網、づくも疼く

 

爽生ハム

 

 

網膜を布教してほしいから、きみを追いつめているし、こぼしてほしい形をしたんだよ。目を交換したいし、目を否定したい。夜景はコンビニ飯かもしれない。へんにあるより、へんにないものの方が落ちつく。

この形をつぶして、
摂取と、見たことのない。形の力で、うっぷん。を落とす

きみの大人びてく幼稚さでわたしごと燃やしたりする。
最近のわたし、渡来する。見たか、遊ぶ独走を、これからさらに最近のわたしを遡れるよ。

わたしのホコリも落ちてこない。わたしってきみの妄想の事だよ。奇を衒う色彩で塗られてる。わたしはコンビニエンスな距離をめざす。でも、解凍できないので、すごく昔の写真を燃やしたりする。

いま、死に後れるわたしの、情緒はなにに化けちゃうの。きみの娯楽に化けちゃう、なるほど。蓋したパックではじめようと思います。蘇生ごっこですね。
つのを撫で終えたわたしは、鯉がパクついたであろう物語を、人としての触感で妬む。この感じ心底。呆れる。恥ずかしく変容する。起毛は全てを感じてる。

ああ、きみの目だ。全く見えない代表的な目を装ってる。
真っ直ぐにつく嘘ほど醜い形はないよね。そうだ、不十分なきみの慾望は美しい、確かにきみはゆっくり歩いて思考停止するし、ノーブルに性行為もしない。
わたしはこれからさらにイメージです。遊ぶ独走にいけるよ

 

 

 

fly 飛ぶ

 

風が強かった

モコを
抱いて

浜辺を歩いた

波は砕けて
海面が

光っていた

鳩たちが
いた

白鷺と
海鵜が佇ってた

カモメは
テトラポットに並んでた

空高く
一羽のカモメが旋回していた

刹那には青い水面が揺れていた

青空に
白い雲が浮かんでいた

 

 

 

moment 瞬間

 

おととい
かな

もう
おとといなのかな

高円寺のバー
鳥渡で

飲んだ

鳥渡は
写真家の集まる店さ

写真家は鳥だね
詩人も鳥みたいなものさ

写真家は
世界を止める

詩人は
語れないことばを語る

一瞬
飛ぶのさ

爪先で立ち

激しく鳥になるのさ

 

 

 

冷たい肌の仲間たち

 

辻 和人

 

 

たっだい、まぁー
(おっかえ、りー)
たっだい、まぁー
(おっかえ、りー)

いっぱいいっぱい詰めて
いっぱいいっぱいいなくなってしまった
新古書店から帰って
空っぽになったバッグを放り出して

ふゅるるるん
ぱっ

迎えてくれるのは
いつもの
直立している君たち
肌が冷たい君たちだ

天上近くまでぐらぐら積まれた本
横倒しになったCD
「晴明神社」のステッカーが貼られた箪笥
小学生の時から使っている傷だらけの学習机

冷やっこくて
気持ちいいな

湯気の立つコーヒーカップを手にして
閉めっぱなしのカーテンをちょっと開くと
庭のミカンの木の枝で遊ぶスズメたち
湯気が冷気の中にひゅるひゅる溶けていって
ひゅっ
消えた
ほら、見てよ
スズメはあんなに楽しげに飛びまわっているのに
凍ってる
静止してる
熱は、どんな熱でも
ひゅっ
空中に消えてしまうのさ

さあて、のんびりしてる暇はない
あとひと月半でお引っ越し
武蔵小金井の2LDKにお引っ越し
「要る君」は、君かな?
「要らない君」は、君かな?
「売る君」は、君かな?
「業者に引き取ってもらう君」は、君かな?
段ボールとポリ袋がバカでかい口を開けて
君たちを次々飲みこんでいくんだよ

思い入れのある君たちをポイ
思い入れのない君たちもポイ
部屋がだんだん初めて訪れた時の姿に近づいてくる

祐天寺のモルタル木造アパート102号室
ここに住んで20年
入居したての頃はそれなりにきれいだったけど
さすがに安普請を隠せない
壁はところどころ変色してるし
天上から吊るされた裸電球のスイッチ紐なんか今にも切れそうだよ
もともと3年も住んだらサヨナラのつもりだった
それでもここを離れなかったのは
肌の冷たい君たち
君たちが増殖しすぎたからさ

増殖しすぎた君たち
引っ越しが頭に掠めるたびに
冷たい肌をびたっと押しつけてきて
ぼくを支配しようとしてきた
ふゅるるるん
ふゅるるるん
あはっ
ぼくはすっかり支配されてしまったよ
君たちの隙間でご飯を食べたよ
君たちの隙間で歯磨きしたよ
君たちの隙間で着替えをしたよ
本の山とCDの山と脱ぎ捨てた服の山の隙間で
20年も眠ったよ
この部屋の主人はぼくじゃなかった
部屋の主人は君たちだった
ぼくは君たちの影みたいだった
ぼくは君たちにつき従って
隙間から隙間へ
ふゅるるるん
移動していただけだったよ

20代から40代へ
大好きな熱いコーヒーを浴びるように飲み
バッチリ醒めた目で
窓の外のミカンの木を凝視しながら
ふゅるるるん
ふゅるるるん

眠り続けたよ

たっだい、まぁー
(おっかえ、りー)

君たちの冷たい肌に巻かれると
安心する
眠くなる
午前0時に借りた「カリガリ博士」のDVDを
コーヒー何杯も飲みながらギンギンに醒めた目で見て
午前2時
チェーザレと一緒に冷たい肌に巻かれて眠りにつく
といって実は映像に見入っている間も
ふゅるるるん
ふゅるるるん
眠り続けていたよ
時計の針は動き続けていたのに
時間は止まったままだったよ

ぶっちゃけ
孤独な死っていうものをさ
どう受け入れていこう、なんて考えてたんだよね
シミュレーション、シミュレーション
明るい日差しがカーテンから零れる爽やかな朝
君たちに埋まって、というより
君たちの隙間を埋める格好で
止まったきりになったぼくがいる
元気に出勤したり食器洗ったりする賑やかな音の波に洗われてる
発見されるのは何日後か
その時、目は開いているか閉じているか
あ、別に長生きしたくないわけじゃないよ
老後に備えてしっかり貯金もしてたしね
ただぼくは君たちと死ぬまで一緒にいる気でいたのさ

痺れるような眠りの快感から離れられない
これでいい
これでいいんだよ
寂しくないんだよ
肌の冷たい君たち
君たちに見守られ、看取られるなら
本望なんだよ

……だったんだよ?

それがまあ
突如としてノラ猫の一家が現われたじゃないか
あのミカンの木をツツツーッと登って
隣の家の屋根に
ひょいっ
飛び乗ったりするじゃないか

肌の冷たい君たち
君たちに看取られて息を引き取るっていうプランがさ
狂い始めちゃった
君たちの肌の感触が
少しずつ、ほんの少しずつ薄れていったのはその頃からだ
あったかいのもそう悪くはないかな
いいって程でもないけど悪いってことはないかな
ま、そんな風にね

地面から屋根へ
屋根から屋根へ
ひょいひょい飛び移る猫ちゃんの自由自在な空間の活用の仕方に
すっかり驚いてしまってね
目を見張っているうちに
熱が
少しずつ、ほんの少しずつ
ぼくの部屋に差し込むようになっていったってわけ

残業を終えて21時過ぎ
くたくたに疲れてアパートに至る細い行き止まりの道に入る
と、並んで待ちかまえていたファミ、レド、ソラ
大家さんの家の屋根の上からさーっと降りてくる
目は光りに光り
爪は尖りに尖り
あれっ、時間、動き始めた
次々部屋に侵入してくる彼らの体は熱い
抱き上げると
ドキドキドキドキドキドキ
何でこんなに鼓動が速いんだ
脇に手を入れると毛むくじゃらの両足がだらーっと開く
何でこんなに無防備なんだ
熱くてびょーんと伸び縮みする体、体、体
これが
生身
瞳は、細くなったり丸くなったり、忙しい
鼻も、ひくひく周囲の様子を鋭く探って、忙しい
一瞬たりとも静かにすることのない生身が
屋根からするする降りてぶつかってきて
肌の冷たい君たち
君たちの支配を少しずつ突き崩していった
ってことだね

「もしもし、引っ越しの準備進んでますか?」
「うん、進んでるよ。お互い荷物多いし頑張ろうね。」

猫たちがいなくなって
ガバッと起きた
ガバッとだ
そしたら
ミヤコさんが降りてきた
ミヤコさんの手はあったかい
お尻もあったかい
息もあったかい
欲張りな意志もあったかい

どっこいしょ
また一つ「不要な君たち」の山を作ることができた
今度は業者に引き取りに来てもらうことにするか
肌の冷たい君たち
君たちとの縁が薄くなっていくのは寂しいよ
冷たい肌に巻かれて眠る、これも一つの
安心の形だったから
たっだい、まぁー
(おっかえ、りー)
こんな当たり前の会話もできなくなる
あったかい肌と作り出すあったかい時間の始まりは
不安の始まりでもあるんだね
ミヤコさん
不安を踏み台に、ぼく頑張ります
ノラ猫の一家が残してくれた生身の感触が
ミヤコさんと出会ってどんどん育って
ふゅるるるん
ふゅるるるん
ぱっ
今びゅーびゅー時間が動いてるんです

 

 

 

よみがえる。

 

サトミ セキ

 

 

父がわたしのこの部屋にいる。
わたしの横で寝ているのは、父だ。父は昨年死んだので棺の中で寝ていた。
亀裂が入った棺の中から素足がはみ出している。ぐりりっと音を立てて目の前で足指が膨張しはじめ、見覚えのある大きなシミのある足首まで一気に棺の外に出た。左足先は一部が腐り、皮がめくれて肉が露出している。父を包んでいる毛布には、血とも死体から滲み出たともつかぬものが生乾きのままこびり付いている。
くるぶしの先がすごいスピードで回り始めるから目眩がする。
部屋の中を風が吹き抜けている。吹いているね、だから死体が動くってこともあるのかもしれないね。真っ白なカーテンが光を透かして揺れている。
ねえお父さん、これから起き上がったりするのかな。怖いからわたしは逃げるよ。

今日は風が強いなあ。真っ青な空の奥で雲がすばやく流れていく。
真後ろのマンションを振り返り、顔を元に戻す。わたしは実家の公園の前の道にいた。アケビの蔓製の買い物籠をさげた母が、向こうから鼻歌を歌いながらやってきたよ、腰にいつものエプロンを巻いて。
「お父さんが、生き返りそうなんだって? だったら、あたしがなんとかしてやろう」
わたしより若々しい黒髪がきらりと輝き、母は紅い唇を開く。
母はなんだか弾む足取りで、父のお棺がある部屋へと向かってゆく。なんとかってどうするの?  あなたもとっくに死んでしまったくせにって、ふと思った。

目が覚めた。昼寝をしていたのだった。カーテンが夕暮れの光に染まってゆっくり揺れている。
母は五年前に死んでしまって、白髪も唇も燃えてしまったのだった。母の声も、老いた皺だらけの顔の面立ちももうはっきり思い出せない。目にするのは、
新婚旅行の二人の写真。母はまだ二十代の娘で、陰のない笑顔で笑っている。そう、わたしが生まれるのはまだしばらく先なのだ。

わたしはマンションに戻らなければならない。現実の世界でも、父はまだわたしの部屋にいて、今シャワーを浴びているのだった。マンションに戻ると、弟が玄関に立っている。おやじ、生き返ったんだって?
電気剃刀の音がじゃりじゃり聞こえる。棺の中でヒゲが伸びたんだね。
シャワー室から爽やかに出てきた父は、見たことがないくらい男前だ。弟が用意した車椅子にゆっくり腰を下ろして言う。
「死んでいたと思えないくらい、顔色がいいやろ? 散歩に行こうや」
明るい声だね、お父さん。黄色くしなびかけてるわたしよりずっと。少しずつ歩けなくなって、二度とベッドから離れられなくなったのはいつだっけ。また、すぐ長く歩けるようになるよ。公園の鉄棒で逆上がりをもう一度教えてくれる?
窓の外に見物人が重なって、父の一挙一動をみつめている。そのうち、こわごわと声をかけてくれるよ、ひろしさん、死んでいた時を覚えてる? 生き返るってどんな感じって。
ねえお父さん、これからどこに行こうか。

まぶたを開けると薄暗かった。少しだるいからだを起こしながら、目の前にあるタオルケットの端からはみ出ている糸をそっとひっぱってみた。今度こそ本当に目が覚めた、のだと思った。
父も焼いてしまったのだった。焼けたばかりの骨は香ばしかった。てのひらに置かれた骨の温度もまだ覚えている。もうすぐ父の一周忌だ。一年前にまっすぐに骨壺から突き出た足骨を砕き粉にした。一周忌では、重い岩を持ち上げ、暗い空間に小さな骨壺を入れるのだ。母の骨壺の隣にならべて。

わたしは刻々と老いてゆく。わたしの夢の夢の底でも風が吹き太陽は沈む。あなたたちの声が、ふたたび筋肉がついた足が、歯が生えかけた口がよみがえる。
夜になった。夢の中と同じ曲線を描いてカーテンがひるがえる。部屋の片隅で新婚の父母の写真がふらりと動く。

 

 

 

闇が傷になって目を開く

 

長田典子

 

 

平日の午後
アッパーイーストのデパートに買い物に出かけた帰り
59丁目の地下鉄ホームで電車を待っていた
買ったばかりのシーツの入った重たい紙袋を下げて
ぼんやり立っていた
とつぜん早口のアナウンスが流れ
連続殺人犯が地下鉄を乗り継いで逃走中だと告げる
ちょうど滑り込んできた電車に
他の乗客とともに乗り込む
ばったり犯人に出くわしたら運が悪いだけ

わたしたちは わたしは
いつ血まみれになって殺されても不思議ではないのに
何事も起きていないかのように
電車に揺られていた

電車は
追いかけているのか
追いかけられているのか
殺人犯を 殺人犯に
わたしたちは わたしは

殺るぞぉ! 殺ってやるぞぉ!! と夜遅くになって父が
一升瓶を振り上げて ふたりだけしかいない母屋の廊下を追いかけてきたのは
大人になってからのことだった
父に代わって社長だった母も亡くなり
もう赤字続きの商売を閉じてほしいと懇願したときのこと
逃げ場を失い咄嗟に
警察に電話するから!と叫んだら
父は ふいに肩を落とし
一升瓶を脇に置いて
茶の間でテレビを見始めた
なによりも体裁を重んじる人なのだ

グランドセントラル駅で下車すると
いつものように 改札口で
ピストルを脇に挿した警察官が所持品の検査をしていた
コンコースでは
迷彩服の兵士たちが随所に立ち
無表情で銃を構えていた
いつものように

アパートに帰り
備え付けのベッドに買ったばかりの赤いシーツをかけながら
TVをつけてNY1のニュースを見ると
タイムズスクエア駅の構内で犯人が捕まったと報じられていた
わたしの部屋から歩いて10分のところ
遠くで起こった血まみれの連続殺人事件は自宅近くまでやってきていた
シーツの皺を手で伸ばしながらわたしは
わたしの血まみれの思い出を
広げていた

小学生だった朝
妹が犬のように縄で縛られて池の中に座らされていた
血のように涙を流して泣いていた
夏休みの宿題をまだ終えていないお仕置きだと
父は縄の端を持ちながら
池の淵に立って
笑っていた
わたしはどうしたらいいのかわからなくて
茫然として見ていた
あのとき
もしわたしが銃を持っていたら
銃を
持っていたら
父を撃っただろうかわたしは
無表情でわたしは
撃ったのだろうか………

2週間前の早朝
打ち上げ花火のような音で目が覚めた
2時間後のニュースで発砲音だったと知った
アパートのすぐそばで殺人事件が起きたのだ
居合わせた大柄のゲイの男が興奮気味にカメラに向かって喋っていた
近くのファーマシーの化粧品売り場でよく見かける人だった
それでも日常は続き
事件のことはすぐに忘れて
学校に出かけた

夜中に
父の怒鳴り声がした
からだを叩きつけるような鈍い音が2階まで聞こえ
ぎゃぁあああ!!殺されるうっ!!という
母の叫び声が何度も響いていた
あのときも
わたしは小学生だった
走って行って母を助けるべきだったのにわたしは
人形のように身を固くして
息を潜め布団を被って隠れていたのだわたしは
翌朝 台所に立つ母の背中におそるおそる
だいじょうぶ?って聞くと
振り向いた母の顔は痣だらけのお岩さんのようで
ボクシングでボコボコにされて鼻血の噴き出した選手のようだった
離婚したいと言ったら
箒の柄でからだじゅうを何度も殴られたと
力なく言った
ブラウスの袖口から出ていた腕も痣だらけで
ところどころミミズのように腫れあがっていた
あのとき
もしわたしが銃を持っていたら
銃を持っていたら
父を撃っただろうかわたしは
無表情でわたしは
撃ったのだろうか………

撃たなかった
かもしれないのだ
父を わたしは
自分の命を守るためだけにわたしは
先に弱い者を撃ったのかもしれないのだわたしは
わたしはわたしはわたしは………

通っている語学学校は
歴史的な建造物のウルワースビルの一角にあり
そこで勉強してるなんて なんだか鼻が高いのだ
ただし華麗な装飾が施されたエントランスを通り越した脇に
学生専用の入り口はある
中は現代そのもの
水色の絨毯が基調の教室は清潔で明るい
どの教室もガラス張りのドアから中の様子が見えるようになっている
プレゼンテーションで母国の歴史的な一場面を発表するとき
中国人の国費留学生は南京大虐殺を取り上げた
数々の残虐な映像がスクリーンに映し出され
わたしは たったひとりそこにいるニホン人として
前を見ることができずに 居場所を失い
休み時間に
ひとりのニホン人として謝りたいと伝えるのが精一杯だった
宗教や習慣の行き違い
出身国がからむ国際関係から
一触即発の事態は
教室のなかでも起こりうる日々

新しい赤いシーツの皺を
伸ばし
伸ばしながら
広げる広がってしまう
わたしの
血まみれの思い出………

就職した総合商社を8か月で辞めて
貯金をもとに公務員試験の勉強を始めたころ
父は失望のあまり しつこく罵った
よー 知ってんかぁ おめぇみてぇなのをよぉ 人生の落伍者ってゆーんだ
この人生の落伍者!
失敗したら次は何を言われるのかが怖ろしくて
プレッシャーで体重が38キロになっていた
あんた人のこと言えんのかっ、家族ほおって長い間どこ行ってたんだ!
震えながら全身で口ごたえすると
さらに逆上して髪の毛を鷲掴んできた
親に向かって生意気な口ききやがって
ばかやろー 出てけ! このやろー
いい気になりやがって
きたねぇ顔みせんな このブスっ!
おめぇみてぇなバカ見たこたねぇや!!
あのときも
壁に後頭部を何度も打ちつけられた
腕や肩に父の指の跡が痣になっていくつも残った
父の手に
抜けたわたしの髪の毛がどさっと絡み付いていた
後頭部が赤く腫れて血が出てきた
試験に受かったら次は
この家からいちばん遠い場所に行ってやると思っていた
父は父で
代々受け継がれた土地を失うばかりで
体裁を繕うこともできなくなって地獄を見ていたのかもしれないが
わたしはわたしで
自分を生きている価値のない人間だと思わずにはいられなくて
ほんとうは 毎日
死にたいと思っていた思い続けてきた
枕元に父の工具箱から盗み出した大きなスパナを置いて眠っていたのは
むしろ殺して欲しかったのかもしれない………

ついこのまえ
ウサマ・ビン・ラディンが暗殺されたというニュースが
全米に速報で流れアメリカ人を歓喜させたが
人が殺されて歓喜するという思考がわたしにはわからない
タイムズスクエアに近いアパートには
夜中までUSA!USA!という群衆の歓声が聞こえ続け
外国人のわたしは深い恐怖に陥った

地球の裏側の
老人施設で父が赤ん坊のように
ぼんやりと昼食を与えられている時間に
わたしはベッドにもぐりこむ
枕元には
もう武器は置かない
置いてはいない
のだけれど

わたしがもし銃を持っていたら
わたしはどっちを撃つだろう
自分よりも強い者か
自分よりも弱い者か

闇が傷になって目を開く

 

 

 

牛後

 

爽生ハム

 

 

足りてないカーテンの隙間から

…の冷気が肌をつねって、言葉を舐めろと話かけてくる。
空白のお椀が向こうにあると
気づいた。喋ることなど決まっていたりしてもいいのに。言葉をあてがうには、人は生きすぎてる。時間にルーズな、桟敷にでよう。たわんとしたカミがいてもいいのよ

病的なチックの自分を見てると
やさしくて、紛らわしい自分も
溜まっていくって。それは池の中で聞いた
だいたいみんな池の中に行くって
それも空白を埋めた人から聞いた。やさしくって
やさしくて、愛おしいお椀だとすれば足りてないのは懐かしい

懐かしいのは笑える。
憶えてないから笑える、
ここで流れてるムード歌謡がお湯を沸かすのは、
いつになるだろうか

いい曲だな。
それに、しても
通過して遺棄して。くりかえして
聴こえて、しまう
こんな夜は夜の価値を終えたってことにしよう。

 

 

 

child 子供

 

昨日

水道橋の神田川に
カモメが

浮かんでいた
すぐに

飛んでった

こどものころ
焼石岳に

雪が積もるのを見た

天辺が
白く光るのを

見ていた

白が
世界を覆った

すべてを白にする
残る

わたしも
白にする

ブレンデルに午後

逢う