人世にケジメを

 

佐々木 眞

 

 

ある日私が、まず前菜を、次いでカレーライスを喰い、最後にコーヒーを飲みほしてから外野の守備についていると、突如大空の高みからボールが落ちて来た。
思わず両手を伸ばすとグローブにすっぽり収まったので、観客席は「ナイスキャッチ!」と大騒ぎだった。

球場では、対立する両勢力が泥沼の戦いを繰り広げているので、とうとう本邦最大のヤクザの大親分が仲裁に乗り出して、ケジメをつけることになったのだが、裏世界でケジメをつけることが出来るのはヤクザしかいないからこそ、彼らは廃れないのだ、と私は改めて思い知った。

その時だった。
私は、この際新たにケジメカメラマンになって、世界中で対立抗争する勢力がケジメをつける現場へ駆けつけ、その証拠写真を撮ろうと思いついたのだった。
ケジメカメラマン! どうだ、新しいだろう!

すると山口百恵や桜田淳子、西田佐知子、ちあきなおみなど、
もう2度と歌わないと思われていた歌手たちの一期一会のコンサートが開催されるというので、日比谷公会堂へ駆けつけると、長嶋茂雄という人が、悪くない方の足で私の突進を阻止したのである。

私は腰と辞をうんと低うして、
「長嶋さん、申し訳ありませんが、あなたの長くのびたこの足を引っこめてくれませんか」と頼んだのだが、世紀の打撃の天才児は知らん顔して、あろうことか今度は悪いほうの足まで投げ出す。

頭にきた私が、「長嶋さん、いやさ長嶋。なんてことをするんだ。これでは百恵の写真が撮れないじゃないか。おいらはこれまであんたの大ファンだったけど、今日限り生涯敵に回るぜ」と凄んでいると、王選手や金田選手が出てきて「シゲさん、ええ加減にしろや」と云うてくれたので、長嶋茂雄はやっと両脚を引っこめた。