狩野雅之
Description
暮れ泥む
微かな光
花がある
Masayuki Kano
燃料店のむすめはあかるかった
いつもわずかだが体が燃えているのだ
ばくはつのひとつ手前
(なのだろうか)
燃料
ということばには
わからない思想がないようにみえる
中学生のむすめの頬はいつも赤かった
あかるく
ふっとばすようなものがみのっていた
今日ふいにおもいだす
燃料のこと
燃料を売って暮らしていた家のむすめのこと
ばくはつのひとつ手前
(そこでしかみんなは暮らせない)
わからない思想はやがて
こっぱみじんになるのだろうか
むすめはもう
燃料ではないのだろうか
―女たらしって、なに?
だらしないひとのことよ。(「ある家族の会話」)
わいらあ どうせ だらしないひと
おぬしも さいごは だらしないひと
女たらしが おるように
男たらしも わんさと おるがな
ときにそこいく お客さん
よってらっしゃい みてらっしゃい
この世で いちばんめか 2番目に大事なこと
ただで 教えて しんぜよう
あんさんに どうしようもなく 好きな人が 出来
その人と やりたいと 思ったら
すかさず それを やることだ
抜く手も みせずに やることだ
パッパラパーと 脱ぎ捨てて
ペロペロペーと 舐め回し
グチュグチュグチューと 口吸うて
ズビズビズバーっと 突き入れて
アレアレアレーと 叫んだら
グルグルグルンと 捏ねまわし
一念発起 無念無想
一心不乱 一気通貫
四の 五の 言わず
二人揃って 成仏するんだ
よってらっしゃい みてらっしゃい
耳をほじって お聞きなさい
お二人さんも よござんすか
あたしは 二度は 申しません
好きで やりたく なったなら
ここを 先途と やることだ
これぞ この世の 置き土産
死に物狂いで やりきる ことよ
フランス、アルルでのフォトフェスティバルも終わってマルセイユに移動
アルルの駅は旧式で、向かいのプラットフォームへ線路を潜らないといけない
スーツケースが重いがエレベーターもエスカレーターもない
炎天下のプラットホームに20分遅れで列車はやってきた
ヨーロッパのホームは低いので荷物を抱え上げるのが大変
車内はクーラーが効いていてやっと汗が引いたと思った頃
片田舎の駅に停車したままいつまでも発車しない
そのうちエアコンが止まり送風も止まった、窓は開かない
ちなみにこの時の気温は37度
客は車外に出て車体の陰でタバコを吸っている
しばらくして車掌がもうこの列車は動かないと言った
重い荷物を下ろして駅の外へ出るがどうしようもない
給水のためのペットボトルが運ばれてきた
駅のトイレはひどい状態らしく誰もが扉を開けては諦めた顔をしてすぐに閉める
車掌からの指示があり、多くの人は反対方面のホームからアルルへ引き返して行った
僕らは駅前に一軒だけある食堂でビールを飲みながら呼んでもらったタクシーを待った
翌朝、恐ろしい痛さでベッドから起きれなかった
はじめてのギックリ腰だった
それが7月11日の朝のこと
昨日帰国したがまだ痛い
痛い
2023年7月18日 東京中野の自宅にて
草が昨日、獣の背のように揺れ
撫でてみようとすると
風は揺れ、揺れもどり
緑の皮膚になる
翡翠竜の背中が
ああだった
羊歯の汁をしきりに啜っていた
水面へと続く草陰に何匹も潜む
草波の揺れ具合が違うからわかる
数えきれない程の数だ
あまりに遠いと近くに感じる
身近というのではない親しみ
抱え込まず
風が通る
風が揺らす
曼珠沙華の咲いた辺りに
今日は忘れ草が
一斉に赤橙している
まさかそんなことはあるまい
全ての彼岸は同一である
全ての過去は現在である