奴と俺っちとわからんっちゃ

 

鈴木志郎康

 
 

俺っち
いきなり、
奴に脚を引っ掛けられたっちゃ。
土手の草むらに
仰向けにすっ転んで、
奴を見ると、
奴は笑っているっちゃ。
その顔が
なんとも言えない、
いい顔だっちゃ。
こいつは、
俺っちの
友だちだっちゃ。
仲間だっちゃ。
ハハハ、
ハハハ。

俺っち
立ち上がって、
尻の枯れ草を手で払って、
奴に近寄って、
笑ってる顔に、
柔らかく、
拳の一撃をお返ししたっちゃ。
ハハハ、
ハハハ。

俺っちがやられたのは、
俺っちに
隙があったからだっちゃ。
その俺っちの隙に
奴は、
俺っちの仮想敵になって、
その敵意を、
サッと感じて、
試したっちゃ。
敵は常に隙を伺ってるっちゃ。
その予防だっちゃ。
ハハハ、
いい奴っちゃ。

友だちか、敵か、
厄介だっちゃ。
共に生きてるって、
涙流して手を取りあった友だちが、
ある時突然、
手の裏返したように、
敵になっちまうってこと、
現実にあるんだっちゃ。
その心底の、
自己防衛は、
わからないっちゃ。
いや、わかってるっちゃ。
ワッハッハッ、
ハハハ。
奴がいつ手を裏返すか、
わからんっちゃ。
ワッハッハッ、
ハハハ。