家族の肖像~親子の対話 その65

 

佐々木 眞

 
 

 

2023年1月

あけましておめでとう。ぼく、言いましたよ。
コウ君、おめでとう!

ぼくは、お正月、好きですお。ぼく、お雑煮好きですお。
お父さんも。

お母さん、お父さん泣いたの、セイザブロウさん亡くなったからでしょう。
そうよ。

お母さん、ショウガイジって、なに?
障害を持つ子よ。

お母さん、自閉症って、なに?
コウ君みたいな人のことよ。

お父さん、おまわりさんの英語は?
ポリス、じゃなくて、ポリス・オフィサーだよ。
ポリス、ポリス、ポリス

命令って、こうしなさい、ってことでしょう?
まあそうだね。
メイレイ、メイレイ、メイレイ

零は、雨に命令の令ですお。
なるへそ、そうだね。

廃止、なくなること?
そうだよ。

お母さん、オデンに、大根と卵入れてくださいね。
はい、分かりました。

今日は、小正月ですよ。
そうか、コウ君よく知ってるね。
小正月、なに?
小さいお正月、かなあ。

ぼく、2023年好きですお。
そうなんだ。

「♪これっくらいの、お弁当箱に……」、ぼく、歌いましたよ。
歌ったね、コウ君。

お父さん、洗濯物乾いていますよ。
そう?ほんとに乾いた?
乾きましたお。

ぼくはトシヒコ君です。
こんにちは、トシヒコ君!

ぼく「コンピューターおばあちゃん」です。
それなに?
「みんなの歌」だお。
そうかあ。

ぼくはタクちゃんです。
こんにちは、タクちゃん。

お母さん、機会あったら、って?
今度良かったら、よ。

 

2023年2月

お父さん、きょう、イシハラサトミのビデオ、予約して。
分かりましたあ!

お父さん、きのう、イシハラサトミのビデオ、録画してくれた?
しましたよ。(朝5時から何回も電話あり)

お父さん、ぼくイシハラサトミのビデオ見ますよ。いま。
分かりましたあ。

盛りだくさんって、なに?
いっぱいある、ってことよ。

偶に、の英語は?
オケーショナリーかな。
タマニ、タマニ、タマニ

YMCA  GoGoGo!YMCA  GoGoGo! ぼく、いいましたよ!
ゆったね。

つもったら、電車とまっちゃうでしょう?
そうねえ、停まってしまうね。

ぼく、ウエハラミツキ好きになったんですお、フクモトリコの次に。
リコの次にかあ。

フサグは、シンキンコウソクのソクだよね?
なぬ?
塞ぐは、心筋梗塞のソクだよね?
そうか。ああ、そうだね。

お母さん、きょうコンスープとおいものグラタンにして。
分りましたあ。

なんとなくの英語は?
Somehowだよ。

セイザブローさん、シンゾー痛かったでしょう?
痛かったと思うよ。

お父さん、2千円ください。
お母さんにいいなさい。
お母さん、2千円ください。

ぼく令和5年好き。2023年、好きですお。
そうなんだ。

ぼくハレルヤの歌、好きなんですお。ハーレルヤ、ハーレルヤ、ハーレルヤ、ぼく歌いましたお。
歌ったね。

ぼく、パンダ好きですよ、お母さん。
そうなんだ。コウ君、パンダ見たことあるの?
ないお。

お母さん、口内炎が出来ましたよ。
あらまあ、こんな酷いことになって。痛いでしょう。
痛いですお。
可哀想に。お薬飲みましょうね。
ぼく、飲みますお。

えーとねえ、ぼくさいたま市好きですお、お母さん。
そうなんだ。

ウエハラミツキ、可愛いよね、お母さん。
うーーーん、可愛いというよりは……。

ぼくアサオカルリコです。「めんどくさいね」言いましたよ。
浅丘ルリ子がドラマでそういったの?
そうだお。

 

2023年3月

お母さん、大町から六地蔵通って、図書館行ってくださいね!
分かりましたあ。

お父さん、お風呂洗ってください。
分かりましたあ。

お父さん、大好きですお。
コウ君、なにかやったんでしょう?
やってませんよ。やってませんお・

お父さん、きょうトリセツ録画して。
イシハラサトミが出るやつね。分かりましたあ。

お父さん、きのうのトリセツ録画した?
ばっちり録画しましたよ。

お母さん、ミーティング、なに?
話し合いのことよ。

こっちのメダカさん、あなたも仲良く一緒に暮らすのよ。

コウ君、きょうはケンちゃんが来ているから、一緒に晩御飯を食べましょうね。
はい、分かりましたあ。

ぼく、オオヤさんに会ったんですよ。
そう、良かったね。
オオヤさん、ヒロスエリョウコに似ていますよ。
似てるね。

お父さん、洗濯機の修理頼んだ?
頼んだよ。でも部品が無いからいつ来られるか分からないんだって。
お父さん、洗濯機の修理頼んだ?
だからね……

お父さん、大好きですよ。
お父さんも、大好きですよ。

お父さん、洗濯物乾いた?
乾きましたよ。
お父さん、洗濯物乾いた?
乾いたよ。
お父さん、洗濯物乾いた?

ぼく、ヨシダタクロウです。
こんにちは、タクロウさん。

ジゾクコウマクカブロック、麻酔でしょう?
そう、麻酔だね。

お母さん、ぼく埼玉県好きですよ。
そうなの。お母さんもよ。

お母さん、誰と電話しているの?
当ててご覧。
エイコさん?
ブブー。
マリちゃん
ブブ-。

お母さん、ハスの赤ちゃんが出ていますお。
あらほんとだ。小さな芽が出てるのね。コウ君、よく見つけたね。

 

 

 

奇襲成功

 

辻 和人

 
 

新兵器の投入だ
顔真っ赤手足バタバタの魔の7時
ギャン泣き声に挟まれて危機に陥ったかずとんパパ
だが今日は新兵器があるぞ
両端に膨らみを持つ赤い棒状のものが
コミヤミヤとこかずとんの頭上を駆け抜けた
西松屋で1000円で買った
マラカス型のガラガラ玩具
ジュカジュカジュカジュカジュッ
かずとんパパが強気で振ると
強気の羽ばたきの
ムクドリの急降下
コミヤミヤの声ぱたりと止む
こかずとんの声ぱたりと止む
撓んだ曲線の航跡から
にゅっと嘴生え出て
空気を鋭く切っていく
あっけ
に取られた
2つの口をまあるくする
お次はアゲハチョウ
かずとんパパが人差し指と中指を使って弱気に振ると
ながーい触覚もそっと動かし
ゆらゆら舞い上がる
小刻みに上下
小刻みに羽震わせ
シュカシュカシュカシュカシュッ
描き出されるゆるーい八の字に従って
2×2の目
きゅっきゅきゅ動く
さっきまでのギャン泣きが噓のよう
かずとんパパの魔法の手の力で
両端が膨らんだ赤い棒の中から
突如出現した
ムクドリとアゲハチョウ
奇襲成功だ
よし、またムクドリいくぞ
次のミルクまでの1時間持ちこたえるぞ
ジュカジュカッシュカシュカッ

 

 

 

ぶらんこ *

 

さとう三千魚

 
 

夜が
あけて

空には
青空

ひろがっている

モコ
吠えている

肉が

欲しいのか
モコモコ

女が
呼んでいる

モコの走る音が聴こえる
走ってる

ぶらんこが揺れる

遠い

誰も
いない

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”スポーツとあそび” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

モンハン

 

工藤冬里

 
 

藤消えた山がもう「さみしくないだろ」

たたかいなど忘れてしまった頃にノスタルジーは否定し去るものではなく効用もあったことに気付く
人間味、てことだ

目と歯と胸の順に我に返り身を投げる崖の腰の痙攣

息の仕方をあれこれ
急なダウンロードにハッとして
眼球の水平線を招来する
防御も祝福
水を抜くように洗濯機の根底が見えるようになったAIに
何をどうすればいいかというより
何故なのか訊け

 

 

 

#poetry #rock musician

致 本來無一物野郎
本来無一物野郎に寄せて

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

雲很遠,海岸線
準備讀詩的人
站在站前的廣場,等
人群來去,而我
岩塊的流域,再來
一節。空無
物,同時打開每一
無。思緒,我響應風
流水,響應Bach
激流中的磐石。
一和所有,都先於我
而我只是復述。

 
 西貢,五月的雨中

 
    .
 

雲很遠,海岸線
 雲の遙かな、海岸線に
準備讀詩的人
 詩を読もうとしている人
站在站前的廣場,等
 駅前広場に立って、
人群來去,而我     
 人々の往来を待ち受けている、そして私は、
岩塊的流域,再來
 岩の流域から、
一節。空無
 もうちょっといってみるか。すっからかんな
物,同時打開每一
 もの、それを同時に開いていけばまたまた
無。思緒,我響應風  
 無だ。思うに、私は風と響き合い、
流水,響應Bach
 流れる水と、Bach この 
激流中的磐石。
 激流にも流されぬ巨石と響き合う。
一和所有,都先於我
 一そしてすべて、みんな私に先立つもので
而我只是復述。
 ただ私は繰り返して述べるのみだ。

 
西貢,五月的雨中
 サイクンにて、五月の雨の中で

 
 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 
 

 

 

 

まっしぐら

 

道 ケージ

 
 

まっしぐら
まっしぐらだ
しぐらって何だ
なんだなんだ

くじらかな
くじらのしんせき
しぐれてまっしぐら
海雪分けいる
よけいに白い

らくだだろ くろらくだ
だらくしたんだ
ぐらぐらしてさ
こぶ、重いってさ

グラだよグラだクリグラだ
でっかいケーキを落としてさ
まっ、しんでしまったという話だな

 

 

 

声を漕ぐ

 

野上麻衣

 
 

ぷかぷかと浮かぶ
雲みたいな声は
本人ではなく
だれかのいるほうから
聞こえてきた

(声はその人が持っていなかった)

まず椅子を用意する
声が座れるように
ぜんぶで8つ
どちらかあまってしまっても
かさなってゆくから
心配ない

(声は椅子に座りたがらない)

それから
舟をくみ立てる
泡はからだに沿って音をたてる
そのかたちをたどり
水面を漕いでゆくことにした

(声は舟に乗ってくれるだろうか)

2メートル先
水の中で声がする

ぷぅーと吹かれたラッパのように
からだがふるえる
ずっと手のひらにあった
ひとの、声

 

 

 

食欲もなくなるコラール *

 

さとう三千魚

 
 

夕方の鐘が鳴った

西の光が
明るい

障子には
白木蓮の葉を青くひろげて

葉の影が
揺れている

朝には
雨はあがり

女は灰色の
車で出掛けていった

モコと
ふたり

見送った

雲が流れていた
サラダを馬のように食べた

それから
一日

冬の毛布を洗った
ベランダの物干しに掛けた

ディキンスンの詩をコピーした
たくさんコピーした

どこにも出掛けなかった
高橋悠治のピアノを聴いていた

風が吹いていた
雲が流れていた

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”スポーツとあそび” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

文字をめぐる形而上的現象学

 

駿河昌樹

 
 

本を読むことや
なにか書きつけることについて
もっとも核心的なことを
たいていの人はわかっていない

文字は
否応なしに
人を無私にする

なにかを読んでいる人というのは
名前や履歴や肉体のある誰それではすでになく
読むということの発生場や瞬間でしかない

書いている人も同様で
おそろしいほど抽象的で
非物質的な現象そのものとなっている

文字をめぐる形而上的現象学こそ
まず考究されるべきで
いわゆる文芸的鑑賞や批評は
二の次三の次にされねばならない

文芸形而上学者の
モーリス・ブランショのような人が
いくらも必要とされる所以である