ヴァイオリンとヴィオラのための。

 

萩原健次郎

 
 

 

幼齢の私の変態を待つ蛹の手前の蠕動のあるいは卵形の透明な滴のもっと前の成り立ちの生成の行為の場所の雌雄の触れる隠れ家の句紡ぐ片割れの帰路に流れる右岸と左岸の結ばれた橋上に見知らぬ親族が多く集まり逃亡してきた者らは命拾いしたとか誰某はもういつの間にか消えてしまったとか言いながらぬるい酒を飲み酩酊し潰れ揺すられて目を覚ましまた酒を飲み潰れいっぴきの芋虫は知っている筋脈伝書に書かれていること匂いの色いんきに筆を浸して這ってそこに血色に対比する水色の文字を書いた芋虫の変態の節の時間にふたつの性が交わったのだろうと夢の想像はもうサイレンの音が高鳴って消えていくまでに透かされて空になる芋虫の父母の微細な鱗に塵は挟まってもうそれよりも細いブラシでしかはらうことはできない葉は時とともに色を変え一年のすべての色を混ぜると暗黒の先の穴の先の闇の中の暗い絵の中の黒焦げの墨となり提唱する宗教のまるで穴の中の芋虫と同じ私と父母と同じ腐敗していく舞踏の席で国の家ではないかと怒鳴る異星の女がいて恋しく肩を抱いて昔の歌謡曲を唄ったりまた潰れ交わりまた透かされて五トンはある鉄の車に轢かれて弦二丁の弦楽合奏はまだ閉じないで檻の中では五色の芋虫だらけになりそれを一瞬で潰す親族がやってきて粉末味噌汁のフリーズドライの神話がぬるい湯で溶かされて模様となりああもうどんな清い細胞があっても元の姿に戻れないヴァイオリンとヴィオラの合奏なら焼け落ちてもいい