広瀬 勉
東京・杉並高円寺北。
ホイチャッポ、
チャッポリ。
何が、
言葉で、
出てくるかなっす。
チャッポリ。
チャッポリ。
びっくり。
びっくり仰天。
ぜーんぶ真っ白けだあ。
ガラスの嵌った
本箱の扉を開いて、
書棚から
大切に仕舞ってある、
五十三年前の、
たった一冊しかない、
俺の最初の詩集、
『新生都市』を
開いたら、
どのページも、
真っ白け。
すべてのページが
真っ白け。
慌てて、
次に
H氏賞を受賞した
『罐製同棲又は陥穽への逃走』を
開いたら、
これも、
すべてページが
真っ白け。
どんどん開いて、
二十六冊目の
去年だした
『どんどん詩を書いちゃえで詩を書いた』まで
開いて、
ぜーんぶ、
真っ白け。
チャッポリ、
チャッポリ。
なんだ、
こりゃ。
ホイチャッポ、
チャッポリ。
活字を喰う
虫ですよおおお。
俺んとこの、
大事な書棚に、
発生してしまったんだあああ。
チャッポリ。
チャッポリ。
これこそ、
天啓。
活字喰い虫さん、
ありがとうっす。
また、
どんどん書きゃいいのよ。
チャッポリ。
てなことは、
ないよねえ。
ホイポッチャ、
チャッポリ。
曇り空
グレーでも
この空の色
全ての色が
踊る集まり。
四谷で
鐘の音を
聴かなかった
秋田から
帰って
教会の鐘の音を
聴いていない
姉から電話があり
秋田に
帰ったのだった
母は
人工呼吸器で
胸を上下させていた
わたしには
与えるものが何もない
何もないことを母に
与える
鐘の音を待つ