<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第4篇 第31変奏曲から第48変奏曲まで

 

佐々木 眞

 
 

第31変奏曲

世界最高級のヴァイオリニストとして、内外の尊崇を浴びている彼だったが、いくつかの有名曲を絶対に手掛けないのは、それを弾くと、おのれがただちに死んでしまうと知っているからだった。

 

第32変奏曲

長針が12時にやって来た時に、おらっちがしっかりつかまえたので、時計は無事に元に戻ったのよ。

 

第33変奏曲

家族全員が出かけて私しかいなかったとき、もう若くないピンクのラバースーツを纏った女がやってきて、「もうすぐ地球に大洪水が起こるから、これを買っといた方がいいですよ」と勧めたが、「わしはまたノのアの箱舟に乗るからいいや」と断った。

 

第34変奏曲

マイナカードによるAI検索で、リベラルないしは反権力派と見做されると、ただちに警察の特殊部隊が派遣され、有無を言わさず検挙され、徹底的に拷問された挙句に抹殺されるのだった。

 

第35変奏曲

報国寺の裏道を歩いていたら、川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのかと思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。

 

第36変奏曲

そとほり姫を決して陸地にあげないよう、あらかじめ取り決めてあったのが、幸いしたようだった。

 

第37変奏曲

ノーマ・カマリの超ミニスカートが超セクスィーなので、あれを履いてみせてよと頼んだのだが、言下に断られたので諦めていたら、ある日それを履いて会社にやってきたYOKOが地下鉄の上のモンローのやうにしゃがんだので、クラクラしたのよ。

 

第38変奏曲

打ち上げ失敗が相次ぎ、仕方なくおらっちは愛する虎の子の女性宇宙飛行士を最後の有人ロケットに搭乗させる羽目になったので、管制塔の秒読みが気になって気になって仕方がないのです。

 

第39変奏曲

日曜日が来るたびに、僕らはいやいやながら、教会へ行かされた。僕らはやけくそになって、「ニチヨオサンビテエー、ニチヨオサンビテエー」と怒鳴りながら、仕方なく教会へ行ったんだ。

 

第40変奏曲

社長の私が留守中に、私のダミーのAIの評判を聞いたら、当の私よりも高く評価されていたので、だからAIなんて信用できないんだと確信した私は、彼奴の首を引っこ抜いて滑川に投げ捨ててしまった。

 

第41変奏曲

うちの町内会長はすぐに酔っぱらうのだが、酔っぱらうと、すぐに巨大なマサカリを振りかざして町内の家々に乱入するので、住民は怖れ慄いていたのよ。

 

第42変奏曲

ド・クインシー公爵は、昔白いドレスの若い娘の後ろ姿をみて突如ムラムラし、背後から抱きすくめてまるでさかりのついた雌雄の犬のように交尾したのだったが、20年後に自分の隣に優美に微笑んでいる公爵夫人が、その娘だったとは我ながら信じられなかった。

 

第43変奏曲

頭の中では何でも考えていいけれど、それをなんでもかんでも書いてはいけない。

 

第44変奏曲

ウンノ家を護っていた生き神様が、大火事で焼けてしまったので、ウンノ家は、運が尽きたようだ。

 

第45変奏曲

私が自閉症の長男と共にゆったりと暮らしている限り、たとえ全世界が崩壊しようとも、浮世離れしたかけがえのないしあわせを享受することが出来る、と思うのである。

 

第46変奏曲

戦争で殺されることのない日常を、サンアドの葛西薫氏の表現を勝手にお借りして表現すれば、「一日一日が、大切で宝石のよう」に感じるのみなのだ。

 

第47変奏曲

世界中でどんどん人が死んでいくが、おそらくこの国ではおらっちだけがいつまでも死なないで生き残るだろうという噂が一部で流れていたようだったが、意外にもあっさり死んじまったようだった。

 

第48変奏曲

今日は朝から快晴で、死ぬのにもってこいの日だ。

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第3篇 第21変奏曲から第30変奏曲

 

佐々木 眞

 
 

第21変奏曲

バカダ大学の阿呆莫迦教師、ヒラオカトクの授業中に、とても大事なことを思い出したので、急遽下宿に戻って録画をセットしてから、またバカダ大学に戻ったら、誰も居なかったずら。

 

第22変奏曲

町内会から推薦されたウザッタイ元悪童が、あれよあれよという間に保守党と右翼の大物にのし上がって、夜郎自大な専制政治を独裁している。

 

第23変奏曲

水爆実験で繰り返し爆破されながら残骸を悉く集積しましてね、こいつを再利用して何とからなんかいなと思っていたら、さる奇特な方が現れて、これで素敵な別荘を造ってくれませんかと仰るんですよ。

 

第24変奏曲

純白のドレスを纏ったブロンズ新社のワカツキさんが、南青山の洒落たお菓子屋さんの庭で、一心不乱に読みふけっていた。昔ながらのオカッパ頭で。

 

第25変奏曲

小学5年か6年の時「顔洗いひょいと目を上げ四尾山」という川柳みたいな俳句を詠んだ時、弟と妹が「近くの寺山なら見えるかもしれんえど四尾山なんか絶対見えへん」といううたので、母が「別に見えんでもええの。寺山だと字足らずになる」と断じたのでさすがは愛子さんと見直したずら。

 

第26変奏曲

烈女の誘いに乗るとか、いっちゃん洒落たレストランの料理を口にするとか、おいしそうな夢の中に入っていくと、碌な結果にならないことがよーく分かったずら。

 

第27変奏曲

エレベーターとは何をする機械か分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。

 

第28変奏曲

お父さん、台風の英語は?
タイフーンだよ。
お父さん、台風の英語は?
だから、タイフーンだよ。
お父さん、台風の英語は?
だからあ、タイフーンだよ。

 

第29変奏曲

ノブイッちゃんは思う。
惑星が地球に衝突する前に、死ねた。
ヒトハルちゃんは思う。
関東大震災がまたやって来る前に、死ねた。
ボクちゃんは思う。
第3次世界大戦が始まる前に死ねた。

 

第30変奏曲

どういう風の吹き回しか、みんなで芝居をやることになった。まずは場慣れたタコ八郎、続いてドシロウトの私とゼンタロウ、それから愛犬のムクだが、こんな4人でもなんとかなるのだろうか?

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第2篇 第11変奏曲から第20変奏曲

 

佐々木 眞

 
 

第11変奏曲

全身に見慣れないと突起物が総立ちになって、「見てよ、見て見て、こっち見て」と大騒ぎなので、よく見るとさぶいぼたった

 

第12変奏曲

ピーターは、なんで自分がこんな田舎の支局に飛ばされたのか、さっぱり分からず、元の上司に何度も電話してそのわけを聞こうとしていたが果たせず、何年間も腐っていたが、ある日おらっちが上司の上司からそのわけを尋ねると「実は別の奴を飛ばせと指示したのに、人事が間違ってピーターを飛ばしたんだ」というのだった。

 

第13変奏曲

浅いが綺麗な海の中で、小さな魚や海藻がゆらゆら揺れるのを見ていると、時が経つのも忘れてしまう。ふと気が付くと、私は水の中でも呼吸が出来るようになっていた。3/31

 

第14変奏曲

エレベーターとは何をする機械か分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。

 

第15変奏曲

明日の本番を前にして、主役のオセロが降板することになったので、みんなで少しずつ分担することにしたが、本来の役との区別を付けられないので観客は大いに戸惑ったようだったが、そのうちに斬新でシュールな演出だと思ってだんだん納得してくれたようだった。

 

第16変奏曲

会期が迫ったパリコレに出す服のデザインを必死で考えているおらっち。そのコンセプトのひとつは「踊る服」で、もう一つは「考える服」だったが、そもそもおらっちは、物を考えたことなど皆無なので、後の作品はてんで出来ないのだった。
 

第17変奏曲

朝、咽喉がムズムズするので、ケタクソ悪いなあと思っていたら、突然見慣れない小人が飛び上がって、まるで誕生したばかりのお釈迦様のように、両手を高く掲げてテーブルの上に着地したので、えらく驚いたよ。

 

第18変奏曲

死地に乗り入る十八騎

ああ、あれは確か鳥羽殿じゃ

死ぬも生きるも、この時ぞ

死地に乗りいる十八騎
いきつくとこまで
ずんずん乗り入る十八騎
生きるも死ぬも、この時ぞ、 この時ぞ

 

第19変奏曲

報国寺の裏道を歩いていたら川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのか、と思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。

 

第20変奏曲

学校の試験問題は、決められた時間内に、決められた形式で回答しなければならなかったが、それからおよそ50年後に正しく答えられた問題もあった。

 

 

 

人間の澱

 

佐々木 眞

 
 

毎晩風呂に入るので、毎朝風呂を洗っている。

たいていの汚れは落ちるが、擦っても擦っても落ちないのが、いつの間にか風呂の内側の壁面についた茶色い滲みだ。

それは、長年にわたって俺と妻と息子が、代わる代わるこの狭いプラスティックの箱の中に入って、擦りつけた薄茶色の澱だ。

それは、人間の澱。動物の澱。動物の体内からにじみ出る分泌物。
どういう成分だか分からないが、ともかく有機物の澱だ。

この薄茶色の澱をじっと見つめていると、なぜだか昔のいろいろを思う。

なぜ青山で一人暮らしをしていたトップモデルは、ぐらぐら煮えたぎる熱湯の中でまっ白な骨になってしまったのか?

なぜサカイくんは、深夜の浴槽で不慮の死を遂げたのか?

なぜユダヤ人たちは、アウシュビッツで殺され、なぜ私は、ぬくぬくと生き延びてあたたかなこの湯の中でひと時のしあわせを享受しているのか?

いつか私も、父母のように突然心臓まひや脳卒中に襲われ、それがこの薄茶色の澱のついた浴槽で、声なき助けを呼びながら、ひとり真夜中に息絶えるのかもしれない。

 

 

 

傘がない

 

佐々木 眞

 
 

さっきから「傘がない、傘がない」と、陽水が歌ってる。
線状降水帯の集中豪雨を眺めながら、やけくそのように歌ってる。

いよいよ台湾有事の大戦争がはじまったが、
徴兵前に、好きな女を、も一度抱きたい。

だけど「傘がない、傘がない、傘がない」と
まるで拓郎みたく歌ってる。

傘がなければ、なくてもいいじゃんか。
雨に濡れ濡れ走っていけば、好きな女と、も一度デキルじゃんか。

そう思うけど、このニッポン一の優男は、小名木のリバーサイドに佇んで
「傘がない、傘がない」と、いつまでもカッコつけている。

なるへそあんたは、日本全土をすっぽり包む外国製の巨大な傘じゃなくて、
エゴマ油がぷんぷん匂う、小さな、小さな番傘が欲しいんだ。

相も変わらず「傘がない、傘がない」と陽水が歌ってる。
線状降水帯の集中豪雨を眺めながら、やけくそのように歌ってる。

 

 

 

戦争三歌

 

佐々木 眞

 
 

1 キラキラ星変奏曲*

おおきなふかい穴の底に、たったひとり横たわったザネリが気がつくと、二十六夜のまっくらな夜でした。

黄金いろの鎌の形のお月さまと、大小さまざまな星が、白い牛乳を流したように、点点と輝いています。

「あ、あの三つ星はオリオン。あの赤いのはベテルギウス。こっちでキラキラ輝いているのはスバルだわ」と、ザネリはひそかに思いました。

どこかで誰かが「ツインクル、ツインクル、リトルスタア」の歌を、遠くのチェロにあわせてうたっているのが聞こえます。

「あれはジョバンニかしら。それとも、川で溺れたわたしを助けてくれたカンパネルラかしら」と、またザネリは思いました。

満天に星が輝く空の下、ばくだんでむざんにえぐられたような巨大な穴のむこうに、なんだか見たことがあるような建物の残骸が見えました。

「あ、あの建物の中に、私はおとうさんやおかあさんと一緒に暮らしていたんだわ」と、ザネリは、今度ははっきりと声に出して呟きました。

そこは、ガザの街でした。ザネリが家族や友達のジョバンニやカンパネルラと一緒に仲良く暮らしていた、なつかしい、けれども今ではむざんに変わり果てたガレキの山でした。

「でも私は、どうしてこんな蟻地獄のような穴の底に、たったひとりなんだろう? おとうさんやおかあさん、ジョバンニやカンパネルラはどこへいってしまったんだろう?」

「おとうさあん! おかあさあん! ジョバンニいー! カンパネルラあー!」

ザネリは、銀河の星星に向かって、何度も何度も叫びましたが、誰一人答えるものはありません。

すると突然どこかから、なつかしい「星めぐりの歌」を伴ないながら、チェロの奥深い響きのような声が、聞こえてきました。

「南無疾翔大力、南無疾翔大力 諸の悪業、挙げて数うるなし。悪業を以ての故に、更に又悪業を作る。継起して遂に竟ることなし。ザネリや、おまえの両親や友達は、悪因悪果の報いで、みんな遠い遠い所へいってしまった。お前は、彼らに代わって、彼らのぶんまで、しっかり生きるんだ!」

ザネリは、もうみんなには二度と会えないのか、と、おんおん泣いていると、アレアレ、からくも全滅を免れた飢餓陣営のパナナン大将が、曹長と一〇名の兵士を引き連れて、らりらりらあん、とやって来ました。 

バナナのような肩章を飾り、お菓子の勲章をいっぱいつけたパナナン大将は、もう何日もなにも食べていないザネリに、おいしいお菓子と、甘い冷たい汁がつまった琥珀の果実を、お腹いっぱい食べさせてくれました。

それからザネリは、パナナン大将と曹長と一〇名の兵士と一緒に瓦礫の中を、一列縦隊で行進しながら、「飢餓陣営の歌」を合唱したのでした。

生きてりゃ誰でも、腹が減る
そらそうよ、そらそうよ
猫も杓子も、腹が減る

腹が減ったら、食べること
たらふく食べて、眠ること
朝まで眠って、夢をみよ

喰うに困れば、どうするか
霞を喰らって、眠るのさ
死ぬまで我慢の、俺たちさ

おーん おーん アレのアレ
生きるは、誰かを、食べること
生きるは、誰かに、喰わること

おーん おーん アレのアレ
生きるも、死ぬも、みな同じ
死ぬも、生きるも、みな同じ

       *岩波文庫版・谷川徹三編『銀河鉄道の夜』の「二十六夜」「飢餓陣営」「銀河鉄道の夜」に拠る。

 

2 返せ

沖縄は、沖縄に返せ。
北海道は、アイヌに返せ。

香港は、香港に返せ。
台湾は、台湾に返せ。

チリは、アジェンデに返せ。
ミャンマーは、スーチーに返せ。

アメリカは、インディアンに返せ。*
メキシコは、アステカに返せ。

お女中良ちゃんは、正月に返せ。
丁稚小僧は、お盆に返せ。

アマテラスは、スサノオに返せ。
ヤマトは、イズモに返せ。

神宮外苑を、野原に返せ。
都庁なんか、青島に返せ。

空母赤城を、エトロフに返せ。
ロゼッタ・ストーンは、エジプトに返せ。

クリミアは、ウクライナに返せ。
イスラエルは、パレスチナに返せ。

この世の中の、不正を糺し、
こぼれた水を、器に返す。

「いやさお富、久し振りだなあ。」
「そういうお前は与三郎。」**

殺しても、殺しても、みなよみがえる
いくら死んでも、みなよみがえる。

       *正しくは「先住民」と表記。
       **三代目瀬川如皐作「与話情浮名横櫛」に拠る。

 

3 美しい10代

第3次世界大戦で、またしても廃墟と化した帝都の焼け野原を、
2つの影法師が歩いていく。

ラララ、2人だけの野道だ。ラララン、2人だけの夜道だ。
知り合ってまだ日も浅いのに、いつの間にかぼくらは手をつないで 
道なき道を、ゆっくりと歩いていく。

掌に汗が滲んできたのが気になって、ぼくは彼女の手を一回だけグッと握りしめると、
彼女も一回だけグッと握り返してきた。

「しめた!」と思って、今度は間をあけて2回連続でグッ、グッと握りしめると、彼女も2回連続でグッ、グッと握り返してきた。

「やったぞ!」と思って、今度は間をあけて3回連続でグッ、グッ、グッと握りしめると、彼女も3回連続でグッ、グッ、グッと握り返してきた。

「超ウレピイな!」と思って、今度は回数を間違えないようにイチ、ニー、サン、シーと頭の中でカウントしながら、10回連続でグッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッと握りしめると、彼女も10回連続でグッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッ、グッと握り返してきた。

それからぼくたちは、生まれてこの方、これ以上の幸福な瞬間がなかったかのように、すっかりうれしくなって、暗い野なかの一筋の道を、手と手をしっかり取り合って、
どこまでも、どこまでも、歩いていったのでした。

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る32の変奏曲

第1篇 第1変奏曲から第10変奏曲まで
 

佐々木 眞

 
 

第1変奏曲 4分33秒

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第2変奏曲 バナナ

むかしボクが東海道線に乗った時、東京駅から新橋、品川を過ぎて、大船から藤沢を経て小田原の辺で、バナナが生っているのを見つけました。

バナナは、ひとふさ、ふたふさ、みーふさ、ヨーふさ、全部でなな房ありまして、それらがだんだん色づいてくるのです。

白っぽい黄色から、次第に熟して濃い黄色になってくる。

そして、黄色みが増すに連れて、だんだんウマソーになってくるのです。

忘れもしない10月16日のボクの80歳の誕生日、

今日こそバナナを収穫しよう、と東京駅から東海道線に乗り、

新橋、品川を過ぎて、大船から藤沢、小田原を経て、熱海駅で降りて、

白い砂浜をサクサク踏んで歩き、ドンドコドンドコ黄色いバナナを探して歩きましたが、黄色いバナナは影も形もなかったのよ。

 

第3変奏曲

池田ノブオがジャンプ一番、教育勅語を破り捨てた。

 

第4変奏曲

世界一決定戦の後楽園ホールを飛び出して、帰宅しようとしたが、その途中文京区の古い家並をみて、「ここらへんで残りの人世を過ごそう」という意思を固めたが、半ズボンのチャックが開いて、我の陰毛が丸見えになっているのに今頃気付いて、素知らぬ顔で閉じたところです。

そこに東京駅行きのバスがやって来たので、飛び乗ったら、のぶいっちゃんとひとはるちゃんが座っていたので、「ひさしぶり、今日は後楽園で世界戦を見物していたんだよ」というたが、なぜかおらっちの話が、てんで分かっていないようだった。

そうこうしていると広島で抗争している生きのいいヤクザが、いきなりおらっちの腹の上を、2カ所もドスで刺しやがったんだが、幸いかすり傷で、なんとかかんとか事なきを得たんだ。

でも、駅での集会が終わってからが大変。西口の改札前で迷彩服を着た屈強な兵士にいきなり抱きすくめられたので、必死に藻掻いていると、彼奴がなにかもっと大切な用事を思い出したように手を緩めたので、なんとか振りほどいて東口方面に逃げることが出来たんだ。

 

第5変奏曲

急になにもかもが嫌になってきたので、料理長は、デザートの土佐文旦の皮を剥かないで、ナイフで細かく切り刻みはじめた。

 

第6変奏曲

われ、諸国一見の旅の途中

夕べ、珠洲の岬に立つと

おりしも熟柿のような

美空ひばりのような

真っ赤に燃える太陽が

山岡久乃のスプライトのように冷え切った

日本海の荒波に墜ちて

一瞬

ベルヌのように

ロメールのように

かの緑の燐光をば放ちながら、

ランボオのように

ベルモンドのように

ジュジュジュ!

マダムジュジュ!!

と叫んだので

これはいかん、このままでは頭がおかしくなってしまう

と心配になって

見知らぬ巡礼者に頼んで

われの額を小汚い草鞋で踏んづけてもらったら

思えらくそれが聖なる僧侶だったらしく

おのずからなにやらかたじけない情緒障害になって、

われは丹波の下駄屋の丁稚どん

今宵ここでの一休み

あしたからはえーえんに生きていけるような

そんなありがたい気分になったのでした。

 

第7変奏曲

女性歌手が「いつか」を唄っていると、男性歌手が「かなた」を唄って、夢のハーモニーが実現したのよ。

 

第8変奏曲

ロックポートの在庫見切り品を、9割オフで売っていたので、「三足まとめて買う」というたら、「本社までご足労願いたい」というので、川崎本社まで行ったら、社長がアジ演説していたので、帰ろうとしたら、「隣に平凡出版という本屋があるから、そこで新入社員の激励応演説をしてくれ」という。

仕方なくマイクを握って、かの偉大なる百科事典を褒めたたえていたら、「それはわが社とは何の関係もない平凡社の出版物だ」と苦情が出たので、「ライバルの平凡社に負けない、世界一の百科事典を世に贈ってくらさい」と、とってつけて逃げ出したのよ。

 

第9変奏曲

われは、いつものようにある意図を以て、ベルクの全作品を聞き始めたのだが、そのうちに、最初の意図などどこかに忘却してしまい、ばらばらに分断された脳細胞毎に、ベルクの音楽を、ひたすら聴き始めたのだった。ひたすら分散的に。

 

第10変奏曲

家の近所に、いつでも清冽な清水がふつふつと湧いている小さな泉があるので、私は詩を書こうと思うときには、いつもその泉に行って両手で清水を掬うと、直ちに1篇の詩が誕生するのだった。

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その70

 

佐々木 眞

 
 

 

2024年3月

お父さん、ボク、あさって床屋さん行きます!
行こうね。

―小林散髪屋にて。
コウちゃん、起きてくださいな。どうして寝ちゃったんだろうね。

お父さん、吉高由里子、2回泣いてたよ。
ああ、2回泣いてたねえ。

脳腫瘍、オデキでしょう?
そうだね。脳のオデキだね。

お母さん、アルファベットのIは、数字の1みたいだよ。
似てるね。

お母さん、ナラヌはイケナイのことでしょう?
そうですよ。

「コウさん、お仕事してください」って言われたよ。
誰に?
シバノさんだお。
いつ?
むかし。

コウ君、シバノさんて、男? 女?
おんなだよ。
シバノさん、まだいらっしゃるの?
もうやめたよ。
そうなんだ。

 

2024年4月

ボク、オクラ好きですよ。
お母さんも。あしたオクラ食べようか?

「ようこそ」って、なに?
よくきてくれました、よ。

コウ君、アイちゃんが来るんだって。
ぼく、ウレシイですお。会いたいですお。

お父さん、ぼく平成16年「金八先生」みましたお。
へえー、そうなんだ。

お母さん、タイムアップって、なに?
時間だよ、ということよ。

お父さん、起きてください。
いま何時?
7時だお。
分かりましたあ。
下に降りてください。
はい、はい。

お父さん、大好きですお。
コウ君、ふきのとう舎で、なんかやったね。なにしたの?
分かりませんお。分かりませんお。

お母さん、記憶って、なに?
覚えていることよ。コウ君、なんでも覚えているね。

海の幸って、なあに?
海でとれるいいもののことよ。お魚とか。

モノレール、ジエットコースターみたいですよ。
そうですか。
そうですよ。

お父さん、黒柳徹子と石原さとみの番組撮ってくれた?
撮りましたよ。帰ってきたら一緒に観ようね。

―「虎に翼」をみながら妻が、
かっこいい!わたしもあんな生き方したかったなあ。

 

 

 

「夢は第2の人世である」第105回

 

佐々木 眞

 
 

 

2024年1月

元旦にできたての詩を、知り合いにメールで送ったのだが、間違えて、隣のメルアドの人に送ってしまったのを、一日中気にしている。1/1

政府は、余のイタリア亡命をけっして許さず、言を左右にしながら、余を、この憂鬱と絶望の国に、未来永劫に亙って閉じ込めようとしているのだ。1/2

その町の中心部をぶらついていると、ビルの1階に映画館ともミュージックホールともつかぬ、およそ60人位が座れる劇場があったが、前方に向かって深く傾斜しており、その先端を見ることはできなかった。1/3

やがて敵が攻めてきて、前線を守っていたドイツ人兵士を殺し、次いで第2陣の国際義勇軍を殺してから、去っていったが、そのあとを、また別のドイツ人兵士が、守りについた。1/3

不思議なことに、そのAIは、私の作品を私の作品と認定しようとはしなかった、のが不思議だった。1/4

再び「宮中某重大事件」が勃発したので、かの西郷ドンをはじめとする大勢の重臣が次々に登城し、今上帝自らが企図した宮中クーデタは、完全な沈黙のうちに、幸か不幸か未然に阻止されたのだった。1/4

アートフェアは、毎年この界隈で開催されるのだが、イケダノブオは、自分のデザインは、私のコピーと、自分のカジュアルマインドと、西海岸のアートハートによって駆動されるんだ、とかなんとかいう話をぶち上げていた。1/5

「戦闘が終わった時には、必ず敵から奪った土地にいるようにせよ」という司令官からの厳命は、わが軍だけでなく、敵軍でも共通していたので、彼我の兵士たちは、お互いにこっそり相談して、司令官の知らない新領土に、知らん顔して君臨していたのよ。1/6

ボクらは、コロンビアの町に入って、映画スタアが着るようなド派手なTシャツを買ったが、とうとう一度も着ることはなかった。1/7

いよいよ戦前が戦中になったので、帝国軍が目抜き通りを行進するので、「わが社でも歓迎のモニュメントを製作して、窓から陳列しようじゃないか」と忖度上司が提案したので、おらっち「それは戦争協力じゃないか」というて反対したので。1/8

この頃、余の催眠術力は最高潮に達しており、会社の同僚たちの両肩に手で触れるだけで、連中は即「眠り男」、「眠り女」になって、幸せそうな顔をして、すやすや眠りこけるのだった。1/9

取り調べ室で「なぬ、まだ言い逃れをする気か。これが動かぬ証拠だあ!」と突き付けられた写真を急いで食いちぎったら、その食いちぎられた断片から、また別の写真が出てきたので、俺も刑事も驚いた。1/10

歌舞伎町の人がいつまで待ってもやって来ないので、ベンチの片隅にボストンバックを置いたまま、撮影現場に直行して、しばらくしてから戻ってきたら、影も形も見えなかった。そんなヤバイ場所に、貴重品を置きっぱなしにしたおらっちが阿呆だった。1/11

撮影現場では「終わったらメシにでもいきましょうか」と、ハスミ大先生と連れ立ったシバタさんから誘われていたので、そこへ向かおうとしたが、そのフレンチは、歌舞伎町にあったかしら。それにおふらんす映画社のシバタさんは、もはや泉下の人ではなかったか?1/11

城内は、出撃派と籠城派に真っ二つに分かれ、一触即発の情勢に陥ったので、家老が調停に乗り出し、どちらにするかを、城主の決断に委ねることになった。1/12

権力者は、10〇名の暗殺部隊者に命じて、我を現世から追放し、常闇の国に送りこんだのだ。1/13

一晩中、朝ドラのブギウギで、シュリが歌う下手糞な「恋しいお方は」とかいう、下らない唄が鳴り響いていたので、いつものようには、安らかな夢を見ることができなかった。1/14

余は、そのデパートメントストアから、すべての商品とにんげんを掃き出し、町の外に追いやったのよ。1/15

それまで、ええ恰好しいの君子聖人ぶりっ子で、局外中立に甘んじていた六角党、渡部党、笹木党なども、ついにたまりかねたように大刀振りかざして、広大な敵地に押し入り、切り取り次第に切り取った。1/16

ある反抗的かつ愛国的紳士の家に忍び込んだ女てろりすとの左手に輝くナイフを見たとき、彼は「これだ、これだ、これがオレの求めていたナイフだ!」と叫んだ。1/17

自動自転車に乗って南米コスタリカの田舎町にやってきたおらっちは、汗臭いTシャツを洗濯してもらおうと、一軒家に入ったが、そこの女主人が、あまりにも美人なので、圧倒されて、とうとう「洗ってくれ」と言い出せなかったよ。1/18

久し振りの手入れを受けたおらっちは、もう年だし、疲れ切ってもいたので、「あたらしいハッパをありがとうございます」というて、タイホされたのよ。1/19

今日は本屋さんから、余の本が着く予定なので、ずっと待っていたら、ようやく着いたので、大喜びでギュッと掴んだのだが、どういう風の吹き回しだか、猿沢の池だか、大沢の池だかに、ポチャンと落っこちてしまったのだ。1/20

広告担当のサトウ君は、北欧のメーカーとタイアップして、そのかっこいい木製品のインテリアの中に、自社のポスターを貼りたかったのだが、いろいろ揉めた結果、超だっさい国産メーカーの、超だっさいインテリアの中の、自社ポスターを見て、がっくりした。1/21

コロナが猖獗を極める中で、われは極悪ウイルスに汚染されたかもしれぬ古いグラブをば、真新しいグラブに取り換えて、試合に臨んでいたが、さっぱり戦果が上がらないので、また旧に復した途端、連戦連勝だった。1/22

家族、親類一同で大型クルーザーを借り切って、遠洋航海に乗り出したのだが、どこへ行くのか肝心な話を、船長とやり取りするのが中学生のレンちゃんしかいなかったので、太平洋上で、危うく遭難するところだった。1/23

庭に布団を干そうとしていたら、突然マイケル・ジャクソンの動画に出てくるゾンビ踊りをしながら、初老の男女数名が庭に入ってきた。その中の2名は縁側を跨いで青畳の8畳間に侵入しようとしているので、「なんだお前らは!勝手に我が家に入るな」と叫んだら、慌てて青い芝生が生い茂る庭に逃げ出し、ゾンビ踊りの仲間に加わった。1/24

念のために2階に通じる階段を調べてみたら、そこにも男か女かは分からぬ風体のゾンビが瞳孔を開いたまま呆然と座っているので、パシリを一撃お見舞いすると、ようやく目に光が蘇ったので、お前たちはなんでこんなことをするのだと訳を聞くと、驚くべきことを口走った。1/25

なんでも彼らゾンビは、かつて700年前の鎌倉時代にこの家が建っている所に住んでいたオオエヒロモトの従者たちだ、というのである。ここ鎌倉十二所に、鎌倉幕府の官房長官みたいな権力者であるオオエヒロモトの屋敷があったことは、知る人ぞ知る史実で、近所に立っている鎌倉青年団が建立した石碑にも刻まれている。1/26

このヨモタ訳の日本古典は、途轍もなく素晴らしい日本の美を照射しているが、それが竹取物語だったか、源氏物語だったか、はたまた枕草子だったのか判然とせず、もしかしてアンネの日記ではなかったか、とも思うのだった。1/27

確か2課のヤマサワ君と一緒に、杜子春のように極楽への梯子を昇っていたはずなのだが、あと一歩というところで、下から昇ってくる有象無象の仲間たちのアリのような姿を見たものだから、わっとよろめいて、真っ逆さまに地獄の池へ転落してしまった。1/28

ノーヴジュアル、ノーナレ、ノーロゴの、世界初のCⅯ作りに成功しちゃったよ。1/29

ヒゲタショウユが値上げしたので、全国からクレームが殺到したのよ。1/30

私は電器屋に勤めている時、主人に隣町への出張を命じられて、その都度冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどを10点売上げてきたが、不思議なことに、それは同じように隣の隣町に出張している先輩と、同じ数だった。1/31

 

2024年2月

「可哀想だた、惚れたってことよ」、と歌うように叫んでいる奴がいるので、どうにも寝られない。斎藤秀三郎選手かと思ったら、「俺は『可哀は可愛』としかいうておらん」、というので、やっぱ広田先生とこの与次郎だあね。2/1

10年以上前に頼んでいた古本が、今朝やっと納品になったが、どうしてこんな本を頼んだのか、私にはさっぱりわからんかった。2/2

広大な荒地を平等に折半したのだが、こっちを掘っても、出るのは水ばかり。ところがあっちは、熱いお湯が、ジャカスカ湧き出るのだった。2/3

この人が新しいコンマスですというて、マネージャーが紹介した男は、3年前にわがオケの
第2バイオリニスト募集に応募して、見事落選した男だった。2/4

ふと思い立って遭難者の多い高峰の要所要所にビバークのための用具を設定して、目印のためにおらっちの名前を書いておいた。2/5

そこにはいろんなミュージシャンが、自分の部屋で録音した、たくさんのテープが捨ててあったので、それらを拾い集めて聴いてみると、公式発売された演奏よりも、はるかに面白かったずら。2/6

核戦争に備えて、庭にシェルターを造ってみたのだが、あまりにも小さすぎて、実用には適しなかったので、もっと大きなのにトライすることにした。2/7

いつも夢の中でたどり着いてしまう第2拠点に、新しい家をつくることにした。そうすればいくら夜遅くなっても、そこに泊まってゆっくり眠ることができるだろう。んで問題は、その場所が、夢の中でしか出てこないことだ。2/8

クトゾフ将軍が、突撃命令を出したにもかかわらず、貴族部隊も市民部隊も、無視したので、われらエタヒミン部隊だけが、コサック兵に襲い掛かったのだが、攻撃はしてもされたことが一度もない敵さんは、驚いて、必死に逃げ惑ったのよ。2/9

私は目の前に現れる敵を機械的に撃ち殺していたのだが、ふと見ると、非常に綺麗な娘が立っていたので、「お前いくつなの?」と聞くと、「18」という答えなので、なんでかしらんけど不憫の情に襲われて、爾後殺すのは止めてしまった。2/10

「たった一人の男のために、3人の男が捕虜にされるなんて、ナンセンスではないか」と名古屋の殿様がいうので、困ってしまった捕虜たちは、「それでは私は水軍に入ります」、「私は陸軍に入ります」、「空軍に入ります」と口々に言い立てたが、殿様は納得しなかった。2/11

彼は、自分が属する政党のランクを、いつもの満点の5点から、2点に初めて変更したところ、案の定、党首みずからが主宰する査問員会にかけられてしまったので、大いに後悔したが、後の祭りでした。2/12

1756年だか1891年だか忘れたが、ある特定の年号と、その年の記憶が、歴史年表から丸ごと抜け落ちていることに、今更ながら気づいた。2/13

なぜだか、おらっちの親戚の葬式は、おらっちの友人が、友人の親戚の葬式は、おらっちが担当し、同じ日の、同じ時間に、同じ会場で行われることにすることになったのよ。2/14

またしても伝染病で、大勢の大宮人が死んでしまったので、わいらあいつも験が良い近所の道長邸に避難して、嵐が去るのを待つことにしたずら。2/15

そのうちミシマユキオが下宿していた部屋の火事が、ますます激しくなってきたので、タニザキジュンイチロウが下宿していた部屋を借りていた我々も、すたこらさっさと急いで避難したのよ。2/16

雷撃を受けると同時に、大名時計が時を刻み始め、それは未来永劫続いていたのだった。2/17

商品計画と販売計画、それに加えて宣伝広告とが奇跡的にマッチしたキャンペーンを展開したのだが、さっぱり売れなかったので、スタッフ全員が集まって、反省会をもったのだが、誰も何もいわんかった。2/18

彼ほどの偉大な科学者が、ことあるごとに神社の籤をひいて、左右の進路を決めるのには心底驚いた。2/19

エンドウ上等兵以下、4名の兵士が何者かに爆殺されているというので、おらっちは昼メシ抜きで、現場に急行したのよ。2/20

おらっちは料理などやったこともなかったのだが、ラーメンくらいできないでか、と眦を決して作ってみたのだが、やっぱりこれがヒジョーに不味かったので、甚だ絶望した。2/21

さてそのビルジングの、ある部屋を覗いてみると、大勢のデザイナーやモデリスト、カラリスト、スタイリストが、その男の周りを取り囲むように座っており、いましもふぁっちょん講座が始まろうとしていたので、おいらは、すたこらさっさと逃げ出したずら。2/22

ジョージ・チャキリスとアラン・ドロンを足して2で割ったような面差しのアマミヤ氏が「ボク、これから国会突入のデモに行ってきます」と宣言したので、おらっち「それではあなたの着ているピエール・カルダンの青い背広を貰ってもいいですか?」と迫ったのだが、アマミヤ氏は何も言わずに立ち去った。2/23

おらっちは、僻地の分校の校舎で、阿呆莫迦テレビ番組をみたら、これがヒジョーに面白かったので、本校舎に戻ってからも、その阿呆莫迦番組をみつづけたので、とうとう阿呆莫迦人間に、なっちまったのよ。2/24

すべての予算を弟につぎ込んで、新プロジェクトをやってもらったのだが、失敗してしまった。やはり自分でやるべきだったのか。2/25

秀才クルクルパーマンは、メンボウ教授の退官講義を聴講したのだが、どうやらその内容をは、全部AIがつくったものらしく、クルクルパーマンは、メンボウ教授じたいも単なるアバターではないか、と考えたのだった。2/26

城主がご馳走するというので、手下を連れて、コントラクト鉄道に乗り込んだのだところ、軍と警察によって皆殺しにされてしてしまったが、わいらあと一人の部下だけは、危機一髪のところで逃げ延びた。2/27

いよいよ大動乱の時節になったので、民衆は、海に山に盆地に逃げ惑ったが、そこにかのヨシモト大明神が祭られていたので、皆でお伺いを立てたところ、「逃げよ、逃げよ、また逃げよ」という答え。「わいらあ、もうさんざん逃げまくっおるんですけど」というたが、返事はなかった。2/28

「おらっちの最後の叫びを、誰か後の世に伝えてくれないかあ」と、暗闇の中で叫んだが、誰も答えてくれる人はいなかったずら。2/29

ブルックナーの交響曲第8番の第4楽章をBGМにしながら、おらっちは、血みどろの戦場に向かって突撃したのだが、気が付くと、右手と左足が無くなっているのに気が付いた。2/29

 

2024年3月

那智の滝の滝壺に棒立ちになって「グ、ググッ、ギャガアアアオ!」と叫んでいる裸男がいるので、「お前さんは誰だ?」と尋ねると、「ワシはヨシマツゴウゾウだあ」と答えた。3/1

クラス担当のトミタが、高2のオレが到底実現不可能な使命を次々に下すので、頭にきたオレは、ベランダから校庭を見下ろしている彼奴の両足を担ぎ上げて、コンクリの地面に突き落としてやった。3/2 

人気巻き返しの一世一代、乾坤一擲の最新作「ヨオキヒ」の製作に際しては、当代一流のプロデューサー、役者、演出、スタッフを取り揃え、それこそ万全を期したのだが、「これがもしこけたら」と思うと、身の毛がよだつ。3/3

「じゃあ今度は、ランスの大聖堂で会おう」というて、竹馬の友と別れたのだが、ついにそれきりになってしまった。あの時握手して、手を、ギュッと握っておかなかったことが、じつに悔やまれる。3/4

本番に備えて、脚本に添付した香盤表を作り、物語の流れと、各シーケンス毎の登場人物、科白、ト書き、5W1Hまで書き加えたのだが、その甲斐もなく、初演は大コケにコケた。3/5

吾等3人組は、海と山に囲まれた半島の先端の村に住んでいた。やがて戦争になり、2人の友人は戦場へ行ったが、私は徴兵を忌避して、裏山に身を隠し、草木を食べ、露を飲んで生き長らえて、終戦を迎えたのだが、友はついに還ってこなかった。3/6

誰よりも優れたと思う歌を詠んでも、だれ一人認めてくれないので、俊成のおいらは、「やはりもうちょい身分が高くないから、こうなっちまうのか」と、僻んだのよ。3/7

この避難所では、一食380円の定食が出されるので、とてもうれぴい。毎日ここでこれを食べて、そこにある黒い椅子に座っていると、心も落ち着くのだ。3/8

予の大詩集を読んだ会社の先輩たちが、予の後輩のサカイ君の詩集を出そうと画策していると、そのまた後輩のアオキさんが教えてくれたので、予は激しく嫉妬してしまったのだが、考えてみると、サカイ君はとっくの昔に泉下の人になっているので、どこか変だ。3/9

飛行場の荷物場を、ぐるぐる回転寿司のように、いつまでも回っていた、赤白青の3つの荷物が、とうとう競売に付されたようだ。3/10

宇宙工学の専門家が不足している、というので、引退したはずの私とカド君が呼び戻され、毎日横須賀線で通っているのだが、毎晩終電ギリギリなので、東京駅まで全力疾走を強いられるのだが、ふと脇を見ると、カド君は屋台の中華ソバを食っているのだが、さてどうしたものか。3/11

地図には「取り付く島」と書いてあったので、万難を排して、「取り付こう!」と、懸命に試みたのだが、結局取り付く島などなかった。3/12

懐かしい蒸気機関車が停まっていたので、即乗り込んだが、新橋品川間で脱線、転覆し、火の玉になって炎上し始めたので、気分転換に、ブルックナーの4番をかけたのよ。3/13

どたまがいかれているそいつのセガーチーニ論というタイトルの卒論は、一読するだけでも大変だったのだが、なんべん読んでも意味不明なので、こいつを卒業させるかどうかで、教授会はおおもめにもめている。3/14

突然微細物測定器が作動して、極小物を破壊せよという指令が下されたので、ニシダは、タイワンリスの卵をこっぱみじんにした。3/15

一袋100gの表示で販売されていたカッパエビセンを、微細物測定器で軽量してみると、98gから102gまでバラツキがあったので、もっと正確に配給し、足らないよりは増量するよう、上層部からの指示があった。3/16

むかし東海道線に乗った時、東京駅から新橋、品川を過ぎて、大船から藤沢を経て小田原の辺で、黄色いバナナがふさふさ生っているのを見つけた。黄色いバナナは、ひとふさ、ふたふさ、みーふさ、ヨーふさ、全部でなな房ありまして、それらがだんだん色づいてくる。3/17

バナナは、白っぽい黄色から、次第に熟して濃い黄色になって来る。そして、黄色みが増すに連れて、だんだんウマソーになってくる。3/18

忘れもしない10月16日のボクの80歳の誕生日、今日こそバナナを収穫しよう、と東京駅から新橋、品川過ぎて、大船から藤沢、小田原を経て、熱海駅で降りて、白い砂浜をサクサク踏んで歩き、ドンドコドンドコ黄色いバナナを探して歩いたが、黄色いバナナは影も形もなかったのよ。3/19

「あなたの部屋の、あのごちゃごちゃのビデオとか、CDとか、オーデオセット一式を、全部捨てて、すっきりさせませう」と彼女がいうので、一時はその気になったのだが、結局は、元の木阿弥になっちまったよ。3/20

池田ノブオがジャンプ一番、教育勅語を破り捨てた。3/21

またしても、革命的ポップスを唄って、一躍超人気者になった若者。これまでは超ウザイ奴らとしか思っていなかったのに、まぢかにみると、やはり人物も実力も相当なものがあったので、おらっちは衝撃を受け、始発電車の中で突然糞したくなったのだが、必死で我慢しているとこ。3/22

われは、いつものようにある意図を以て、ベルクの全作品を聞き始めたのだが、そのうちに、最初の意図などどこかに忘却してしまい、ばらばらに分断された脳細胞毎に、ベルクの音楽を、ひたすら聴き始めたのだった。ひたすら分散的に。3/23

ともかくこの音楽祭の雰囲気は、独特だったので、プログラムの中身とは関係なく、毎年夏になると、人々は避暑を兼ねて、三々五々やって来るのだ。会場の真ん中には、いつものように、横長の巨大な伝言板が据え付けられていて、そこには「俺は食堂にいる」と大書し、隣に愛称やケータイ番号を書き添えたりしてあった。3/24

ふと見ると、左にA嬢、右にB嬢が立っていた。2人共若くて美しいので、私は思わず2人を抱きしめて、接吻したりすると、とても懐かしい良い匂いがしたので、ありましたっ。3/25

世界一決定戦の後楽園ホールを飛び出して、帰宅しようとしたが、その途中文京区の古い家並をみて、「ここらへんで残りの人世を過ごそう」という意思を固めたが、半ズボンのチャックが開いて、我の陰毛が丸見えになっているのに今頃気付いて、素知らぬ顔で閉じたところです。3/26

そこに東京駅行きのバスがやって来たので、飛び乗ったら、のぶいっちゃんとひとはるちゃんが座っていたので、「ひさしぶり、今日は後楽園で世界戦を見物していたんだよ」というたが、なぜかおらっちの話が、てんで分かっていないようだった。3/27

そうこうしていると広島で抗争している生きのいいヤクザが、いきなりおらっちの腹の上を、2カ所もドスで刺しやがったんだが、幸いかすり傷で、なんとかかんとか事なきを得たんだ。3/28

でも、駅での集会が終わってからが大変。西口の改札前で迷彩服を着た屈強な兵士にいきなり抱きすくめられたので、必死に藻掻いていると、彼奴がなにかもっと大切な用事を思い出したように手を緩めたので、なんとか振りほどいて東口方面に逃げることが出来たんだ。3/29

喫茶店の2階から交差点を見下ろしていたら、煙草を吸いながら自転車に乗っていたケンちゃんが、ヤクザにぶん殴られている。すぐにも助けに行きたいと思ったが、お客さんと話しているので、そうもいかない。3/30

浅いが綺麗な海の中で、小さな魚や海藻がゆらゆら揺れるのを見ていると、時が経つのも忘れてしまう。ふと気が付くと、私は水の中でも呼吸が出来るようになっていた。3/31

 

2024年4月

ランバダを踊りながら、彼女は、「こんなの単なるビジネスよ」というたので、おらっちも福知山音頭を唄い踊りながら、「そうだよ、これも単なるビジネスさ」と答えたのよ。4/1

今日の午後、大学の授業に出るために田舎から出てきたのだが、終わって帰宅しようと思ったら、もう深夜になっていて、東京駅から出る電車もバスも、終わってしまっている。はてさて、どうしたものか。4/2

リーズ音楽祭の最終日の夜に、ディスカウとブレンデルの顔合わせで、おらっちの「バックミンスター・フラー博士と鈴木エドワード」が演奏されたのだが、会心の出来栄えで、満場拍手喝采だった。4/3

社主が亡くなり、その形見分けが行われたが、その机や椅子、照明器具やソファー、文房具、身の回り品、小道具の一つひとつが、まことに適切な贈り物になっていて、彼がいかにきめこまかく部下の仕事場を観察していたか、が伺われ、みな舌を巻いたのよ。4/4

2025年の新企画として、早くも物凄いのが出来ているので、我々オマンタ倶楽部は、5人組のチンドン屋になってオマンタ音頭を唄い、踊りながら5街道の目抜き通りを練り歩き、世界の民草に世界平和を訴え続けていますが、どうです、貴方も参加しませんか?4/5

誰かが教えたものかどうかは、分からないが、学生が1階と2階を自由に移動できる秘密の裏階段があって、「これは便利だ」と、盛んに利用されているようだった。4/6

女性歌手が「いつか」を唄っていると、男性歌手が「かなた」を唄って、夢のハーモニーが実現したのよ。4/7

第3次世界大戦がやっと終了したあとの世の中は、もはや回復不可能なほど傷つき、疲弊していたが、それまでの2度の大戦では実現しなかった、武装放棄を義務付けた平和憲法が、どの国でも施行されたことが、唯一の、しかし貴重な収穫だった。4/8

第一次世界大戦の塹壕戦で、機関銃の代わりにオリベッテイのタイプライターを敵陣めがけて、ダダダと撃ちかけたのだが、左隅に「ささきまこと」の「さ」を打とうとしたが、打てないので、仕方なく「し」を打とうとしたのだが打てないので、仕方なく「き」を打とうとしたのだが、打てないので、仕方なく 4/9

この節は監視カメラに音声AIがついているので、おらっちが町中を歩きながら、「ジャジャジャジャーン」と呟くと、周りの監視カメラも、連れションみたく「ジャジャジャジャーン!」と大音響で吠えまくるので、煩くて仕方がないずら。4/10

その子の本名は、「単5予為Ⅿs呂有ベオウルフ」という変わった名前だったので、同時通訳者は、完全にお手上げだったのよ。4/11

その夏のキャンプでは、それこそ1ミリも泳げなかった子供たちが、全員ノシやカッパ泳ぎが出来るようになったのが、一大収穫だったが、それにも増して、最後の夜のキャンプファイヤーで、おねいさんが敢行した信仰告白が感動的だった。4/12

ポスト・コロナの最新型の感染症が流行し始めたが、私はいち早くそのワクチンの開発に成功したので、早速自分で飲んで試してみたのだが、その物凄い副反応で、あやうく死ぬところだった。4/13

世界マージャン選手権の王者決定戦が始まったのだが、おらっちは、立て続けに白牌を3枚もつもってきたので、チョー驚く。そういえばこの試合は、自動配牌ではなく、人力配牌方式だったのに、誰も真面目に混ぜなかったからかも知れない。4/14

今日もまた、灰色の大きなイボガエルを捕まえた。「止めろよ、早く離してくれよ」とブツブツ文句をいうておるのが、不気味だ。そういえば、先週も、同じ灰色のイボガエルを捕まえて、引き出しの中に入れておいたが、あれはどうなっているだろう。4/15

大阪支店へ行ったら、全員が自分勝手に仕事しているので、驚いた。出先から帰社した課長は、非常に大事にしているカメラが壊れているので、「誰が壊したんだ?名乗り出ろ!」と大声で喚いているので、三十六計逃げるにしかずと、トンずらしたのよ。4/16

急になにもかもが嫌になってきたので、料理長は、デザートの土佐文旦の皮を剥かないで、ナイフで細かく切り刻みはじめた。4/17

ロックポートの在庫見切り品を、9割オフで売っていたので、「三足まとめて買う」というたら、「本社までご足労願いたい」というので、川崎本社まで行ったら、社長がアジ演説していたので、帰ろうとしたら、「隣に平凡出版という本屋があるから、そこで新入社員の激励応演説をしてくれ」という。4/18

仕方なくマイクを握って、かの偉大なる百科事典を褒めたたえていたら、「それはわが社とは何の関係もない平凡社の出版物だ」と苦情が出たので、「ライバルの平凡社に負けない、世界一の百科事典を世に贈ってくらさい」と、とってつけて逃げ出したのよ。4/18

鎌倉河岸の汀のR社の受付に、ゼンちゃんがやって来たので、5階から降りて「久しぶりだから、2人して千代田ホテルで昼飯でも食おうか」と、桜満開の表通りに出た。4/19

ワシは労働組合の書紀をしているんだが、給料の1割カットの計算が出来ないので、困ってる。4/20

随分長くアマチュアオケの指導をしているんだが、格段の進歩を遂げている。昔の演奏をビデオで見ると、金管楽器などは、メチャクチャに音を外して、音符についていくだけで精一杯なんだね。4/21

家の近所に、いつでも清冽な清水がふつふつと湧いている小さな泉があるので、私は詩を書こうと思うときには、いつもその泉に行って両手で清水を掬うと、直ちに1篇の詩が誕生するのだった。4/22

ピーターは、なんで自分がこんな田舎の支局に飛ばされたのか、さっぱり分からず、元の上司に何度も電話してそのわけを聞こうとしていたが果たせず、何年間も腐っていたが、ある日おらっちが上司の上司からそのわけを尋ねると「実は別の奴を飛ばせと指示したのに、人事が間違ってピーターを飛ばしたんだ」というのだった。4/23

巴里の下町を友人たちとぶらついていたら、突然ナベショーが出てきて、偉そうにもっともらしい長広舌を振い始めたので、嫌になったおらっちは、横丁を抜けて大通りでフランタクを拾い、ホテルまで戻ったのよ。4/24

所謂「蘇る近江会長事件」にずるずる巻き込まれて、彼は、華やかなキャリアを忽ち失い、歴史の薄暗い暗闇の底に沈んだきり、二度と浮かび上がってはこなかった。4/25

おらっちは、郵便夫を人質に取って、返す刀で大勢の人々をわが手にかけたが、まっこと愉快じゃった。4/26

会期が迫ったパリコレに出す服のデザインを必死で考えているおらっち。そのコンセプトのひとつは「踊る服」で、もう一つは「考える服」だったが、そもそもおらっちは、物を考えたことなど皆無なので、後の作品はてんで出来ないのだった。4/27

こないだ神田鎌倉河岸の会社で、はじめてPCを使って作画してみたら、セイさんやイマナカさんやムラクモタロウまでも、よってたかって「なかなかいじゃんか」というてくれたので、鼻高々になったのよ。4/28

いつも上等の青い背広姿のナガタさんは、いったいどーゆうキャリアのⅯDなのか知らなったので、おらっちは、一度尋ねてみたいと思ったのだった。4/29

朝、咽喉がムズムズするので、ケタクソ悪いなあと思っていたら、突然見慣れない小人が飛び上がって、まるで誕生したばかりのお釈迦様のように、両手を高く掲げてテーブルの上に着地したので、えらく驚いたよ。4/30

どーゆう風の吹き回しか、カワバタ副社長は、オレのことを偏愛するようになり、いきなり頭を抱えこんでは、ぽかぽか殴りだすので、安ポマードでべったり状態、になるのだった。4/30

 

 

 

It ‘ll be a lot of Fun!

 

佐々木 眞

 
 

わが家の時計は、みんな、別々の時間を指している。
そして、一日中いろんな旋律と音色で、時報を打ち鳴らす。

It ‘ll be a lot of Fun!
ワオ、なんて楽しそうなんだ。

でも でも、
2階の古くて大きな柱時計は、昨日の5時15分で止まったきり、びくともしない。

「電池が切れたのなら、新しいのを補充するよ」
というてみたが、やはり動こうとしない。

重ねて「なんで動こうとしないのかね?」と訊ねたら、
緑色の長針が答えた。

「だって、同じ円盤を、来る日も来る日も、一日中ぐるぐる回ってるなんて、阿呆らしくってやってらんないよ? 
なんなら、あんたやってみる?」

That’s not Fun.
こりゃダメだ。