佐々木 眞
モーセはヨルダン川の向こう、東側に3つの町を取り分けた。
それは以前から憎んでいたのでもないのに、
誤って隣人を殺した者をそこに逃がすためである。
そのような者は、
そのいずれかの町に逃れて、
生き延びることができる。*
さあ行こう!
いつかどこかで、どんなにかして、人を殺した覚えのあるものは、
乳と蜜の流れる、うましこの町、逃れの町へ。
見よ、人よ。野の鳥よ。滑川のウナゴロウよ。
この国は、地球は、もう終わりだ。
この国に生きる人も、自然も社会も、もう終わってしまった。
なにもかもが行き詰まり、万策尽きたにもかかわらず、
それを最初に口に出すのが恐ろしいので、
「万事休す!」と告白しない。
さあ行こう!
悪と汚れに塗れ、腐敗し堕落しきったこの国を限りなく疎ましく思うものは、
黄金も武器も無い、この永世中立の郷へ
ふと辺りを見回せば、幼馴染のノブイッチャンも、ヒトハルチャンも、
タカヤマコウヘイ君も、タカギのケンチャンも、
ヒョウタンでナマズを、のんびり釣っているではないか。
さあ行こう!
いつかどこかで、どんなにかして、人を殺した覚えのあるものは、
乳と蜜の流れる、うましこの町、逃れの町へ。
*旧約聖書「申命記」4章41-42節。2018年聖書協会共同訳による。