michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

アルデバラン

 

原田淳子

 
 

 

あなたは戻らない風
還らない雨
一度きりの季節

くぐもった灰色のコートを引き摺り
歩くたびに夜の幕を引いてく

瞬きのあいだに夜は重ねられ
あなたの不在を押しあげる

12月の赤い眼
全能の神の化身が髪を震わせて月を追う
燃える血のα
あなたの心臓

わたしは幹にしがみつき、
枯葉に擬態して生を凌ぐ

氷の朝
蹄で霜柱を踏む
軋む音
土の嘶き

12月
大団円の音楽が始まる
朝焼けと黄昏のスライドショー
最終の黄金の陽までつづく

凍りかけてなお
まだしがみついている
まだ死んではいない

赤橙の光だけがみえる

 

 

 

ゴシパラヤケル

 

白鳥 信也

 
 

伯母さんが来て父親に言う
職場の行事が失敗したのはあんたのせいだと上役に
さんざぱらかつけられた
ゴシパラヤケル
父親はそうくどきすな
見ている人は必ずいるもんだっちゃっと自分の姉に言う
小学生の僕は伯母さんの持参したバナナにかぶりつく
ゴシパラヤケル
腰と腹がやけるものなのか

伯父さんが来て父親に言う
昨日の晩に桃畑に泥棒が来て
桃をごっそり盗られた
ゴシパラヤケル
父親は柵がねえからまたやられるべと自分の兄に言う
中学生の僕はその夜
桃畑の番をさせられる
夏休みの気楽さで手伝うよと言ったけれど
からだじゅう蚊とブヨに刺される
坊主頭まで刺され
かゆくて我慢ならない
こんなとき
ゴシパラヤケル
と言うものなのか

父親の三回忌に出るため
仕事を休んで東京駅から東北新幹線に乗る
法事が終わって実家の茶の間で
リンゴの皮をむきながら母親が言う
おまえたちの父親も伯父さんも伯母さんも
生まれてから死ぬまでこの町にいたから
東京生まれのあたしには
わからない言葉だらけでさ
ようやくわかるようになったころは
みんないなくなっちゃったけど
いまでもゴシパラヤケルは使えない

その場では何も言えなかったけれど
東京で僕は
思わず口から出ることがあるんだ
こんなことされちゃごしぱらやけるって

 

 

 

また旅だより 40

 

尾仲浩二

 
 

初めて津軽海峡を船で渡って函館へ行った。出港が危ぶまれる程の荒天だったが、少しくらいは揺れないと気分が出ない。他に乗客もいない船室で、用意しておいた焼酎を飲んだ。酔う前に酔えばいいのだ。
函館には何の用事もないのだけれど、大人の休日きっぷで青森まで来たので、そのついでに行ってみたのだ。
雨があっという間に雪になったり、突然快晴になったり目まぐるしく変わる空模様で、これは写真を撮るのには楽しい。寒風で芯から冷えた指先は、塩ラーメンのどんぶりに押しあてて温めるのがいいと知った。

2021年12月5日 北海道、函館にて