michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

レイワ行進曲

音楽の慰め第32回

 

佐々木 眞

 
 

 

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
明治でもない 大正でもない
昭和でもない 平成でもない
英弘でも 広至でも 久化でもない
万保でもなく 万和でもない
レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
姿もきりり 心もきりり
山 山 山なら 富士の山
海 海 海なら 日本海
僕たちは行こうよ 行こうよ 足並みそろえ
タラララ タララ タララララ

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
人 人 人なら ニッポン人
中国人でもない 朝鮮人でもない 完全無欠のニッポン人
(できたらアメリカ人がいいけれど)
僕らは100%の純日本人
世界に冠たるニッポン人

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
空 空 空なら 日本晴
大人になったら 日本会議
この美しい国に 革命起こそう!
進め 進め 雁首そろえ
ラリララ ラララ ランララン

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
大きな望み 明るい心
強い人には忖度し
落ちこぼれなんか ぶっ殺せ!
巧言令色鮮し仁
明るい未来に 挑んでいこう

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
元気なからだ みなぎる力
鳥 鳥 鳥なら 鷽の鳥
行こうよ 行こうよ 世界制覇だ
明日待たるるその宝船
レッツゴーゴー レッツゴー! レッツゴーゴー レッツゴー!

 
 

*久保田宵二作詞・佐々木すぐる作曲「昭和の子供」を参照&無断引用し、自在に解体新書いたしました。

「昭和の子供」

 

 

 

与謝野晶子になぞらえて、弟へ

 

みわ はるか

 
 

誰も使わなくなった机、ベッド、中身がごっそり抜かれた本棚。
がらんとした8畳ほどの部屋はがらんとしていた。
机の下には持って行き忘れただろうお気に入りだと言っていたボールペンが転がっていた。
ベッドの上には趣味のバイクのパンフレットが置かれたままだ。
窓を開けるとちょうど西日が眩しくて反射的に目を閉じた。
淡いオレンジ色の西空はなんだか余計に心を寂しくさせた。

2019年、3月、弟は4月からの就職のため家を出た。

8年前まだ高校2年生だったあなたから色んなものを奪ってしまって本当に申し訳ないと思ってる。
お詫びと言っても許してもらえないかもしれないけれど、大学進学やその後の悩みには心から対応したつもりです。

8年前、わたしの体調がものすごくすぐれなかったこと、その他もろもろの事情で弟とは別々で暮らすことにした。
弟から母親を奪ってしまった。
遠くではないけれどお弁当とか、話したいこととかきっとたくさんあったはずなのに。
わたしのわがままで一瞬で環境を変えてしまった。
本当にあの時はごめんね。
もっとよく考えるべきだったと後悔ばかりが張り付いている。
戻れるのなら本当に戻りたい。

体調が少しずつよくなったわたしは頻繁に実家に帰るようになった。
弟は外からは分からなかったけど、話すと色々鬱憤がたまっているようだった。
その時わたしは決めた。
弟が社会に貢献する年になるまでわたしは自分のことは考えないようにしよう、いつでも何かできるように身軽でいよう。
それが贖罪だと思った。

そのうちに弟は受験生になった。
数学や物理は教えることはできたけど、ごめん、古典や漢文はお手上げだった。
論理的に考えれば1つの答えにたどりつける類は好きだったけれど、難解な助詞や難しい漢字が次々と出てくる文章は苦手だった。
希望している大学をわたしは勝手に下見に行った。
その日は雪がしんしんと降っていてものすごく寒かった。
バスの窓から大学の門扉が見えたとき無事に到着したことにほっとした。
時計がついた高い塔はモダンでお洒落だった。
なんでだろう、その時計にむかって「無事に合格できますように」とお祈りした。
雪はいつのまにかやんでいた。

着なれないスーツを身にまとったあなたはその時計台の前にいた。
にこにことした朗らかな顔だった。
その横には「入学式」と書かれた色紙台が立てかけてあった。
希望に満ちた新しいスタートだった。
大学院まで進んだあなたにはたくさんの友人ができたと聞いた。
偉そうに言うわけではないけれど、学生時代の友人は生涯の友人になる。
ぜひ、これから先も大切にしてほしい。
同じ時間を同じ場所で過ごした人の間には分かり合えるものがあると思う。
辛い課題もたくさんあったと聞いた。
それは隣に一緒に頑張った友人がいたからではないですか?
きちんとこなしたあなたは本当に偉い。
新しい趣味もいつのまにか見つけていた。
全国各地を巡るキャンプ、骨折もしてしまったけれど風を切って走る心地よさを味わえるバイク(本当はやめてほしいけど)。
色んな事が経験できた6年間は貴重だったね。
自分のやりたいことができる会社に入れてよかったね。
また違う景色を見て色んな事を感じて考えて行動するといいと思うよ。
どうしても嫌になったら帰ってこればいいさ。

鬱陶しい姉だったと思う。
心配性のわたしは長々と色んな用件でメールをした。
「分かった」と返信が来るときはまだいいほうでたいてい既読スル—だった。
それでも事あるごとに送り続けたことはさすがに反省してる。
引っ越しの荷物を積めているとき「お姉ちゃんがいてくれてよかったわ。」とぼそっと言われたことは生涯忘れないと思う。
大切に心の中にしまっておこうと思う。

この4月からは過度に干渉するのは卒業します。
自分の人生を好きなように生きてくれ。
行きたい方向へ羽ばたいてくれ。
人生は有限で意外と短い。

卒業、本当におめでとう。

 

 

 

ボケ

 

塔島ひろみ

 
 

また失敗をしてしまった
先生なのに失敗をし
先生なのに怒られている
もっと偉い先生に怒られている
教室で、生徒の前でもよく怒られるが
今日は職員室で怒られている
偉い先生はプンプンだ

私の失敗で燃えてしまった。
マッチのいたずらをして 父がチリ紙交換で集めた新聞紙が燃えた。
火はあっという間に燃え広がり
家と、隣の銭湯と、ペンキ屋が燃えた。
「取り返しがつかないでしょ!」
偉い先生は声を荒げる
風にあおられ、燃え盛る火を、ペンキ屋の秀和が眺めている
私は目をいっぱいに見開いて秀和を見る
涙がこぼれそうなのだ
「あれほど言ったのに!」
偉い先生も泣きそうに唇をかみしめる

青い物干し台におそろいの青い竿がかかり タオルと、シャツと、靴下が、干されていた
強風が物干し台を揺らし、吊るされた洗濯物がウサギのように跳ねていた
愉快に、奔放に、不協和に踊りまわる、タオルと、シャツと、靴下に、マッチのことを忘れ私は 釘づけになる
窓の隙間から入り込む風は生温かく 春の訪れを感じさせ、
私の胸は高鳴り、そして、
家は燃えてしまった。

終業時刻を過ぎた職員室で 残っている先生たちは思い思いに、でもおそらく皆的確に、仕事をしていた
私が怒られることに(私を怒ることにも)慣れている先生たちは、今私が怒られていることに関心を示さず、
一人、偉い先生に用があるらしい生徒が、ドアのそばで私が怒られ終わるのを待っていた
それは進路が決まっていなかった生徒で、リボンを巻いた鉢植えを抱えている
きっといい知らせを告げに来たのである
ステキな風が職員室に吹き込み、赤い花びらが飛び込んできた
私の大好きなボケの花の花びらだ

ショベルカーが燃え残った風呂屋の煙突と壁を突き崩す
タイルに描かれた、どこか異国の湖と山が、お城が、ガラクタと化し、
私は秀和と瓦礫の山によじ登る
うずたかい瓦礫の、天辺に立つ
お前のせいだよ! 秀和は、天に向かって大声で叫ぶ
その日私たちはそこに並んで、春の風に吹かれながら目を大きく開いて
新しい景色を眺めたのだ

偉い先生の足元で、やわらかい赤色の花びらがクルクル回転し、更にどこかへ移ろうとしている
どんな失敗をしたのだったかも忘れ、
私はうずうずと、怒られ終わるのを待っている

 

(3月22日 職員室で)

 

 

 

何の変哲もなかった空が

 

今井義行

 

何の変哲もなかった空が 今日の午後 濁っちゃったよ
夕べ イイジマコウイチさんの 詩を
読んでしまった その為 なんだろう ──・・・・

 

「他人の空」

空白鳥たちが帰って来た。
空白地の黒い割れ目をついばんだ。
空白見慣れない屋根の上を
空白上ったり下ったりした。
空白それは途方に暮れているように見えた。

空白空は石を食ったように頭をかかえている。
空白物思いにふけっている。
空白もう流れ出すこともなかったので、
空白血は空に
空白他人のようにめぐっている。

 

戦後 シュールの 1篇の詩
還ってきた 兵士たち ──・・・・
途方に暮れているような 彼らを受け止めて
空は 悩ましかったの かもしれないが

そう 書かれても わたしは ランチタイムに行く途中で
さっぱりとした 青空を 見あげたかったよ

暗喩に されたりすると

プラネットアース の
何の変哲もない空も 台無しだ

わたしの行き先は 豚カツチェーン店の「松乃家」
食券を買って食べるお店は
味気無いと 思っていたけれど
味が良ければ 良いのだと考えが変わった

そうしていま わたしを魅了して やまないのは
『ミルフィーユカツ定食 580 円・税込』
豚バラスライスを何層にも重ねて やわらかく揚げた
大変に 美味なアートのようなメニューだ

豚カツ屋さんには カツカレーが 必ずあるけれど
あれには 手を染めては いけない
カツカレーは 豚カツではなく カレーです
カレーの 強い味が
豚カツの衣の塩味の旨味を殺す1種の『テロ』です

ソラ、『テロ』は 即刻メニューから 駆逐すべきでしょ ──・・・・

食券を買い求める わたしの指先は 高揚して
「松乃家」の空間で、コズミックダンス、ダンス、ダンス、

運ばれてきた ミルフィーユカツの 断面図
安価な素材の豚バラ肉を手間を掛けて何層にも重ねる
それは 確かに大変に美味なアートのようなメニュー

運ばれてきた ミルフィーユカツを 一口 齧ると

サクッ ハイパー コズミックダンス、ダンス、ダンス!!
サクッ ハイパー コズミックダンス、ダンス、ダンス!!
サクッ ハイパー コズミックダンス、ダンス、ダンス!!

わたしが ミルフィーユカツを パクパク してる時
電気グルーヴの ピエール瀧がパクられた という報せを知った
この世では 美味なものを パクパクするのは
ソラ、当然のことでしょ ──・・・・

鬼の首捕ったような 態度の マトリは 偽物の 『正義』だ
美味なアートを ね パクパクするのは
にんげんの しぜんな しんじつ
裁く ような ことでは ないでしょうが!!

イイジマコウイチさんの 時代 には
暗喩で トランス 出来たん でしょう な
ソラ、ソラも 相当に 負担だった でしょう な

いまは 色とりどりと 跳び道具が あるから な
言葉で 気取らなくても 良い時代なんだろう
詩が 書かれても 書かれなくても
詩が 読まれても 読まれなくても

誰も 気には 留めない
ソラは、ソラで 問題ないんじゃないかな

ランチタイムからの 帰りみちに ──・・・・
ソラ、ソラは、何の変哲もなかった空が
いちばん 純度が高くて 美しいと わたしは思ったよ。

 

 

 

灯台

 

正山千夏

 
 

忘れられない
あの目のひかり
本人さえもたぶん気づいてない
きっと子どもの頃からの
まるで母親を慕うような
さびしげなあの目

暗闇の中に
浮かぶおぼろげな
あの目のひかりを見つけると
私はいつのまにか
風に吹かれる船のよう
灯台へ向かう

いやもしかしたら
私の目もそんなふうに
光っているのかも
背筋をまっすぐに伸ばして
かんがえてみるのです
灯台のように

 

 

 

半分のなにかと

 

ヒヨコブタ

 
 

うつくしいと感じるとき
半分のわたしになる
いつもほんとうはそうかもしれないこと
それを強く感じるだけなのかもしれないけれど

もう半分がなにを感じ
なにを見ているのか掴めない
ぼんやりそんなことを繰り返す

他者が近しい存在であれば
もっとそれ以上の半分が生まれていく
少しずつぼやかしながら
その感覚をぼやかしながら生きているよう

黒い気持ち、負のなにかを嫌悪し続けることをいまもしたくない
少し前に思う日々がずっしり重みのある年単位になって
半分のわたしが処理してきたり理由づけをしてきたのかとも

あえてつくりだした世界を語ったわたしはもう必要ない
反射のような防御だとしても

飛び去るようなはやさも焦燥も落ちつかせるのに
これだけの時間が必要だったのか
いまがほとんどの理想を叶えていなくても
しゅんかんに助けられること
温もりのあるひとやことばであるなら
概ねよかったんだ

あのひとやあのひとと微笑みたい
叶わなくてもあたたかなことは
なんと呼べばいいのかわたしはまだ知らなくて
知らないから明日を待ちたくて

 

 

 

ノラは

 

今朝も
早く目覚めた

曇ってた

それで河口まで走った
ノラたちは

いなかった

いつも
河口沿いのアスファルト道の

柵のうえにいる

黒猫と
白猫と
赤猫と

白黒の子猫と
黒い子猫と

いつも柵のところで

海を背負って
こちらをみている

ノラは
飼われているのではない

誰かたまに
餌をやるのかもしれないが

餌を
あてにしている

わけでもない

ノラは野良のことか
ノラは浮浪のことか

ノラは

雨の日や
晴れた日や
風の日も

みたことがある

しろい雲が青空にポカンと浮かんだ日に

ノラは
砂に埋もれた

テトラのうえにいた

ノラはノラで生きていくだろう
ノラはノラで死んでいくだろう