教諭

 

萩原健次郎

 
 

 

桜の不均衡は、
一木であることの寂しさを超えて、
強く見える。

雄か雌か、
木の性が傾いている。

景物の中では、あやうく
斜に浮いている。

強情で頑なで
まだ冷ややかな浅い春に
咳き込んでいる。

あるいは、吐息ならば激しく、
欲動している。

薄い空気に流れてくる
目刺を焼く煙。

目を刺すんだよ。
くりくりと刳り抜いた鰯の眼球に
藁ひもを通して火で焙る。

火のあたりに坐っているのは
女の私か
男の私か

生活を殺してはだめだよ。

とカラスが教える。

花を見て、うっとりしていると
おまえは、もう目刺の目だと
カアカア言う。

いい匂いの煙もあると
茶色くなった煙は、宙に溶ける。

ふりかえる身体という
枝が老いていく。

白米に、桜を植え
目刺をまぶして

なんとかどんぶりが
鉢ごと、川を流れていく。