michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

奇襲成功

 

辻 和人

 
 

新兵器の投入だ
顔真っ赤手足バタバタの魔の7時
ギャン泣き声に挟まれて危機に陥ったかずとんパパ
だが今日は新兵器があるぞ
両端に膨らみを持つ赤い棒状のものが
コミヤミヤとこかずとんの頭上を駆け抜けた
西松屋で1000円で買った
マラカス型のガラガラ玩具
ジュカジュカジュカジュカジュッ
かずとんパパが強気で振ると
強気の羽ばたきの
ムクドリの急降下
コミヤミヤの声ぱたりと止む
こかずとんの声ぱたりと止む
撓んだ曲線の航跡から
にゅっと嘴生え出て
空気を鋭く切っていく
あっけ
に取られた
2つの口をまあるくする
お次はアゲハチョウ
かずとんパパが人差し指と中指を使って弱気に振ると
ながーい触覚もそっと動かし
ゆらゆら舞い上がる
小刻みに上下
小刻みに羽震わせ
シュカシュカシュカシュカシュッ
描き出されるゆるーい八の字に従って
2×2の目
きゅっきゅきゅ動く
さっきまでのギャン泣きが噓のよう
かずとんパパの魔法の手の力で
両端が膨らんだ赤い棒の中から
突如出現した
ムクドリとアゲハチョウ
奇襲成功だ
よし、またムクドリいくぞ
次のミルクまでの1時間持ちこたえるぞ
ジュカジュカッシュカシュカッ

 

 

 

ぶらんこ *

 

さとう三千魚

 
 

夜が
あけて

空には
青空

ひろがっている

モコ
吠えている

肉が

欲しいのか
モコモコ

女が
呼んでいる

モコの走る音が聴こえる
走ってる

ぶらんこが揺れる

遠い

誰も
いない

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”スポーツとあそび” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

モンハン

 

工藤冬里

 
 

藤消えた山がもう「さみしくないだろ」

たたかいなど忘れてしまった頃にノスタルジーは否定し去るものではなく効用もあったことに気付く
人間味、てことだ

目と歯と胸の順に我に返り身を投げる崖の腰の痙攣

息の仕方をあれこれ
急なダウンロードにハッとして
眼球の水平線を招来する
防御も祝福
水を抜くように洗濯機の根底が見えるようになったAIに
何をどうすればいいかというより
何故なのか訊け

 

 

 

#poetry #rock musician

また旅だより 57

 

尾仲浩二

 
 

この夏に終わってしまう中野サンプラザ
そこでの最後のブックイベントに出店した
会場に溢れる沢山のマニアックな本の中に堀ちえみのアイドル本があった
1981年、写真学生だった僕はホリプロのファン会報紙のカメラマンのアルバイトをしていた
その年、中野サンプラザで開催されたホリプロスカウトキャラバンで優勝したのが堀ちえみ
なので僕は会報誌のために楽屋で、誰よりも早く彼女を撮ったのだ
中野サンプラザ、そして堀ちえみ、これは運命だろう
なのに結局買わなかった、なんども手に取ったのに
レジに出すのが恥ずかしかったから
どうせ本人が書いたわけではないしと言い聞かせ
たった600円だったのに
まだ後悔している

2023年5月3日 中野サンプラザにて