「はなとゆめ」01  うその暮らし

 

きみはねむってるの
きみはいきをしているの

きみはいきているの

きみは
どこいったの

きみのやわらかい笑顔はどこにいったの
きみのかなしい瞳はどこにいったの
きみのおかしいあくびはどこにいったの

ちかくでみているの
ちかくからみているの

きみはあらゆる動性をゆっくりと停滞させて

ゆっくりとゆっくりと停滞させて
そしていなくなった

山百合の匂いを残していなくなった

山の斜面には白い道があった

霧がながれてきて
このままだと死ぬんだとおもった

でももういいんだともおもった

だからもういい
だからもういい

きみはあらゆる動性をゆっくりと停滞させてそしていなくなった
きみはあらゆる動性をゆっくりと停滞させてそしていなくなった

きみはねむっているの
きみはいきをしているの

きみはいきているの

きみは
どこへいったの

きみは真顔でじっとこちらをみていた

きみは草木の精霊となって透明なからだでベッドに横たわり
それからきみはゆっくりと浮遊して真顔でじっとこちらをみていた

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

落ちてくる

 

長尾 高弘

 

 

空からものが落ちてくる
え、何が?

空から水が落ちてくる
それなら雨と言いなさい
いやいや雨じゃないんだよ
英語でwaterfallと言うじゃないか
どれくらいの水だと思ったの?

空から人が落ちてくる
ビルとか塔とか
高いところを作らなければ
落ちてこれないのにね
ほかの方法じゃなくて
なぜその方法を選んだんだろう?
一度は高いところまで行きたかった?

空から爆弾が落ちてくる
今このあたりには落ちてこないけど
昔のこのあたりや
今のガザのあたりには落ちてくる
誰が爆弾を作って
誰が爆弾を買ったんだ?
祖国防衛、自衛権
もっともらしく言い繕っても
殺されるのは女と子供

 

 

 

二〇一四年の八月は八月、八月、ああ八月ですね。

 

鈴木志郎康

 

 

八月。
八月。
ああ、八月。

八月は朝だ。
庭に咲いた朝顔の花の数を数える。
花は開いて空に向かって目一杯叫んでいるみたい。
陽射しが強くなるともう萎れているんですよ。
また、明日咲く花は幾つかな。
花の数が気分の折れ線グラフを作るというわけ。

八月は夏休みの月ですね。
でも、八年前に多摩美を辞めてからそれがありません。
と、心は夏休み合宿の記憶を辿り始める。
ところが、付き合った学生たちの名前をぽろぽろ、
ぽろぽろ、忘れちゃってる。
寂しいね。

第一次世界大戦後100年の今年の八月、
日本の敗戦後69年の今年の八月、
ってことで、わたしが毎朝読む朝日新聞では、
戦争キャンペーンの記事は毎日載ってるんですね。
十二日には中日戦争からの戦争の年表が載ってた。
でも、わたしが生まれてからがすっぽり入るその活字が遠いなあ。

八月十五日の新聞では
朝日も日経も一面に「きょう終戦の日」とあった。
何で「敗戦の日」としないんだろう。
日本国は連合国軍に負けて占領されたんじゃなかったのかなあ。
わたしは家族と一緒に三月十日に米軍の焼夷弾爆撃で焼け出された。
まあ、今年の甲子園は逆転試合が多かったね。

一九四五年の八月十五日、わたしは十歳で家族と、
疎開先の福島県の小浜町というところの在の農家の薄暗い家の中で、
玉音放送を聴いた筈だが余りよく覚えてないんです。
わたしたちが住んでいた農家に戻る時に草履で歩いた
きらきら光る土が記憶に残っている。草履の足下を気にしていたから。
その年の十月、家族と共に東京に戻ったわたしは言葉と身体のいじめから解放された。

甲子園の中継は付けっぱなしです。新潟の日本文理が逆転ツーランで勝った。
ホームランを打った新井充選手の冷静な顔、期待されて期待に応えた。
投げる打つ走る身体身体、肉付きのいい身体、みんな泥だらけですばしっこいなあ、
ドン、ドン、ドン、かっせ、かっせ、かっ飛ばせ、
それをテレビで見ているわたしがここにいて、脚痛と腰痛でそろそろのろのろ、
入院している麻理を思って、さあ、昼食に支度でもするかあ。

広島で土石流による死者71人不明11人(27日現在)。
去年の十月に引っ越してきた若い夫婦の死が確定、痛ましい。
花崗岩が風化したまさ土の山崩れ、その土に記憶が蘇る。
五十年ほど前、広島でニュースカメラマンだった時に取材した。
土石流が海岸近くの校舎の一つの教室をまるごとぶち抜いた鉄砲水。
思ってもみなかった突然のバケツで水を浴びせられたような雨だったと聞いた。

思ってもいなかったことなんですね。何が起こるか分からない。
麻理のこの五月の自転車転倒による左手首の粉砕骨折。
八月、それがどうやら直ったところで、
その転倒の原因となった難病の発症を探る一週間の検査入院。
ということで、わたしは温野菜サラダとか野菜カレーの三度の食事を、
自分で作って一人で食べた。入院翌朝の麻理からの電話が嬉しかった。

八月、
八月、
ああ、八月。

 

 

 

head 頭

 

空を
見てた

目覚めて
空を見てた

海のむこうには
空があり

カモメが飛んでいた

境界は
わからなかった

どこまでが
海で

どこからが空なのか

わかなかった

君には
名前が無いのかい

君には
心がないのかい

頭のなかに
あるのかい

ないのかい

 

 

 

デカルトでしょ、やっぱり

駿河昌樹

 

 

うるさい理屈を避け
黒革の財布

とほとほ

流れる
側溝の音を聴きながら
地中海

頭の中だけ
唐揚げに沖漬け

風通しのいい店の
入口近く
日本酒なら豪快
焼酎なら小牧以外の
あれこれ

串揚げも
ちぢみもよくって
定店にしたい

これから

飛んできたのは
オッと
花こがね虫

愛欲も
遠く
なっちゃったね

ちょっと長く
歩いて帰る
とうに消えた畑の
あたり

夢が
エネルギーだった頃の
なごりの読書癖

酔ったねえ

静まり返った
鶏舎に
…デカルトでしょ

やっぱり

 

 

 

自己主張の強いインドの人たち

辻 和人

 

 

*この詩は、結婚情報サービスで婚活していた時の様子を書いたものです。
ネットに登録してメールのやり取りをして、気があったら会うというシステムです。
今回、感じの良い相手と知り合えたような……。

「プロフィールを拝見し、素敵な人柄を感じてご連絡させていただきました。
私も音楽や美術などアート系、とても好きです。
いろいろお話させていただけるとうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。」
なんてメッセージもらっちゃったよ

自己紹介欄に
「アートが好きなインドア派です」って書いたんだけど
「俺はアウトドア派」と胸を張る男子が多い中
裏をかく作戦が功を奏したってこと
あったま、いーだろ?
メッセージをくれたその人のプロフィールを早速覗いてみると
今まで真面目に働いてきました
ってな顔がそこにあった

長くも短くもない髪をまっすぐおろして
目はちょっと細くて、ちょっと八の字眉
濃い顔立ちじゃないから、パッと見、地味な印象だけど
おい、この細い目
キッとしてて強い光を隠してるじゃんか
水色の上着含めて、全体として、ひたすら清潔
タレントさんみたいなメイクしたり
頬杖ついて憂い顔でポーズ、という凝ったプロフィール写真もある中
このさっぱり感は貴重かも

名前は美弥子さん
年齢は40歳
旅行や料理が好き
仕事も好きなので結婚後も勤め続けたい
人と接する時は笑顔と思いやりを忘れないようしたい
……ふんふん、優等生的、だけど
「勤め続けたい」
いいね、いいね

今回の方針としましては
額が多くても少なくても
お金稼いで自立している人がいい、ということになっております
ぼくも、今はテキトーにしかやってない家事を
結婚したらしっかりやろうと思ってんだ
女と男とでね
仕事に垣根を作らないでね
一緒に頑張るのがいいよね

「休日は何をされてるんですか?」
「お料理をよくされるようですが、得意なものは何ですか?」
「お勤め先はどこですか?」

新しい相手とのメールのやり取りの楽しみはこれだよなあ
互いの「イロハ」を交換すること

「一年半程前からヨガにはまってます。」
「比較的上手に作れるのは和食一般、ハンバーグ等洋食など、いわゆる家庭料理です。」
「大学の事務局に勤めてます。先生方や他の大学の担当者とのやり取りが多いです。」
へぇ、それで、それで?

質問も平凡、答えも平凡
だけどメールの向こうにいる相手が
少しずつ
少しずつ
生身の姿を見せてくれてるのがスリリング
へぇー、生身のヨガ
ほぉーっ、生身の和食
ははぁ、生身の大学事務局
動いて、実在してるんだよなあ
その先に生身の美弥子さんがいるんだなあ

メールを出すとすぐ丁寧な言葉で返事が返ってくるので
ついつい
詩を書いていることなんか打ち明けちゃったよ
どんな詩書いてるんですかって聞かれたから
「不条理マンガみたいなテイストです」と答えたら
「ぜひ一度読ませていただきたいです(笑)」だってさ
(笑)って何だよ(笑)

詩を書いてます、なんて
会社の人にもあんまり言ってないのに
顔を合わせたこともないこの人にはなぜかすらすら教えてしまう
メールの影からチラッチラッ
だけど全身が見えない
その隠れた生身の部分を、ヨッコラショ
引っ張り出したくってさ

楽しいメールのやり取りの中、ちょっとしたトピックスが!
(長くなるけど引用します)

「今度、大学の先生のお供でインドに出張することになりました。
いろんな人に言われるのは、お腹をこわすということと、
タクシーでぼられるということです(笑)。
インド体験記も是非聞いて下さい。」
「こんばんは。今日はインドからです(笑)。
2大学の訪問を終え、明日明後日と2日がかりで帰国します。
やっぱりインドは日本とは別世界でした。いろいろ刺激を受けました。」
「こんばんは。無事帰国しました。
観光は最後の日に半日位乗り継ぎで時間が空いたのでそこで少しできました。
驚いたことはいろいろあるのですが、
まずは車が常にクラクションを鳴らしていて、本当にうるさいということです。
人も多いし、ダイナミックとも言えますね(笑)。」
「自己主張が強くて他人に対して余り遠慮しない、というのは、
私が驚いたことの多くをまとめてくださっています(笑)。
民族も言語も大変多様で日本のように同質性が高くないし、
無理に同調するというのは全然ないようですね。
日本とインド、どちらがいいということではないんだと思いますが。」
「はい、確かにインドは魅力的な国です。
行きたい国の一つだったので、仕事とはいえ行けてよかったです。
今度はプライベートで行きたいです。ただトイレは…(涙)。
大学は、街で感じたほどの違いはなかったです。多少のんびりしているかな、スタッフが多く余裕があるなという印象を受けました。」

(引用、終わり)

面白いお話だったです、そうそう、一度お会いしませんか?と
メールを送り
PCの電源を落とした……ん?

クラクションが聞こえてくる
ピェーピェー、ブップゥプェゥー
危険を知らせたいからじゃない
鳴らしたい気持ちを
一時でも我慢できないんだ
ピェーピェー
生身で息をしてるなら
ブップゥブップゥブップェゥー
主張しなきゃだな
浅黒い肌、濃い顔立ちのインド人の男は車を止め
窓からひょいと顔を出し
美弥子さんにニカッと笑いかける
色白で薄い顔の美弥子さんも
ニコッと笑い返して道路を渡る
無理に同調してるのではないよ
自己主張には自己主張で返す
それでいて互いの間に垣根を作らないで一緒に頑張る
ピェープゥー
そんなのがいいね
そうなるのかなあ