たい焼き、すごく辛い

 

爽生ハム

 

 

嘘に頼って生きている
汚れた首を、さしだし

楽して、うつろ、になる
君がそうだろう、誰かのように
山の麓で働いて
新開地で眠って

うつろな目でうつろな吐息
うつろな癖を制御して、私の事を繰り返す。

もっと、誰かをひいていた踏切の近くに行こう。

君に手を振り、僕も誰かのように
移動して、風を切りたい。
嘘ばかりついてきた、触れないように撫でてたら。

嘘ばかりついてきた
こづかいでうつろな買い物
資本がない。
体がない。ほどに嘘ばかり
触っていても閉ざされる

そろそろ
逃げ場のない。体のっとり
これからはじまる、誰かの冒険に
肩入れしては孤独を、紛らす。
後ろが正面で、触れたときに抉れちゃう。

憎しみが君のものになるね。

建物に未練はない
満たされず黙るのでない
不確かな路地裏でたい焼き頬張る
うつろな、抒情
下を向いた瞬間に
どつかれる。と、気づいた。
神様のような雰囲気、
それな。実話をもつ女は
子の、産毛へ、神様のような、
女のお産はとてつもなく
男のカロリーはとてつもなく
消費の差が、青にも赤にも
変わりゆく。

 

 

 

五月の歌

 

佐々木 眞

 

 

うちの耕君が笑ってる。
『風のガーデン』の黒木メイサを見ながら、笑ってる。
赤ちゃんみたいな顔して、笑ってる。
あ、ラッタラッタラー

うちの奥さんが、笑ってる。
『踊る!さんま御殿!!』を見ながら、笑ってる。
少女のような顔して、笑ってる。
あ、ラッタラッタラー

おやおや、死んだはずのムクちゃんが、笑ってる。
冥途の木陰で、笑ってる。
WANG WANGと、笑ってる。
あ、ラッタラッタラー

某国の悪賢い宰相も、笑ってる。
オラッチは、なんでも出来るぞと、笑ってる。
爺チャンより、偉くなるぞと、笑ってる。
あ、ラッタラッタラー

見渡せば、列島中のイヌフグリが、笑ってる。
グリーンピースが、笑ってる。
縁の下ではSTAP細胞も、笑ってる。
あ、ラッタラッタラー

見上げれば、コイの親子が、笑ってる。
ツバメの親子も、笑ってる。
みどりのそよ風が、笑ってる。
あ、ラッタラッタラー

 

 

 

station 駅

 

佇つんだ
ろうね

いつか
佇つんだろ


みわはるかさんの

詩を
読んだ

詩は
片足をだした

そして次の足をだして
歩いてく

それから詩は

駅のホームに佇つだろう

昨日
荒井くんに

ふざけろよ
といった

のか

特急はいくつかの駅を過ぎた

 

 

 

生きる

 

みわ はるか

 

 

沈んでいく太陽を1人でずっと、ずーっと見ていた。
まっすぐにのびた川が流れる河川敷の階段に座って。
お尻が痛くなっても目をそらさずに西の空を見続けた。
山にかかった雲は夕日の光を吸い込んだように黄金に輝いていた。
美しいというのはこういうことを言うんだろうと思う。
この日、この時間、ここにいることができたわたしはラッキーだ。
1日の終わりをこうして終えることができたとき、今日は人間らしい生活がおくれたなと感じる。
1人ででも強く生きられたなと安堵する。

「その人」はとても明るい人だった。
たいていの物事はポジティブに捉える人だった。
そして入社したてのわたしを娘のように可愛がってくれた。
誰になんと言われようとも常にわたしの味方になってくれた。
少しめんどくさがりで、ずるいところもあったけれど、「女は愛嬌よ。」といって生きている人だった。
わたしは「その人」のことを心から信頼していたし、ずっとわたしのよき上司として一緒に働いていけるものだと思っていた。

私は元来、常に最悪の場合を想定してしまう癖がある。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・・。
もしも・・・・・・のあとに続く言葉はいつも否定的な内容になりがちだ。
こうやって意味もなく、当てもなく悩んでいるうちに1日はあっという間に終わっていく。
何もたいして解決しないまま。
無駄な時間だとは頭ではわかっていてもこの思考回路をストップさせることができなかった。
だから、「その人」は私に対して救世主だったのだ。
「なーんだそんなこと、気にしなくていいのに!」
「大丈夫大丈夫、もっと楽に考えて。たーいしたこじゃないから。」
「そんなことより新発売のあのチョコレート売店に買いに行こう。」
笑うと八重歯が見え隠れする口を大きく開けてそう悟してくれた。
話を聞いてもらうだけで楽になれた。
平易な言葉だったけれど、「その人」からかけてもらう言葉には魔法がかかったかのように人をリラックスさせる効果があった。
滝のように涙がでた次の日に笑って出社できたのも、「その人」が自分のことのように一緒に悩んでくれたから。

でももう「その人」はいない。
「その人」の「仕事辞めます」という宣告は急だった。
そして本当に次の日から「その人」は来なくなった。
ロッカーもデスクも「その人」のものは何一つ残っていなかった。
毎日コーヒーを飲むために使っていたマグカップだけが忘れられたように食洗器の中に取り残されていた。
辞めたのは家庭の事情だと、あとから上司に聞いた。
嘘か本当か確かなことはわからないけれど・・・・。

「その人」のいない次の日がやってくる。そのまた次の日もやってくる。
時間は規則正しく毎日を動かしている。
人もそれにのっとって動き出す。追いてかれないように。
強くたくましく生きていかなければならない。
「その人」はもういないのだから。

朝、東の空から昇ってくる太陽はわたしには眩しすぎる。
1日の始まりをつきつけられたようで朝日は苦手だ。
それでも、その光を背中に感じながらぐっと前に1歩ふみだす。
それができたら、次は反対の足をそれよりももう少しだけ前に運ぶ。
頑張りすぎずに頑張る。
なんて都合のいい言葉なんだろうと思うけれど、なんていい言葉なんだろうとも思う。
こうして「その人」のいない戦場に向かう。
ゆっくりと、でも着実に。
「その人」を 心の支えにして。

 

 

 

生きる

 

みわ はるか

 
 

沈んでいく太陽を1人でずっと、ずーっと見ていた。
まっすぐにのびた川が流れる河川敷の階段に座って。お尻が痛くなっても目をそらさずに西の空を見続けた。
山にかかった雲は夕日の光を吸い込んだように黄金に輝いていた。
美しいというのはこういうことを言うんだろうと思う。
この日、この時間、ここにいることができたわたしはラッキーだ。
1日の終わりをこうして終えることができたとき、今日は人間らしい生活がおくれたなと感じる。
1人ででも強く生きられたなと安堵する。

「その人」はとても明るい人だった。
たいていの物事はポジティブに捉える人だった。
そして入社したてのわたしを娘のように可愛がってくれた。
誰になんと言われようとも常にわたしの味方になってくれた。
少しめんどくさがりで、ずるいところもあったけれど、「女は愛嬌よ。」といって生きている人だった。
わたしは「その人」のことを心から信頼していたし、ずっとわたしのよき上司として一緒に働いていけるものだと思っていた。

私は元来、常に最悪の場合を想定してしまう癖がある。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・・。
もしも・・・・・・のあとに続く言葉はいつも否定的な内容になりがちだ。
こうやって意味もなく、当てもなく悩んでいるうちに1日はあっという間に終わっていく。
何もたいして解決しないまま。
無駄な時間だとは頭ではわかっていてもこの思考回路をストップさせることができなかった。
だから、「その人」は私に対して救世主だったのだ。
「なーんだそんなこと、気にしなくていいのに!」
「大丈夫大丈夫、もっと楽に考えて。たーいしたこじゃないから。」
「そんなことより新発売のあのチョコレート売店に買いに行こう。」
笑うと八重歯が見え隠れする口を大きく開けてそう悟してくれた。
話を聞いてもらうだけで楽になれた。
平易な言葉だったけれど、「その人」からかけてもらう言葉には魔法がかかったかのように人をリラックスさせる効果があった。
滝のように涙がでた次の日に笑って出社できたのも、「その人」が自分のことのように一緒に悩んでくれたから。

でももう「その人」はいない。
「その人」の「仕事辞めます」という宣告は急だった。
そして本当に次の日から「その人」は来なくなった。
ロッカーもデスクも「その人」のものは何一つ残っていなかった。
毎日コーヒーを飲むために使っていたマグカップだけが忘れられたように食洗器の中に取り残されていた。
辞めたのは家庭の事情だと、あとから上司に聞いた。
嘘か本当か確かなことはわからないけれど・・・・。

「その人」のいない次の日がやってくる。そのまた次の日もやってくる。
時間は規則正しく毎日を動かしている。
人もそれにのっとって動き出す。追いてかれないように。
強くたくましく生きていかなければならない。
「その人」はもういないのだから。

朝、東の空から昇ってくる太陽はわたしには眩しすぎる。
1日の始まりをつきつけられたようで朝日は苦手だ。
それでも、その光を背中に感じながらぐっと前に1歩ふみだす。
それができたら、次は反対の足をそれよりももう少しだけ前に運ぶ。
頑張りすぎずに頑張る。
なんて都合のいい言葉なんだろうと思うけれど、なんていい言葉なんだろうとも思う。
こうして「その人」のいない戦場に向かう。
ゆっくりと、でも着実に。
「その人」を心の支えにして。

 

 

 

どっち

 

長尾高弘

 

 

目を閉じて
口を開けて
おやすみなさい

外から見えるけど
中から見えない現実
中から見えるけど
外から見えない夢

叩き壊してしまえ
とささやく悪魔*
壊したあとは
どうなるの?

目を開けて
口を閉じて
おはようさん

夜と朝
どっちが先に来るの?

 

 

*一九二七年のドイツ映画『メトロポリス』では、悪魔は(映画のなかで)実在する人間そっくりに作られたロボットだった。

 

 

 

夢は第2の人生である 第26回 

 

佐々木 眞

 

 

西暦2015年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

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地域巡回員の私は、その名の通りのルートセールスに従事していたが、いつまでたっても「ルートセールス」というネーミングの語感にうっとりしているだけで、日本全国どこへ行っても自分がなにをすればいいのか分からないのだった。1/1

ライヴァル会社の製品が、わが社のにそっくりだったので、よく調べてみたら、いつのまにかわが社の腕ききデザイナーが、引き抜かれていたせいだった。1/2

飯田タロウが連れて行って呉れたレストランで赤海老を食べていると、誰かが「森の中で」を歌っていたので、「シューマンだ」というと、その歌手が「明日は朝が早いからもう出ましょう」と私の手を取ったので、2人でレストランを出ると、飯田タロウが追いかけてきて、「お前の分も払っといてやったから、いちおう念のためにここへ電話して確認しといてくれ」と言って、レストランの電話番号を書いたメモを渡した。1/3

大勢の群衆が同じ方向に歩いて行くので、なんとなく後を追ってゆくと、道が行き止まりになっていたので、全員がUターンをして、ぞろぞろ引き返してくるのだった。1/3

私がボルチモア・タイムズに載った匿名記事から探り当てたその秘密探偵は、凄腕だった。1/3

今宵もバットマンになって夜空を自由に飛び回っているのだが、バットマンはやっぱりコウモリではなくて人間なので、糸を繰り出したり、ひっかけたりしなければ飛べないはずだが、私はそのやり方を知らないので、面倒くさくなって飛ぶのをやめた。1/4

私はこのキンバリーという砂漠の町に夫婦でやって来て、ダイアモンドを掘っているのだが、いくら掘っても金目の物はなにも見つからない。しかし、お金も帰りの切符もないので、ただ闇雲に掘り進むほかはなかった。1/4

わしらはコンビを組んで地方の球団をドサ回りしていた。相方の若者がベーブルース張りの強打者で、俺はそのマネージャー兼ピンチランナーだったが、今日も若者が満塁ホーマーをかっとばしたおかげで大勝利した、と地方紙の夕刊に特報が出ている。1/5

ちなみに私の素早く二塁手のタッチをかいくぐる盗塁は、自分でいうのもなんだが見事なもので、「暁の瞬足王」という称号を頂戴していたのだが、その韋駄天快足ぶりを妬む男が盛んに私を誹謗中傷するので、盗塁する振りをして胴体を真っ二つにスパイクしてやった。1/6

私は諸国一見の放浪者だったが、野原で捨てられて泣いていた女の赤ちゃんを拾って育てた。食うや食わずの毎日だったが、彼女はすくすくと育って、いつのまにか美しい少女になっていた。

降っても照っても、いつも私は彼女と一緒だった。同じ道を歩き、同じ風景を眺め、同じ木の実や魚を食べていた。夜が来れば粗末な覆いの下で抱き合って眠った。寝顔をよくみると堀北真希に似ていた。

雪や嵐の夜などはあまりにも寒くて淋しいので、私らはただ抱き合うだけでなく、口づけをしたり、体中を舐めまわしたり、いつのまにかお互いの性器を挿入して激しく動かしていたりした。

ある日のこと、峠のてっぺんで私がいまきた道を振りかえると、彼女の姿はどこにもなかった。私はその日一日じゅうあちこちを探し回ったのだが、とうとう彼女を見つけることはできなかった。

それから何十年も経って、諸国をたった一人で放浪していた私が、いつか堀北真希に似た少女が行方不明になった峠の麓にたどり着き、大きなタブの樹の下で眠っていると、真夜中に誰かが私の上にのしかかってきた。1/5

リゾートクラブでの休暇は楽しかった。夜な夜なスカラムーチョとかペンギンクラブなどのナイトクラブに出かけて、お気楽なヴォードビリアンショーを見物していると、オーナーからトロピカルドリンクの差し入れがあり、その桃色と青が混ざった液体を一杯口にしただけで体が蛸のように蕩けてしまうのだった。1/6

私は毎日観光地を大八車で案内している車屋だった。その日の客はうら若い女だったが、なぜか両脚を大きく広げて座っており、どうもノーパンらしい。何回後ろを振り返ってもその挑発的なポーズを崩さないので、竹林の奥で突き刺すとその度に叫び声をあげた。1/6

いよいよ明日から撮影が始まるという日の前日、アランドロンが「近くに良い病院がないかネスパ?」と聞くので、綾部中央病院を薦めた。翌日私が「アローどうだった?」と尋ねると、彼は一言「トレヴィアン」と答えた。1/7

戦時マラソン法が制定され、私はスポーツ担当相として法律の施行にあたった。レース結果はあらかじめ決められているので、選手は勝手に他の選手を抜いたり抜かれてはならないというのであるが、これを現場で実行しようとすると、多大の困難が伴うのだった。1/9

私はその巨大コンツェルンの総合紹介カタログの作成を依頼されたので、グループの会長やCEOや各部門の責任者と面会して、根掘り葉掘り取材を続けたのだが、結局このグローバルビジネスがいかなる目的でいかなる事業を行っているのかは、いつまで経っても分からなかった。1/9

黄色い戦争が始まり、特定秘密法案がどんどん拡大解釈されるようになったために、昔「おいしい生活」とか「お尻だって洗ってほしい」などというあほらしいコピーを書いていた男も逮捕されたので、バイトで研究社の辞典のコピーを作っていた私は戦々恐々としていた。1/10

突如姿を現した化け物は、「おい、早くおいらを殺してお前の手柄にしろ」と言った。1/11

私はその傲慢な女のことで頭に来ていたので、茶色い電車を両脇に抱えて国電に乗り込み、阪急梅田駅のプラットホームに投げ出すと、2回3回と大きくバウンドした電車は、うまく線路に乗っかった。1/11

頭の中に+にも×にも似た2つの大きな図形がかわるがわるクローズアップされるので、全然眠れない。1/12

覆面パトカーに追われた私たちは全力疾走で逃げ出したが、とうとう追いつかれそうになったので、高速道路のコンクリート舗装の中にある蛸壺のような穴の下に潜り込んで隠れた。1/12

やっぱり白い夕顔のような顔で淋しく頬笑んでいるね。君はほんとうにあのYなの? 君はいまどこに住んでいるの? 君のお父さんは、お母さん、妹さんは元気なの? 君はまだ生きているの?1/14

「専務は神も畏れぬ大罪を犯していますよ」と社長に告げ口したら、社長はニヤリと不気味な笑みを漏らした。1/14

新大戦で指揮官からの特命を帯びて大陸で一人旅を続けていた私は、ある日母からの葉書を受け取ったが、それには「お前は大水で流されて溺れそうになるが、心配するな。乾燥地に辿りついて、九死に一生を得るであろう」と書かれていた。1/16

その葉書には、さらに「お前の命を狙っている悪い奴がいるから、くれぐれも気をつけよ」と不吉な警告が記されていたので、ふと窓を見ると、黒い3つの影がこちらをうかがっている。これがその刺客だ。俺はきっとこいつらに殺されるに違いない、と思うと、今までに経験したことのない恐怖が湧き起こって、私は「ワアア!」と絶叫していた。1/16

原発の汚染がますます進行して大気を汚し続けたために、人々は次々に死んでいった。そこで悪賢い政府は、死を前にした彼らが暴発して一揆を起こさないようにするために、みさかいなしに国民栄誉賞を贈ることに決めた。1/17

夜中に妙なる音楽が聞こえたので、よく聞こうと耳を澄ませると、1台のオートバイが夜霧の第2国道を疾走しているのだった。

「よーく見るんだ。あんたがやるべきことは、あんたの手に全部書いてある」とアナウンスがあったので、腕を捲くると右手の指先がホタルのように光っていて、指の下には細かな数字が羅列されていた。1/19

世界中の天地創造の神話を研究していた私は、空前絶後の物語を新たに創生しようと試みたが、頭に浮かぶのは陳腐な落し噺ばかりだった。1/20

私の名前をいくらネットで検索しても「砂の緑色のアリジゴク」という記事しか現われないので、仕方なく砂壺の奥底に潜んでいるのだが、いくら待ってもなにも落ちてこないのだった。1/20

テレビ局に入った私の最初の仕事は、処女のパリジェンヌを探せというものだったので、北から南まで全国を駆けずり回ったのだが、どこにもいない。ようやく巡り合ったのは高野山の宿舎だった。1/20

1969年に同期入社したウジアオイさんが、昔とまったく変わらない小鹿のバンビのような姿で現れて、「私が停留所で待っていたら、変なおじさんが「暑いですね、暑いですね」と話しかけたの」と言うので、私はおや、これは昔どこかで聞いた話だぞと思った。1/22

それで私が「ウジさん、もしかしてそのオヤジ「どこか涼しいところへ行きませんか?」って言わなかった?」と尋ねると、小鹿のバンビは驚いて「それをどうして御存じなの?」と目をクリクリさせた。

「僕の知り合いの岡本さんという一人で広告代理店をやっている人がいてね、こないだ三越で買い物をしているオバサンをそうやってひっかけてラブホテルに連れ込んだそうだよ」と言うと、ウジアオイはこれ以上ない冷たい目で僕を見てから、消え去った。1/22

どうにもこうにもいたるところで大蛇が大繁殖している。これは早く退避しないと大変なことになるぞ、と私は思った。

森の中で雨宮氏に出会った。時代は60年代だったから、世の中も人々も伸び伸びとしていてくだけたパーティが始まった。妙齢の女性と話しているうちに、もしかするとこの人は自分の同級生ではないかという気がしてきた。

しかしそれを尋ねるタイミングを失っている間に、若い女性が割り込んできて「私、短大の授業を担当することになったら、シラバスを作れって言われたんですけど、それって何ですか?」と訊くので「白いバスのことだよ」と答えると、妙齢がチラと私を見た。1/24

町内を歩いていたら、私が会社で面接して採用したO女が大きな洋館に入っていく姿を見た。そのとき彼女は1日に2回しか食事ができない貧しい家庭で育ったといっていたが、実際は町内で一番金持ちの男の一人娘だった。1/25

アメリカ土産に買った安物の中古ジーンズをはいて裏原を歩いていたら、見るからに業界人のような奴らや、入れ墨をいっぱい入れた若者が寄って来て、「これはどこでいくらで買ったの」とか、「5万円で譲ってほしい」とか抜かすので、驚いて逃げ出した。1/26

帝国との熾烈な闘争は果てしなく続き、スターウオーズの世界はいつしか現実のものになっていた。いつの間にか遥か遠くの宇宙の彼方にやって来た私が、いくらレーダーで探索しても、懐かしい地球はもはやどこにも見つからなかった。1/27

子供たちを連れて夜道を逃げてくると、怪鳥の卵が落ちていた。1人の少女がそれを拾い上げようとすると、怪鳥の親鳥のオスが彼女の頭を激しく突いたので、少女はその場で昏倒した。すると横合いから巨大なネコが出てきて、いきなり怪鳥を喰ってしまった。1/27

お昼になったのでいつもの定食屋に行くと、オカミさんが「今日も特別にうなぎにしといたからね」と言いながら、けたくその悪いウインクをしたので、私は急に食欲が失せてしまった。1/27

かつて一世風靡していた幻冬舎を凌ぐ超人気出版社が誕生したというので、友達に頼んでこっそり視察に行ったら、見城氏にそっくりの社長が、モデル兼売れっこ作家と差向いになって、彼女の太股の間に目をやりながらなにやら親しげに打ち合わせしていたので、羨ましくなった。1/30

私は全軍を率いて進撃しようとするアガメムノンの前に飛び出して、「これから君たちはどこへ行くの? なんだか不吉な占いの相が出ているよ」と教えてやったら、ホメロスがあわてて飛んできて、「それなら俺が詳しく説明してやるから、彼らをそのまま行かせろ」というのだった。1/31

展示会の最中に頭の悪い営業が、「こんなサンプルを作りやがって、こんなんで商売できるか」と私に毒づいたので困っていると、社長が出てきて「君、このサンプルのどこが良くないのか、具体的に言ってみなさい」というと、シュンとなって消えてしまった。1/31

今井さんたちと東京湾に咲く不思議な花を見ようと遊覧バスで乗り込んだら、たちまち大きな渦の中に巻き込まれて、気がつくと巨大な蛸壺の中に私一人でしゃがみこんでいるのだった。1/31