michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

声をさがす

 

さとう三千魚

 
 

越せないかと
思った

モコは年を越せないかと思ってた

いつか
雪が降るのを見ていた

日野の駅で
見ていた

ゆらゆら
ゆらゆら

雪は
降りてきた

モコ
歩いていった

義母の仏壇の前にモコ
歩いていった

“まんじゅっこ”と義母はモコを呼んでいた

モコ
さがしてた

声をさがしていた
声をさがしていた

モコ
見ていた

モコ
見えないものを見てた

語るな
語るな

この世に雪は降っていた

ゆらゆら
ゆらゆら

降っていた

いつまでも見ていた
歩いていった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

白に、キミドリ

 

工藤冬里

 
 

無糖ストロングゼロをコンビニの裏で半分捨てて2023を終わらせたのがアル中には早過ぎるというなら何が遅過ぎたというのか世界を締め殺すのには

〇〇史という設定が崩れてきても泪のギターは残る。鋭角の残存物となった嘘は全面対決に向かう。ひとりの嘘として泣いているのだ。

最後の赤軍はリモコンで地雷の蕪を抜き、横たえる。横たわる蕪は満月の下で再び人間爆弾となり、狼狽えながら肺をやられる。股引の身体性を捨象したバルザック的な兵士として、蟹は月夜の畑に横退る。

見えるものは影にすぎず見えない方法そのものが実体である。祭壇は人が望むものではない。銅の体を着けたままその奥に入ることはできない。

咳を殺してベタ塗りの黒
Q&Aは
主題さえ分からず
不本意な年末
名誉回復のために考えついたのが国
国が先
目的が変わらないとはルートを変更するということ
名誉回復のために考えついた国には
無意味だった年始
主題さえ分からず
Q&A
咳を殺してベタ塗りの黒
国では誰が一番嬉しいだろうか
敵意が最も激しくなる時
戻れないとは思わなかった
強風に揺れる泰山木
雨混じりの明かるい日差しの中
世界にはもっと気味の悪い天候のところもあるんだろうなと思いながらも遠くの
雪山に合わない黄緑を見ている

能登の親戚は山に逃げて車中泊

 

 

 

#poetry #rock musician

錆びたナイフ

 

たいい りょう

 
 

言葉は 錆びたナイフのように
他人(ひと)ではなく
自分を 深く 傷つける

怒りは 怒りを呼び
怒りの連鎖を生む

砂糖は 体に悪い

意味の分からない言葉たち

人は 言葉によって 分かり合え
愛し合えるのだろうか

男は しばし 歌を唄い続けた

錆びたナイフを片手に

 

 

 

一本足の少女

 

村岡由梨

 
 

透析のクリニックの、やけに白い待合室で
一本足の、灰色の男を見かけた。
私は、全盲のおじいさんの車椅子を押して
待合室に入ったばかりだった。
人たちは皆うつむき加減で
テレビから聴こえてくる笑い声にじっと耐え、
迎えの車が来るのを待っていた。
翌々日も、同じような時間に同じ場所で
その男を見かけた。
その男も車椅子に乗っていた。
迎えが来るのを、待っていた。
私は、男の見えない足を見ていた。
見てはいけないものを、見ていた。
そして、おじいさんの車椅子にブレーキをし、
近くのソファに座ってぼんやり考え事をしていた。
娘たちのこと、夫のこと、猫たちのこと

遅かれ早かれ終わりはやってくるのに、
私たちはなぜ、出会ってしまったんだろう。

そんな悲しい詩の言葉を、
心の中で反芻していた。

やがて、その一本足の男を見かけることは無くなった。

 

ある日、待合室のあまりの沈黙に耐えかねて、
テレビのチャンネルを変えた。
昼のニュース番組だった。
灰色の瓦礫の山の中に、
片足を失った少女が立っていた。
片足だけでなく、親も兄弟も住む家も無くしたという。
泣き腫らした、燃え尽きたように黒い瞳が
怯む私を突き離して、遠くを見ていた。
一本の松葉杖にしか頼る術のない
不安定にグラグラ揺れる世界が、そこにはあった。

決して目を背けてはいけないものから
目を背けて逃げた私は、
真っ赤に燃える荒野にいた。

そこには、右足を失った18歳の眠がいた。
足元には猫のサクラが寄り添って
じっと前を見据えて
死にたい自分と、闘っていた。

荒野には左足を失った16歳の花もいた。
靴も履かずに、花は
割れた手鏡の破片で血を流しながら、
背筋をピンと伸ばして
昔の自分と、闘っていた。

眠は、使い古したクロッキー帳と鉛筆で、
花は、痛みと引き換えに手に入れた
スネークアイズとスネークバイツで武装して、
自分達を食い潰そうとしている世界と必死に闘っていた。
時には一方に無い右足になって、
時には一方に無い左足になって、
グラグラ グラグラ グラグラと
不安定に
沸騰する
世界
世界と少女たちは互いの肉体や精神を食い千切ろうと、
ギリギリの均衡を保って屹立している。
彼女たちの視線の先にいるのは
もはや私なんかじゃない。
彼女たちは叫び、抵抗し、暴れ回る。
彼女たちには叫び続けてほしい。
この世界が壊れるまで。

 

 

 

2023の終わりに

 

ヒヨコブタ

 
 

今年もあと数日、というところでやってきた落とし穴のような闇
いつも何度もおもってきたのだけれど
結局のところはわたしは生き延びられている
今回も新しい年になればふっと軽くなるだろうか
そしてわたしはあといくつ年を重ねるのだろう

いつもきれいに色づくイチョウが、色づいたことの美しさと、また例年よりものすごく短期間で落ちてしまったことを
家を出られる日、裏表の気持ちでながめていた。
死について考えるのは無責任にも自由で
わたしのその時はいつなのかすらわからない
大切な人たちのそのときは覚悟はあるというのに、じぶんにいたってはまったくだということも

誰とも別れたくはないのに、それは決まっている
わたしはもう少し強くならねば
強くなることも芯を持つことも
じょじょに身につけられますように
その日までに間に合いますように