michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

大阪で

 

工藤冬里

 
 

縮尺も方位もない地図を渡され
同緯度同縮尺のつもりで
分割された区域を囲む
口からナイフ
死体を啄もうとして鳥等は集まり
桜鍋にされる白馬もいる
地上で極めて不快なものたちの母
ひかりの 北九州行く?
免除されて住んでいた
役立つ点をはっきりアイコンごとに知らせる
小物語の集積が囲まれ
それをさらに白馬が囲む
白馬に囲まれる
命と新世界を天秤に掛ける

 

 

 

少女のようなあなたの旅立ちに

 

ヒヨコブタ

 
 

話上手なおとなのなかその人はいつも静かだった

 
話すことで人をひきつける魅力をもつおとなより
とつとつと話すひとのことばを聞き漏らさぬように観察していた
おとなの輪のなかに入らぬおとながいてもいいと知った
悲しいときにそっと静かにしているおとながいてもいいと

彼女らしい旅立ちというのは酷すぎる
いつもどおり好き勝手な話が飛び交いはじめても
彼女はもう傷つかないでいい
わたしをそっと見守り
わたしの話を聞き取ろうとしてくれたそのひとは
たしかに
旅立ってしまった
たくさんの編物をありがとう
こころをこめて偉ぶることもないその贈り物が宝物だった

どんなに会いたくともこうして別れゆくなら
彼女のよく笑った顔をこころに切りとっておこう

さようなら大切な
少女のようなあなたへ

 

 

 

忘却のみ願う左手

 

橘 伊織

 
 

降る雨が色を覚える

何よりも静かに 遠い夜が明けていく

失われしぬくもりは 記憶のなかにすら薄れ

不確かな何かと 須臾の刻を虚ろうか

やがて風が吹く

遠いところ

ひっそりと 誰も知らぬ純粋音が生まれた場所

ただ忘却のみ願う左手 生暖かいぬめりある右手

やがて訪れる夜を待ちわびる

それだけが赦された贖罪なのか

熱風の砂漠を渡る 遠い日の巡礼者のように

夜を待ちわびる

それすらも赦されぬ宿業の中で

ただひとり 己が骸だけを探して

 

 

 

島影 14

 

白石ちえこ

 
 

千葉県 鋸南

房総半島へ行くたびに挨拶していた、国道沿いの大きなサボテン。
ズズ、ズ、と夜中に散歩していそうに思えた。
昨年、姿が見えなくなった。
とうとう、旅に出たのだ。
誰もいない遠くの夜の海岸で、
月の明かりに照らされて
そっと海を眺めているこのサボテンを
わたしは想像している。

 

 

 

障害があって結婚しない人が忘れられている *

 

いちど
若いとき

百姓だね


言われたことがあった

小沢昭一さんに言われた

若い時から寄席に通う江戸っ子だったから
小沢さんの

百姓だねは

蔑称だと
思った

でも

どうなんだろう

たしかに
この男は百姓の子だった

百姓の子が百姓がやで都会に出てきたのだった
土地から引き剥がされれば

流浪者だけど

百姓の気持ちが残っていて
道端の草の葉を

噛んだり
する

工藤冬里の詩に
障害があって結婚しない人が忘れられている *

という言葉があった

土地から引き剥がされてみて
百姓は

流浪になる

流浪も忘れられている

 
 

* 工藤冬里の詩「興味を失くしたようだ」からの引用

 

 

 

興味を失くしたようだ

 

工藤冬里

 
 

ウーマンラッシュアワーのは漫才のネタではなく種である
ヤマザキパンのdoughはパンの種ではなくパンのネタである
アダムとエバの子孫は種ではなく彼らのネタである
豊後水道のアジは関アジと呼ばれる時寿司の種で岬(ハナ)アジの時はネタである
ジャズマンが転倒させた種はインスピレーションソースであった
ネタと種を往来しようとする試みを続けていた人類はこれから痴呆状態に入る
中世に戻るのだ

 
その星はずっと雨がびゃあびゃあ降っていた
光といえば欲望と裏切りが交互に点滅しているだけだった
言葉は呪いにしか使われていなかった
記憶はトラウマしか残っていなかった
技術を学習する者はいなかったので
音楽は単旋律に退化していた
女は全員同じ顔をしていた
全員安中リナという名前だった

 
興味を失くしたようだ
浜辺で立ち止まった
七つも頭があると
海から上るのも
彫刻像を作るのも大変だ
地から上るのは英語である
トモダチは皆離脱を支持する
呼気はカエルのカタチをしていて
元カレも元カノも召集される
ドロドロに踏み潰される
服を汚すなと言いながら
鉢の中身をぶちまける
海の中の生き物は全て死に
川と水は血になった

カウンシルハウスの上の雲は竜の形をしている
トモダチは屋上で野獣の旗を揚げる
券売場に反対の署名
赤鉛筆の立ち飲み屋で芯を剥き出しにする
睫毛が長すぎてピューと吹くジャガーさんみたいに目がないので
本心に立ち返る隙がない
障害があって結婚しない人が
忘れられている