鈴木志郎康
すやすやと眠る赤ちゃん、
かわいいねえ。
母親の乳房にしがみついた赤ちゃん、
かわいいねえ。
何かに驚いて泣いてる赤ちゃん、
かわいいねえ。
赤ちゃんがかわいいのは、
生まれたときに、
親の思いが込められてるからだ。
思いとは策で、
愛にしろ家系にしろ、
その策をケトバス力で、
赤ちゃんはかわいいのだ。
そして赤ちゃんは生きのびる。
そしてわたしも生きのびて来た。
実は私が生まれたとき、
2人の兄が二年続けて、
赤ん坊のまま死んでいたという。
夫婦の寝屋に窓がなく、
暗闇の中で死んでいたという。
それから窓が作られて、
その光の中で私は、
生きのびることが、
生きのびることが、
できたのだという。
私は光の中で生きのびた。
光の中で生きのびた。
そして、今や
85歳だ。