佐々木 眞
模索
外で遊ぶ子供の声が途絶えた
きっとお昼を食べに家に入ったのだろう
雨の音はしないのに
通るクルマの音は濡れている
私はまだベッドのなかで
朝の憂鬱とたたかう
腰を曲げ頭頂を天空に向けるために手をつく
今現在の私が今日を生きていくために
まずしなければならないことは
たったこれだけなのに
自律神経は逆らう
腹痛を起こさせる
私の自律神経は
何を期待し何に落胆しているのか考える
眠り続ける快楽を貪りたい欲望と
日が昇ってしまう落胆
1日の終わりには
また葛藤する
夜更かし光の快楽を貪りたい欲望と
日が暮れてしまう落胆
私のシナプスは
何を期待し何を恐れる信号を通すのか考える
落胆の経路が太くなれば
小さな恐怖の経路となるのか
せめてもの小さな抵抗の集まりが
私の人生の動きを鈍くする
そのせめてもの抵抗とやらは
一体だれに対するものなのか
全体何に対するものなのか
私はすでに起きて詩を書く今
午後は静かにおし黙る
きっと家に入って夏休みの宿題でもやっているのだろう
もう子供の遊ぶ声も聞こえない
どんよりと垂れ込めた雲
それを切り裂くように鳴り響く
町工場の金属音と打撃音
いつかの夏をわたしは知らない
体験はしていない
ただ感じて
読みとって過ごしてきた
夏
たいへん遠い昔の
歴史のなかにあったことと
幼いころ思っていた
いたましさについて
夏
考えないことはなかった
いまのじぶんから見たその夏は
そのじだいは太古ではなかった
いっしゅんいっしゅんの連続のなかにいつも
いたのだろうかというのみだった
水を求めて暑さをしのぎたいのは
いつも変わらずとも
じぶんの変化はじぶんも見てきたこと
他者の変化を変えることはできないだろう
いつかのなんらかの区切りというものの
意味とは
先に旅立ったひとののこしたものとは
わたしのなかでよりわけて
あたたかになる道を選ぶ
大切にしたいことが数えきれなくても
すくなく思えても
どちらもいっしゅんの連続でここにいる
水の流れのようになるべくの穏やかさと
木々の成長のようにたゆまぬことと
寄り添いたいと
願うことと
わがままに散々に混じりあう
途方もないわがままのようにも思うとき
すこしたちどまる
こころは全速力で駆け出したとしても
ぼんやりそれを眺めるように
過ごすことも
のこされたことのなかにヒントがあるとき
ただ嬉しいと思う
いつまでも迷子でもなく
迷子のように見えてもそこから
すっと這い出ていることも
確かにあるような不思議
不思議とあたたかさにつつまれていても
悩むのはなぜか
戸惑うのはなぜか
考える
そして休む
駆け抜けることはないだろう
すっと寄り添いたいのはときに傲慢だろう
傍にいるじぶんがわたしに語るとき
はっとすること
難解なドリルなのか生きることは
そうとらえるのかどうかも
じぶんに問いながら
大切にしたいと思うひとのこころを
踏み荒らしたくないと
過度ななにかより
あしもとがどこにあるかを
見つめて夏
駆け出そうとするこころを少しだけ止める
じきに
秋
旅立ったひとへの思いもさまざまな
秋がくるのを見ている
おととい
かな
夕方
モコと散歩してるとき
荒井くんに電話した
荒井くんは
いま
香港
といった
これからデモを見に行く
といった
このまえまで
タイにいて
いま香港なのか
昨日は
今井さんから
“ヴァギナのかたち”という詩が届いた
そこには性愛のことが書かれていて
だいじょうぶかなと
思った
なにがだいじょうぶかな
なのか
人の尊厳とか
人権とか
だいじょうぶかな
と
思った
香港には
だいじょうぶじゃない人たちがいる
中国にも
だいじょうぶじゃない人たちがいる
チベットにも
だいじょうぶじゃない人たちがいる
モンゴルや
ロシアや
シリアや
他の国々にも
だいじょうぶじゃない人たちがいる
だいじょうぶじゃない人たちは
口をつぐんだり
亡命して生き延びたりしている
亡命できずに
死んだ人たちもいる
たくさんいる
本国に引き渡されたら投獄され殺される
本国に引き渡されたら投獄され殺される
本国に引き渡されたら投獄され殺される
本国に引き渡されたら投獄され殺される
本国に引き渡されたら投獄され殺される
それらのことがあるなかで *
荒井くんは
香港にいる
姉からは
暑中見舞が届いた
三年ぶりに
西馬音内の盆踊りで踊ったと書かれていた
義兄の供養に
踊ったのだろう
はじめて一人暮らしは悲しいと感じました
では酷暑に負けずにご自愛ください
そう
書かれていた
* 工藤冬里の詩「in all these things」からの引用
凝視(みつめて)してください
1枚の ガラス液晶を 透(とお)して
あなたの
孤独の 聲がする
I want to live with you, Yuki !! I feel lonely Yuki… I like also new environment..
I miss you being together…
私は 1点を みつめる
そこには あなたの ヴァギナがあって
ひくひくと 痙攣している
きれいに 剃られて いるので
丘陵状の そのかたちが はっきりと わかる
アルジェリーは
丘陵状の 左右対称の膨らみに
2本の指を添えて グラインドさせる
2本の指を添えて グラインドさせる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は 1点を みつめる私は 1点を みつめる
「Eat me, Yuki !!」
「食べるよ。」
丘陵状の そのかたちの1点に 光るものあり
丘陵状の そのかたちの1点に 光るものあり
私は その光をすする私は その光をすする
1枚の ガラス液晶を 透(とお)して
高い音をたてて その光をすする・・・・・・・・・・
「オイシイ !!」
「オイシイ !!」
アルジェリーは「ここちよい !!」という言葉を
「オイシイ !!」だと 解釈している
丘陵状の そのかたちの1点に 光るものあれ
丘陵状の そのかたちの1点に 光るものあれ
私は 1点を みつめる
私は その光をすする私は その光をすする
ひくいところや
たかいところで
いろいろないろで
それをうえから
わたしのばくはつをうえから
にくのひろがりをうえから
じゅうおうの矢印は
腸の位置にあり
肉色の柱
モオヴの路電
ラーメン構造
赤玉が隠れた洞門
羽があって手があるもの
水の色が心持ちを決める
入口と出口が無数にあり過ぎて
わたしの花火は
はらわたのストロボ
洞門ミミズの内部をトラベル
ストレッサーとしてのトラブル
内壁を伝う音声の未来
円熟というより 立ち直りが早すぎる
人のことまで考えて
おりこうなこえはいつかはがされるのだろうかいや
in all these thingsそれらのことがあるなかで
かんぜんなしょうりをおさめています
in all these thingsそれらのことがあるなかで
音声はかんぜんなしょうりをおさめています
遂に実物見ちゃいましたよ
何十年もの夢ですよ
うず、うず
うず潮
鳴門のうず潮
昔むかーしテレビで「鳴門秘帖」ってのをやっててね
話は忘れちゃったけど
オープニングのうず潮の映像がとにかくカッコいい
いつか見てやる、いつか見てやる
うず、うず、うず
心の底に何十年
それが遂に実物ですよ
金曜の夜に会社出てそのまま羽田空港へ
第1ターミナルと第2ダーミナル間違えてミヤミヤに叱られて
1泊してバスで1時間弱
喉乾いて「うず潮サイダー」
微かな塩味が喉元突き
うず、うず、うず
盛り上がっているうち
集まってきた、集まってきた
期待に胸を膨らませた皆さん
うず、うず、うず
強い陽差しに輝く「わんだーなると」の口に吸い込まれていく
さあ、ぼくたちも吸い込まれるぞ
船内の椅子に腰かけたものの1秒で無意味と悟り
子供たちの声が響き渡るデッキへ
家族連れが多いなあ
お、この御一行は中国からのお客さんかな
男の子女の子1人ずつ連れたご夫婦
2歳と3歳?
やっと歩けるって感じ
くたびれた時の備えとして2人用ベビーカーがスタンバってる
「わんだーなると」、泳ぎ出す
岸から離れるにつれ波が荒くなり
うず、うず、うず
わぁお、いきなりクライマックス
きゅるきゅるきゅる
海面から馬の頭みたいのが生え出る
にゅいーっと上体を起こしそうになる寸前
別の角度からの力にぶん殴られて
くぅるくぅるくぅるくぅるーっ
深い穴を開けながら沈んでいく
ほら次、ほら次
きゅるきゅるきゅる
と生え
くぅるくぅるくぅるくぅるーっ
と沈む
「わんだーなると」の周りだけ
騒々しい
でもって、この区画の外は平穏そのものなんだ
うず、うず、うず
すごいなあ、「鳴門秘帖」なんてメじゃないぞ
写真撮るのをやめてひたすら海面を覗き込むばかりのミヤミヤ
隣の中国人御一家も大はしゃぎ
特に子供たちが弾けてる
お父さんお母さんに抱っこされて
足バタバタ
「あーひゃー、あーひゃー」
良かったねえ、面白いもの見られて
うず、うず、うず
「すごかったねえ。聞きしに勝るとはこのことだね」
下船して満足そうなミヤミヤ
いやあ、ホント
何十年もの夢に実物があったなんて
顔にかかった飛沫はしょっぱい
生きて、動いて、回って
塩味までついてる
施設の説明によると
100メートル程の深さで高速度で流れる本流
浅瀬になっている両岸付近での低い速度の流れ
その速度の落差が海水の回転を生むのだそうだ
しゅーっと走り抜けようとする本流が
おっとりした両岸の流れにぶつかって
がたん、がくっ
跳ね返されては
うず、うず、うず
なるほど
世界の3大潮流の1つ
夫婦で地学の勉強もしちゃいましたよ
帰りのバス停に歩くと中国からの御一家にまた遭遇
力持ちのお父さんは荷物係
お母さんはベビーカーをゆっくり押して
微笑みあってる
お互い、珍しい景色見れて良かったですねえ
ボクちゃん、お嬢ちゃん、一緒のバスで帰ろうね
ところが、何と、何と
2人の子供たち、飛び降りて走り回ったかと思うと
ベビーカーをお母さんの手から奪い取った
バス停から少し低い位置にある道路へ
投げ落とす
がたん、がくっ
もういっちょ
がたん、がくっ
「あーひゃー、あーひゃー」
お母さん、慌てて止めに入る
「あーひゃー、あーひゃー」
うず、うず、うず
たまげた
落差だよ
うず潮生んだ落差だよ
海でもバス停でも
おんなじ落差の原理が
おんなじ歓声を発生させてる
実物ってのは違うねえ
何十年の夢よりすごいねえ
うず、うず、うず