シロウヤスさんのアマリリス

 

長田典子

 
 

シロウヤスさんのアマリリスは
薄いピンクのはなびらに赤い筋が優雅に入っている
2017年2月8日に初めて一つ目の花を開かせ
2017年2月15日に四つ目の花が開いて
2017年2月16日に四つとも花が咲きそろって
2017年2月18日に一つ目の花が萎れはじめ
2017年2月24日に四つ目の花が萎れはじめた
はなびらに入った筋はそれでも脈々と走っていて
2017年4月6日には枯れ果ててもなお
はなびらは赤い血管をどっくんどっくんさせて存在している

きっついことがあると
うでにカッターナイフをあててしまいます
すうー、すうぅぅーー、
沁みるような痛さは きっついことをわすれさせてくれるから
しねたらいいけど しぬのはこわいから
しなないていどに 赤い線を引いていきます

シロウヤスさんのアマリリスは
枯れて うすい茶色になっても
ある、そこにある
脈打っている
存在している

どっくん どっくん どっくん どっくん

うでから血が吹き出るのは見たくないの
にじむていどにね
すうー、すうぅぅーー、すううぅぅぅーー、
カッターナイフで
赤い線をうでに引きます
なんぼんも なんぼんも

シロウヤスさんのアマリリスは
2017年1月16日に
「アマリリスの蕾が出てきた なんかうれしい」って
今年初めてフェイスブックに登場し
2017年1月22日に「アマリリスの花茎がすうーっと伸びた」

2017年2月1日に「アマリリスの蕾が姿を現した」となって
2017年4月6日の「枯れ果てたアマリリスの花弁」まで
途中、薄いピンクのはなびらにソバカスが浮かびはじめても
2017年3月19日までシロウヤスさんは写真に撮り続けて49回ポストし
2017年4月6日の「枯れ果てたアマリリスの花弁」まで50回
フェイスブックで公開され続けた

ねばり ついきゅうする
シロウヤスさんの作家魂
どっくん どっくん どっくん どっくん
脈打っている
存在している

ふともも が かたほう
とっても ほそいのは 知ってたよ
きみは 言った

ずっくん ずっくん ずっくん ずっくん

きみの 火の玉が からだの芯をつきのぼり
わたし あたまのてっぺんまで 水飴です
とろけて ふやけて よじれていく さいちゅうに
そんなとこ見てたんだ きみ

ずっくん ずっくん ずっくん ずっくん

わたしはきみ に なり
きみはわたし に なり
ふとくて あっつい いっぽんの血管になったあとで
きみは
わたしのせなかを さすりました
ぶあつい てのひらを ひろげて
ぼくは 気にしない
その ほっそい ふともも が
すっ、きっ、

どっくん どっくん どっくん どっくん

きみは わたしのうでの
赤い線を
ぺろぺろ ぺろぺろ
いぬみたいに
なめました

脈打つ 血管
脈打つ わたし きみ

シロウヤスさんのアマリリスの血管

しぬのはいけないね
いつも通るマンションの7階から見える四角いコンクリートの駐車場
通るたびにフェンスに両手をかけ 覗き込む
しんでしまおうか
しんでしまおうか

しぬのはいけないね

きみは わたしのうでの
赤い線を
ぺろぺろ ぺろぺろ
いぬみたいに
なめました

81歳のシロウヤスさんは元気に詩を書き続けて
2017年は
1月 5つ
2月 4つ
3月 6つ
4月 3つ

2017年4月7日のメッセージで教えてくれました

シロウヤスさんのアマリリス
81歳のシロウヤスさんが2月8日から4月6日まで写真に撮り続けたアマリリス
枯れても ある
そこに ある
すごい ある
アマリリス

どっくん どっくん どっくん どっくん

ねばり ついきゅうする
シロウヤスさんの作家魂

これ、わたしのお守り

フェイスブックを開いて
きみに見せました

シロウヤスさんのアマリリス

ある
脈打つ

きみ
わたし