乱視の世界

 

村岡由梨

 
 

眼鏡を外してクリスマスのイルミネーションを見た君は、
何層にもダブる光を見て、「きれい」と言って笑っていた。
視力の良い私と、乱視の君。
同じ世界に生きているのに、
まるで違う景色を見ているんだね。
私は私で、君は君。
もっと知りたい、わかりたいんだ。
君が生きる乱視の世界の美しさを。

もうすぐ新しい年が始まるというのに、
世界が終わる夢を見た。
ヒトは全員殺されて、
ネコは丸ごと皮を剥がされた。
剥がれた皮に顔を近付けたら
あたたかいお日さまの匂いがした。

巨大な津波のように大きくうねる世界から、
「人殺し」と罵られ
追われた私は、
薄暗い台所の、流しの下の、戸棚の中に隠れていた。
「世界」と「私」は安作りの薄いトビラ1枚で分断されて、
自分の心臓の音だけが聞こえていた。
放っておいても、遅かれ早かれ
私は死んで焼かれて灰になってしまうのに。
涙をいっぱい溜めて、憎しみと怒りに満ち満ちた君の両眼。
いつになったら許されるのだろうか。
いつになったら逃れられるのだろうか。

歯を磨いていて、少し開いた前歯の暗闇から
「サンタクロースなんか、いない」なんて言葉、聞きたくない。
希望を捨てて絶望に生きるなんて、つまらない。
どうせ生きるのなら、
借りものの言葉なんかじゃなく、
自分自身の歌声で精一杯抵抗して。

私は私で、君じゃない。
君は君で、私じゃない。
けれど、私たちはひとつの世界で生きている。
時には眼鏡を外して、私に貸して。
もっと知りたい、わかりたいんだ。
君が生きる乱視の世界の美しさを。

 

 

 

 

小関千恵

 

前説

嫌いな人が居ないことを
人に信じてもらえない
それでわたしは不審者だ

諸々のことが
地球のようにまぁるくなっているだけの
真っ白な朝

わたしたちは目覚めるたびに
その闇に驚き 踞って泣いた

偽物と幻想
鏡に映った陽だまりの墓場

まぁるさの中で
まぁるい空は浮かんでいた
だけど空にまで領域が有るだなんて おかしかった
棲み分けられた日々に
支配のナイフのような 誰かの月は
光っていた

エイリアンは濡れていた
生きている摩擦で
運動場の線も見えないままひるがえり
そのナイフを 身体に刺していた

あぁ
強く
絶対的な
わたしたちのそら

一度は背負った羽を降ろす
飛ぶとは 地球上を飛ぶことのようで
眠っているときの居場所は
このまぁるさの外のように思う


地球の外で泣いている

空白

沈黙の宇宙に 鳴り響いているだろうか
意味に降伏しない
音楽のように

いつか
地球へ降り注ぐことがあるならば
凡ゆる
凡ゆる エイリアンの
朝焼けの時刻へ