month 月 一ヶ月

ひとつきが
過ぎ去ったのだろう

一瞬のように
過ぎ去ったのだろう

一生のように
過ぎ去ったのだろう

過ぎ去らない
ものはないのだろう

すべてが過ぎ去るのだろう

暗やみのなかに
小さな赤い薔薇の花をみてうれしかった

うれしかった一瞬があった

 

はなとゆめ 07

かつて

水色の花をみました

そのヒトの庭に
水色の朝顔の花が咲いていました

でも一日で萎れてしまうのですね

そのヒトはいいました
そのヒトはいいました

わたしには朝顔は遠い母に憶われました

遠い母に

コトバを届けたいとおもいました
無いコトバを届けたいとおもいました

水色の朝顔の
無いコトバを届けたいとおもいました

一度だけ
母を旅行に連れて行ったことがありました

沖縄で死んだ
たくさんの人々の名前のなかに
母の
兄の名が
石に刻まれていました

母はその石の前で崩れてしまいました
母はその沖縄の石の前で泣き崩れてしまいました

でも一日で萎れてしまうのですね
そのヒトはいいました

わたしは一度だけ

水色の朝顔の
無いコトバを届けたいとおもいました

 

 

はなとゆめ 06

かつて

熱風は過ぎただろう

白い道を
あるいてきた

そのヒトは裸足であるいてきた

庭に水色の朝顔の花が咲いていた

そして
そのヒトはいった

どうでしょう

植物がどのような美観を持っているのか
わかりません

わたしには
母への執着がないんです

兄が亀戸にいて
老いた兄は病院に見舞いにきてくれたんですよ

そのヒトはいった
そのヒトはいった

庭に水色の朝顔の花が咲いていた

白い道をあるいてきた
白い道を

 

はなとゆめ 04

かつて

ひだまりに

コトバをならべた
無いコトバをならべた

無いコトバが死ぬのをみていた
背後からさらに無いコトバが死ぬのをみつめるものたちが

いた

熱風は

過ぎただろう
過ぎさっただろう

熱風こそ過ぎさるだろう

熱風のさきに白い道があった

白い道があった

 

はなとゆめ 02

夏の朝に

エアコンのカタカタとなって
トトトトトと

とまった

階上から水の流れる音がゴオーとなった

あまいコトバを
まだ書きたかったのだろう

うすき口あつき口へ・・・・

とかいた
紙片をそのヒトは渡して

逝った

カタカタとなって

トトトトトと
とまり

水の流れる音がゴオーとなった

今朝の音信はそれだけです
今朝の音信はそれだけです

 

はなとゆめ 01

今夜は

すずをころがすよう

虫たちの鳴いて
秋の虫たちの声をきいて

います

今夜は
それだけです

虫たちの声をきいて

すずをころがすよう
すずをころがすよう

あのヒトの俤も消えてしまった

虫たちの声の
この世の果てまで響いていました

 

「はなとゆめ」19 おびただしい死

灰色の

瞳をしていました
わたしの

祖母は灰色の瞳でみていました

いつも窓辺に着物でたって
みていました

窓辺から
みていました

過ぎていくもの
消えていくものの

山百合の

花の
暗い林の中の

しろく咲いて揺れていました
しろく咲いて揺れていました

灰色の
瞳でみていました

沖縄で死んだ息子や

近所のヒトや
親類のヒトや
あじあのヒトたちや

てんのうへいかばんざい
てんのうへいかばんざい

そう叫んだことや

窓辺から
みていました

窓辺から
みていました

おびただしい死者たちをみていました

おびただしい死者たちが過ぎていくのをみていました
おびただしい死者たちが消えていくのをみていました