家族の肖像~親子の対話 その70

 

佐々木 眞

 
 

 

2024年3月

お父さん、ボク、あさって床屋さん行きます!
行こうね。

―小林散髪屋にて。
コウちゃん、起きてくださいな。どうして寝ちゃったんだろうね。

お父さん、吉高由里子、2回泣いてたよ。
ああ、2回泣いてたねえ。

脳腫瘍、オデキでしょう?
そうだね。脳のオデキだね。

お母さん、アルファベットのIは、数字の1みたいだよ。
似てるね。

お母さん、ナラヌはイケナイのことでしょう?
そうですよ。

「コウさん、お仕事してください」って言われたよ。
誰に?
シバノさんだお。
いつ?
むかし。

コウ君、シバノさんて、男? 女?
おんなだよ。
シバノさん、まだいらっしゃるの?
もうやめたよ。
そうなんだ。

 

2024年4月

ボク、オクラ好きですよ。
お母さんも。あしたオクラ食べようか?

「ようこそ」って、なに?
よくきてくれました、よ。

コウ君、アイちゃんが来るんだって。
ぼく、ウレシイですお。会いたいですお。

お父さん、ぼく平成16年「金八先生」みましたお。
へえー、そうなんだ。

お母さん、タイムアップって、なに?
時間だよ、ということよ。

お父さん、起きてください。
いま何時?
7時だお。
分かりましたあ。
下に降りてください。
はい、はい。

お父さん、大好きですお。
コウ君、ふきのとう舎で、なんかやったね。なにしたの?
分かりませんお。分かりませんお。

お母さん、記憶って、なに?
覚えていることよ。コウ君、なんでも覚えているね。

海の幸って、なあに?
海でとれるいいもののことよ。お魚とか。

モノレール、ジエットコースターみたいですよ。
そうですか。
そうですよ。

お父さん、黒柳徹子と石原さとみの番組撮ってくれた?
撮りましたよ。帰ってきたら一緒に観ようね。

―「虎に翼」をみながら妻が、
かっこいい!わたしもあんな生き方したかったなあ。

 

 

 

詩を書かなかった

 

さとう三千魚

 
 

今朝も
遅く起きた

河口に
行けなかった

近所の小川沿いを走った

ゆっくり
走った

ゆっくり走らないと

見えないものが
見えない

ときどき
立ち止まる

佇む

揺れるのを見てた

ノコギリソウの
白い花の

揺れていた
ヤブガラシの花の

光っていた

以前
働いていたころに

新宿の甲州街道でヤブガラシの花と会った
傍らにいた

揺れてた
光ってた

今日
カサハラさんと約束していた

午後からワゴン車の荷台を平らにする約束をしていた

詩を
書かなかった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

津軽

 

工藤冬里

 
 

2週間の檻を待ち望む
その間に殺される
フェンネルを植える
祈れないことさえ知られてしまった
一瞬で喜びを奪われる
朝忘れている間だけ
咳で破られる
それから
青森ACACに行ったのはそれからだった
波打つ行線のデザインや丸ゴシックが伝えようとする身振りは
放棄と冒険のオデッセイア(グリークヨーグルトの腐敗した記憶)であり意味ではなかった
親がないので自分で名前を付けた
伝えようとするのは名前の意味であった
原付でリンゴ畑を周った
自分が賢いとは思わないというのは大切だ
水屋にリンゴがあり
逆流する用水路の警めがあった
強制され、逆さになってソファからずり落ちている
もう半袖の大人の季節だな
逆戻りも成長である
青森は思ったより白い
道路脇の斜面に続く紫の花々はショウジョウバカマというらしかった
(じょんがらは寒いから早弾きになったそうだ)
(中嶋 幸治さんのリンゴとツバメの墓の作品は良かった)
それから
松山に戻ってきて雨粒が腕に当たったのはそれからだった
酸ヶ湯で鏡を見たら石膏デッサンのラオコーンみたいに寸胴になってた(腹筋はないけど)
どうせやめるんだからもう止めた方がいい
そう思った
あと、詩は時系列じゃないといけないのか?
そうだよ
あと、詩のために電気風呂を犠牲にしてもいいのか?
そうだよ
そう思った
いやそうでもないか
そう思った

 

 

#poetry #rock musician