michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

母体決裂

 

道 ケージ

 

母体の骨片が頭蓋の隙間に残るらしくそれが石灰沈着する。隆起した場合は角化。陥没した場合は脳を圧迫。脳溢血を誘発する。胎児の脳視床下部には恐竜期の角の神経系が見て取れるらしいがすぐに消失するので確かめる恩恵に浴したものはまだおらず、それを原発因とする説もあるが疑わしい。午後にツノが生えそうなので女医に相談する。教え子なので気さくに「痛かゆくてなんかある気がする」。なんとも言いようのない笑みで撫で回す。「まぁ一応、CT撮りましょう」。音無しの被爆か。「母体決裂症ですね。病名が定まるとあとは楽です。マニュアルが確立してます。手術もそう難しくはありませんし。ゴミ取るのと同じですから。癒着もないのが普通です。白く輝いているから見つけるのも簡単です。剥がして欲しいというように咲いています」。咲くは変だろう。「“ハナサケ”といいます。胎盤とは違うから」。また激烈な名前をつけたね。「どっちが? 話せば長いですよ。パルシファル建設は知ってますか?」 誰にもあんのかな。「男性に多いという統計はあります。母親と一緒にお風呂に入った人に有意な傾向があるという論文ありますが怪しいもんです」。間男に角が生えるというじゃんか。あれとは?「寝取られた方じゃないですか? コキュといいます。」おぉ、アンダルシアの闘牛。角あるものは殺されろと。「軒端で月を見ていた女が歌を詠みます。それを聞いた男は言いよる秋の萩」。あまりわからない。「芒が鬼の毛であることはご存知?」知らんな。すすきが原しがらみ果つる黒鹿の。数が多いな。「ため息の数です。だから垂れている。母との決裂に鬼が関わっていることは昔から知られています。探しあぐねた母側から見ても別離ですから。桜や梯子に登ります」。手術はいつ? 探しているわけでない。弱虫というより人でなしに角が生えるようです。

 

 

 

尻子玉

 

佐々木 眞

 
 

極楽の昼下がり、お釈迦様は長い、長いお昼寝から覚めて、遥か下方の地上を眺めていると、おりしもハロウィンで賑わう、渋谷のスクランブル交差点が見えました。

と、ふとあることを思いついたお釈迦様は、女郎蜘蛛の杜子春を呼びました。

「これ杜子春や、あのスクランブル交差点全体を覆うような、大きな、大きな巣をかけなさい」

「はい」

と答えた杜子春が、お釈迦様の仰せの通りに、天上から大きな、大きな蜘蛛の巣をふんわりと投げかけましたが、せわしなく交差点を行き来する人々の目には、もちろん見えません。

さうして、この見えない蜘蛛の巣のベールの下を通る人は、男も、女も、男でも女でもない人たちも、大人も、子供も、みんな揃って尻子玉を引っこ抜かれてしまいました。

とさ。

 

 

 

猫と人と **

 

さとう三千魚

 
 

本屋に
猫がいる

猫は
テーブルの下を歩いてきた

白と黒の毛の
猫の

瞳が大きい
集まった人たちはここで詩を書いた

“方代”と
“顕信”と

“星の王子”を連れてきてくれた

 

・・・

 

** この詩は、
2024年11月1日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第10回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life