工藤冬里
名指さないから忘れるのだ
先延ばしするから生きてきたのだ
拾わないから死んでいくのだ
持っているから減ってゆくのだ
間近になったから裏切られるのだ
信頼するから減ってゆくのだ
約束しないから海に落ちないのだ
疑わないから菓子を食べるのだ
時計がないから余所事なのだ
打ち勝ちたいから誘われるのだ
誘惑されないから出口がないのだ
目に見えるから間違えるのだ
分析するからチェーンをかけるのだ
弱点を磨くから目を合わせるのだ
尋問されるから眠くなるのだ
苦しむから度数を高くするようになるのだ
◇ ◇
雲の裏側が地表の惨状を物語る
脳梗塞の舌で舐めた
水も電気もなかった
シャーレを熱して殺してから覗いてみた
おゝそこには巨大な
また、こんなこともありました
損傷しなかった海馬は蝶の夢を見る
半分夢
ランドアバウトから出る遠心力を
◇ ◇
回収されない言葉が燻らされて宙吊りになっている
回収されなかったのは言葉の責任ではない
◇ ◇
ワンチャンを間投詞として使いをる無双の若者らは往けり
大街道で宿なしだったら快活よりまねきねこ朝までのほうがワンチャン安い
◇ ◇
二股の木が目の前にあり
雌雄のように肌里は異なり
見えたからとてどうにもならず
どうにもならぬ邪魔を引き摺り
はるひを降らせる断層の際
辺りを見回し逃げ帰る
逃げ帰るとて場所はなく
腎と眼を洗うべく
はるひの下に邪魔を引き摺る
弁当つつく作業員
それを見下ろす雀らの
膨れた胸に陽は戦ぐ
◇ ◇
久しぶりにちとせに行ったら子供の頃は40円だった鍋焼きが800円になっていた
ちとせは昔は土方の溜り場だった。かもめ食堂に影響された娘がシックに改装したがそれでも皆仕方なく通っている。
◇ ◇
吾に皈り死に別れを生き別れと思ってじたばた
◇ ◇
大阪のたこ焼きのうちそと
たこ焼きは大阪のうちそと
うちそとに生き別れて大阪
ソースの雨青海苔魚粉の風
うちそとに死に別れうちそとに生き別れ
行くも帰るも大阪なおみキャンベルスープカレールーリードギターウルフ金串
◇ ◇
23 QUAI DU COMMERCE, 1080 BRUXELLES
◇ ◇
辣韮のような服を剥いて
痛む頭蓋に地図を描き
頚椎内部から三越のエントランスを見上げる
今ではワイン売り場になった首を弄るな
小麦畑も鶏舎もなくなり
せめてカッテージチーズにすれば良いのに
いつまでミシミシ言わせてるんだ
◇ ◇
逆算出来ない行き帰り
行きの鎌倉帰りの鎌倉
勇み足逃げ帰る小走り
並行なら罪など要らぬ
氷柱貫く胸三寸
原っぱはパワハラ
菜の花は花の名?
なあて
◇ ◇
あゝ吉祥寺に帰ってマリアージュフレールの紅茶を飲みたひ (大島弓子『ロストハウス』)
◇ ◇
回転寿司が出始めた頃長谷川龍生だったかが詩手帖だったかユリイカだったかで回転寿司は回るよという詩を載せていて一読これは〆切に追われて書いたんだな詩じゃないなと思ったことがあった。あれから30年以上回り続けてもう魚は食わせないということになってきてこの業種も回転も終わるんだなと思う。
◇ ◇
#poetry #rock musician