生きる

 

渡辺 洋

 

 

悲しさを汗のように振りはらって
ジョンのように微笑みながら歌いたい
もっともらしいネガティブさに囲まれて
自分が信じられなくなるときには
C→F→G→Amのコードを弾きつづけよう

老人になって雲のように押し流されながら
世界のベランダを見ている
老人たちのかたまりになって
一人ひとり風に引きちぎられながら
お前たちの意味のない人生を
ふいごのような合わせた息で
吹き飛ばしてやる

神様が空気をつかんで破くみたいに
何もなかった場所に世界をひらく
ときには暴力的に
境界線上にいた人びとも引き裂いて
心たちのすみかをつくる

友だちと三人で逆立ちして
世界を持ち上げる
春風にヘソをなぶらせて

 

 

 

 

夢は第2の人生である 第8回

 

佐々木 眞

 

西暦2103年葉月蝶人酔生夢死幾百夜

 

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その日の芝居を終えてから、私は今日で役者をやめようと決意した。ホテルを出てから不思議な場所をあちこちさまよった。ホテルに戻ると見知らぬ男が私を待っていて、きいたことのない名前の大学に来てほしい、といった。8/2

私は熱心な実業家ではないが、赤字を出し続けている会社をどうしても立て直してくれと銀行から頼まれたので、その会社の女性の社長に、あの手この手で迫ったのだが、彼女がどうしても言うことを聞かないので、とうとう奥の手を使ってしまった。8/3

イケダノブオが現れたので、「お元気ですか」、「どこでどんな仕事をしているのですか」、と矢継ぎ早に質問をしたのだが、彼はそれが夢の中であるから、私にまともに返事しても詰まらない、と思ったのか、一言も言わないので、なにかあったのかしら、と私はあやしんだ。8/4

ぼつぼつとSMっぽい小説を書いていたところへ、京都からやってきた美少女のような美少年に誘惑されて、本物のSM体験をしてしまったので、それを小説にして完成したところ、そいつは暫くして耐えがたい腐臭を放ち、さながら「ちりとてちん」のようになってしまったので、とうとう滑川に投げ捨てたのだった。8/7

ノーベル賞をもらった生物学教授の原作による映画「サクルデサイス」の邦題は、「牡牛」と「蛆」という2つの意味があるという。そこで1本は「牡牛」、もう1本は「蛆」、そして最後は「牡牛と蛆」を主人公にした同タイトルの映画を世界同時公開しているそうだが、いずれも大ヒットだそうだ。8/7

寝ている間じゅう、パソコンの住宅リフォーム案内の画面が、ずっと目の前で展開されていて、アイテム別に診断や価格の情報が出てくるのだが、その画面全体の交通整理ができていないので、けっきょく朝までかかってもさしたる情報を得ることができなかった。8/8

深い深い海の奥の奥の、そのまた奥に沈んでいた私は、明け方になってようやく水面に浮かび上がってきた。しかし、まだ意識は戻らない。8/9

戦争が近づいてきたので、各部族から逃げ出してきた牛や馬が、私の広大な牧場に集まりはじめた。誰かがこれは早速国王に報告しなければとつぶやいたので、私は「その必要はない。もはや国家も国王も蕩けはじめているのだから」と制した。8/10

私の一族は、夏になると都内の一流ホテルに長期滞在する。それぞれの家族が思い思いの部屋を借りて、お互いに自由に行き来しながら楽しく過ごすのだが、私の唯一の楽しみは、ホテルから嫌われながら洗濯物を1階の駐車場の隅に干すことだった。

こんな歳になっているのに、北方領土と尖閣・竹島を奪還する愛国正義のたたかいに徴兵された私は、感染防菌のための8千本の衛生注射をされるのを断固として拒んだので、祖父と同様に牢屋にぶち込まれた。8/11

あたしは自分がいいと思うデザインしかできないから、とんがった作品をコレクションに出したんだけど、いつもと同じようにやっぱり誰からも認められなかった。だけどあたしには他のデザインなんてできないから、死ぬまでこのまま突っ走るわ。8/12

S君は結局末期のがんに冒されていたのだが、そんな気配は微塵もみせず、まわりに対して自然かつ平然と振舞っていたが、それは彼が深い諦めと達観の境地に達していたからだった。8/16

吉田秀和の「音楽のたのしみ」で、ディズニー映画音楽の特集をやっていた。珍しいことだと思いながら聴いていると、ミッキーマウスの音楽を、名前を聞いたこともない歌手がノリノリでスウィングしている。8/17

関西の放送局のアナウンサーに対するPR活動を実施せよ、という上司の命令で大阪に派遣された私は、各局を順番に挨拶廻りしていたのだが、B局のお局と称されている鈴鹿ひろ美似のおばさんに妙に気に入られ、用が済んだというのに何回も呼びつけられて、閉口しているのだった。8/19

編集長が呼んでいるので部屋に行くと、彼女は私を裸にして三つ折りに縛りあげてから全身をくまなく舐めはじめた。8/21

私たちは買い物をしながら次の店へ移動した。私と違って井出君はオシャレに目がないので、やたらたくさんの衣類を買い込む。買い物がどんどん増えて運びきれなくなると、彼はそのまま店の前に置いて、また次の店へと急ぐのだった。8/22

この近所の女子高校生殺人事件の犯人のものと思われるオートバイの撮影に成功したが、さてこれをどうしたものか。警察に届けると面倒くさいことになりはしないかと、悶々としているわたし。8/23

半島の南端に突き出した夏のレストランのテラスで、私は食事をしていた。鎌倉野菜は文句なしだったが、次に肉にするのか魚にするのかピザにするのか、それともパスタにするのか、私は真夏の海を見ながら思考停止状態に陥っていた。8/24

久しぶりに銀座のマガジンハウスを訪れ、ロビーに入ろうとしたら、真っ黒なガスがもくもくと吹き出している。あわてて逃げだそうとしたら杉原さんが「あんなの大丈夫、大丈夫、すぐに収まってもうじき赤十字の総会が始まりますよ」と教えてくれた。8/27

杉原さんは「久しぶり、お元気ですか? 私は「どんどん歩こうかい」という組織を作って大儲けしています」と自慢する。仲間のAさんは「ゴルフ大好きかい」、Bさんは旅行大好きかい」でやはり大儲けしているそうだ。8/27

なにやらアパレル・デザイン・コンテストなるものが1カ月に亘って開催されている。私たちが紳士婦人子供の外着中着内着の見本を昼夜兼行で制作すると、その優秀作がその都度表彰され、それらの総合得点で順位が決まるのだった。8/28

身体検査だといわれても、特に裸になるとかレントゲンを撮るとか診察があるということはなにもなくて、ただいつかどこかで撮られた写真や記録やらが目の前の画面に投影されるだけのこと。ここで私という人間が生きているのか死んでいるのか、もはや誰にも分からなかった。8/30

独裁者となりあがった私が、忠実な部下に敵の暗殺を命じると、彼は「殺人の仕事の場合は特別手当として1名千円を頂戴します」というので、私は暫く考え込んだ。殺人は月給の範囲を超える特殊な業務だというのである。8/31