千年朱鱗洞

 

工藤冬里

 
 

とある路地口しげしげと虫が鳴いてゐし ー 野村朱鱗洞

 

押韻矢の如し
zoom town ratsも過ぎ去り
街はデストピアです
朱鱗洞の虫はしげしげと啼くが俺は耳鳴りの虫が酷い
朱鱗洞の墓のある小坂のネカフェ、
二軒共閉まった
朱鱗がスペイン風邪で死んだのは、
膝突き合わせる密結社をやってたからだが、
いま生きてたらそのどちらかのネカフェで感染したんじゃねえか
いま俺(ハムレット)は便宜上日本語を使っているが
バベル期はとうに過ぎ去りパラレリスムとアクロスティックしか技法はなくなった
以前俺にとって詩とは
悲劇詩
喜劇詩
歴史詩
田園詩
田園喜劇詩
歴史田園詩
悲劇歴史詩
悲劇喜劇歴史田園詩…
しかなかった
そのなかでライミングの技を競ったのだ
それらはすべて過去のものとなった
嘆きも叫びも苦痛ももはやない
以前の言語は過ぎ去ったのである
ただ虫はこれからも
二十六で小坂のネカフェで死んだ朱鱗君の所為で
永遠に
しげしげとしか啼かないのだ

 

 

 
#poetry #rock musician

混沌とした

 

ヒヨコブタ

 
 

混沌としたというには

あまりにあんまりに
ずっと黙っていたくなるただそうやって

ときにひとがおそろしくなるなら
なんのためにひとと生きるのだ
他者と生きるというのはなんのためなのだ

おそろしくてもおそろしくなくていい寄り添えずとも
日傘傾げあうぶんはなれて歩いていていいのなら

そうしたいのだ
他者のなかにうずまく不安をみても
わたしにはそっと閉じることくらいだろう
あまりの不安からそっと

いまは
この混沌以上のなにかが揺れ動くのをやめた世界をみたい
みんなでみたい
ひとり残らずみんなで
こどものころのわたしのような願いだ
お金儲けでもなんでもすればいい
わたしの願いは
その先の明日がみたいだけだ
こんなこどもにとってのあたりまえを
願えば叶えられることがありますように
誰も欠けることなしに
どうかみんなでみたいのだと

 

 

 

千年ラリってる不思議な映画で多幸感に襲われる

 

工藤冬里

 
 

殆どの人より王は歳下であった
親しみを感じられるかどうかが生支配の分かれ目であった
ワケメ
果たして王は肥顔であった
彼岸過ぎ迄
マイナンバーで顔入りカードをつくれば五千ポイント、
生にチャージを加え
理由なき暴力と裁きの災害の差異間の領野を支配する
もはや型ではない来たるべきものの来てしまった後に
タコ焼きプレートを捨てる
二百二十度で八分
ヨモギ入り
他の人の体を汚そうとしたり
doughを流すシンクタンクが天動説のフチ子
日の果て
六十億人が攻撃を受けるtribulation
どのように逃れるか今は分かっていない
死支配にも程があるとんでもない命令だったらどうしよう
二万チャージで得られる五千ポイントが奥の部屋
タコ焼き幾つ買えるかな
ネギ焼はタバスコで胡魔誤魔化して
王宮に忍び込んだ泥棒の守宮はヨモギを練り粉に混ぜ込み
いとも簡単に限られた星で睡りこける烏骨鶏
pollos唐揚げ
ネッタミ
ズッ友
初夏の青は茶への嫉妬
ビデオで見合い結婚して宅配で子供作る初夏
王はヨモギでクッキー作った
雑草を引き抜かなければ良い脂質が育たなくなる
ザッソークッキーを食べるネッ民は持っているdoughで満足し自分をビスケットと比べません
白い地層にカメラを流し
瞼のチックをカウントに
王は儲かるのでサクラを切って櫁をやることにした
秡川櫁
妹は中国とロシアを支配することにした
生支配テクノロジーはそれほど変わらないと彼女は宣言した
あなたたちにとっては別に何も変わらないわ、ただ、支配するだけよ
雑草は民主主義ではなく妬みであった
青のストッキングで首を吊った
ドミネイトする青
われわれは青の軍団だ
桐部隊と富士額
残存雑草精力を一掃する
休む暇も妬む暇もなかった雑草は自分が雑草だということを知らなかった
自分で自分を引き抜くには自分をカード化して引き抜けばいいのか
キングの一三が畑に落ちていれば
王のオケラだと思って笑ってくれ
かつて自分を売った十一人を見送る時に、途中​で​いがみ合っ​たり​し​ない​で​ください、と冗談を言えた
逆さ燕で頭に赤が入っている
市民社会の中で私は盲目でなければならない
人のために何かしようとする時に初めてうまくいかなくなるのは盲目ではないと思い込んでいるからだ
この自発的なマスクにどんな意味があるのか
それは政治の問題ではなくアルケオロジーの問題なのだから歩け爺い
自分のアルシーヴを生活しながらまとめて論じることができなかったがコロナで死んで初めて二メートルの隔たりを確保してきみたちが敦盛どうぶつの生活をしている間に外からそれができた
自分が巻き込まれている現在を切り離せば直近のアルシーヴが可能なのだ
だからもはや近さの中に沈んでいく、ではなくて直近の中に離れてゆく、が正解だ
鬱のおまえは忘れてなかったか
界面とはそういうテントだった
外とは月は昔のように月ならずのあのひりひりする現在であり止め杭でありPCRなのだ
安全・領土・人口を巡って変容するのは政府ではなく自分であった
それが王のテクニックであった
新自由主義のアルシーヴほど、渦中の列島で見過ごされてきたものはない
世の中とはすでに世の中ではなくなっていたのだ
それは空気ではない
かつて空気であったものは今は空気ではないのだ
天幕用留杭を差異として打ち込むと界面はやっと夜空を切り離す
切り離すことで浮かび上がらせるのが還元不能なフカンゼンさである
理性とはことばの差異であるということ、自我が仮面の差異であるということはこうして経済的にやっと身につまされていく
この市民社会は本質でも何でもないのだ
それはたんなるぶっちゃけにすぎない
最後のアルシーヴが賭けるのはそこである
問題系を銀河系と取り違えた憶測は、愛をいじらしさと言い換えた
象徴王とは統治のつましさにかかわる何かであった
つましいあつかましさの中で市場には蚊がいなかった
畑一反の南瓜が五十円
それは競走だろうか
断じてそうではない
その額は寡婦の硬貨が象徴王において逆転したつましさなのだ
楽市楽座でその額をアリストテレスがエードスえ、と言いプラトンがそれでイーデアと言ったのだ
一反五十円のために王は統治する
それは経済ではない
買い叩かれるニンゲンというモデルをリベラルオーストラリアにばら撒いた
というのが現象学的直近アルシーヴだ
不可触選民としての遠ざかりのなかで限りなく買い叩かれていくコロナ野菜はいまやスムージーの繊維として相関する
写真付きマイナンバーカードとはそういうことだ
どうして繊維として回収されることになったのかわかりますか
人のことが心配でマイナス茶碗を作り過ぎてそうなったのだ
ポジティヴはネガティブの海に浮かぶヨットに過ぎないがそれは自分には決して知りえない
決して辿り着けないインターチェンジ
そこには羽虫がいる
自分がヒトのための活動をやめて引き篭もることにより知らず知らずのうちに、他の人々にとっても有益な効果がもたらされることになったりする予測不能性のなかで
逃走しながら人助けという奇妙さの画像が現れる
そのために盲目でなければならないのだわたしは
五十円市場の制御不能性はコロナ的原子論的引き籠り行動様式の店の合理を遠くから支援する
盲目であることが支えとなっている
この曲解は労働ではなく
盲目の我の方に重きが置かれた時に成立する
売れそうな野菜よりも絶対に売れない野菜のスムージー展開
その繊維こそが単なる不完全さという事実ではなく絶対に不可欠な白物なのである
私の自粛は、象徴王の天命ではなくむしろ、私固有の否定性そのものによってアルシーヴされるということだ
この引き篭り時間の有限性そのものによって支えられるものとしての聖霊なきアルシーヴこそが舞踏なのだ
これは有限の無限に対する逆転にともなう現実の成立というコロナな出来事なのである
可能不可能を語るということは無限が喉からデカかルトきそれはいカント有限を無限から解放できないことを反省することでもある
逆転有限無罪看護士は感染しながら無限をポジティブに否定する
それを外からアルシーヴする雑誌が東雲通りのジャズ喫茶mockに置いてあったヤギ雑誌エピステーメエであった
瞬間を有限と結び付けて悪さをしたのが六十年代ということになる
王権の分析がジャズの主流であった
そこから真の分断が始まった
我々は離散した
ある者はギリシャに行く
ある者はこっぴどく叱られる
それを外として捉えるのが死者のアルシーヴだ
安全・領土・人口は、王のテクニックまたテクノロジーでありテクノの暗示的送り返しはその生政治による
これに対しフチ子は足をぶらぶらさせることによりその界面を強調する
盲目でありながらしかも無力象徴王の把握できない周縁アカウントに棲む上下無能状態の出現からマスク配りの間には九・一一や三・一一があった
象徴王にとっては新たな領野の出現が必要であった
open fieldは標野(しめしの)と訳すべき事という宣言のもとに一連のインスタ映えスイーツ写真が撮られたがそれが二千一四年に終わったのはまさに標的にされた統失社会の、その相関参照アルシーヴのためであった
市民社会の名の下に為される善行がそうした介入の結果であるようなツイート及びインスタは差異と分断の盲目的爆発への王の介入地点となった
だからラカン流に言えばいまや被支配者は存在しない
市民社会は新たに出現した実際には存在しない狂気とセクシュアリティの夾雑物であってそれは象徴王に回収されている
見えないものを見えるようにするのは、見えるものを見えなくするより簡単だ
例えば貨幣
記憶置き場としてのクラウドは存在しない
すべての見えない記憶を可視化する介入は象徴王の相関物であり見えない聖なる力に対する一大楼閣なのである
求められているのは標野の奪回である
市民として、などではない
分断のさなかに自分を放棄できるかが鍵となる
王の策略の中に自分を探すこと
セツから始まった社会は自然でも自明でもなく王に対抗する何かでもない
そこからアルシーヴが始まる

 

 

 
#poetry #rock musician

レドについてのとっておきの話 1日目

 

辻 和人

 
 

うわぁ、人生初だよ
新型コロナウィルスの流行を受けた非常事態宣言
外出しちゃいけない
集まっちゃいけない
ウチの会社も自宅待機
亡くなった方が大勢
苦しんでいる人が大勢
仕事がなくなって困ってる人が大勢
そんな中
週の真ん中でぽかーんとお休みだ
この、ぽかーん、どうしよ
そうだ
こないだ「ヒの字」になってしまったレドについての
とっておきの話をしよう

一昨年の10月、木曜の夜に母から電話
レドが動物病院への通院の帰りに逃げ出してしまったって
看護士さんがキャリーバッグの鍵をきちんと閉めてなかって
久しぶりの外で鉄砲玉みたいに飛び出したって
病院には父が連れてったけどレドは父にあんまり懐いてなくて
呼んでも戻って来ないって
レドは排尿障害抱えてるから3日以上尿を取らないと危ないって
ミヤミヤに話すとそれは大変って
すぐ写真入りの猫探しチラシ作ってくれてありがとミヤミヤ

1日目
家の急用ですって有給取って朝イチの電車
父母がいなくなった場所に連れてってくれて
猫の行動範囲は狭いからいなくなった辺り集中的に探そう
バス道路に沿った家がまばらに建ち並んだ一帯
近所の人にチラシ配ったり
そう軒下軒下
レドは元々アパートの軒下にいたんだから今回もどこかの家の軒下にいるに違いない
レドちゃーん、レドちゃーん
立派なお庭のある大きな家の敷地に、失礼、ひと足ふた足入ったら
おりょ、あっさり
いた
軒下じゃないけど縁側の前に
ひょこっと立ってる
黒目真ん丸で不思議そうにぼくを見てる

やったぁ、さ、帰ろうこっちおいで
レドの傍に近づいたら
ささっ
もう一歩近づいたら
ささっ、ぴょーん、ぴょーん
ダッシュで逃げるその速いこと速いこと
レドが特別懐いている母を呼んでみよう
「レドちゃん、どうしたの? こっち来て一緒に帰ろう」
手を差し出しても
ちょちょっ、近づいては
ささっ、ぴょーん
こりゃだめだ
いつものレドじゃない
ファミは外に出ても1時間もしたら家に帰ってくるけれど
レドは一旦ノラ猫モードになると「別猫」だ
3、4日戻らないことがある
今のレドにはぼくも父母も
自分を捕まえようとする「怖い人間」
うん、気持ちはわかる
ぼくたちだって自粛だ、家にいろ、って言われたら嫌になるしな
ニューヨーク州のクオモ知事って人が都市封鎖を決断して支持を集めてるそう
外出して他人と適切な距離を保たなかったら罰金1000ドル!
考えようによっちゃ「怖い人間」だ
死者の数が尋常じゃないから仕方ないかもだけど
こうなる前に医療費払えない層のために貧困対策やっとけっての
それに引きかえ日本は緊急事態宣言ってったってユルユル
お店は結構開いてるし電車満員だし外出も罰則なし
どころかウィルスの検査させてもらえないって怒ってる人がいっぱい
器具の個数が限られてるから重症患者以外は後回しという理由っぽい
布マスク2枚あげるから外出する時は必ずしてねって
バカにしてんのか
それでも外大好き&病院大嫌いなレドちゃんは
日本の方が断然いいだろう
キミはおしっこ自分じゃできないんだから戻んなさい
そう言いながら鼻先に手を伸ばしてご機嫌取ろうとするぼくなんて
「別猫」の黒目真ん丸のくりんくりんで
一瞬にして「怖い人間」指定
ささっ、ぴょーんとレドの勝ち

とにかく居場所がわかってひと安心
最後は得意の軒下籠り、待ち構えるぼくに
「どうなさったんですか?」
お家の人だ、やばっ、挨拶忘れてた
Iさんという品の良い中年の女性に事情を説明し頭を下げる
「ああ、それは大変。お庭に入るのは全然差しつかえないですが心配ですねえ。
私も様子を見てみます」
ピアノ教室をやっているIさんは何でも協力すると言ってくれた
午後、保健所が猫の捕獲器貸してくれるというので飛んでいって早速仕掛ける
が、レドは銀色に光る捕獲機をあからさまに警戒
そろーりそろーり捕獲機に近づいて嗅いで嗅いで
低くした姿勢でゆっくり後退
いつかお腹が空いて入ってくれるだろうか
夜になっちゃたし今日のところは引き上げだ

それにしても
「怖い人間」がうろうろしてるってのに
レドはIさんのお宅の周りを離れない
「家猫」の魂も残ってるんだ
ぼくは今日一歩も外に出てない
ミヤミヤからコーヒーは日に2杯までって言われてたのに
もう4杯目飲みながらおとなしく「家人間」してるぼくは
「別猫」を満喫するレドの気概が
少し羨ましかったりするんだよなあ

 

 

 

千年のむき出し

 

工藤冬里

 
 

人の限界の先は滝になっていて
生政治が落下している
MMAの勝者は丁寧語であった
カール・ゴッチも紳士であった
児童図書しか借りない引き籠もりの男は番付表を誦じていた
鮎川は叙情詩に落ち着いた
コロナは新型と呼び習わされている
正しく闘い続けるとは児童書を借り取組を覚えてコロナに新型を付けることだろうか
そうかもしれない
いつもそれはそういう感じなのだ
上からの照明で顔は変わる
姉と妹が照らされず内側から明るい
漫才ユニットの片割れ片割れのように明るい明るい
コンビニの前で世馴れた交渉をする危機に
下を向くレッスン
人気のある時はあラッスンだと差された
オタマジャクシたちの運営
ペニエルの取っ組み合いは明日の嫌なことを忘れさせた
昭和のくぐもり
をスマホの解像度が消す
ゲジゲジ眉が慰安所を作った
財産は家畜
唐を荒らしても稽を無くすな
八割れの牝牛
に似ているけどネコ
タプタプ
身頃に止める穴付き
カーテンの襞を垂直に垂らす強い力
言葉の使命
薄いモオブ
モオブ
濃いモオブ
ほとんど黒
濁音の排除
ペダル踏んで
構築され切った晩期資本主義脳
慣れない状況ではありますが
般若のアングルで
ドラクロワ
荒唐の堅さで
襞が三点透視
光で唇が溶ける
ご飯食べてない
赤トンボ色の
怖れ
もう重力ない

ネガティブなことを語り過ぎない
と言うと叩かれる
ジャコブは恵みを求めて泣いた
疲れ切っていたし
丁寧にお断りし
知らず知らずのうちに
にせものは目に見えるからわかる
ネコはぶぜんとする
壁があまりにもはっきりしているので
でもそこに戸口がある
千年平行移動して
城の周りを回る荒唐ハーモロディクス
八十八周回ってもも崩れない無稽の壁
ル・マンのボタンダウンの団栗頭
枝が柔らかくなって
もうすぐ終わるから
逃げ道​を​知ら​ない​さまざまな国​の​人々​が​レイモン・クノー​します
マックス・ジャコブに立ち
水も買った
拡大写真で何も分からなくなる
特に注意する人
甚だしい水曜日
こういう時だけ
荒唐は嘆きながら働く
真っ当なことを言えないので
無稽封じにはなる
真っ当なことが壁になって
荒唐のハーモロディクスが地に堕ちていく
この世界の敵たち全てのように
むき出しにされて堕ちていく

 

 

 
#poetry #rock musician