音の羽  @140208

萩原健次郎

 
こんな朝が暴かれると、
知らぬうちに、茶碗は割れる。
斜光に、誘われるままに、吸われる、視界の
乾いた、野の、散らばる陶の欠片を、
ちくちくと音立てて、陽光の食う、その無残な作法に
飽きたのならば、まず滝のある隅の方角から
修行の血汗として、ぼとぼとと降ればいいことだし
それを語る、経を持つ僧の心気も、迸る虚言のようで
吐く川は、削ぐ皮となり、炎暑の鈴虫みたいに
すこし冷気が吹く、土塊の奥に潜んで
土食いに、喰われる。
斜光ちゃんの、茶汁がひびから漏れて
雲母の、急登に、踵がからまって、
それからやわな史蹟となり、
この甘辛さは寿司に巻かれる。

農夫の、濃みどりと
衣に降りかかった粉の白さと、斜光の暴きと、
どのような、誤記の作法で、みすぼらしい沼ができ
そこに汚い鯉を浮かべたのか。

正月も、縄燃える。
祈りの、おまえが、煙に化ければ、溶けるやないか。

巻紙の、水面が夕空の、弱法師、
追いかけてくる足音が、また煙を吸い
混濁は、坂の水を干す。
風を見るために、雲母の坂を降りてきた
猿に殴られ
鹿に蹴られ、
烏に頭髪の根を突かれて

それでも朝に、帰っていく。

 
(連作のうち)