深夜バスで北へむかう
北とは
ないふるさとである
一切のカルマを棄却し深夜バスは北へむかう
ないふるさとへむかう
ふるさとの母は語らない
ふるさとの母は観ない
ただ聴いている
ただ聴いている
母はひかりの声をきいている
母はひかりの声をきいている
深夜バスで北へむかう
北とは
ないふるさとである
一切のカルマを棄却し深夜バスは北へむかう
ないふるさとへむかう
ふるさとの母は語らない
ふるさとの母は観ない
ただ聴いている
ただ聴いている
母はひかりの声をきいている
母はひかりの声をきいている
あなたにも
消えたしっぽはありますか
そのしろく
まるいお尻のしたに
消えたしっぽはありますか
小動物だった
ころに
風がすぎるのをみていた
このはが
揺れるのをみていた
こわいとき
脚のあいだにまるまっていた
しっぽを振って
草原をはしった
薄暗い
葡萄屋の片隅で紙片を渡された
そのヒトは
小さな手帳にコトバを書いて渡した
薄い口から厚い口へと
水は温むという内容だった
そのヒトが
渡したのは意味ではなくコトバだった
手帳の紙片を破り
渡されたのはそのヒトの存在だった
こどものころ
先生たちが嫌いだった
でもいつか
先生に見えない先生にあった
先生は詩をかいた
その詩は詩とおもえなかった
先生は最近キャーとかいた
先生は年老いてウォーと叫んだ
その叫びは流されていった
ヒトたちのコトバにならない声だろう
手紙はとどいただろうか
手紙は
ふたり
わらっていた
ぼたるさんと
加藤さんががわらっていた
清水さんの句会でふたりの写真をとった
わたしがいないのはわたしが撮影していたからだった
手紙はとどいただろうか
手紙はとどいただろうか
四角い
空白の箱は
そこにとどまり出発しただろう
空白は
白い道を砂埃をまきあげて過ぎただろう
バス停でコトバは失われた
とどまりなさい
とどまりなさい
コトバのない場所にとどまりなさい
ない停留所の
ないコトバにとどまりなさい
今朝
真空のなかにめざめた
音がなかった
眼だけがひらいていた
そして
そのままねむってしまった
歴史的ではない
正統でもない
しかし
原初的領域にコトバの萌芽はあるだろう
音のない朝に
失われたものたちがいた
ひとつきが
過ぎ去ったのだろう
一瞬のように
過ぎ去ったのだろう
一生のように
過ぎ去ったのだろう
過ぎ去らない
ものはないのだろう
すべてが過ぎ去るのだろう
暗やみのなかに
小さな赤い薔薇の花をみてうれしかった
うれしかった一瞬があった
部屋の白い
壁に
広瀬勉さんのブロックの写真が
かけてあります
ブロックは
ビニールシートのうえ
雨に濡れて積まれています
広瀬勉さんが
暗室でプリントした写真です
広瀬さんの焼付けたブロックです
雨に濡れていとしい
雨に濡れていとしい
かつて
水色の花をみました
そのヒトの庭に
水色の朝顔の花が咲いていました
でも一日で萎れてしまうのですね
そのヒトはいいました
そのヒトはいいました
わたしには朝顔は遠い母に憶われました
遠い母に
コトバを届けたいとおもいました
無いコトバを届けたいとおもいました
水色の朝顔の
無いコトバを届けたいとおもいました
一度だけ
母を旅行に連れて行ったことがありました
沖縄で死んだ
たくさんの人々の名前のなかに
母の
兄の名が
石に刻まれていました
母はその石の前で崩れてしまいました
母はその沖縄の石の前で泣き崩れてしまいました
でも一日で萎れてしまうのですね
そのヒトはいいました
わたしは一度だけ
水色の朝顔の
無いコトバを届けたいとおもいました