広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
手紙を書いた
手紙というよりも訴えになっていた
可愛らしい便箋で11枚になってしまったそれは
お願いだから、もうやめてと
大切に思っているひとたちに書いたもの
わたしの現状を知らないひとたちに
知ろうとせずに、頭がおかしいと決めつけているひとたちに
なぜこうなったのか、そしてなぜこんなふうな手紙を書かねばならぬのか
わたしにももうため息すら出ずに
暗闇で小さくなっていたいと思うほどの
ひとを変えたりしようとは思わない
それはできることではないのだ
知っている
けれどもそれが偏見に満ちたものでわたしを切り刻んできたものなら
変えてほしい、無理でも
せめて知ってほしい、それを綴った
下書きは倍以上だったから
要点をなるべく纏め、脱線し過ぎぬように
警戒を解けるように
もう届いて幾日にもなるが
どうやらこれも受け入れられるものではないようだ
わたしは、そんなとき落ちこむ
当たり前なのだけれど
落ちこんで闇のほうをみてしまいたくなる
けれども踏ん張って
今まで通り踏ん張って生きている
誰かが言うこと、することに100%の正解があるとは思わない
同時に100%の間違いがあるとも思わない
ここで、わたしとその人たちはすれ違ってしまう
そのことが、大変に悲しい
考えるのをやめ、何かを盲信してしまうのが
一番親しかった家族であるというのが
事実ではないことで今まで幾度責められたろう
わたしが嘘をついていると幾度責めれば
彼らは安定したのだろう
そこに本当の温もりなどないというのに
じぶんを、来し方のじぶんを美化する気など毛頭ない
お願い
今回だけは読み深めてほしい
できれば抱きしめてほしい
泣きながら思っている
こころが泣きながら感じている
けれども少しほっとしている
わたしがやさしい嘘をつかなくていいことに
彼らを必要以上にほめたたえなくていいことに
もう気がついたから
赤湯を過ぎて
月山を
西に
眺め
山形新幹線で
帰ってきた
赤湯には志郎康さんが学童疎開していた
新庄まで
姉が
迎えにきてくれた
金山を通り
車で
帰った
姉の家には義兄の猫が
いた
義兄はいない
義兄は逝った
姉は
芭蕉菜漬を漬けてくれていた
壁には
きみの描いた
母がいた
かぶとを脱いだ
かぶとを脱いでいた
鳥海山がいた
* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”自動描写” より
#poetry #no poetry,no life
飛び出してきたんだ
四角
色とりどりの
いろんな大きさの
「もう少し落ち着かれた頃でしょうか」ときた
「心ばかりの品ではありますがお祝いをお贈り致します」ときた
職場の皆さんからですよ
宅急便のダンボール箱から
色とりどりの24冊
そうだった
お祝いあげたいけど何がいい?と聞かれて
絵本がいいってリクエストしたんだった
育休半年取りますって
みんなの前で恐る恐る言ったらさ
「おめでとう、仕事のことは心配しないで」
「パパ、子供の成長しっかり見てやって」
で、人事課の人に手続きのことで内線したらさ
「ちょっと待ってて、今説明行くから」
書類一式携えて駆けつけてくれたギョロ目のHさん
太い指で要所を示しながら
「この日までは有休使った方が得だよ」
なんてことまでアドバイス
時代は変わったなあ
お昼寝から覚めてとろっとしてる
コミヤミヤとこかずとんの間に
かずとんパパ
およっと割り込んで寝転がる
まだ言葉わからないって?
平気平気
色とりどりの四角の中から
飛び出す飛び出す
もけらーっのびらーっふくれらーっ
くっついたっついつっついた
しましまぐるっとぐろまきまき
ばあばあいないばあいないばあばあ
ほっとしろくまどろふわほっと
飛び出す飛び出す
や、今度は
とろっとしたおめめから
コミヤミヤとこかずとんも飛び出した
およっおよっ
かずとんパパの声に乗って
脱ぎ捨てたおくるみ、遥か下
色とりどりの奴らと
手足絡ませてる
おでこぶっつけてる
ベロ見せ合ってる
参考図書
*『もけら もけら』(山下洋輔 文/元永定正 絵/中辻󠄀悦子 構成 福音館書店)
*『くっついた』(三浦太郎 作 こぐま社)
*『しましまぐるぐる』(柏原晃夫(かっしー/絵 学研プラス)
*『いないいないばあ』(松谷みよ子 文/ 瀬川康男 絵 童心社)
*『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん、もりひさし、わだよしおみ こぐま社)