また旅だより 47

 

尾仲浩二

 
 

昨日、苫小牧に着いて、まだ北海道らしい物を食べていないかった。
午前中よく歩いて、腹が空いていたのでラーメンを食べようと思った。
でも日曜の午後3時では開いている店はほとんない。
飲み屋街の中、古いいい感じの中華屋を見つけた。他に客はいない。
席に着いてメニューを見てその価格に驚いた。
が、仕方ない。一番上にあった味噌ラーメン960円を注文。
ひと口食べてまた驚いた。なんだこの味のしなさは。
とにかく具と麺を食べて店を出た。

夜は昭和のままの洋食屋に入ってみた。
つまみの皿をいくつか頼み白ワインを飲んだ。
ワインをおかわりするときに、大盛りにしてくれと言ってみた。
するとグラスには並々と注がれ、さらにボトルに残ったワインも注いでくれた。
この街は一勝一敗のドローだ。

2022年6月26日 北海道千歳にて

 

 

 

 

バンザイ

 

辻 和人

 
 

バンザイ、バンザイ
昨晩ギャン泣きの洗礼を受けた
ミヤミヤとかずとん
目しょぼしょぼさせながらトースト齧り
朝食会兼作戦会議
「抱っこする時背中ぽんぽんするといいかも」
「激しく泣く時はウンチしてることがあるからオムツ見ないと」
その横でコミヤミヤとこかずとん
バンサイ、バンザイ
両手挙げたカッコで眠ってる
おんなじカッコで眠ってる
すやすや涼しく眠ってる
昨夜コミヤミヤは口を歪めた般若の顔で
ウァーン、ウァーン
呪いをかけるように腕をぐるぐる振り回した
こかずとんは目を腫らした土偶の顔で
エァオーッオエッ、エァオーッオエッ
弓のようにぴーんと反り返って暴れた
哺乳瓶がぷるぷる震えた
恐れ慄いたミヤミヤとかずとん
おろおろ抱っこ、また抱っこ
ひたすらお怒りが鎮まるのを待った
それがどうだ
今、朝の光にふうわり浮かぶ
コミヤミヤの菩薩様のような顔
こかずとんのおむすび様のような顔
バンザイ、バンザイ
夜の顔も朝の顔も
どちらもコミヤミヤでどちらもこかずとんだ
君たちがこれからどんな変化を遂げようとも
君たちが君たちであることに違いはないよ
バンザイ、バンザイ

 

 

 

なぜうちに石膏のビーナスがあったのだろう

 

道 ケージ

 
 

親父は呑んだくれ
お袋は美術なんか、だし
当時の流行りか

おもちゃを撮った写真に映り込む
白いビーナス
ギリシャ美に遠い暮らし

町営のアパートの鉄扉に指をはさむ
あわてて指を拾って
お袋が縫い付けた
おかげでゆびはそこだけ
石膏のように固まる
ビーナス

ダビデと名付けた犬は
尻尾を噛んで
ぐるぐる高速で回る

もうこいつはダメたい
保健所が明日来るけん
と父

連れで行かんどっての声も弱い
噛みちぎった尻尾を埋める

階段は燕の糞で台無し
水筒を屋根に投げる
爪を噛んでいた
幼稚園カバンの紐を食いちぎる

もう物になる!
かねがねの人生
黒光して沈む

こけしと並んだビーナスは
家じまいで
トラキアの海に
濡れている

呆けたように振り返って
死ぬと思わず死ぬな

 

 

 

父母ヶ浜(ちちぶがはま)

 

工藤冬里

 
 

無敵の人と必敗者が対峙する布陣となっている
雇われたrogueなアカウントだけではなくきみの顔にもおりものが覆い被さっている
the covering that is woven over all the nations

湾曲した遠浅の父母ヶ浜(ちちぶがはま)は砂ではなくカーディフ湾と同じく泥で出来ている

「楽曲」という言い方の解説が発せられた時点でアウトだからNO SHARKに倣えば次はNO ROCKだろう

黙示録の馬のサーフボードが犬も食わない悲しみを人格陶冶と勘違いしている

ヤドカリと貝のバランスが崩れた海岸でクラフトビールを売っている

 

 

 

 

#poetry #rock musician

愛とはなにか?

 

駿河昌樹

 
 

愛とはなにか?


問う人たちが
けっこう
まわりにいたころ

ぼくも考えた
考え続けてみた
愛とはなにか?

いまのぼくなら
べつの問いを
投げかけるかもしれない

愛とはなにか?

どうしてあなたは問うのか?

もちろん
問いはしない
そんな
こと

愛とはなにか?

さえ
問いはしないのだから
もう

問うているかぎり
起こらないものがあり
問うこともなくなったとき
それになりきる
そんなものも
ある

愛とは
問わないことだ