砕され死んだものたちのなかに
いのちがある
星々のしたいのちを継ぐ
星々のした死んだものたちのいのちを継ぐ
そこにいた
晩年のブラームスもそこにいただろう
星々のしたにいただろう
深夜バスで北へむかう
北とは
ないふるさとである
一切のカルマを棄却し深夜バスは北へむかう
ないふるさとへむかう
ふるさとの母は語らない
ふるさとの母は観ない
ただ聴いている
ただ聴いている
母はひかりの声をきいている
母はひかりの声をきいている
あなたにも
消えたしっぽはありますか
そのしろく
まるいお尻のしたに
消えたしっぽはありますか
小動物だった
ころに
風がすぎるのをみていた
このはが
揺れるのをみていた
こわいとき
脚のあいだにまるまっていた
しっぽを振って
草原をはしった
薄暗い
葡萄屋の片隅で紙片を渡された
そのヒトは
小さな手帳にコトバを書いて渡した
薄い口から厚い口へと
水は温むという内容だった
そのヒトが
渡したのは意味ではなくコトバだった
手帳の紙片を破り
渡されたのはそのヒトの存在だった
こどものころ
先生たちが嫌いだった
でもいつか
先生に見えない先生にあった
先生は詩をかいた
その詩は詩とおもえなかった
先生は最近キャーとかいた
先生は年老いてウォーと叫んだ
その叫びは流されていった
ヒトたちのコトバにならない声だろう
手紙はとどいただろうか
手紙は
ふたり
わらっていた
ぼたるさんと
加藤さんががわらっていた
清水さんの句会でふたりの写真をとった
わたしがいないのはわたしが撮影していたからだった
手紙はとどいただろうか
手紙はとどいただろうか
四角い
空白の箱は
そこにとどまり出発しただろう
空白は
白い道を砂埃をまきあげて過ぎただろう
バス停でコトバは失われた
とどまりなさい
とどまりなさい
コトバのない場所にとどまりなさい
ない停留所の
ないコトバにとどまりなさい
今朝
真空のなかにめざめた
音がなかった
眼だけがひらいていた
そして
そのままねむってしまった
歴史的ではない
正統でもない
しかし
原初的領域にコトバの萌芽はあるだろう
音のない朝に
失われたものたちがいた