きみの夫は下層であった *

 

若かったころ

四谷の

三栄町の
公園の

鳩の

地面のパン屑をついばむのを
みてた

夏の初めの
空の

水いろの

松の葉がさわさわと揺れ
てた

さわさわと
さわさわと

揺れて

いたな
みていたな

若かったころ
きみの夫は下層であった *

鳩たちは

公園の
パン屑を拾って

生きてた

若かったころ
きみの唇は赤く睫毛は長く黒く

きみの夫は
四谷の

教会の鐘の音を聴いてた

若かったころ
若かったころ

知らなかった

ラルゴも
エレジーも

知らなかった

きみの夫は
松の葉がさわさわと揺れてた

きみの夫は下層であった *
きみの夫は下層であった *

いまは
1886年のエレジー **を聴いています

 
 

* 工藤冬里の詩「酢waters」からの引用
** エリック・サティ「1886年の3つの歌」の「エレジー」のこと

 

 

 

人生の門出

 

駿河昌樹

 
 

最近はお風呂に蜜柑の皮を入れてみたりするんだけど
きのうは蜜柑の皮がまだ足りなかったので
どこから入手したものだったか
お風呂のわきに置いてあった入浴剤の
「空想バスルーム 柚子が実るボクの村」っていうのを入れてみたら
柚子の香りがちょうどいい感じで
色もあかるい黄色に染まって
けっこう楽しかった
だいたい「 柚子が実るボクの村」っていう商品名が楽しい
包装に描かれてある絵も子どもっぽくて楽しい
一包しかないのでどっかで貰ったものだろうけれど
なんか買い足したいような入浴剤だ
なんについてであれこだわりというもののないぼくだが
こんなものにちっちゃなこだわりを持ってみるのも
人生の門出をするのには悪くないかもしれない

そう、人生の門出
まだ一度もちゃんと生きたことがない気がしているし
生きるってどういうことかぜんぜんわからないし
どうやって生きはじめたらいいのかもわからないので
そろそろ生きるということを
してみたいと思ったりしている