健診と憂愁の時

 

辻 和人

 
 

赤ちゃん集まってる
これがコミヤミヤ&こかずとんのお仲間たちかぁ
今日は市の3・4ヵ月目健診の日
受付済ませて3階の会場へ向かうエレベーターには
抱っこ紐からぷっくり手足がゆらゆら
ひょなっと首がくぅねくね
エレベーターの扉が開いたらそんなのがいっぱい
その中にコミヤミヤもこかずとんもいるんだけどね
まずは保健師さんが歯の衛生について説明
これから歯が生えてきます
ぼくもミヤミヤも他のお母さんお父さんも熱心に聞き入ったけど
赤ちゃんたちは関係ない
隣の男の子、あっち向いてこっち向いてふぅらふら
隣の女の子、ひぇんってちょい泣き
コミヤミヤは一心不乱に指しゃぶり
こかずとんはぼくの膝を蹴っては蹴って
動くわ動くわ
でもまだ歩けない
歩けないけど動けるというエネルギー
説明終わってそのエネルギーが広いスペースにぞろぞろ移動
オムツだけになって、バスタオルでくるんで、さあ健診
台の上に仰向けに寝かせて膝を押さえて移動版するするっ
こかずとん コミヤミヤ
お次は体重
体重計に仰向けに寝かせて針がふるふるぴーんと静止してあっというま
こかずとん コミヤミヤ
標準よりちょっと少ないけど問題は特にないか
仰向け仰向け
いつも仰向け
赤ちゃんたち、みんなこの姿勢で頑張ってる
ほら、ウチの前の子は
始まる前は足をもぞもぞ動かしてママの服の裾握って
だけど台の上に乗るとぴたっと静かになって静かに計られた
「台」ってのはすごい魔力があるんだね
それとみんな台から降りる時ゆるっと背伸びするんだね
頭囲計ってもらって初老の女の先生が診察
指を左右に動かすと
コミヤミヤのまんまるい目が不思議そうに追っかけた
耳の近くでぱんと手を叩くと
コミヤミヤの柔らか頬っぺがぴくっと引きつった
視覚OK、聴覚OK
こかずとんもOK、OKだ
だけど先生と向かい合った時ちょっと泣いちゃったな
「特に問題ありません、順調に育っていますよ」のお言葉
ありがとうございました、安心して頭を下げて
バスタオル剥いで服着せて
最後にお世話になった保健師さんと面談
コミヤミヤとこかずとん覚えててくれて
「どの赤ちゃんもそうですが双子ちゃん大きくなったんでびっくりです」
問診表見ながら質問してくれて
OK、OK、帰りましょう

健康センター出ると8月のあっつい空気がムウッ
「あっついねー、でも特に問題なくて良かったよねー」
抱っこ紐姿のミヤミヤとかずとん
ハンカチで汗を吹き拭き駐車場へ急ぐ
抱っこ紐の中のコミヤミヤとこかずとんは朝寝グーグー
そして
育休終了まであとひと月半
この暑さが和らぐ頃には楽しかったかずとん村も閉鎖か
ぼくの分まで頑張ってくれてる同僚たちのためにも
仕事には早く復帰したいって思ってるんだけど
寂しいね
健診で問題なくって
かずとんがいつもいなければならないこともなくなって
遂にかずとん村も閉鎖
寂しいね
あっつい、あっつい、ムウッ、ムウッ
憂愁の時を歩く
抱っこ紐姿のかずとんパパだ

 

 

 

空の履歴書

 

廿楽順治

 
 

青い履歴書が
空にある

どこにも
うまれなかったと書いてある

雨だから欠勤

夜になってもやってこない
わたしはそういう労働者になりたい

「孤独ってわけね」

休むことなく
光をはこぶ
あのばかもの
(ときには茜色に)

今日もまた
死んだので空は広がっています

 

 

 

ひとに会いにいく

 

さとう三千魚

 
 

昨日は

伊豆稲取の詩野さん* に
会いに

いってきた

片道134kmをクルマで走った

沼津から
天城峠を越えて

うねうねと山道を走った

詩野さんは稲取の丘の上のガソリンスタンドを改装している
無骨な棟梁さんが壁をぶち抜いて窓を作ったのだという

そこから
海が見えた

” bookend “という人が集える場所を作ろうとしている

ひとは何故つどうのか
ひとは何故生きるのか

ひとは何故死ぬのか

詩野さんの笑顔をみた
少女のようだった

しあわせなんだなと思えた
わたしも

いつか
いなくなるが

会えてよかった

 

* 詩野さんは、子鹿社の社長、詩野さんのことです.
 

 

 

#poetry #no poetry,no life

百条

 

工藤冬里

 
 

私とは私の父祖
忘れた忘れたを繰り返し彳む鷺
質問されても価値を見出せない
父祖だけに
暈けた要点が立ち尽す
辿り着け耳鳴りの水源地に

弁当箱の内側に平がる月
カレンダーには散布の予定が青魚のように沈んで
無関係だった鷺だけでやっていこうとして
百条
夜中には人が居なかったが
今はどの顔も斜光の角度が一致して白く光っている

 

 

 

#poetry #rock musician

自分ファースト:人類ファースト:地球ファースト

 

一条美由紀

 
 


やる気だけはあったの
ショウガは萎びて
キュウリは溶けた
本はオブジェとなり
録画はたまる
引き出しの中にねむってるのはパスポート
やる気だけはあったの

 


スズナリの柿に守られし荒屋の
  まとい遊べる生きすだま

 


大きなロゴを身につけて
曖昧な自尊心を身に纏う
社会で生き抜くために ハッタリも必要
でも見えてくる真理に必要なものは
自分の中で芽吹く素朴な喜びだけ

 

 

 

温泉にはいる

 

さとう三千魚

 
 

クルマで
きた

275km
クルマできた

かつて更埴市といった
千曲にやってきた

根石さんと
蕎麦を食べた

きのこ鍋でビールを飲んだ

福寿の温泉にはいる

二本の脚を伸ばす
首まで湯に浸かる

詩は”結果”なのかなあ

湯舟で
根石さん*はいう

“仮定”でしょ
“結果”だとしたら

酷すぎる
湯舟でわたしいう

根石さんの問いには”仮定”があり”過程”がある

深夜に
根石さんとコンビニまで歩く

根石さんはおむすびを買う
わたしは赤いリンゴを買う

 

* 根石さんは、詩人の根石吉久さんのことです.
 

 

 

#poetry #no poetry,no life

反歌

 

工藤冬里

 
 

河南を与える
ひとつ豫州は松山の
二人に子供はいなかった
今では六ヶ月
匂いさえダメだった
二日酔いから推察するしかない
トランスの子らに約束
譲歩せよ
丁髷の額が白い陶器、鷺の白
夫はminer、アメジストを掘り
より貴重でさえあるものとして出てくる
金属団地の移民に天からパンがシラスの白
自分の国民を憎むようにと教えたベレア人会

調和の取れた色彩
農薬塗れの幸福塗れのな
澱粉主体の完全食のな
紛い物と被った法とな
師匠の汚れのな
布を巻いた水鉄砲におんなじ薬剤
転校したら教科書が替わっていて
特攻を待っていたら別の神の風が吹いて
引換券を飛ばした
岩肌に柔らかい部分があると又聞きした宮司
上からの光で瞼と頬骨が白い
声に合わせて身体を密着させる蜈蚣ニンゲン
調和などしていないが種は一致している
目を覚ませ!何故?
脳の指示に応えていないヒトであり続ける

棒状のがしっとした四角い柱が見える
ロ・ルハマとロ・アミがよさこいを踊っている
達しなかった夢が反歌として現れる
要約できない人生は反歌として経験される

 

 

 

#poetry #rock musician

母体決裂

 

道 ケージ

 

母体の骨片が頭蓋の隙間に残るらしくそれが石灰沈着する。隆起した場合は角化。陥没した場合は脳を圧迫。脳溢血を誘発する。胎児の脳視床下部には恐竜期の角の神経系が見て取れるらしいがすぐに消失するので確かめる恩恵に浴したものはまだおらず、それを原発因とする説もあるが疑わしい。午後にツノが生えそうなので女医に相談する。教え子なので気さくに「痛かゆくてなんかある気がする」。なんとも言いようのない笑みで撫で回す。「まぁ一応、CT撮りましょう」。音無しの被爆か。「母体決裂症ですね。病名が定まるとあとは楽です。マニュアルが確立してます。手術もそう難しくはありませんし。ゴミ取るのと同じですから。癒着もないのが普通です。白く輝いているから見つけるのも簡単です。剥がして欲しいというように咲いています」。咲くは変だろう。「“ハナサケ”といいます。胎盤とは違うから」。また激烈な名前をつけたね。「どっちが? 話せば長いですよ。パルシファル建設は知ってますか?」 誰にもあんのかな。「男性に多いという統計はあります。母親と一緒にお風呂に入った人に有意な傾向があるという論文ありますが怪しいもんです」。間男に角が生えるというじゃんか。あれとは?「寝取られた方じゃないですか? コキュといいます。」おぉ、アンダルシアの闘牛。角あるものは殺されろと。「軒端で月を見ていた女が歌を詠みます。それを聞いた男は言いよる秋の萩」。あまりわからない。「芒が鬼の毛であることはご存知?」知らんな。すすきが原しがらみ果つる黒鹿の。数が多いな。「ため息の数です。だから垂れている。母との決裂に鬼が関わっていることは昔から知られています。探しあぐねた母側から見ても別離ですから。桜や梯子に登ります」。手術はいつ? 探しているわけでない。弱虫というより人でなしに角が生えるようです。

 

 

 

尻子玉

 

佐々木 眞

 
 

極楽の昼下がり、お釈迦様は長い、長いお昼寝から覚めて、遥か下方の地上を眺めていると、おりしもハロウィンで賑わう、渋谷のスクランブル交差点が見えました。

と、ふとあることを思いついたお釈迦様は、女郎蜘蛛の杜子春を呼びました。

「これ杜子春や、あのスクランブル交差点全体を覆うような、大きな、大きな巣をかけなさい」

「はい」

と答えた杜子春が、お釈迦様の仰せの通りに、天上から大きな、大きな蜘蛛の巣をふんわりと投げかけましたが、せわしなく交差点を行き来する人々の目には、もちろん見えません。

さうして、この見えない蜘蛛の巣のベールの下を通る人は、男も、女も、男でも女でもない人たちも、大人も、子供も、みんな揃って尻子玉を引っこ抜かれてしまいました。

とさ。