彼方

 

爽生ハム

 

 

呼応する緑のススに
手のひらが触れる
手の熱が吸いこむ
音読を
ひとつひとつ
球体として丸めこんでいく

声をかけられ
ひとつひとつ
彼はトゲトゲしい
彼女は冷んやりする
この人は八百屋かな
あの人は未亡人なのか

などと
時を忘れ
不在な噛み心地は生まれる
反応が順応に見えるくらい
今この形の緑のススを
受け容れる

球体の容器が
わたしの内で鳴りはじめ
隠し事みたいな養分をつめていく
そのさま
実に愛おしく
その愛おしさを
緑のススに返そうとする

それは
球体の一室となり
わたしの頭上まで浮きあがり
その場で吹いた
風に乗り
自由に失意に暮れはじめる

返そうとするトゲトゲしさを
彼女は冷んやりと弾く
ああ
あなたが未亡人でしたか
しかもあなたはもう向こう岸

じゃあやっぱりわたしが
八百屋でしたか
どうりで顔が泥だらけだ

泥だらけを
水が流したから
わたしは綺麗

わたしは汚れていた
それだけしかわからない
彼方はどうですか?

 

 

 

today 今日

 

清澄白河で
きのう

サエグサくんに
会った

やせてたな

眼が
ひかっていた

それで
笑っていた

サエグサくんのギターはキィーンと鳴った

引き裂いてくれ
此の世を引き裂いてくれ

帰りは
門前仲町で

荒井くんと飲んだ

夜中に
ラ・モンテ・ヤングを聴いた

 

 

 

guest 客

 

きのう
やわらかい場所という

詩を
読んだ

ひゅーん、と
飛んで行きたい

そう
書かれていた

今朝
電車で多摩川を渡るとき

モーツァルトのピアノソナタを聴いた

川は流れていた

よきものたちよ
よきものたちよ

流れよ

やわらかいものを抱いていた

 

 

 

やわらかい場所

 

長田典子

 

 

川沿いのフェンスにもたれて
幸せだった
汽水域を越えて
水鳥のように
飛び立って行けるのではないか
まだ見たことのないどこかへ
そう思えた

夏の終わりの日曜日
自由の女神を見にフェリーに乗ったのだった
リバティ島に向かって
フェリーの屋上は
人であふれていて笑顔だった
見たことのない何かを所有する欲望に
目を輝かせていた

近くで見ると思った以上に巨大で
横幅があって
強そうだった
マッチョな体躯に圧倒された
女神なのに

ニホンでは
長い間
悪夢に悩まされていた
茶色く淀んだ川の水面から
頭だけ出してもがいている夢を繰り返し見ていたころ
水の中で手や足は完全に萎えて感覚さえなかった
また別の夢では
なにをやっても酷いことが起き
叫び声を上げてもなお
悪い運命に翻弄されるばかりなのだった

ここに来てからは
悪夢を見ることはなくなった
わたしは
満員のフェリーに乗る観光客のひとりとなり
汽水域をなぞって
ゆるゆると
自由の女神を見るために
リバティ島へ
そして
かつて移民局のあった
エリス島へと
移動した
とても平凡で穏やかな行為として

胸元に毎日
花びらのタトゥーを刻み込み
数を増やし続けながら
こうあるべき自分
という想念にとり憑かれていた
耐えていた
痛くても
こうやって
生きていかねばならないのだから
と……

移民博物館では
ヨーロッパから
飢饉や貧困を逃れて
長い船旅の果てに
たどり着いた人々の写真
山のように積まれたボストンバッグや荷車
健康診断に使われた医療器具
などを見て回った
人々は長い列を作って並び
いくつもの部屋を通過し
たくさんの尋問にパスせねばならなかったが
傷みを
汽水域を
越えて
大陸では
失敗しても失敗しても貪欲に新天地を求めて
移動していった人たちがいた
マッチョだ
マッチョな人生だ

帰り道
地下鉄の車内はがらんとしていて
わたしはぼんやりと
あの人の
やわらかいペニスを思い出していた
慈しむべき身体の一部として
口に含んだときのことを
差し出された手の甲に
口づけをしたときのことを
指のいっぽんいっぽんを
順番に舐めて
そっと噛んだりしたときのことを

出国したのは
受け身ではなく
慈しもうと思ったから
能動的に
この場所にいる
わたしを
愛したい
もう何も心配しなくてもいいと
思いたかった
何も
考えずに
ひゅーん、と
飛んで行けたら

そうだ
自由の女神のマッチョな体躯だ

タイムズスクエアや5番街には
全身を緑灰色にペインティングした
肥満体の自由の女神が出没している
観光客と一緒に記念写真を撮らせるたびに
チップを巻き上げていた
ニホンの
パチンコ屋や量販店にも
似たような像が置いてあったっけ
マッチョな人生なんて
どこにでもあるのかもしれないな

仮装という存在
仮想という想念
から
解放されよう

マッチョに
飛び立つのだ
マッチョに
って、
単純すぎるよね

川沿いの
フェンスの向こう側には
生まれたての
赤ん坊のような
慈しむべき
やわらかい場所があるようで
差し出された手の甲に
くちづけをし
指のいっぽんいっぽんを
順番に舐めていくような
れんあいかんけい
のような
時間があるようで

ひゅーん、と
飛んで行きたい
汽水域を
超えて

 

 

 

カバライキンの歌

 

佐々木 眞

 

 

カバライキン カバライキン
カバライキンが、暴れてる。
カバライキン カバライキン
テレビや、ラジオで、騒いでる。

カバライキン カバライキン
朝から晩まで、うるさいぞ。
カバライキン カバライキン
カバライキンとは、そも何者?

カバライキン カバライキン
カバライキンは、私です。
1 10 100 1000 10000
いますぐお電話、くださいな。

カバライキン カバライキン
カバライキンは、約束します。
1 10 100 1000 10000
カバライキンは、儲かりまっせ。

カバライキン カバライキン
カが、バラバラと飛んできて
真っ赤なバラに、バラしたそうな。
カバライキンは、世にも恐ろしいバイキンでっせ。

カバライキン カバライキン
カバライキンは、悪い菌。
おまえの手口は、分かってる。
カバライキンに、油断をするな。

カバライキン カバライキン
カバライキンは、夢の金。
1 10 100 1000 10000
お金がないのに、ある気にさせる。

 

 

 

あと1キロ

 

爽生ハム

 

鞄に感動することを感じ
おおいに鞄は ずたぼろに
鞄のことは
純粋な思い込みで忘れる
連結した視線が
フックにひっかかる
憶えのない 環境だった
歯ぎしり用の紐で
飾り花が固定された側道は簡素
はぐれたあばずれをめざして
帰宅するたび
逆光があっけらかん
気が紛れるから記憶するんです
でも感動することにおされて
坂を真っ逆さま
しがみつく指の間隔から
飾り花が真実味をおびる

 

 

7月の歌

 

佐々木 眞

 

 

「なでしこジャパン」は、残念だった。
ウィンブルドンの錦織も、残念だった。
青木も、イチローも、松坂も、残念だった。
残念、残念、残念だった。

新幹線自殺は、残念だった。
岩手の中学生自殺は、残念だった。
「少年A」は残念だった。
残念、残念、残念だった。

新国立競技場は、残念だった。
安藤忠男は、残念だった。
石原慎太郎の時から、残念だった。
残念、残念、残念だった。

「マグリット展」は残念だった。
「田能村竹田展」は残念だった。
「ファミリーナ宮下」面談も、残念だった。
残念、残念、残念だった。

台湾栗鼠は、残念だった。
白鼻芯は、残念だった。
画眉鳥も、残念だった。
残念、残念、残念だった。

戦艦大和は、残念だった。
戦艦武蔵も、残念だった。
タイタニックも、残念だった。
残念、残念、残念だった。

浅沼稲次郎は、残念だった。
ジョン・F・ケネディは、残念だった。
マルチン・ルーサー・キングも、残念だった。
残念、残念、残念だった。

安保闘争は、残念だった。
早大学費学館闘争は、残念だった。
連合赤軍派リンチ事件は、残念だった。
残念、残念、残念だった。

民主党は、残念だった。
鳩山首相は、残念だった。
菅、野田、小沢も、残念だった。
残念、残念、残念だった。

自民大勝は、残念だった。
公明党も、残念だった。
維新も、橋下も、残念だった。
残念、残念、残念だった。

思えば岸信介が、残念だった。
佐藤栄作も、残念だった。
とりわけ安倍晋三は、残念だった。
残念、残念、残念だった。

特定秘密保護法は、残念だった。
集団自衛権閣議決定は、残念だった。
安保法案上程は、残念だった。
残念、残念、残念だった。

戦後日本は、残念だった。
平和憲法は、残念だった。
俺たち自身が、残念だった。
残念、残念、残念だった。

ギリシアも、EUも、残念だった。
米・中・韓・露も、残念だった。
世界中、なにもかにもが、残念だった。
残念、残念、残念だった。