michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

Put out the light before you go to bed.
寝る前に明かりを消しなさい。 *

 

さとう三千魚

 
 

evening
when I go home

at the front door

moco notices the sound of the car and waits at the front door

always
be there

at the front door

when I go out
“I’m going”, hugging moco’s neck and calling out

moco
looking here

when closing the front door
I gently open the door and look into it

I can see moco running

on the golden cushion in front of the Buddhist altar

moco sleeps

always alone
moco

sleeping there

moco sleeps in the thoughts of the deceased

Put out the light before you go to bed *

 
 

夕方
帰ると

玄関にいる

モコは車の音に気づいて玄関で待っている

いつも
いる

玄関にいる

出かけるとき
行ってくるよとモコの首を抱いて声をかける

モコ
こちらを見てる

玄関のドアを閉めるとき
ドアをそっと開けて覗くとモコは

くるりと
走っていくのが見える

仏壇の前の金色の座布団の上で

モコは眠る

いつもひとりのとき
モコは

そこで眠っている

いないひとの思いのなかで眠っている

寝る前に明かりを消しなさい *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

 

工藤冬里

 
 

宝塚の阪急のユーハイムのブースで土産を選んだ
親が死にそうなけろひちゃん、母、親のいないかかはさん、猫を頼んださなえさん、猫を殺されたせおなさん、親が死んだふもはさん
それから宝塚ホテルが改装されたというのでレストランの階に行ってみたが満杯で宿泊客でさえ予約できない状態でして
とみっしつの入り口でギャルソンが言うので帰ることにする
ケーキがキャットタワーみたいに立体駐車したアフタヌーンの
紅茶の急須が見える
標野という和菓子が綺麗で写真を撮る
(標野はopen fieldと訳すべき事)
額田王の体温は三六・四度です
と三脚の機械が標示する

 

 

 

#poetry #rock musician

家族の肖像~親子の対話 その49

 

佐々木 眞

 
 

 

「イトウさん、怒るな!」そう言いましたお。
言ったんだあ。

以下同文って、なに?
以下おなじ、よ。

方々って、なに?
みなさん、よ。

連佛さん、菊池桃子と喧嘩したの?
話し合ったのよ。

お待ち願います、って、なに?
待ってね、のことよ。

お父さん、ボク小田急。ゴゴゴゴゴー!
ドッシーン。
ぶつかっちゃった。

ひとすじ、ってなに?
一直線よ。

お父さん、強敵って、なに?
強い敵だよ。
ボク、モナカ好きですお。
お母さんも好きですよ。。
お父さんも。

お母さん、公平って、なに?
みんなおんなじに、よ。
コウヘイ、コウヘイ。

トイレでお湯をいっぱい流すな使うな、と注意されたんですお。
誰に?
お父さんに。

ぼく、浮輪よ。すきだよ。
そう。浮輪使ってね。

お母さん、見事って、なに?
素晴らしいことよ。

ぼくはシューシューしましたお。
よし。お父さんも玄関でシューシュー消毒しますよ。

紫、赤と青混ぜるの?
そうだね。

バンバンジー、好きですお。
お父さんも。

タケナカさん、石原さとみと一緒でしたよ。
そうなんだ。

お母さん、ガキって、なに?
子どものことよ。
ガキ、ガキ、ガキ。

お母さん、「こころ」面白かったんですお。
面白かったですねえ。

巡り合うって、なに?
まあいろいろあって、会うことだよ。

マコトさん、浦和、南浦和の次でしょう?
そうだね。

お父さん、あした、石原さとみのドラマ録画してね。
わかりましたあ。

お母さん、停電したためって、なに?
電気が止まったから、よ。

コウ君、お母さんが年取ったら面倒見てくれる?
ぼく、面倒みますお。

ハスはジュンサイに似てるよねえ。ぼく、ジュンサイ好きですお。
お母さんも。
お父さんも。

お父さん、今日石原さとみと寝ます。
なぬ? コウ君、それは問題だよ。石原さとみの写真を枕元に置くんでしょ?
ぼく、石原さとみの写真を置いて寝ますよ。
それならいいよ。

ぼく、リョウちゃんです。
こんにちは、リョウちゃん。

経験て、なに?
いろいろやったことだよ。

お父さん、アオイケさんの名前をいっぱい書いてあげますよ。
誰に?
アオイケさんに。
アオイケサンにあげようね。
分かりましたあ。

ミエコさん、耳鼻科ある?
ありますよ。芋川耳鼻科。行きたいの?
行きたくないお。

マコトさん、聞くは門に耳でよ?
え、そう? 確かに門に耳だね

横浜線って「特急はまかいじ」なんかでしょう?
そうなの?
そうですお。

忘れはしない、って、なに?
忘れない、のことよ。

表情って、なに?
顔の様子よ。

サッカー、蹴ることでしょ?
なに?
サッカーは蹴るんでしょ?
そうだね。

抱きしめちゃ、ダメでしょう?
いや、お父さんなら抱きしめても構わないよ。
いやですお。

お母さん、魂ってなあに?
心のことですよ。

お母さん、シュウカイドーありますか?
お庭にありますよ。
ぼく、シューカイドー好きですお。
お母さんも。
お父さんもだよ。

我が君って、なに?
私の大事な人だよ。
そ、そうですよ。

お父さん、疑がっちゃ駄目でしょう?
たまに疑ってもいいよ。
そ、そうなんですか。

新玉川線、なくなりましたよ。
そうなんだ。それで何線になったの?
田園都市線だお。
いつ?
平成12年だお。
そうなんだあ。

マコトさーん、ふきのとう舎、桜ケ丘でしょ?
そうだね。

この際って、なに?
この機会に、だよ。

カミナリ鳴ってますお。ぼく、カミナリ嫌いですお。
お父さんも。

お母さんは?
お出かけしてるよ。です。さて問題です。お母さんはどこへ行ったでしょう?
なにがつくもの?
ビがつきます。
ビビビビビビ。ビの次は?
ヨだよ。
ビヨ、ビヨ、ビヨ、ビヨ、ビ、
コウ君、お母さんは美容院へ行ってます。
分かりましたあ。

 

 

 

I agree with you to some extent.
ある程度は君に賛成します。 *

 

さとう三千魚

 
 

before noon
the cow arrived

the cow is a sculpture
probably iron was poured into the mold

looking at the bottom
it was rough

this fall
when I visited Akita’s older brother

when I asked the location of the cow statue that my father cherished

my brother said, “It’s gone.”

So
I bought the cow statue at auction

before noon
the cow arrived

I think my father liked the cow

the cow is lying
looking here

I have received a pair of parakeets from my father
it died in Akebonobashi’s apartment

I didn’t talk to my father until the end
but I understood him

I agree with you to some extent *

 
 

昼前
その牛は届いた

その牛は
彫刻というか

鋳型に鉄を流したものだろう

底を見ると
粗いものだった

この秋に
秋田の兄を見舞ったとき

父が大切にしていた牛の像の場所を聞いたら
兄は

もう
ないという

それで
その牛と似た像を

オークションでもとめた

昼前

その牛は
届いた

父はその牛が好きだったのだろう

牛は

寝そべって
こちらを見ている

父からインコのつがいを貰ったことがある

曙橋のアパートで
死なせてしまった

最後まで父とは話さなかったが
父を理解していた

ある程度は君に賛成します *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

千本ノック

 

道 ケージ

 
 

やるというから
付き合う
何のため誰のため
関門クォーレイ
オーライオーライ

右、左、ホラ前、後ろ
ネットに投げろ こっちじゃない

打つも大変 何しろ千本
だからといって
うどん投げんな
お玉はあぶい

乱れ打ちでかわす
ワンバンは辛い
体で止めろ
足が止まり かかしか
背中に当たる ジャマ

捕らないと捕らないと
打たないと打たないと
逃げてもいい逃げていい
豆つぶれ 狙う
殺意あるでしょ
ネットから屋根へ跳ぶ
おでんがはねる 
こんにゃく投げやすい

飯粒に唾攻撃
ベランダに逃げる

鳥のフン 風にやられて
河原飛ばされ
石のさみだれ のびきって
凧みたい 空から光線攻め
全員攻撃か
なんだっちゃやるよ

あざがいとしい
バット折りやがった

 

 

 

今日も火星が大きい

 

工藤冬里

 
 

足りないものは何もない
あるとしたら未来だ
未来に足りなくなることを見越して
今埋葬を準備しているのだ
Hey 僕は眠くないよ
でもいつか眠くなるだろう
眠くなるまで眠っていよう
眠くなった時起きてないといけないから
準備とは友のための準備だ
僕のためではない
僕は眠くないのに寝て
眠いのに起きているだけだ
僕は生まれた時に死に
死んだ思い出を生きているのだ
死は眠りに似ているが
眠りは生に似ている

 

 

 

#poetry #rock musician

Mud adheres to my shoes.
泥が私の靴にくっつく。 *

 

さとう三千魚

 
 

the typhoon has passed

morning

rain
got up

I walked along the river to the estuary

rainwater had accumulated on the sidewalk next to the large hospital

birds were playing at the waterside of the estuary

the school of fish was swimming in the water

there was a man feeding stray cats
the man was surrounded by stray cats

I gave a bow
the man bowed his head

I didn’t need words

whitebait fishing boats were fighting ahead of the ocean

Mud adheres to my shoes *

 
 

大風は
過ぎていった

雨は
あがった

川沿いを河口まで歩いていった

大病院横の歩道には雨水が溜まっていた

河口の
水辺に鳥たちが遊んでいた

水の中を魚の群れは腰をふり泳いでいた

ノラたちに
餌を与えている男がいた

男はノラたちに囲まれていた

会釈した
男は頭を下げた

言葉はいらなかった

沖合の海原をしらす船が先を争い進んでいた

泥が私の靴にくっつく *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ポ の 国 の ポ

 

南 椌椌

 
 


© kuukuu

 

今日は2020年9月16日
「私」を「ポ」と言い換えてみる
とくに理由はありません
ポはポの国の言葉で
私、あたい、僕、俺、小生、余か朕
これからポが徘徊酩酊するのは
70年を経た9月16日という日のこと

ポが武蔵野の秋を歩く 
独歩か かさこそさやけの音
テラコッタのポは 
リモートで浜辺を歩く
砂の音 きしむ きゅうそ 
クシュ クシャ クシャーラ

浜風しおざい ゆりかごの音
月から落ちてくる 無数の林檎
すさまじく割れる 死の擬音
水蜜は恋情か恨(ハン)か 
ほのかに好ましい思い出か 

イヌが吠えて オーボエが鳴って
遠くで潮ふく 鯨のため息
鳳仙花がはじけて 
ギターがひび割れる 子守唄
爪に血がにじむ 鳳仙花 ららばい 
庭のハナモモや トネリコに
降りしきる雨 ザクースカ!
猫が二匹低い姿勢で消えてゆく
その音の夢幻、無限、の生命秩序
みんな ポの耳に親しい

雨の中 手紙がポストに落ちる 
指で封をはがす音
2枚の紙に目をこらす

雲の上のソンソンムから 
暗号のような二行

空0コダーイはシュタルケルのチェロで
空0ショパンはリパッティのピアノで

それならいつも聴いてるよ 大好きだ
ハンガリー、ポーランド、ルーマニア
古びた写真がいちまい なぜだろう
ソンソンムが笑ってる12歳の頃

返事を書こう
ざら紙にペンを走らす 
太い鉛筆を走らす
その音のさいわい 
シュタルケルのチェロの音
シュタルケルは1923年
ハンガリーのブダペストで生まれた
1882年に同じハンガリーで生まれた
コダーイの曲を演奏するとき
シュタルケルは静かに躍動する
ハンガリーの森を大地を吹いてゆく

ポはペンを走らすことが好き
紙を走るペンは 紙の幾層を走る音
ポは半眼破顔半島の 笑みをこぼす

今日は2020年9月16日
そしてここから ポに聴こえてくるのは
ディヌ・リパッティ 最後のリサイタル
70年前の きょうの今日
1950年9月16日フランス・ブザンソン
リパッティは悪性リンパ腫の末期
主治医の懸念を押しとどめ
みずから最後と知ってピアノの前に立った
満員の聴衆もそれを知っていただろう

1917年ルーマニアのブカレストで生まれ
少年の頃からパリに出て
巨匠アルフレッド・コルトーに愛され
はばからず例えれば
天使の囀りのようなピアニズム
夭折悲劇の、ポはそういうのに弱い
フランス・ブザンソンでリパッティが
聴衆の祈りのなかで
最後のショパンのワルツを弾いた日から70年
その音源は ポにとって最愛の音楽

そして再び同じ70年前の今日
1950年9月15日から17日にかけて
ポの半分の祖国
戦火の朝鮮半島では
怒涛、破竹の進撃で半島最南部のプサンまで
占領していた北朝鮮軍を分断し
戦局の劇的な転換を期した奇襲作戦が
マッカーサー率いる米軍によって
成功裡に果たされようとしていた
ソウル西方の仁川(インチョン)上陸
占領されていたソウルは劇的に奪還された
だが、これは国を別けた戦乱の終わりではなかった

空0朝鮮戦争の死亡者の数は、韓国約240万人、北朝鮮290万人、中国90万人、
空0国連軍15万人。第二次世界大戦の日本の死亡者は約310万人と言われる。

母国に家族を残して
日本に渡ってきたオヤジは
生まれたばかりの ポを膝に抱きながら
刻々と変わる戦況を短波放送で聞いていただろう
ポの叔父 オヤジの弟は徴兵され
いまの休戦地帯 場所も時期も定かならず
戦死したことは 休戦後のずっと後に
知らされたらしい
もちろん遺骨は帰って来なかった
南北朝鮮530万人の死者のひとりだった叔父 
慟哭しただろう オヤジ
膝を叩いて哀号を連呼しただろう

1950年9月16日
米軍仁川上陸と同じ日にリパッティは
生命の灯心を燃やして
最後のピアノを弾き
同じ日に極東の半島では
戦火で多くの死者が生まれた
特別のことなのか
並べ立てることなのか

このコロナの時代に
こんなあてどない徘徊が詩になるか
コダーイのチェロソナタを聴きながら
Wordを閉じる