質素

 

爽生ハム

 

かたまりがある
かたまりは危うくて
かたまりはたゆむ
三人の笑みがひきつり
私は貴方でかたくなる

鈍器をもって跡形もなく
三人は争う
かたまろうずっと
かたまろう私から
かたまろう貴方から
そして意味深に暮らそう

頼っていいはず
かたまりに
忘れていいはず
かたまりなど

今までの弱さに戻らなければ
快楽は三人に喪失を与え続ける

かたまりに戻ろう

 

 

 

夢は第2の人生である 第30回 

西暦2015年皐月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 

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私は親分に会って杯を返すと、その足で丘を登って、宿敵の組の親分をドスでぶすりと殺った。5/1

いつもと同じように、ユニクロのパンツ一枚で会社に行くと、先輩も同期も後輩も、社員の全員が見ないふりをして、私から遠ざかっていくのだった。5/1

我われは極めて限られたメンバーでクーデターを成功させたのだが、軍の首脳部は、その影響が内部に及ぶことを懼れて、我われを遠島に隔離した。5/2

ある目立ちたがり屋のデザイナーが、「もう一度だけ自分のショウをプロデュースしてくれませんか」と懇望するので、仕方なく引き受けたのだが、彼奴は東コレの本番で猫の首をちょんぎるというあざとい演出に打って出たので、私は即座に彼奴の仕事から手を引いた。5/3

「もう少しで宿屋に着くが、あっしはこの先輩とここで一杯やっているから、あんたがたは道を急ぎなせえ。今まで3人でやってきたのが、あんたたち2人になっても大丈夫でがんしょう」と、私は茶店に腰を下ろしながらいった。5/4

海を超え、野山を越え、川を渡って、魔術師が世界中からこのデラシネ村に集まって来た。「つい先ごろ亡くなったばかりの母親を、この世に呼び戻した者には、なんなりと望みの物を与えるであろう」と。この国の独裁者が言明したからだ。5/5

「もうそろそろドラちゃんがやってくる頃よ」と妹がいうので、辺りを見回すと、首から下がちょん切れた愛らしいドラ猫が、空中を飛びながら近づいてきて、私と弟と妹の足元にじゃれつくのだった。5/6

マガジンハウスのMさんに呼び出されて銀座を歩いていたら、欲しかった着物があったので、それを買って「じゃあここで失礼します」と挨拶したら、「いやいや、ここであなたに帰られたら困る。今から社まで来てほしいんです」という。5/7

言われるがままについて行くと、旧知のK氏とO氏が、社の2階のカフェに座っていたので驚いていると「実は来年新雑誌を創刊することになったので、あなた方3人が協力して立ち上げてほしい」と言うので、またまた驚いた。5/7

「しかし私はもう古稀で、棺桶に片足をつっ込んでいる隠居の身だから、そんなの無理です」と辞退すると、М氏は「実務は全部2人がやるので、あなたは何もしなくて結構です。ただひとつお願いががります。今すぐその着物を返して、創刊パーティ用のフォーマルウエアを買ってきてください」と言うのだった。5/7

最新型の水陸両用艇で、逆巻く海に乗り入れた私たちだったが、猛烈な大波をまともに食らった航海士は、嵐の海に投げ出され、代わりに舵を取ろうとした私の頭の上から、大量の海水が襲いかかって来た。5/8

土砂降りの真夜中に、六本木のインクステックに行ったが、誰ひとり客はいなくて、天井からぶら下っているモニターには、時折思い出したように泡立つノイズが点滅していた。5/9

雨がざんざん降りのカフェバーで、電通総研のSという男のO脚の秘書と仲良くなった私は、ライオネル・リッチーの武道館コンサートへ行ったりして様子を見てから、今夜こそは落としてやろうと土曜の夜に待ち合わせをしたが、O脚女はいつまで経っても姿を見せなかった。5/9

「ハイハイ、今日はみんなを元気な良い子にしてあげようね」と言いながら、作男の亀次郎は、風邪を引いて熱を出している私以外の子供を、まるで甲羅を裏返しにした亀の子のように、澪標の上に仰向けにしていった。5/10

せっかく治ったと思った風邪がぶりかえして、咳は出るし熱もあるのだが、暮しのために無理に働いていたら夜中に倒れた。すぐに救急車を呼んだが、どうも不吉な予感がしたので「子どもと家のことは何卒よろしく」と言いながら家内の背なをそっと抱いた。5/11

案の定、湘南鎌倉病院に急ぐ救急車の中で、私の頭はぐんぐん伸びて、まるでカラフルなシルクハットを10個積み重ねた状態になったのであった。5/11

鯉元という女が、私のギャラをピンはねして逃亡していたことが分かった。5/16

午前1時20分に目が覚めたので、トイレで用を足していると、誰かが階段を下りてきたようなので、水を流してから振り返ったが、誰もいなかった。5/16

私の乗った潜水艦が寄港すると、いつもは隣り合わせに係留されていた僚艦がいないので、その訳を聞くと、私たちの後で出港したまま連絡がないという。そういえば昨日魚雷で撃沈した謎の潜水艦がそれではなかったか、と私たちは嫌な予感に襲われた。5/16

神経質なその監督は、「庭で蝶が死んでいる冒頭のシーンから、ラストの今朝の朝食のシーンまで、そのすべてを撮り直せ」と大声で喚いているのだった。5/15

辰巳組の親分が、「さあAをやるんか、Bをやるんか、はよう決めんかい。決められんかったら、2人ともワシがやっちまうぞ」と脅かすので、仕方なく「A」と答えるや否や、Aは私の目の前で消されてしまった。5/15

いくつもの夢のような物語を夢見ながら、それぞれにふさわしいタイトルをつけようと焦っているうちに、突然咳が出て、ことごとく闇に消え去ってしまった。5/16

はじめて渡世人になってみようかと思ったのだが、すでにこの世界に身を染めていた2人の兄が「止せ止せ」ととめるので、2か月ほど観察してからのことにしようと思った。5/17

湾内にはたくさんの人間魚雷が浮かんでいたので、私は次々に試乗してみたのだが、以前乗っていたのと同じかたちの「回天」はとうとう見つからなかった。あれは死出の旅路に最適の座り心地だったのに。5/18

展覧会が迫っているのに作品が出来ないので、仕方なくせんべい布団を出品したのだが、同じことを考える奴はいるもので7人家族全員の布団を連作と称してぶら下げた人にグランプリを攫われた。なんでも子供の寝小便が激賞されたそうだ。5/19

「さあみんな今日は良いお天気だから部屋の布団をリッシンベンしよう。知らない間にダニやバイキンが巣くっていると良くないからね」と言いながら、寮長は密かに最高齢の私の追い出しを図っているようだった。5/20

竹内君とパッタリ会った。昔の会社のリストラ仲間であるが、風の噂で独立して事業を始めたと聞いていたので「調子はどう?」と尋ねたのだが、娘さんと一緒だったせいか言葉を濁したので、もしかするとうまく行っていないのかもしれない。5/21

突然雷が鳴って猛烈な雨が降って来た。この村にひとつだけの貴重な図書館が崩壊するといけないので、私は職員に大至急戸締りをするように命じた。5/21

「3文主義」を唱えるわが病院では、1人3円で3分間の診療を行っているために朝から晩まで最貧階級の人々が門前に市をなして詰めかけるのだった。5/22

私はただ一人天守閣に籠って孤塁を死守していたのだが、敵が高い梯子を掛けて、唯一の進入路である小窓から顔をのぞかせたので、私は槍を突いては撃退していたのだが、小半時してからとうとう白旗を掲げて降参した。5/23

「寺子屋小僧、寺小屋小僧」と莫迦にされ続けていたので、なんとか独学で大学院に入学できたときには、ざまあみやがれ、これでようやくおいらも一人前だぜと空に向かってうそぶいたことだった。5/24

長い世界漫遊の旅から帰国してみると、投資会社の社長が絶好の物件を前に何もしないで指をくわえているので、「全財産をはたいてすぐにこれを買いなさい」とアドバイスしたら、一気に相場に火がついて、彼は億万長者になりあがってしまった。5/24

私はふとしたきっかけで知り合った夫婦と交際するうちに、艶めかしいその夫人の怪しい魅力の虜となって、さながら蟻が蟻地獄の擂鉢に落ち込んでいくように沈み込んでいった。5/25

私がジャイアンツの青木のように粘りに粘って四球を選んだおかげで、次の打者は初球をヒットすることができたんだ。5/26

私は突然、自分がまだ卒論を書いておらず、履修すべき単位がいくつも残っていて、つまりは大学を卒業していないことに気づいて、焦って、急いでキャンパスに駈けつけたのだが、生憎真夜中で扉は締まっていて誰もいないのだった。5/27

S社の商売は、手が込んでいた。中古品の安い机を大量に並べておいて放火して、「ここには昔有名な大寺があった」と主張して、各方面に働き掛けてその再建の仕事を自社に引っぱってくるのである。5/28

「あんたの企画書はなかなかよく出来ている、と大手商社のMさんが褒めていたよ。早速フォローしてみたらどうだね」と専務がいうので、私はすぐに出かけようとしたのだが、肝心の企画書の中身をすっかり忘れてしまっていることに気付いた。5/29

小学館の梅沢さんの好意で、私は病気の妹の付き添いでその病院に寝泊まりすることが出来たが、妹の病が癒えたらただちに二等兵として戦場に派遣されるに違いないと思うと、夜もおちおち眠ることができなかった。5/30

今日は、私の家系の最初から四代目の祖先が亡くなった命日である。彼はそのもっと遠い祖先の時代から引き続いて時の権力者と激烈に戦ってきたのだが、それらの詳細については誰にも語らずに、さほど長くもない生涯を閉じたのである。5/30

会社は今日で御仕舞なのに、それを知ってか知らずか大道君が、アメリカの海外研修から帰国したばかりの女子からおみやげをもらって「ありがとう」とお礼を言っているのを聞きながら、私はタクシーに乗り込んだ。

運転手に「駅前の食堂に行ってね」と告げたまま、座席に寝転んで曇り空を眺めていると運転手が突然私の手をつかんで「お客さん冗談はやめてくださいよ」と言うので、握りしめていた左手を開けると、100円玉が4つだけ入っていた。5/31