狂言「けなげ猿」

 

工藤冬里

 
 

長旅をしてきたように見せかけていたのがいつか中身が追いついて一廉の音になっていた
女装と刺青のお陰で低姿勢だったがそれは最期まで変わらなかった
大野一雄のようではなかった
変わらないなかでこのような美しいをどりは見たことがないと思った

Xinlisupreme – All You Need Is Love Was Not True 聴き返してみたが忘れていた
〽わしかてずーっと一緒に居りたかったわ が引き続き鳴っていた
脳は水の少ない球だからどこにでも仕舞えるのだ

能勢さんに京都国際映画祭で八木一夫を扱った映画を作ったから観るようにと勧められて
ギャラリー射手座が出てきたのが懐かしかった
バスの窓から弁当のカラを捨てる八木一夫
八木に嫉妬され潰されたという寺尾恍示のわざと割ってから継いだ作品はありふれていた

山椒を唇に乗せると五〇ヘルツの周波数が記録される
痺れは紛れもなく可聴域のをどりなのだ
変わらないなかで味がありふれていた

米の代わりにブルーチーズを詰めた琵琶湖の鮒鮨の、ブルーチーズだけが(この「が」に馴れるまで十年の漬け込みが必要だった。)売っていたのを土産に買って帰った。
今日食べると言うので寄り道して踏切を超えると、羊を抱くように羊のような犬を抱いて歩く男がいた。白井屋の娘に訊いたらアリアニコ百パーのカルトワインがありますぜと言う。能動的に買いに行く感じで買ったのはこれが生まれてから二本目であった。闇の中で狸を切ってしまったような重味で、こんなものか、と思った。重さとは時間の速さの落差のことである。

熱以外に過去と未来を区別できるものはない
それは熱力学の第二法則であり、焼き物とは過去の熱が移った未来である。
窯焚いてるから暇なんだよ
重さとは隣接する時間の熱のことである
炭を四千いくらで買って扇風機を当てていますがまだ上がりません
塩投入した

一つ星シェフがファミレスでバイトってラーメン発見伝の芹沢サンとどっちが先なんだろうか
特別な未来があるわけではない。特別な曖昧な過去があるだけなのだ。曖昧さがなくなる時過去も未来も消える。
過去と未来があるのは、私たちが馬鹿だからだ。
目の細かい籠を表わすヘブライ語はサルです
「笊(ザル)」じゃないですかこれって
けなげ猿
速度が増すと時間は遅れる
群衆に掃射して一掃するゲームが多すぎる
再び合流しなければ速度を問うことは無意味である
セブンにおでん出てる
離れた場所には、「今」に対応する特別な時間は存在しない
葛根湯と小柴胡湯を併せ呑むと重症化しにくいそうです
あとはビタミンDが良いというから椎茸干したやつとか
調布に空洞 オレはくどう
瞬間に今を問うことには意味がない
高知県美のピアノは今月一〇日に弾くことになっていたので使わせてくれと土下座して頼みましたがおまえらは壊すからだめだと貸してもらえませんでした。舞台自体はネオシチュアシオニスト大木裕之三〇年の集大成となりました。
高知は、準備としては、大木さんがスペクタクルスペクタクルと力説するので、それがテーマとなった。ギー・ドゥボールの著作を読めば、反スペクタクルとは要するにつまんなきゃいい、と要約できる。分離派建築との関連を言えば、要するにつまんない家を作れば良い、となる。ということは「住めば都 A tout oiseau son nid est beau.」てことだ、と思いその看板を作ってステージ上を移動してみた。後で能勢さんにそれを言ったらウケた。宿営毎にバイオリン、三味線、zoⅢ、と使い分けて、中原のノイズ、佐久間の能を起点にして動いた。ピアノがあるとかないとかは別にどうでもよかった。近代は終わっているのだ。
現在は全体には広がらない
現在はない

時間はない
もう輪も矢もない
空間を一直線に進む妄想を捨てるために誕生日を祝わないのだ
海面のバブルや前世紀末の物理学の展開の速さを知らずに海底で引き摺られていた痕跡のように
ロック史とは孤立系からtを抜いて成立させる世界観であるには違いなかった
死ぬ前に”I love you”とかヨウムのアレックス君すごいなー
後釜のヨウムはPTSDやトラウマがあったりしてだめだったそうだ
玉置浩二は小林旭になれるかなあ
〽︎粉雪ーねえ 永遠を前にあまりにはかなく
数学の方が上だな
物理学や哲学よりも
東にひんやりとした星

 

 

 

#poetry #rock musician

語彙詐欺にスピーチ

 

工藤冬里

 
 

人生がまだまだ続くと思ってる奴にいつかの秋晴れに透けた月の栄養のなさを知らせてやりたい
人生がもう続かないと思ってる奴にはいつかの赤色矮星なみに肥大した明け方の月の入りを教えてやりたい
菌が這入ろうとする幻魔大戦の身体には卵子が合鍵を持ったオレオレコロナに騙されないような被災者に寄り添った援助を考えていきたい
帰り道、五日連続で同じ路上に立っているゴイサギに今日もスピーチする
ダルそうに羽撃く彼女の馴れ馴れしい眼がいい

 

 

 

#poetry #rock musician

雨止んだ

 

正山千夏

 
 

小雨がやんで
夜のとばりがおりる

折れてしまった枝
転がって土にかえる

干からびてゆく
地表のような肌

小雨がやんで
夜のとばりがおりる

ひび割れの下に
真新しい赤い皮膚

翻弄される
木の葉のように飛ぶ

花を忘れるほどに
枝ばかりの夜空

だからなんなのか
舵を取れている者は幸せなのか

小雨がやんで
夜のとばりがおりる

こころを真空にして今は
歩いている

 

 

 

いつかの秋

 

ヒヨコブタ

 
 

いつかの秋
わたしは大きな公園で一日を過ごした
まわりが淋しくなる頃
落ち葉を拾って立ち去った

いつかの秋
わたしはまた大きな公園に
いた
賑わいは耳に残っていない
景色だけが
そのときの気持ちだけが残っている

いつかの秋ばかりになる

今年の秋
わたしはその大きな公園に
いない
その公園のわたしを呼び出しては
秋を遊ぶ
落ち葉を拾い集めて
本にはさんで帰るのだろう
ぼんやりと
いつものように走り回る子らを眺めるのだろう

いつかの秋は
いまより豊かにみえて
行かずにいる大きな公園は
賑やかに思える

わたしはここにいるというのに

 

 

 

島影 25

 

白石ちえこ

 
 


大阪 木津川 渡し船

大阪の渡船。
周辺には工場や造船所。川は静か。
どこからか自転車の青年、買い物かごをさげたおばあさん、喪服の女性。
小さな船に一緒に乗りこみ、陸を離れた。
対岸の船着き場はすぐそこに見える。
ほんの数分、水の上。船を降りれば
みんなまた、別々の方向に向かってゆく。

 

 

 

時間の合鍵を渡してしまった独身の身体或いは

 

工藤冬里

 
 

時間は一瞬に充満する
合板の天井が暗く燃えて
視聴の環境は整い
簡単な絵さえ描けぬまま生きる
言葉を覚えた鳥が
I love youと言って死んでゆく
平和だなあ
日常の食物を使って
感謝を表せる
私は汚物なので埋めてください
包丁持って隣家に怒鳴り込む
偽物のおでんのような夕暮れに
可愛い女の子が丁寧にお辞儀して本を借りてゆくが
食事に与(アヅカ)ることは出来ない
それとこれとは構造が違う
写真などいくら撮っても無駄だ
苗字など無いと思え
火を絶やしてはならないがその伝承は間違いだから
おでんは無理だ
合板の家の中で
恋ではない罪の犠牲は定められていた
京都が嫌いだ
黒白の事務員は好ましい
先々のことを心配するんですけども
一日生きられて
最大限の憐れみ深さをチョコに沈める
オーデン詩集の出汁に宝石
奪い取ったり騙し取ったり
朝まで夜通し焼く
着替えて灰を捨てる
丸ごと焼く
吉岡実が使った燔祭
政府と結び付ける 棒
棒と棒が会話している
棒が棒として三島を打つか
この前会社で
コロナが合鍵を使って異物に入る様子が精子に似ていると話しましたね
〽︎でも見てよ今の僕を クズになった僕を
サンタクロースじゃないんだから
ゴキブリとカマキリは親類
刃物を持って隣家へ
鹿沼でクレーン車が登校の列に突っ込んだ事故は覚えてますか
六花は隣接した時間しかないことの証拠で
松山千春は室野井も呼吸する北海道のドン
黒と白だと思っていたら灰と白で誤魔化された
おでんみたいに誤魔化されて
ライトは上向きがデフォ
もう連絡先が分からない
全身とは言わず全宇宙に転移してほしい
空が赤いのだから
ずり落ちそうになり
直し
ずり落ちそうになりながら
直す
ずり落ちてくる空に
傘の棒杖を置いて
座る
四十日食べなかったら
その椅子が見える
団地ともおでもいける
時間は一瞬に充満する
そして未来ではなく現在が終わるだけなのに
合鍵を渡してしまった

 

 

 

#poetry #rock musician